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最終編:反乱編:王城
脆い王国軍
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それから数日と経たないうちに、アウス軍とモリア軍が合流した。
「アーサァァァァ!」
「モニカァァァァ!」
相方の姿を見た途端、馬から飛び降りがっしりと再会のハグを交わすアーサーとモニカ。
「会いたかったよぉぉぉぉ! びぇぇぇっ!」
「モニカだぁぁモニカだぁぁぁ!」
兄の軍服を涙でべっとり濡らすモニカと、妹の匂いを嗅いで気持ちよさそうに目を瞑る双子に、兵隊たちはクスクス笑った。
「仲が良いんだなあ」
「なんか……可愛いなあ、アウス王子とモリア王女」
カミーユは慌てて双子の元に駆け寄り、ペチペチと頭を叩いた。
「こらっ! てめーらぁ……もっとしっかりしろぉ!」
「ご、ごめんなさいぃぃ……」
「ほら、さっさと馬に乗れ」
乗馬した双子は並んで先頭に立つ。目の前には王族の軍。……しかし、敵兵のほとんどが戦意を喪失しているようだった。
「メシもまともに食わせてくれねえなんて……」
「俺たち兵のことは駒としか思ってないんだろうな……」
「国王は城の中でたらふく食ってんだろうなあ……」
見るからにフラフラの敵兵を見て、アーサーとモニカは目を見合わせた。
「なんか、おなかすいてそうじゃない?」
「うん。ペコペコの顔してる」
「可哀想だねえ」
「何か食べさせてあげる?」
「うん、いいんじゃない?」
アーサーとモニカはカミーユたちだけを連れ、先頭の敵兵の元まで行った。
「あのぉ……」
「総大将がわざわざ出向いてくれるなんざありがたいねえ! クソッ、舐めやがってこのガキ共がぁぁぁ!」
鬼のような顔で大将がアーサーに向けて槍を振り上げた。他の敵兵たちも双子に襲いかかる。
「!?」
「ぐぁああぁあっ!」
しかし、大将の槍はアーサーに片手で軽々と受け止められる。力を入れても全く動じないアーサーに、大将は冷や汗をかきながらギリギリ歯ぎしりをした。
他の敵兵たちはモニカの風魔法で吹き飛ばされ、みっともない声を上げて尻もちをついた。
うしろに控えているカミーユたちS級は、手を出そうともせずボケッと青い空を眺めている。
(くそっ……このガキ共……強い……! お飾りの大将じゃねえのかよクソがぁぁっ……!)
アーサーが槍を弾き返すと、敵大将は勢いあまって落馬しそうになった。
アーサーはヒュンヒュンと剣を回して弄んでから、握り直して敵大将に剣を突きつける。そしてキョトンとした顔で敵大将を見つめ、首を傾げた。
「おなかすいてますか?」
「ああ……?」
一方モニカは尻もちをついて震えている敵兵たちに、ニパッと笑って話しかけた。
「ごはんいりますか?」
「はあ……?」
突然現れた恐ろしいほど強い総大将二人が意味の分からないことを言い出したので、気味悪がった敵兵は後ずさりした。そこにカミーユが助け舟を出す。
「おい。王城のすぐそばなのに、食料の配給はないのか?」
「……そんなもの、ないに等しい」
「そうか……。アウス軍の食糧を分け与える。それを食え」
「お、おい……! どうして敵兵にそんなことをする!」
なぜか怒っている敵兵に、双子は同時に首を傾げる。
「どうしてって……。今は敵だけど、君たちもみんな同じバンスティン国の国民でしょ?」
「国民が飢えてるのはいやよ。みんなにおなかいっぱい食べてほしい!」
「それにおなかペコペコの敵と戦うのってちょっと卑怯だと思うんだよね」
「うんうん! おなかぱんぱんで、正々堂々と戦いましょう!」
「ほんとは戦いたくないんだけどね……。ねえ、君たちもアウス軍に入らない? 僕たち、国民はできるだけ傷つけたくないんだ」
そんな申し出をしなくとも、双子とS級、さらに大勢の兵がいるアウス軍では簡単に王族軍に勝つことができるだろう。それを分かっている敵大将は、やはり双子の意図が読めずに戸惑っている。
敵大将の反応を勘違いしたモニカがアーサーを叱った。
「アーサー、そんなこと言ったら、ごはんを餌に脅してるように聞こえるわよ! とりあえずごはんあげましょうよ」
