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アチラ側の来客
45話 薄雪のお話
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キヨハルたちがアチラ側に戻ったあと、混乱している私に薄雪はいろいろなことを教えてくれた。話している間も薄雪はずっと私を抱きしめて、優しく背中をさすってくれていた。隣で綾目も私の手を握ってくれている。
「私はアチラ側に咲くある桜から生まれたあやかしです。アチラ側で最も古く、大きな桜。あやかしはソレのことを大木古桜(タイボクコオウ)と呼んでいます」
「アチラ側にも桜があるのね」
「ええ。もういつだったか忘れてしまうほど昔に、一人のヒトが森の奥深くに佇んでいるソレを見つけました。ソレに感銘を受けたヒトは刀鍛冶でした。彼はソレのために一本の脇差を打った。それがこの、朝霧です」
薄雪は腰に挿した脇差を鞘から取り出した。桜の模様をした鍔に、桜の模様が彫られた刀身。刀のことが分からない私でも美しいと感じた。
「ええ。とても美しいでしょう。ですがとても口が悪くうるさいのです」
「やっぱり喋るんですね、この脇差」
「はい。長年私の妖力を吸ったせいか意志を持ってしまいまして。さすがの花雫でも朝霧の声は聞こえませんか」
「はい。まったく」
「良かったですね。聞こえていたら大惨事です。本当にうるさいので」
「へえ。今も何か言ってるんですか?」
「ええ。今頃俺を必要としやがって都合のいいやつだ、と怒っています。コレは非常に優秀な脇差なのですよ。穢れを清めることもできますし、主人に夢見をさせる力も持っている。精気や生命力を吸い取ることもできますし、脇差としても切れ味が素晴らしい。…それなのに、とても口が悪く騒がしいのが玉に瑕です」
「そんなすごくてうるさいんですねぇ…」
私から見たらただの綺麗な脇差にしか見えないけど。
「コレをいただけたことが嬉しくて、私は刀鍛冶に姿を見せました。当時は私もまだ普通のあやかしでしたので、ヒトに姿を見せようと思えば見せることができたのです。私は脇差の礼に、彼を清め、怪我と病を治しました」
「ふうん」
薄雪、怪我とか病気を治すことまでできるの?すご…。
「彼は私のことを桜の神と勘違いしました。そして喜びのあまり、大木古桜と私の噂を広めました。一目見ようとたくさんのヒトが私の元を訪れた。ヒトに悪気はなかったのですが、根を踏み荒らされ、枝を折られ、穢れを森へ落とされたことにより、私はだんだんと弱っていきました」
「……」
耳が痛いなあ。コチラ側でもお花見のときってそんなんだろうな。
「弱った私を見て激怒したのが、この朝霧と、喜代春です」
「出たキヨハル…」
「朝霧は森を訪れるヒトの生気を吸い殺して回りました」
「はあ!?これそんな凶暴な刀なんですかあ!?」
「はい。おバカなので一番タチが悪いです」
「薄雪さま…。そんなことを言うからまた朝霧がうるさくなっちゃったじゃないですか…」
綾目が両耳に指を突っ込んで呻いた。薄雪は悪びれもなく首を傾げる。
「ふむ。本当のことを言っただけなのだが」
「はあ…」
「そして喜代春は、ヒトから大木古桜の記憶を奪い、ソレのことを忘れさせました。さらに私をヒトの目に映らないようにしたのです」
「ひょ…。そ、そんなことができるんですか…?」
「ええ。彼も立派な大あやかしなので。さらに喜代春は森とも誓いを交わし、私を森へ閉じ込めた。ですがそれは代償も大きかったのです。私から一番大切なモノであるヒトを奪った喜代春は、彼にとって一番大切なモノである私と二度と会えなくなった…つまり、彼が森へ立ち入ることができなくなってしまったのです」
「…そんなの、なんのために。一番大切な薄雪を失ったら意味がないんじゃ?」
