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2章 魔王討伐
2-14 つかの間の休息
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「食料を探していたことにするのは、いかがでしょう?」
「なるほど!それいいね。ありがとう、ナギ」
小さな頭をなでると、ほかの三匹も私の手に寄ってきて、場所取りのケンカが始まった。
「こらこら、落ち着いて。本当に食料を探したいんだけど、また何か考えてくれない?」
拠点にある食糧は、今晩の分だけ。
明日の朝、少しでも食事を用意できるなら、次の拠点へと急ぐ必要がなくなる。
少しは長く眠れるかもしれない。
「この森、何が採れるのかな?」
「シダはたくさんありますね!」
ヒナがぐるりと周囲を飛ぶ。
膝丈のシダの茎は、私の小指ぐらい太い。
葉は画用紙みたいにしっかりしている。
「……ごめん、人間には無理かも」
「ですが、あとは針葉樹しか生えていません」
ナギがキョロキョロとあたりを見回す。
「そうだよね。スギとかヒノキみたいな木なんて、煮ても焼いても食べられないし……」
呟きながら、私はシダの少ない場所へ移動した。
浄化で魔力を消費しているからか、また体が重くなってきたのだ。
やわらかい草が茂る場所に、精霊たちを抱えて座り込む。
再び森を眺めているうちに、ふとイザークの言葉を思い出した。
「そういえば、狩りをするって言ってたっけ。私でもできるかな?」
「もう済みました」
突然平坦な声がして、驚いて振り返る。
後ろの方から、微妙に汚れたイザークが歩いてくる。
布の包みを手に提げて。
どこで何をしてきたんだろう。
そして、あれは何なんだろう……
「先程、キジを何羽か狩ってまいりました」
「……狩った?今?」
「はい。下処理も終わりましたので、あとは焼くだけです。これを今晩食べれば、根菜の一部を明朝に回せるでしょう」
イザークは、私と向かい合うように腰を下ろし、大きな包みを地面に置いた。
「あ、ありがとう」
包みのサイズからして、三羽や四羽じゃない。
まだ一時間も経っていないのに、どれだけ手早く解体したんだろう。
さすが元王子……いや、普通の王子はそんなことできないか。
「ここで焼いてもいいけど、時間が経つと冷めちゃうよね。ミゾレ、あの肉を冷凍できる?できるだけ短い時間で──」
言い終える前に、カキン!という音が響く。
気づいた時には、包みは完全に凍りついていた。
「早っ!」
「えへへ……」
浄化中は攻撃できないけど、力を使えないわけではないらしい。
「こんなこともできますよ……」
包みを下に置いたイザークに、水がまとわりつく。
水はすぐ地面に吸い込まれて、残されたイザークは、お風呂上がりみたいにピカピカになっていた。
私が汚れを気にしていたのを、ミゾレが察して綺麗にしたらしい。
「……ありがとうございます」
イザークは目を丸くして、自分の手や服をじっと見つめている。
いいな、あれ。
魔力をほとんど使わないし、あとでみんなにもやってあげよう。
その前に、まずはごはんだけど。
「お肉は炭火焼きにしたらおいしそうだよね。キジってどんな味なんだろう?」
イザークに尋ねた直後、ハッと思い出した。
この人、味がわからないんだ。
「……それより、イザークって何でもできるんだね。どこでも生きていけそう」
よし、ごまかせた──と、思ったのだが。
「ファルガランの王族は、出陣前提で育てられますから。小さい頃から、野外で食料を得る術を教わるのです」
「へえー!騎士団長とか護衛の人が教えてくれるの?」
「いえ、私は……兄から」
しまった、サバイバル分野もタブーだったのか。
でも、こんなことでは私はめげない。
「そうなんだ。そういえば、ほかにも何か食べられるものってないかな。ベリー系とか」
「この森では難しいですね。時期も違いますし。昔は、夏の終わりから秋にかけて、甘酸っぱい実を森で摘んだものです……兄と一緒に」
