【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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初夏編:喜びの魔女

【336話】名付け

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ミジェルダが席を立ち、そこには双子とフーワだけが残された。フーワは聖水をクイと飲み、モニカに向けて笑みを浮かべる。

「御子よ。お待たせいたしました。これよりあなたさまの杖の意思を呼び戻しましょう」

「ほ、ほんとに戻ってくる…?杖に会えるの?」

「ええ。そのために私はここにいるのです。…さて」

フーワが杖を手に取りじっと観察し、満足げに頷いた。

「ミジェルダはちゃんと仕事をしたようですね。しっかりとあなたたちとシャナの一部が杖と一体化しています。加護の糸も上手くあなたたちと繋がっていますね。これなら間違いなく呼び覚ませましょう。…御子よ、あなたさまにしていただきたいことがあります」

「なあに…?」

「この杖に真名を与えてください」

「マナ?」

「エルフにとって名は大切なもの。名に魂が宿り、魂は名に縛られる。エルフはそう考えています。今この杖の意思はバラバラに砕けこの世に散らばっているでしょう。それを呼び寄せひとつにし、この杖に繋ぎとめるためには、あなたさまに与えられた名が必要なのです」

「「え"ッ…」」

名付けをしろと言われてアーサーとモニカが同時にうめき声をあげた。以前二人が杖に名前を付けようとしたことはあったのだが、あまりのネーミングセンスのひどさに、杖に「名前はつけるな」と言われていたのだ。二人は目を見合わせてコソコソと話を始める。

「ちょっと!どうしよう?!杖に名前つけろって…!」

「だめだよモニカのネーミングセンスじゃ…杖に叱られちゃうよ…」

「アーサーのネーミングセンスも最悪だし…」

「最悪ってなんだよぉ!」

「前につけた名前なんだったけ?ブナツエー…だっけぇ?」

「良い名前じゃんか強そうで!」

「いやよそんな安直な名前!」

「モニカはモニラブって言ってたよね!あれの方が安直でしょぉ?!」

「モ、モニラブかわいいじゃない!!ね、フーワさん、かわいいわよね!モニラブ!!」

突然話を振られたフーワはビクリとしてからゆっくりとモニカから目を逸らした。そして彼女らしからぬ、か細く裏返った声でなんとか答える。

「エッ、エエ。トテモイイナダトオモイマス」

「声がひっくりかえってるよ?!」

「それに棒読み!!」

「みっ、御子に付けられた名であれば杖は喜ぶでしょう…。名誉なことです…。そ、その上…偽名ではあれど御子の名を与えられるなど…。ありがたいことでござ、ござ、ございましょう」

「……」

「……」

「……」

モニカとアーサーはフーワをじとーっとした目で見た。フーワは冷や汗を垂らしながら必死に目を逸らしている。痺れを切らしたアーサーが、ふう、とため息をついてモニカを見た。

「モニカ分かったでしょ?違う名前を考えようよ」

「そうね…。わたしのこと大好きなフーワさんでさえこんな反応なんだもの。杖に叱られちゃうに決まってるわ」

「なにか良い案ある?」

「うーん…」

それからモニカはうんうん唸りながら杖の名前を考えた。アーサーも案を出したが全てモニカとフーワに却下された。モニカの案も、アーサーに却下され、また、フーワも「良い」とは言わなかった。双子のあまりのネーミングセンスのなさに、思わずフーワが口を開く。

「御子よ。名前というものは、そのものを表すものです。この杖で印象深かったところを元に考えてみたらいかがっですか?」

「印象深かったところかあ」

モニカはそれからも唸り声をあげて名前を考えた。頭を使うことがあまり好きではないモニカは、途中から考えているふりをしてボーっと物思いに耽っていた。そしてうつらうつらと意識が遠のいていき、夢を見るー…。

◇◇◇

《ちょっと杖ー。そんな姿見せちゃったら、明日からずっとアーサーにいじられちゃうわよ?》

《そうだよー!僕明日から君のこと"恥ずかしがり屋の杖さん"って呼んじゃうよ?いいのー?》

《だめよアーサー、それじゃ長すぎるわ。"はずつえ"って呼びましょう。ハズツエ》

《モニカはすぐ略したがるよね!そういうところだよ!杖にネーミングセンスがないって言われるの!》

夢の中で、アーサーとモニカは一人の男性と話していた。モニカは夢の中でこう思った。

「この夢…見たことある…」

双子に囲まれている男性は、澄んだ藍色の瞳からぽろぽろと涙を流していた。モニカはあのときと同じことを思った。……「なんて綺麗な瞳なんだろう」。

◇◇◇

「…ニカ」

「……」

「モニカー」

「はっ!」

アーサーに肩を揺らされモニカは飛び起きた。目をしばたきながら周りを見回すと、頬を膨らませてモニカの顔を覗き込んでいる兄と、ソファに腰かけ優しい目を向けているフーワがいた。

「もう!いねむりしてたでしょモニカ!」

「ごっごめん!」

両手を合わせてモニカが謝るとフーワはゆっくりと首を振った。

「いえ。それは意味のある眠りです。夢があなたさまに教えてくれたのではありませんか?」

「教えてくれた…?」

「杖にふさわしい名を」

「……」

「そうなのモニカ?!ご、ごめん僕起こしちゃった!!」

「大丈夫。もう御子は見るべきものを見たよ」

「……」

「さ、真名を与えてください」

フーワはそっと立ちあがり、ぼぉっとしているモニカの前に跪き杖を差し出す。モニカはそれを手に取り胸に当てた。しばらくの沈黙のあと、モニカが慈愛に満ちた声でその杖の名を呼んだ。

「…藍(アイ)」
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