「彼にとっては大したことではなかった。彼にとっての軸は、私を守ること。私を守るためならば、一番大切なモノを失ってもよかった」
「ね、ねえ。薄雪って一番すごいあやかしなんでしょ?キヨハルよりもすごいんじゃないの?」
「ええ。私からしたら喜代春は子どものようです」
「なのになんで好き勝手されてるの?」
「…私のことを一番大切に想っている喜代春がそれを望むのなら、受け入れようと思いまして」
「はあ…?よく分かんないや」
「それがあやかしというものです。その日から喜代春はヒトを憎みました。大木古桜だけでなく、桜という桜に妖術をかけ、ヒトが触れられないようにしました」
「触れたらどうなるの?」
「生気を吸われて死にます」
「薄雪のまわりには物騒なものしかいないの?」
「なぜか狂信的に私を慕うモノが多いですね…。綾目も昔はそうでしたし」
「あ…あはは…」
綾目がごまかすように笑った。
「そして私は森へ閉じ込められました。一番大切なモノであるヒトを奪われた私は、孤独に耐えられず蕣をつくりました。気の毒に思ったのでしょうね。喜代春も蕣に似せたモノである蓮華を作り、私に与えました。蓮華と蕣は私と喜代春を繋ぐモノ。彼女たちのおかげで、私の孤独は多少癒すことができました。
彼女たちは私を憐れみ、喜代春にお願いをしてくれました。それまでは私を目に映すヒトなど存在しえなかったのですが、彼女たちに手を引かれれば、あやかしを目に映すことができるヒトであれば、私の姿を映せるように喜代春に妖術をかけ直させたのです」
「へえ。意外と強いのね、蓮華と蕣は」
「ええ。私は喜代春よりも大きなあやかしでしたので、眷属である蕣のほうが喜代春よりも偉いのです。なので喜代春はあまり蕣に逆らえない。…私にはやりたい放題しているのにね」
あやかしのルールはほんとに意味が分からないな。でも、あんな威厳のあるおじさまが少女(というか男の娘)に頭が上がらないのなんだかかわいい。
「森でただ変わらない風景を眺める毎日。蓮華と蕣と言葉を交わし、孤独を紛らわせる毎日を過ごしました。…ですがある日、私はひとりの少女と出会ったのです。蓮華と蕣に手を引かれた、銀色の髪を持つ異国の少女と」
「私はアチラ側に咲くある桜から生まれたあやかしです。アチラ側で最も古く、大きな桜。あやかしはソレのことを大木古桜(タイボクコオウ)と呼んでいます」
「アチラ側にも桜があるのね」
「ええ。もういつだったか忘れてしまうほど昔に、一人のヒトが森の奥深くに佇んでいるソレを見つけました。ソレに感銘を受けたヒトは刀鍛冶でした。彼はソレのために一本の脇差を打った。それがこの、朝霧です」
薄雪は腰に挿した脇差を鞘から取り出した。桜の模様をした鍔に、桜の模様が彫られた刀身。刀のことが分からない私でも美しいと感じた。
「ええ。とても美しいでしょう。ですがとても口が悪くうるさいのです」
「やっぱり喋るんですね、この脇差」
「はい。長年私の妖力を吸ったせいか意志を持ってしまいまして。さすがの花雫でも朝霧の声は聞こえませんか」
「はい。まったく」
「良かったですね。聞こえていたら大惨事です。本当にうるさいので」
「へえ。今も何か言ってるんですか?」
「ええ。今頃俺を必要としやがって都合のいいやつだ、と怒っています。コレは非常に優秀な脇差なのですよ。穢れを清めることもできますし、主人に夢見をさせる力も持っている。精気や生命力を吸い取ることもできますし、脇差としても切れ味が素晴らしい。…それなのに、とても口が悪く騒がしいのが玉に瑕です」
「そんなすごくてうるさいんですねぇ…」
私から見たらただの綺麗な脇差にしか見えないけど。
「コレをいただけたことが嬉しくて、私は刀鍛冶に姿を見せました。当時は私もまだ普通のあやかしでしたので、ヒトに姿を見せようと思えば見せることができたのです。私は脇差の礼に、彼を清め、怪我と病を治しました」
「ふうん」
薄雪、怪我とか病気を治すことまでできるの?すご…。
