317 / 718
初夏編:喜びの魔女
【336話】名付け
しおりを挟む
ミジェルダが席を立ち、そこには双子とフーワだけが残された。フーワは聖水をクイと飲み、モニカに向けて笑みを浮かべる。
「御子よ。お待たせいたしました。これよりあなたさまの杖の意思を呼び戻しましょう」
「ほ、ほんとに戻ってくる…?杖に会えるの?」
「ええ。そのために私はここにいるのです。…さて」
フーワが杖を手に取りじっと観察し、満足げに頷いた。
「ミジェルダはちゃんと仕事をしたようですね。しっかりとあなたたちとシャナの一部が杖と一体化しています。加護の糸も上手くあなたたちと繋がっていますね。これなら間違いなく呼び覚ませましょう。…御子よ、あなたさまにしていただきたいことがあります」
「なあに…?」
「この杖に真名を与えてください」
「マナ?」
「エルフにとって名は大切なもの。名に魂が宿り、魂は名に縛られる。エルフはそう考えています。今この杖の意思はバラバラに砕けこの世に散らばっているでしょう。それを呼び寄せひとつにし、この杖に繋ぎとめるためには、あなたさまに与えられた名が必要なのです」
「「え"ッ…」」
名付けをしろと言われてアーサーとモニカが同時にうめき声をあげた。以前二人が杖に名前を付けようとしたことはあったのだが、あまりのネーミングセンスのひどさに、杖に「名前はつけるな」と言われていたのだ。二人は目を見合わせてコソコソと話を始める。
「ちょっと!どうしよう?!杖に名前つけろって…!」
「だめだよモニカのネーミングセンスじゃ…杖に叱られちゃうよ…」
「アーサーのネーミングセンスも最悪だし…」
「最悪ってなんだよぉ!」
「前につけた名前なんだったけ?ブナツエー…だっけぇ?」
「良い名前じゃんか強そうで!」
「いやよそんな安直な名前!」
「モニカはモニラブって言ってたよね!あれの方が安直でしょぉ?!」
「モ、モニラブかわいいじゃない!!ね、フーワさん、かわいいわよね!モニラブ!!」
突然話を振られたフーワはビクリとしてからゆっくりとモニカから目を逸らした。そして彼女らしからぬ、か細く裏返った声でなんとか答える。
「エッ、エエ。トテモイイナダトオモイマス」
「声がひっくりかえってるよ?!」
「それに棒読み!!」
「みっ、御子に付けられた名であれば杖は喜ぶでしょう…。名誉なことです…。そ、その上…偽名ではあれど御子の名を与えられるなど…。ありがたいことでござ、ござ、ございましょう」
「……」
「……」
「……」
モニカとアーサーはフーワをじとーっとした目で見た。フーワは冷や汗を垂らしながら必死に目を逸らしている。痺れを切らしたアーサーが、ふう、とため息をついてモニカを見た。
「モニカ分かったでしょ?違う名前を考えようよ」
「そうね…。わたしのこと大好きなフーワさんでさえこんな反応なんだもの。杖に叱られちゃうに決まってるわ」
「なにか良い案ある?」
「うーん…」
それからモニカはうんうん唸りながら杖の名前を考えた。アーサーも案を出したが全てモニカとフーワに却下された。モニカの案も、アーサーに却下され、また、フーワも「良い」とは言わなかった。双子のあまりのネーミングセンスのなさに、思わずフーワが口を開く。
「御子よ。名前というものは、そのものを表すものです。この杖で印象深かったところを元に考えてみたらいかがっですか?」
「印象深かったところかあ」
モニカはそれからも唸り声をあげて名前を考えた。頭を使うことがあまり好きではないモニカは、途中から考えているふりをしてボーっと物思いに耽っていた。そしてうつらうつらと意識が遠のいていき、夢を見るー…。
◇◇◇
《ちょっと杖ー。そんな姿見せちゃったら、明日からずっとアーサーにいじられちゃうわよ?》
《そうだよー!僕明日から君のこと"恥ずかしがり屋の杖さん"って呼んじゃうよ?いいのー?》
《だめよアーサー、それじゃ長すぎるわ。"はずつえ"って呼びましょう。ハズツエ》
《モニカはすぐ略したがるよね!そういうところだよ!杖にネーミングセンスがないって言われるの!》
夢の中で、アーサーとモニカは一人の男性と話していた。モニカは夢の中でこう思った。
「この夢…見たことある…」
双子に囲まれている男性は、澄んだ藍色の瞳からぽろぽろと涙を流していた。モニカはあのときと同じことを思った。……「なんて綺麗な瞳なんだろう」。
◇◇◇
「…ニカ」
「……」
「モニカー」
「はっ!」
アーサーに肩を揺らされモニカは飛び起きた。目をしばたきながら周りを見回すと、頬を膨らませてモニカの顔を覗き込んでいる兄と、ソファに腰かけ優しい目を向けているフーワがいた。
「もう!いねむりしてたでしょモニカ!」
「ごっごめん!」
両手を合わせてモニカが謝るとフーワはゆっくりと首を振った。
「いえ。それは意味のある眠りです。夢があなたさまに教えてくれたのではありませんか?」
「教えてくれた…?」
「杖にふさわしい名を」
「……」
「そうなのモニカ?!ご、ごめん僕起こしちゃった!!」
「大丈夫。もう御子は見るべきものを見たよ」
「……」
「さ、真名を与えてください」
フーワはそっと立ちあがり、ぼぉっとしているモニカの前に跪き杖を差し出す。モニカはそれを手に取り胸に当てた。しばらくの沈黙のあと、モニカが慈愛に満ちた声でその杖の名を呼んだ。
