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アチラ側の来客
44話 気付かされたモノ
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「薄雪。さきほどの風で君の穢れをある程度は清めたよ。あとは…妖力と私のユメを与える」
「いりません。これ以上あなたの妖力をいただいたら、私はあなたの眷属になってしまいそうです」
「なるわけないだろう」
「それでも、いりません」
「まったく。言うことを聞かない…」
キヨハルは深いため息をつき、蕣を呼んだ。
「蕣。薄雪に朝霧(あさぎり)を」
「はい」
蕣は自分の胸に手を当てた。蕣のまわりに花びらが舞う。胸から現れたのは、一本の脇差だった。脇差が現れた瞬間、あやかしたちが耳に指をつっこんだ。
「ああ。相変わらずうるさいね…」
「静かにして朝霧」
「大声で喚いても無意味」
「薄雪、朝霧を持っておきなさい。コレには君の妖力と清めの力が入っているだろう。私たちがいないときは、ソレに清めてもらいなさい」
「ふふ。久しぶりだね、朝霧」
「こら朝霧!」
「ヌシサマにそんな口利いちゃだめ」
脇差に向かってあやかしたちが話しかけている。まるで脇差と言葉を交わしているみたいだ。
薄雪は朝霧と呼ばれている脇差を受け取り腰に挿した。その瞬間、薄雪のまわりに桜の花が舞い散った。すべての花びらが床に落ちたとき、薄雪は深い息を吐いて脇差を撫でた。
「ありがとう朝霧。君のおかげでずいぶんと息がしやすくなったよ」
「朝霧!!」
「ヌシサマに向かってなんてことを!」
「愚か者」
いやぁー…。なんか意味が分かんないけど、とりあえず少女二人の口が悪いなあ…。そういうのきらいじゃない。かわいい…。
「か、かわいくない」
「そういうのやめて」
照れてる。
「照れてない」
「やめて」
「…あ!そうだ、綾目も返してください!!」
「綾目?」
「コレも欲しいの?」
「モノ好き」
「どうぞ」
「持って帰って」
「あげる」
「ぐえっ」
蕣が乱暴に綾目を放り投げた。あわあわしながら受け止めたけど、重さに耐え切れず尻もちをついてしまう。
「声も返す」
「三味線はまた今度」
「ひぃぃぃっ!!!花雫ぅぅっ!!!たすけてええええ!!!」
「綾目ぇぇ!!あんたが怖がってた意味分かったよぉぉ…。あれはやばいねえ…。ずっと私のもとでいてぇぇっ」
「いるぅぅうっ!!」
抱き合って再会を喜んでいる私をちらりと見てから、喜代春はすくっと立ち上がった。どうやら痛みは引いたようだ。
「さて。そろそろ戻るよ。では薄雪、また近いうちに」
「ええ。世話をかけるね」
「まったくだ」
「ヌシサマ」
「ヌシサマ」
「蓮華、蕣」
蓮華と蕣が薄雪に抱きついた。先ほどまでのパスみはどこへ行ったのやら、すっかりいじらしい少女になって、涙を浮かべて一時の別れを惜しんでいる。
「寂しい」
「ヌシサマいないの寂しい」
「アルジサマだけなんて」
「つまらない」
「ヌシサマがいい」
「ヌシサマがいい」
「蓮華と蕣もコチラ側に遊びにおいで。私も君たちがいないと寂しいよ」
「行く」
「毎日行く」
「平日ならかまわないよ」
「花持ってくる」
「たくさん」
「楽しみにしてる」
なかなか薄雪から離れようとしない二人に、痺れを切らしたキヨハルが声をかける。
「そろそろ行くよ。…花雫」
「は、はい」
「薄雪を頼んだよ」
「は、い」
「ではまた」
こうして三人のあやかしはアチラ側へ戻って行った。私と薄雪と綾目は、同時にふぅー…とため息をつき床にへたりこんだ。
「嵐のようでしたね」
「なんなのあれ…」
「こわかったよぉぉぉ…」
「花雫」
「はい」
「引き留めてくださって、ありがとうございます」
「…こちらこそ、とどまってくれて、ありがとうございます」
「これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
薄雪の手が私の手に触れる。冷たい手。この手を失っていたかもしれないと思うと、今さらこわくなってきた。じんわりと視界が滲む。
「~~…薄雪ぃぃぃ…」
「!」
鼻水を垂らしながら私は薄雪に抱きついた。汚いぶさいくな泣き声をあげて、私はわんわん泣いた。こわかった。薄雪と綾目を失うことが、こんなにこわいことだったなんて。私にとって彼らはもう、いなくてはならない存在になっていたことに気付かされた。いなくならないで。ずっと傍にいて。私から離れないで。
