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初夏編:喜びの魔女
【337話】最後の儀式
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モニカが名を呼んだ瞬間、杖が眩い光を放った。そしてモニカごと強風に包まれる。
「っ!!」
「モニカ!!」
「兄よ、待つんだね。今あの杖に藍の意思が集まっている。そこでじっとしてな」
助けに行こうとしたアーサーをフーワが引き留めた。フーワは立ち上がり両腕を広げ杖を向ける。深呼吸して歌いはじめた。優しく少し不気味なその旋律は、以前シャナが歌ってくれた子守唄に似ていた。
♪枯れるまで エルフ住まう森で
静かに佇んでいる運命を
一人のエルフが変えたのさ
朽ちるまで エルフ住まう家で
静かに暮らす運命を
一人の少女が変えたのさ
折れるまで 少女の腰元で
彼女を守る運命を
エルフと双子が変えたのさ
おいでや おいで
まだ命は繋がっている
そなたの運命は
少女が命尽きるまで
この子のそばにいてやることさ
双子の運命を守れや守れ
双子と共に笑えや笑え
おいでやおいで
まだ命は繋がっているー…♪
優しく語り掛けるようなフーワの歌声は、いつものダミ声とまったく違った。心地よい低さの透き通るような声にアーサーは聞き入ってしまった。
杖を指揮棒のように振っていたフーワは、歌い終えるとモニカ(がもっている杖に)に杖を向けてピタリと止まった。
「主により名を与えられしブナの杖、"藍"。そなたの散らばっていた意志はその名によりひとつに繋ぎ合わされた。エルフと双子の、血肉と魔力を糧にし息を吹き返せ。そなたの声は加護の糸で繋げられた双子にのみ届くであろう。それでもよければ言葉を発せ」
強風が止み、ブナの杖を包んでいた光が徐々に消えていく。アーサーとモニカが緊張した面持ちで杖を見守った。5分ほど経っても杖の声が聞こえてこなかったので、双子は不安げにフーワを見た。
「フ、フーワさん。杖、やっぱりだめだったの…?」
モニカがそう尋ねると、フーワはニッと笑い首を振った。
「いいえ。いま杖は夢中になってあなたたちの一部を吸収しております。息を吹き返すために。あなたさまとその兄と、もう一度言葉を交わすために」
「杖ぇっ…!」
「気長に待ってあげましょう。さあ、御子よ。おなかはすいていませんか?待っている間に食事にいたしましょう」
「…うん」
フーワは双子をダイニングテーブルへ座らせた。すでに酒を飲んで酔っ払っていたミジェルダが気味の悪い料理をテーブルに広げた。ぎょっとしたアーサーとモニカがガタガタ震えていると、フーワが杖を一振りして、気味の悪い料理をフォントメウの故郷料理へと変えた。
「大変失礼いたしました。こちらをお召し上がりください」
「え…で、でもこの料理ってさっきの…」
「いいえ。幻覚魔法ではありませんよ。料理そのものを入れ替えましたので、ご安心ください」
「ほ、ほんと…?」
「ヒヒッ、本当だよぉ。せっかくの私の真心たっぷりの手料理が。こぉーんなつまらない料理に変えられちったよぉ。残念残念」
ミジェルダが大げさにため息をつき、また酒をグビグビと飲み始めた。モニカが口を付ける前に、アーサーが先に一口頬ばった。じっくり咀嚼し飲み込んだあと、にっこり笑って妹の方を向く。
「うん。これ、シャナの実家でいただいたごはんと同じ味がするよ!大丈夫そうだから、モニカも食べて!」
「う、うん」
モニカもおそるおそる料理を口に入れたが、アーサーの言う通りシャナの実家で出た料理と同じ味がした。安心した二人はあっという間に完食した。その様子を満足げに眺めていたフーワは、食事を終えた彼らに声をかけた。