「…藍(アイ)」
「御子よ。お待たせいたしました。これよりあなたさまの杖の意思を呼び戻しましょう」
「ほ、ほんとに戻ってくる…?杖に会えるの?」
「ええ。そのために私はここにいるのです。…さて」
フーワが杖を手に取りじっと観察し、満足げに頷いた。
「ミジェルダはちゃんと仕事をしたようですね。しっかりとあなたたちとシャナの一部が杖と一体化しています。加護の糸も上手くあなたたちと繋がっていますね。これなら間違いなく呼び覚ませましょう。…御子よ、あなたさまにしていただきたいことがあります」
「なあに…?」
「この杖に真名を与えてください」
「マナ?」
「エルフにとって名は大切なもの。名に魂が宿り、魂は名に縛られる。エルフはそう考えています。今この杖の意思はバラバラに砕けこの世に散らばっているでしょう。それを呼び寄せひとつにし、この杖に繋ぎとめるためには、あなたさまに与えられた名が必要なのです」
「「え"ッ…」」
名付けをしろと言われてアーサーとモニカが同時にうめき声をあげた。以前二人が杖に名前を付けようとしたことはあったのだが、あまりのネーミングセンスのひどさに、杖に「名前はつけるな」と言われていたのだ。二人は目を見合わせてコソコソと話を始める。
「ちょっと!どうしよう?!杖に名前つけろって…!」
「だめだよモニカのネーミングセンスじゃ…杖に叱られちゃうよ…」
「アーサーのネーミングセンスも最悪だし…」
「最悪ってなんだよぉ!」
「前につけた名前なんだったけ?ブナツエー…だっけぇ?」
「良い名前じゃんか強そうで!」
「いやよそんな安直な名前!」
「モニカはモニラブって言ってたよね!あれの方が安直でしょぉ?!」
「モ、モニラブかわいいじゃない!!ね、フーワさん、かわいいわよね!モニラブ!!」
突然話を振られたフーワはビクリとしてからゆっくりとモニカから目を逸らした。そして彼女らしからぬ、か細く裏返った声でなんとか答える。
「エッ、エエ。トテモイイナダトオモイマス」
「声がひっくりかえってるよ?!」
「それに棒読み!!」
「みっ、御子に付けられた名であれば杖は喜ぶでしょう…。名誉なことです…。そ、その上…偽名ではあれど御子の名を与えられるなど…。ありがたいことでござ、ござ、ございましょう」
「……」
「……」
「……」
モニカとアーサーはフーワをじとーっとした目で見た。フーワは冷や汗を垂らしながら必死に目を逸らしている。痺れを切らしたアーサーが、ふう、とため息をついてモニカを見た。
「モニカ分かったでしょ?違う名前を考えようよ」
「そうね…。わたしのこと大好きなフーワさんでさえこんな反応なんだもの。杖に叱られちゃうに決まってるわ」
「なにか良い案ある?」
「うーん…」
それからモニカはうんうん唸りながら杖の名前を考えた。アーサーも案を出したが全てモニカとフーワに却下された。モニカの案も、アーサーに却下され、また、フーワも「良い」とは言わなかった。双子のあまりのネーミングセンスのなさに、思わずフーワが口を開く。
「御子よ。名前というものは、そのものを表すものです。この杖で印象深かったところを元に考えてみたらいかがっですか?」
「印象深かったところかあ」
モニカはそれからも唸り声をあげて名前を考えた。頭を使うことがあまり好きではないモニカは、途中から考えているふりをしてボーっと物思いに耽っていた。そしてうつらうつらと意識が遠のいていき、夢を見るー…。
◇◇◇
《ちょっと杖ー。そんな姿見せちゃったら、明日からずっとアーサーにいじられちゃうわよ?》
《そうだよー!僕明日から君のこと"恥ずかしがり屋の杖さん"って呼んじゃうよ?いいのー?》
《だめよアーサー、それじゃ長すぎるわ。"はずつえ"って呼びましょう。ハズツエ》
《モニカはすぐ略したがるよね!そういうところだよ!杖にネーミングセンスがないって言われるの!》
夢の中で、アーサーとモニカは一人の男性と話していた。モニカは夢の中でこう思った。
「この夢…見たことある…」
双子に囲まれている男性は、澄んだ藍色の瞳からぽろぽろと涙を流していた。モニカはあのときと同じことを思った。……「なんて綺麗な瞳なんだろう」。
◇◇◇
「…ニカ」
「……」
「モニカー」
「はっ!」
アーサーに肩を揺らされモニカは飛び起きた。目をしばたきながら周りを見回すと、頬を膨らませてモニカの顔を覗き込んでいる兄と、ソファに腰かけ優しい目を向けているフーワがいた。
「もう!いねむりしてたでしょモニカ!」
「ごっごめん!」
両手を合わせてモニカが謝るとフーワはゆっくりと首を振った。
「いえ。それは意味のある眠りです。夢があなたさまに教えてくれたのではありませんか?」
「教えてくれた…?」
「杖にふさわしい名を」
「……」
「そうなのモニカ?!ご、ごめん僕起こしちゃった!!」
「大丈夫。もう御子は見るべきものを見たよ」
「……」
「さ、真名を与えてください」
フーワはそっと立ちあがり、ぼぉっとしているモニカの前に跪き杖を差し出す。モニカはそれを手に取り胸に当てた。しばらくの沈黙のあと、モニカが慈愛に満ちた声でその杖の名を呼んだ。
「…藍(アイ)」
32
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。