「あ、そうだね! ごめんね!? 脅してるつもりはなかったんだ! じゃあ、ちょっと待っててね。ごはん持ってくるから―! みんなでごはんの時間にしよー! じゃあね!」
それだけ言って、アーサーとモニカは味方の軍の元へ戻って行った。しばらくして敵兵の元に大量の食糧が送られた。どれも戦争中に食べるとは思えないほど新鮮でおいしいものばかりで、敵兵はウメェウメェとじんわり涙を浮かべながら噛み締めた。
その日の夜、大勢の敵兵がアウス軍に寝返った。
残りの兵とは悲しいことに戦うことになり、アーサーとモニカも前線で敵をなぎ倒した。
双子が言葉を交わした敵大将は寝返らず、最期の最期まで王族軍として戦い、命を散らせていった。
ヒトの血に濡れた、静かになった戦場。
アーサーとモニカは戦場の真ん中で胸に手を当て、自らが手にかけた国民の死を悼んだ。
「なんだか……悲しいね」
「どこが悲しい? 国民を手にかけないといけないところ?」
「それもだけど……たった一杯のごはんで寝返る味方しかいない国王が悲しい」
「……そうね。でも、一杯のごはんすら味方に与えられない国王なのも悲しいわ」
「うん。……たぶん、ヴィクスがわざとそうしてるんだと思うけどね」
「じゃあなおさら悲しいわ。それにすら気付けない国王のバカさが」
「間違いないね。自分の親ながら恥ずかしいよ」
「全くの同意だわ」
「はやくヴィクスたちを助けてあげよう。こんなところ……」
「ええ。きっと、ヴィクスもジュリアも、ウィルクも私たちを待ってるわ」
ヴィクスの思惑により、忠誠心などほとんどなくなっている弱り切った脆い国王軍は、あっという間にアウス軍に制圧された。
アーサーとモニカ、そしてS級冒険者とダフ、シチュリア、ベニートパーティ、フォントメウのエルフは、王城の前まで辿り着く。
王城のまわりはもう、アウス軍にびっちりと包囲されていた。
カミーユは双子に目配せする。
「よし……。じゃあ、乗り込むか」
「うん……!」
「俺らS級とアーサーとモニカで行くぞ。他のやつらはここで待機だ」
「カミーユさん! 俺も連れて行ってください!!」
「わ、私も行きます!」
名乗り出たのはダフとシチュリア。二人から反対されてもついていくという強い意思を感じた。
「……俺が何言ったって無駄だな。じゃあ、お前らも……行くぞ」
「アーサァァァァ!」
「モニカァァァァ!」
相方の姿を見た途端、馬から飛び降りがっしりと再会のハグを交わすアーサーとモニカ。
「会いたかったよぉぉぉぉ! びぇぇぇっ!」
「モニカだぁぁモニカだぁぁぁ!」
兄の軍服を涙でべっとり濡らすモニカと、妹の匂いを嗅いで気持ちよさそうに目を瞑る双子に、兵隊たちはクスクス笑った。
「仲が良いんだなあ」
「なんか……可愛いなあ、アウス王子とモリア王女」
カミーユは慌てて双子の元に駆け寄り、ペチペチと頭を叩いた。
「こらっ! てめーらぁ……もっとしっかりしろぉ!」
「ご、ごめんなさいぃぃ……」
「ほら、さっさと馬に乗れ」
乗馬した双子は並んで先頭に立つ。目の前には王族の軍。……しかし、敵兵のほとんどが戦意を喪失しているようだった。
「メシもまともに食わせてくれねえなんて……」
「俺たち兵のことは駒としか思ってないんだろうな……」
「国王は城の中でたらふく食ってんだろうなあ……」
見るからにフラフラの敵兵を見て、アーサーとモニカは目を見合わせた。
「なんか、おなかすいてそうじゃない?」
「うん。ペコペコの顔してる」
「可哀想だねえ」
「何か食べさせてあげる?」
「うん、いいんじゃない?」
アーサーとモニカはカミーユたちだけを連れ、先頭の敵兵の元まで行った。
「あのぉ……」
「総大将がわざわざ出向いてくれるなんざありがたいねえ! クソッ、舐めやがってこのガキ共がぁぁぁ!」
鬼のような顔で大将がアーサーに向けて槍を振り上げた。他の敵兵たちも双子に襲いかかる。
「!?」
「ぐぁああぁあっ!」
しかし、大将の槍はアーサーに片手で軽々と受け止められる。力を入れても全く動じないアーサーに、大将は冷や汗をかきながらギリギリ歯ぎしりをした。
他の敵兵たちはモニカの風魔法で吹き飛ばされ、みっともない声を上げて尻もちをついた。
うしろに控えているカミーユたちS級は、手を出そうともせずボケッと青い空を眺めている。
(くそっ……このガキ共……強い……! お飾りの大将じゃねえのかよクソがぁぁっ……!)