「さて、今日はここまでのようだね。シャナと御子が与えた魔力量が多すぎて、なかなか"藍"の吸収が終わらない。このペースだと、おそらく翌朝あたりまでかかりそうだ。…御子とその兄は風呂に入ってお眠りください」
「そっかあ。今日は会えないのかぁ。残念」
「でも明日会えるわ!!楽しみねアーサー!」
「うん!…そういえば、フーワさんがさっき、"加護の糸で繋がった双子にしか声は聞こえない"って言ってたけど、もしかして僕にも声が聞こえるようになるの?!」
「そうだよ。あんたにも聞こえるようになるね」
「わあああ!!やったぁぁぁ!!!」
アーサーは夢の中でしか杖の声を聞いたことがなかった。これからは夢の中でなくても言葉を交わせると知り、嬉しくてモニカに抱きついてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「モニカ、聞いた?!これからは僕も杖とおしゃべりできるよー!!」
「やったー!!嬉しい嬉しい!!きっと杖も喜ぶわ!だってずっとずっと、アーサーとおしゃべりしたがってたもの!!」
「いっぱいいっぱいお話しようね杖!!だから早く声を聞かせてね!あ~どうしよう、楽しみすぎて眠れなくなっちゃいそう!」
「だめよアーサー!しっかり寝ないと体に悪いわ。杖が目覚めるのは明日の朝みたいだし、今日はゆっくり眠りましょ」
モニカは興奮しているアーサーの手を引き一緒にお風呂へ入った。ミジェルダのことだから、浴槽も気味の悪い液体で満たされているのだろうと予想していたのだが、予想外に綺麗な湯だった。安心した彼らは体を洗いゆっくりと湯舟に浸かる。ほかほかになりお風呂を出るとシャナが起きていた。二人が抱きつき無事を喜んでいると、ミジェルダがシャナに白湯を手渡した。
「さ、飲みな。体に良いよぉ」
「あら、白湯?あなたにしては珍しくまともなものを飲ませてくれるじゃない。…あら、とても良いお湯で作った白湯ね。魔力と体力が沸き上がるようだわ」
「そうだろうそうだろう。これは特別な白湯さぁ。なんたって驚異的な能力を持った双子の茹で汁なんだからねえ」
「っ!!」
「モニカ!!」
「兄よ、待つんだね。今あの杖に藍の意思が集まっている。そこでじっとしてな」
助けに行こうとしたアーサーをフーワが引き留めた。フーワは立ち上がり両腕を広げ杖を向ける。深呼吸して歌いはじめた。優しく少し不気味なその旋律は、以前シャナが歌ってくれた子守唄に似ていた。
♪枯れるまで エルフ住まう森で
静かに佇んでいる運命を
一人のエルフが変えたのさ
朽ちるまで エルフ住まう家で
静かに暮らす運命を
一人の少女が変えたのさ
折れるまで 少女の腰元で
彼女を守る運命を
エルフと双子が変えたのさ
おいでや おいで
まだ命は繋がっている
そなたの運命は
少女が命尽きるまで
この子のそばにいてやることさ
双子の運命を守れや守れ
双子と共に笑えや笑え
おいでやおいで
まだ命は繋がっているー…♪
優しく語り掛けるようなフーワの歌声は、いつものダミ声とまったく違った。心地よい低さの透き通るような声にアーサーは聞き入ってしまった。
杖を指揮棒のように振っていたフーワは、歌い終えるとモニカ(がもっている杖に)に杖を向けてピタリと止まった。
「主により名を与えられしブナの杖、"藍"。そなたの散らばっていた意志はその名によりひとつに繋ぎ合わされた。エルフと双子の、血肉と魔力を糧にし息を吹き返せ。そなたの声は加護の糸で繋げられた双子にのみ届くであろう。それでもよければ言葉を発せ」
強風が止み、ブナの杖を包んでいた光が徐々に消えていく。アーサーとモニカが緊張した面持ちで杖を見守った。5分ほど経っても杖の声が聞こえてこなかったので、双子は不安げにフーワを見た。
「フ、フーワさん。杖、やっぱりだめだったの…?」