「彼は私のことを桜の神と勘違いしました。そして喜びのあまり、大木古桜と私の噂を広めました。一目見ようとたくさんのヒトが私の元を訪れた。ヒトに悪気はなかったのですが、根を踏み荒らされ、枝を折られ、穢れを森へ落とされたことにより、私はだんだんと弱っていきました」
「……」
耳が痛いなあ。コチラ側でもお花見のときってそんなんだろうな。
「弱った私を見て激怒したのが、この朝霧と、喜代春です」
「出たキヨハル…」
「朝霧は森を訪れるヒトの生気を吸い殺して回りました」
「はあ!?これそんな凶暴な刀なんですかあ!?」
「はい。おバカなので一番タチが悪いです」
「薄雪さま…。そんなことを言うからまた朝霧がうるさくなっちゃったじゃないですか…」
綾目が両耳に指を突っ込んで呻いた。薄雪は悪びれもなく首を傾げる。
「ふむ。本当のことを言っただけなのだが」
「はあ…」
「そして喜代春は、ヒトから大木古桜の記憶を奪い、ソレのことを忘れさせました。さらに私をヒトの目に映らないようにしたのです」
「ひょ…。そ、そんなことができるんですか…?」
「ええ。彼も立派な大あやかしなので。さらに喜代春は森とも誓いを交わし、私を森へ閉じ込めた。ですがそれは代償も大きかったのです。私から一番大切なモノであるヒトを奪った喜代春は、彼にとって一番大切なモノである私と二度と会えなくなった…つまり、彼が森へ立ち入ることができなくなってしまったのです」
「…そんなの、なんのために。一番大切な薄雪を失ったら意味がないんじゃ?」
「彼にとっては大したことではなかった。彼にとっての軸は、私を守ること。私を守るためならば、一番大切なモノを失ってもよかった」
「ね、ねえ。薄雪って一番すごいあやかしなんでしょ?キヨハルよりもすごいんじゃないの?」
「ええ。私からしたら喜代春は子どものようです」
「なのになんで好き勝手されてるの?」
「…私のことを一番大切に想っている喜代春がそれを望むのなら、受け入れようと思いまして」
「はあ…?よく分かんないや」
「それがあやかしというものです。その日から喜代春はヒトを憎みました。大木古桜だけでなく、桜という桜に妖術をかけ、ヒトが触れられないようにしました」
「触れたらどうなるの?」
「生気を吸われて死にます」
「薄雪のまわりには物騒なものしかいないの?」
「なぜか狂信的に私を慕うモノが多いですね…。綾目も昔はそうでしたし」
「あ…あはは…」
綾目がごまかすように笑った。
「そして私は森へ閉じ込められました。一番大切なモノであるヒトを奪われた私は、孤独に耐えられず蕣をつくりました。気の毒に思ったのでしょうね。喜代春も蕣に似せたモノである蓮華を作り、私に与えました。蓮華と蕣は私と喜代春を繋ぐモノ。彼女たちのおかげで、私の孤独は多少癒すことができました。
彼女たちは私を憐れみ、喜代春にお願いをしてくれました。それまでは私を目に映すヒトなど存在しえなかったのですが、彼女たちに手を引かれれば、あやかしを目に映すことができるヒトであれば、私の姿を映せるように喜代春に妖術をかけ直させたのです」
「へえ。意外と強いのね、蓮華と蕣は」
「ええ。私は喜代春よりも大きなあやかしでしたので、眷属である蕣のほうが喜代春よりも偉いのです。なので喜代春はあまり蕣に逆らえない。…私にはやりたい放題しているのにね」
あやかしのルールはほんとに意味が分からないな。でも、あんな威厳のあるおじさまが少女(というか男の娘)に頭が上がらないのなんだかかわいい。
「森でただ変わらない風景を眺める毎日。蓮華と蕣と言葉を交わし、孤独を紛らわせる毎日を過ごしました。…ですがある日、私はひとりの少女と出会ったのです。蓮華と蕣に手を引かれた、銀色の髪を持つ異国の少女と」
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