アーサーが槍を弾き返すと、敵大将は勢いあまって落馬しそうになった。
アーサーはヒュンヒュンと剣を回して弄んでから、握り直して敵大将に剣を突きつける。そしてキョトンとした顔で敵大将を見つめ、首を傾げた。
「おなかすいてますか?」
「ああ……?」
一方モニカは尻もちをついて震えている敵兵たちに、ニパッと笑って話しかけた。
「ごはんいりますか?」
「はあ……?」
突然現れた恐ろしいほど強い総大将二人が意味の分からないことを言い出したので、気味悪がった敵兵は後ずさりした。そこにカミーユが助け舟を出す。
「おい。王城のすぐそばなのに、食料の配給はないのか?」
「……そんなもの、ないに等しい」
「そうか……。アウス軍の食糧を分け与える。それを食え」
「お、おい……! どうして敵兵にそんなことをする!」
なぜか怒っている敵兵に、双子は同時に首を傾げる。
「どうしてって……。今は敵だけど、君たちもみんな同じバンスティン国の国民でしょ?」
「国民が飢えてるのはいやよ。みんなにおなかいっぱい食べてほしい!」
「それにおなかペコペコの敵と戦うのってちょっと卑怯だと思うんだよね」
「うんうん! おなかぱんぱんで、正々堂々と戦いましょう!」
「ほんとは戦いたくないんだけどね……。ねえ、君たちもアウス軍に入らない? 僕たち、国民はできるだけ傷つけたくないんだ」
そんな申し出をしなくとも、双子とS級、さらに大勢の兵がいるアウス軍では簡単に王族軍に勝つことができるだろう。それを分かっている敵大将は、やはり双子の意図が読めずに戸惑っている。
敵大将の反応を勘違いしたモニカがアーサーを叱った。
「アーサー、そんなこと言ったら、ごはんを餌に脅してるように聞こえるわよ! とりあえずごはんあげましょうよ」
「あ、そうだね! ごめんね!? 脅してるつもりはなかったんだ! じゃあ、ちょっと待っててね。ごはん持ってくるから―! みんなでごはんの時間にしよー! じゃあね!」
それだけ言って、アーサーとモニカは味方の軍の元へ戻って行った。しばらくして敵兵の元に大量の食糧が送られた。どれも戦争中に食べるとは思えないほど新鮮でおいしいものばかりで、敵兵はウメェウメェとじんわり涙を浮かべながら噛み締めた。
その日の夜、大勢の敵兵がアウス軍に寝返った。
残りの兵とは悲しいことに戦うことになり、アーサーとモニカも前線で敵をなぎ倒した。
双子が言葉を交わした敵大将は寝返らず、最期の最期まで王族軍として戦い、命を散らせていった。
ヒトの血に濡れた、静かになった戦場。
アーサーとモニカは戦場の真ん中で胸に手を当て、自らが手にかけた国民の死を悼んだ。
「なんだか……悲しいね」
「どこが悲しい? 国民を手にかけないといけないところ?」
「それもだけど……たった一杯のごはんで寝返る味方しかいない国王が悲しい」
「……そうね。でも、一杯のごはんすら味方に与えられない国王なのも悲しいわ」
「うん。……たぶん、ヴィクスがわざとそうしてるんだと思うけどね」
「じゃあなおさら悲しいわ。それにすら気付けない国王のバカさが」
「間違いないね。自分の親ながら恥ずかしいよ」
「全くの同意だわ」
「はやくヴィクスたちを助けてあげよう。こんなところ……」
「ええ。きっと、ヴィクスもジュリアも、ウィルクも私たちを待ってるわ」
ヴィクスの思惑により、忠誠心などほとんどなくなっている弱り切った脆い国王軍は、あっという間にアウス軍に制圧された。
アーサーとモニカ、そしてS級冒険者とダフ、シチュリア、ベニートパーティ、フォントメウのエルフは、王城の前まで辿り着く。
王城のまわりはもう、アウス軍にびっちりと包囲されていた。
カミーユは双子に目配せする。
「よし……。じゃあ、乗り込むか」
「うん……!」
「俺らS級とアーサーとモニカで行くぞ。他のやつらはここで待機だ」
「カミーユさん! 俺も連れて行ってください!!」
「わ、私も行きます!」
名乗り出たのはダフとシチュリア。二人から反対されてもついていくという強い意思を感じた。
「……俺が何言ったって無駄だな。じゃあ、お前らも……行くぞ」
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