モニカがそう尋ねると、フーワはニッと笑い首を振った。
「いいえ。いま杖は夢中になってあなたたちの一部を吸収しております。息を吹き返すために。あなたさまとその兄と、もう一度言葉を交わすために」
「杖ぇっ…!」
「気長に待ってあげましょう。さあ、御子よ。おなかはすいていませんか?待っている間に食事にいたしましょう」
「…うん」
フーワは双子をダイニングテーブルへ座らせた。すでに酒を飲んで酔っ払っていたミジェルダが気味の悪い料理をテーブルに広げた。ぎょっとしたアーサーとモニカがガタガタ震えていると、フーワが杖を一振りして、気味の悪い料理をフォントメウの故郷料理へと変えた。
「大変失礼いたしました。こちらをお召し上がりください」
「え…で、でもこの料理ってさっきの…」
「いいえ。幻覚魔法ではありませんよ。料理そのものを入れ替えましたので、ご安心ください」
「ほ、ほんと…?」
「ヒヒッ、本当だよぉ。せっかくの私の真心たっぷりの手料理が。こぉーんなつまらない料理に変えられちったよぉ。残念残念」
ミジェルダが大げさにため息をつき、また酒をグビグビと飲み始めた。モニカが口を付ける前に、アーサーが先に一口頬ばった。じっくり咀嚼し飲み込んだあと、にっこり笑って妹の方を向く。
「うん。これ、シャナの実家でいただいたごはんと同じ味がするよ!大丈夫そうだから、モニカも食べて!」
「う、うん」
モニカもおそるおそる料理を口に入れたが、アーサーの言う通りシャナの実家で出た料理と同じ味がした。安心した二人はあっという間に完食した。その様子を満足げに眺めていたフーワは、食事を終えた彼らに声をかけた。
「さて、今日はここまでのようだね。シャナと御子が与えた魔力量が多すぎて、なかなか"藍"の吸収が終わらない。このペースだと、おそらく翌朝あたりまでかかりそうだ。…御子とその兄は風呂に入ってお眠りください」
「そっかあ。今日は会えないのかぁ。残念」
「でも明日会えるわ!!楽しみねアーサー!」
「うん!…そういえば、フーワさんがさっき、"加護の糸で繋がった双子にしか声は聞こえない"って言ってたけど、もしかして僕にも声が聞こえるようになるの?!」
「そうだよ。あんたにも聞こえるようになるね」
「わあああ!!やったぁぁぁ!!!」
アーサーは夢の中でしか杖の声を聞いたことがなかった。これからは夢の中でなくても言葉を交わせると知り、嬉しくてモニカに抱きついてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「モニカ、聞いた?!これからは僕も杖とおしゃべりできるよー!!」
「やったー!!嬉しい嬉しい!!きっと杖も喜ぶわ!だってずっとずっと、アーサーとおしゃべりしたがってたもの!!」
「いっぱいいっぱいお話しようね杖!!だから早く声を聞かせてね!あ~どうしよう、楽しみすぎて眠れなくなっちゃいそう!」
「だめよアーサー!しっかり寝ないと体に悪いわ。杖が目覚めるのは明日の朝みたいだし、今日はゆっくり眠りましょ」
モニカは興奮しているアーサーの手を引き一緒にお風呂へ入った。ミジェルダのことだから、浴槽も気味の悪い液体で満たされているのだろうと予想していたのだが、予想外に綺麗な湯だった。安心した彼らは体を洗いゆっくりと湯舟に浸かる。ほかほかになりお風呂を出るとシャナが起きていた。二人が抱きつき無事を喜んでいると、ミジェルダがシャナに白湯を手渡した。
「さ、飲みな。体に良いよぉ」
「あら、白湯?あなたにしては珍しくまともなものを飲ませてくれるじゃない。…あら、とても良いお湯で作った白湯ね。魔力と体力が沸き上がるようだわ」
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