また、兄。
ほかの登場人物はいないんだろうか。
「……貴族家の友達も誘ったりしたの?」
「いえ。お恥ずかしながら、子どもの頃は気が弱かったので。いつも兄の後ろをついて回っていました」
「そうなんだ……」
いつも兄と一緒。
じゃあ、どんな話題でもヴェリクを連想させかねない。
私はゆっくりと視線を落とした。
困った、どうしよう、と言葉が頭の中をぐるぐると回る。
話題がないこともだけど、イザークにどう声をかければいいか、わからなくなってしまった。
いつも後ろを追いかけていたのなら、きっとヴェリクを慕っていたんだろう。
そんな相手の命を、イザークは奪った。自分の手で。
そして今、ヴェリクの分身ともいえる魔王を倒すため、私に協力してくれている。
イザークにとっては、もう一度兄を殺すようなものだ。
頑張ろうね、とは言えない。
でも、帰ってもいいよ、とも言えない。
わざわざ志願兵になるくらいだ。
魔王の死を見届けたいはず。
会話が途切れたせいで、沈黙が流れ続けている。
手持ち無沙汰になって、ひとまず精霊たちをなで回してみる。
もふもふの四匹は、キャッキャッと嬉しそうに笑い出した。
「みんな、楽しそうだね……」
「私も楽しい……と、思います」
静かな声がして、私はパッと顔を上げた。
イザークは笑ってこそいなかったが、少し目を細めて、私を見つめていた。
「兄の話が出ないように、気を遣ってくださったのでしょう?」
「えっ、いや、それは……その通りです、ごめん……」
「いいえ、ご配慮くださり恐れ入ります。ですが、お構いなく。今は、息苦しさを感じないのです」
「それは……『感情がないから』?」
そんなわけないじゃない。
出し方がわからないだけでしょ。
あるはずの心を探るように、イザークをじっと見つめ返す。
すると、イザークはこれまでになく優しい声で答えた。
「アナベル様が、ここにいてくださるからです」
「……え?」
一瞬で頭が真っ白になる。
そのあと、じわじわと照れ臭さが込み上げてきた。
そこへイザークは追い打ちをかけてくる。
「なるほど!それいいね。ありがとう、ナギ」
小さな頭をなでると、ほかの三匹も私の手に寄ってきて、場所取りのケンカが始まった。
「こらこら、落ち着いて。本当に食料を探したいんだけど、また何か考えてくれない?」
拠点にある食糧は、今晩の分だけ。
明日の朝、少しでも食事を用意できるなら、次の拠点へと急ぐ必要がなくなる。
少しは長く眠れるかもしれない。
「この森、何が採れるのかな?」
「シダはたくさんありますね!」
ヒナがぐるりと周囲を飛ぶ。
膝丈のシダの茎は、私の小指ぐらい太い。
葉は画用紙みたいにしっかりしている。
「……ごめん、人間には無理かも」
「ですが、あとは針葉樹しか生えていません」
ナギがキョロキョロとあたりを見回す。
「そうだよね。スギとかヒノキみたいな木なんて、煮ても焼いても食べられないし……」
呟きながら、私はシダの少ない場所へ移動した。
浄化で魔力を消費しているからか、また体が重くなってきたのだ。
やわらかい草が茂る場所に、精霊たちを抱えて座り込む。
再び森を眺めているうちに、ふとイザークの言葉を思い出した。
「そういえば、狩りをするって言ってたっけ。私でもできるかな?」
「もう済みました」
突然平坦な声がして、驚いて振り返る。
後ろの方から、微妙に汚れたイザークが歩いてくる。
布の包みを手に提げて。
どこで何をしてきたんだろう。
そして、あれは何なんだろう……
「先程、キジを何羽か狩ってまいりました」
「……狩った?今?」
「はい。下処理も終わりましたので、あとは焼くだけです。これを今晩食べれば、根菜の一部を明朝に回せるでしょう」
イザークは、私と向かい合うように腰を下ろし、大きな包みを地面に置いた。
「あ、ありがとう」
包みのサイズからして、三羽や四羽じゃない。
まだ一時間も経っていないのに、どれだけ手早く解体したんだろう。