「離れませんよ、花雫。ずっとずっと、あなたの傍にいます」
「どんなことがあっても、僕たちは花雫の傍から離れないよ」
「いりません。これ以上あなたの妖力をいただいたら、私はあなたの眷属になってしまいそうです」
「なるわけないだろう」
「それでも、いりません」
「まったく。言うことを聞かない…」
キヨハルは深いため息をつき、蕣を呼んだ。
「蕣。薄雪に朝霧(あさぎり)を」
「はい」
蕣は自分の胸に手を当てた。蕣のまわりに花びらが舞う。胸から現れたのは、一本の脇差だった。脇差が現れた瞬間、あやかしたちが耳に指をつっこんだ。
「ああ。相変わらずうるさいね…」
「静かにして朝霧」
「大声で喚いても無意味」
「薄雪、朝霧を持っておきなさい。コレには君の妖力と清めの力が入っているだろう。私たちがいないときは、ソレに清めてもらいなさい」
「ふふ。久しぶりだね、朝霧」
「こら朝霧!」
「ヌシサマにそんな口利いちゃだめ」
脇差に向かってあやかしたちが話しかけている。まるで脇差と言葉を交わしているみたいだ。
薄雪は朝霧と呼ばれている脇差を受け取り腰に挿した。その瞬間、薄雪のまわりに桜の花が舞い散った。すべての花びらが床に落ちたとき、薄雪は深い息を吐いて脇差を撫でた。
「ありがとう朝霧。君のおかげでずいぶんと息がしやすくなったよ」
「朝霧!!」
「ヌシサマに向かってなんてことを!」
「愚か者」
いやぁー…。なんか意味が分かんないけど、とりあえず少女二人の口が悪いなあ…。そういうのきらいじゃない。かわいい…。
「か、かわいくない」
「そういうのやめて」
照れてる。
「照れてない」
「やめて」
「…あ!そうだ、綾目も返してください!!」
「綾目?」
「コレも欲しいの?」
「モノ好き」
「どうぞ」
「持って帰って」
「あげる」
「ぐえっ」
蕣が乱暴に綾目を放り投げた。あわあわしながら受け止めたけど、重さに耐え切れず尻もちをついてしまう。
「声も返す」
「三味線はまた今度」
「ひぃぃぃっ!!!花雫ぅぅっ!!!たすけてええええ!!!」
「綾目ぇぇ!!あんたが怖がってた意味分かったよぉぉ…。あれはやばいねえ…。ずっと私のもとでいてぇぇっ」
「いるぅぅうっ!!」
抱き合って再会を喜んでいる私をちらりと見てから、喜代春はすくっと立ち上がった。どうやら痛みは引いたようだ。
「さて。そろそろ戻るよ。では薄雪、また近いうちに」
「ええ。世話をかけるね」
「まったくだ」
「ヌシサマ」
「ヌシサマ」
「蓮華、蕣」
蓮華と蕣が薄雪に抱きついた。先ほどまでのパスみはどこへ行ったのやら、すっかりいじらしい少女になって、涙を浮かべて一時の別れを惜しんでいる。
「寂しい」
「ヌシサマいないの寂しい」
「アルジサマだけなんて」
「つまらない」
「ヌシサマがいい」
「ヌシサマがいい」
「蓮華と蕣もコチラ側に遊びにおいで。私も君たちがいないと寂しいよ」
「行く」
「毎日行く」
「平日ならかまわないよ」
「花持ってくる」
「たくさん」
「楽しみにしてる」
なかなか薄雪から離れようとしない二人に、痺れを切らしたキヨハルが声をかける。
「そろそろ行くよ。…花雫」
「は、はい」
「薄雪を頼んだよ」
「は、い」
「ではまた」
こうして三人のあやかしはアチラ側へ戻って行った。私と薄雪と綾目は、同時にふぅー…とため息をつき床にへたりこんだ。
「嵐のようでしたね」
「なんなのあれ…」
「こわかったよぉぉぉ…」
「花雫」
「はい」
「引き留めてくださって、ありがとうございます」
「…こちらこそ、とどまってくれて、ありがとうございます」
「これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
薄雪の手が私の手に触れる。冷たい手。この手を失っていたかもしれないと思うと、今さらこわくなってきた。じんわりと視界が滲む。
「~~…薄雪ぃぃぃ…」
「!」
鼻水を垂らしながら私は薄雪に抱きついた。汚いぶさいくな泣き声をあげて、私はわんわん泣いた。こわかった。薄雪と綾目を失うことが、こんなにこわいことだったなんて。私にとって彼らはもう、いなくてはならない存在になっていたことに気付かされた。いなくならないで。ずっと傍にいて。私から離れないで。
「離れませんよ、花雫。ずっとずっと、あなたの傍にいます」
「どんなことがあっても、僕たちは花雫の傍から離れないよ」
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