【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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最終編:反乱編:王城

短剣

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 アーサーとモニカ、S級冒険者、そしてダフとシチュリアは王城へ乗り込んだ。城の中に入ると衛兵や使用人が待ち構えていた。双子たちが武器を構えようとすると、衛兵たちが一斉に跪いた。

「え……?」

 戸惑う双子に、臣下の一人が俯いたまま発言した。

「アウス様、モリア様。お待ちしておりました。我らの仕えるべき王族はあなた様です。さあどうぞ、今の王族に終止符を打ち、新たな国王の誕生を」
「……」

 城の者に歓迎され喜ぶべきことなのは、アーサーもモニカも分かっていた。だが彼らは喜ぶことができなかった。城の中の者たちの今の王族に対する憎しみがひしひしと伝わってくる。

(同じだ……。母上や父上が僕たちを見る目と……。ここの人たちは、今の王族に死んでほしいんだ。国王も、王妃も……ヴィクスも、ジュリアも、ウィルクも……。みんなに死んでほしいんだ)
(私たちのためにずっと憎まれることばかりしてきたヴィクス……。城のみんなにこんな目を向けられて、ヴィクスは今まで生きてきたの……? そんな辛いことはないわ。それは私たちが一番よく分かる……)

 跪く城の者たちの前でかたまってしまった双子を、カミーユが我に返させる。

「アーサー、モニカ、行くぞ」
「あっ……うん……」

 謁見の間まで行くまでにも、何十人もの跪く衛兵や使用人の前を通った。城の者たちの中には、双子の姿を見て涙を流して喜ぶ者たちもいた。

 道中、リアーナがペッと唾を吐いた。

「牢獄に閉じ込めてイジメてたくせに、都合の良いヤツらだ」

◇◇◇

 謁見の間。アーサーとモニカにとっては六年ぶりに訪れる場所だ。そして彼らの両親との再会も六年ぶり。
 カミーユが扉を開ける。中には、戦況を全く知らないのか呑気に王妃とおしゃべりをしている国王が王座に座っていた。そしてそばにはヴィクスも立っている。

 ヴィクスはいち早くカミーユたちが入室したことに気付いたが、知らないふりをして国王との談笑に戻った。

「国王! 冒険者と……アウス様とモリア様が……!」

 衛兵の声に国王は飛び上がった。彼の視線はカミーユに注がれ、次にアーサーとモニカ送られる。双子に気付いた途端、国王はこめかみに青筋を立て、怒鳴り散らした。

「ア、アウス貴様ぁぁぁぁっ! どうやってここまで来た!! 王族軍は!! 城の者はどうしたぁぁぁ!!」

 アーサーは静かな声で答える。
 
「王族軍には勝ちました。城の者には歓迎していただきましたよ、お父上」
「なにぃ!? おい! 裏切った者の首を今すぐはねろ!! 全員処刑だ!!」
「お父上……まだそのようなことをおっしゃるのですか……? あなたはもう負けたんです。もう……これ以上恥を晒さないでください」
「なっ……。アウス貴様……わしに向かってなんという口をきくんだ!! わしを誰だと思っておる!!」

 アーサーのうしろでリアーナのやたらとでかい呆れたため息が聞こえた。彼女はカミーユにコソコソと耳打ちする。

「なんだこのバカは」
「これが前国王だ。愚王と有名の」
「なるほど、こりゃ納得だな」
「こんなやつからアーサーとモニカみてえな子どもが生まれるなんてなあ」
「奇跡だなこりゃ」

 モニカは二人の会話に笑いをこらえるので必死だ。
 アーサーは剣を抜き、国王の元まで歩み寄った。

「お、おい! わしに剣を向けるなんぞどういうつもりだアウス! わしは国王だぞ!? 跪かんか!!」
「降伏してくださいお父上。あなたにはもう勝ち目はありません」
「誰がお前なんぞに王位を譲るか!! この不吉の象徴めが!!」