さすが元王子……いや、普通の王子はそんなことできないか。
「ここで焼いてもいいけど、時間が経つと冷めちゃうよね。ミゾレ、あの肉を冷凍できる?できるだけ短い時間で──」
言い終える前に、カキン!という音が響く。
気づいた時には、包みは完全に凍りついていた。
「早っ!」
「えへへ……」
浄化中は攻撃できないけど、力を使えないわけではないらしい。
「こんなこともできますよ……」
包みを下に置いたイザークに、水がまとわりつく。
水はすぐ地面に吸い込まれて、残されたイザークは、お風呂上がりみたいにピカピカになっていた。
私が汚れを気にしていたのを、ミゾレが察して綺麗にしたらしい。
「……ありがとうございます」
イザークは目を丸くして、自分の手や服をじっと見つめている。
いいな、あれ。
魔力をほとんど使わないし、あとでみんなにもやってあげよう。
その前に、まずはごはんだけど。
「お肉は炭火焼きにしたらおいしそうだよね。キジってどんな味なんだろう?」
イザークに尋ねた直後、ハッと思い出した。
この人、味がわからないんだ。
「……それより、イザークって何でもできるんだね。どこでも生きていけそう」
よし、ごまかせた──と、思ったのだが。
「ファルガランの王族は、出陣前提で育てられますから。小さい頃から、野外で食料を得る術を教わるのです」
「へえー!騎士団長とか護衛の人が教えてくれるの?」
「いえ、私は……兄から」
しまった、サバイバル分野もタブーだったのか。
でも、こんなことでは私はめげない。
「そうなんだ。そういえば、ほかにも何か食べられるものってないかな。ベリー系とか」
「この森では難しいですね。時期も違いますし。昔は、夏の終わりから秋にかけて、甘酸っぱい実を森で摘んだものです……兄と一緒に」
また、兄。
ほかの登場人物はいないんだろうか。
「……貴族家の友達も誘ったりしたの?」
「いえ。お恥ずかしながら、子どもの頃は気が弱かったので。いつも兄の後ろをついて回っていました」
「そうなんだ……」
いつも兄と一緒。
じゃあ、どんな話題でもヴェリクを連想させかねない。
私はゆっくりと視線を落とした。
困った、どうしよう、と言葉が頭の中をぐるぐると回る。
話題がないこともだけど、イザークにどう声をかければいいか、わからなくなってしまった。
いつも後ろを追いかけていたのなら、きっとヴェリクを慕っていたんだろう。
そんな相手の命を、イザークは奪った。自分の手で。
そして今、ヴェリクの分身ともいえる魔王を倒すため、私に協力してくれている。
イザークにとっては、もう一度兄を殺すようなものだ。
頑張ろうね、とは言えない。
でも、帰ってもいいよ、とも言えない。
わざわざ志願兵になるくらいだ。
魔王の死を見届けたいはず。
会話が途切れたせいで、沈黙が流れ続けている。
手持ち無沙汰になって、ひとまず精霊たちをなで回してみる。
もふもふの四匹は、キャッキャッと嬉しそうに笑い出した。
「みんな、楽しそうだね……」
「私も楽しい……と、思います」
静かな声がして、私はパッと顔を上げた。
イザークは笑ってこそいなかったが、少し目を細めて、私を見つめていた。
「兄の話が出ないように、気を遣ってくださったのでしょう?」
「えっ、いや、それは……その通りです、ごめん……」
「いいえ、ご配慮くださり恐れ入ります。ですが、お構いなく。今は、息苦しさを感じないのです」
「それは……『感情がないから』?」
そんなわけないじゃない。
出し方がわからないだけでしょ。
あるはずの心を探るように、イザークをじっと見つめ返す。
すると、イザークはこれまでになく優しい声で答えた。
「アナベル様が、ここにいてくださるからです」
「……え?」
一瞬で頭が真っ白になる。
そのあと、じわじわと照れ臭さが込み上げてきた。
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