 その言葉に王妃も乗りかかる。

「ああ、正に不吉の象徴!! だから死ねとあれほど言ったのに!! 産んでもらった親に剣を向けるなんてこの悪魔め!! 死ね! 死ね!!」
「……そんな言葉、幼い頃にもう散々浴びせられましたから。今さらあなたたちに何を言われても、僕は何も感じません」
「お前たちは私から全てを奪った! そしてこれからも奪うのね!! 忌まわしき双子……! 生まれてきたその日に殺しておけばよかった!! 二度と生まれ変わらないよう、体を刻んで魔物にでも食わせればよかった!!」
「……」

 アーサーとモニカは何も言わず、ただ瞳の光を失わせるだけだった。森に捨てられたあの日、乳母のミアーナを見上げたときと同じ瞳。両親の言葉を聞けば聞くほど、双子は心をそっと閉ざしていく。

 聞くに堪えない国王と王妃の罵声に、リアーナが大声を張り上げようと口を開いた。
 しかしそれと同じ時、ヴィクスがふらっと王妃に歩み寄った。それに気付いた王妃が、無理に笑顔を作りヴィクスを抱きしめる。

「ヴィクス……! 何も心配いらないわ! 王位はあなたのものよ。こんな不吉の象徴になんて渡さない。少し待っていてね。今からこの忌まわしき者たちを処刑するから――」

 言葉の途中で、王妃の体がびくついた。

「……?」

 様子がおかしい。周りの者が眉をひそめて彼らに視線を送る。

「あ……あ……」

 王妃がか細い声で呻く。そして彼女の足元に真っ赤な血がポトトと落ちた。

「ヴィクス……な……にを……」
「お母様。覚えていますか? 僕が四歳の頃、あなたはこうして……僕にお兄様を傷つけさせたことを」

 ヴィクスの手には、王妃の血に濡れた第一王位継承権の証である短剣が握られていた。短剣は何度も何度も王妃の腹に刺さっては抜ける。

「あっ……あっ……」
「ああ……。ずっとこうしたかった。最愛のお兄様とお姉様を傷つけた憎むべき女に……こうして何度も短剣を突き刺す日を」
「ヴィクスッ……やめてっ……私よ……あなたのお母様よ……っ。ずっと愛し合っていたお母様よ……?」

 王妃の命乞いはヴィクスの耳に届かない。彼は淡々と短剣を抜き差ししながら、憑りつかれたように今までの憎しみを吐露した。

「過剰に僕を愛する女。母親と息子を越えた関係を僕に求めた愚かな女。お前の顔を見るたびに反吐が出そうだったよ。僕がどれほどこの日を待ち侘びていたか……お母様は分かる?」
「分からないっ……。そんなこと言わないでヴィクスッ……。どうしてそんなことを言うの……? やめてちょうだい……やめてちょうだい……っ」
「愚かな頭しか持たないお父様とは違い、お母様は僕の悪政に気付いていたよね。どうして止めなかったの?」
「だって……あなたが望むものは全て……あげたかったから……だからやめてちょうだいヴィクス……ッ! 私にそんな目を向けないで……っ!」

 ヴィクスは深いため息を吐き、短剣を王妃の首に突き付けた。

「僕の目を見て、お母様。これが本当の、僕のお母様に対しての気持ちを乗せた目。僕が今までお母様に抱いていたのは愛情ではありません。純粋な、殺意です」
「んあぁぁぁあっ!」

 王妃の首が飛び、国王は絶叫した。双子もS級も、ダフもシチュリアも、あまりの出来事に言葉を失っている。

「ヴィ……ヴィクスゥゥゥゥッ……! な、なんて、なんてことをぉぉぉ!! わしの妃が! わしの妃がぁぁぁぁっ!!」

 泣き叫ぶ国王に、ヴィクスは恭しく礼をした。

「お父様。今までお役目ご苦労様でした。僕の操り人形という、憐れな役割を担う愚かな王。さあ、お前の役目はもう終わった。早く首を垂らして死を受け入れなさい」
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