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4章 主権奪還
4-7 予想外の来訪者
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彼は、聞きたかった言葉をくれた。
しかし、私は言葉を返せなかった。
私の全記憶を掘り返しても、恋や愛というものを、どう表せばいいのかわからなかった。
イザークを支えたいという気持ちは、確かにあるのに……
途方に暮れる私に、イザークは苦笑した。
「突然、申し訳ありません。しばらく考えてみてください。私は、ほかの部屋を借りてまいります」
大きな手が、小さな子どもをなだめるように、私の頭をポンポンと叩いた。
イザークが部屋を出て行ってからも、私は床にへたり込んだまま、動けなかった。
──翌朝。
イザークとどんな顔で会えばいいのか、と部屋で思い悩んでいると、窓の外が騒がしくなったのに気付いた。
「何?兵士でも来た……えっ!」
広場にいたのは兵士ではなく、よく知る顔ぶれだった。
私は部屋を飛び出し、広場に駆け込んだ。
それとほぼ同時に、
「アナベル様!」
と、横からイザークに声をかけられた。
「うわあっ!」
私は飛び上がって、そうっとイザークを伺った。
彼は慌てた様子で、私と訪問者たちを交互に見ている。
昨日のことを引きずってはいないらしい。
ホッとしたような、がっかりしたような、何とも言えない気持ちを飲み込んで、イザークに尋ねた。
「ねえ、知ってた?みんながファルガランに来るって……」
「いえ、何も聞いておりません」
私とイザークは、よく知る顔ぶれを──レオナルドとリリィを見つめた。
二人を囲む護衛、ギデオンやエリオットたちも、町民のような素朴な服を着ている。
それでも、馬を村の入り口に繋ぎ、ぞろぞろとやってきた集団は、農村の中で明らかに浮いていた。
どう声をかけるべきだろう。
困っていると、向こうも私たちに気付いたらしく、嬉しそうに手を振ってくる。
「アナベル、イザーク、久しぶり!」
「久しぶり、じゃないよ……」
呑気なレオナルドたちに、私は脱力した。
「素性を黙ってたら、村で襲われることはないだろうけど……」
「あら、もう話したわよ?」
リリィにきょとんと言われて、私とイザークは目を剥いた。
そして、二人でレオナルドに詰め寄った。
「なんということを!危険すぎます!」
「そうだよ!レオナルドたちなら負けることはないだろうけどさあ!」
目を吊り上げる私たちに、レオナルドはのほほんと笑いかけてくる。
「大丈夫。こっちの状況をサムエルから聞いて、安全そうな場所を通ってきたから。それに、僕らがやろうとしていることは、村人たちの益になるはずだよ。そうだよね?」
レオナルドが周囲を見回すと、人々は笑顔で頷いた。
「ええ、それはもう。いやあ、イザーク殿下が戻ってきてくださってよかった!」
「まったくだ。あのアルデリアとうまくやれるなんて、カスティル公爵には無理だろうからな」
そう言い合いながら、みんなはルークの持つ羊皮紙を覗き込み、「もう一度読んでくれ」と頼んでいる。
何がどうなっているのか。
私は、おずおずとレオナルドを見た。
「村の人たちに、何て言ったの?」
「僕たちは、イザークの援護射撃をしに来た。それを話したんだ」
「援護射撃?」
聞き返した時、荒々しい蹄の音が近付いてきた。
入り口にいた馬たちが暴れたのかと焦ったが、広場に現れたのは、乗り手のいる馬ばかり。
そして乗り手の誰もが、煌びやかな鎧を身につけている。
その中の、リーダー格と思わしき男性が、私たちの方へ馬を進めてきた。
彼の顔を見て、イザークは目を見開き、そして苦々しげにうなった。
「カスティル公爵……!」
「えっ、この人が?」
私は内心で怯みつつも、カスティル公爵を睨みつけた。
公爵は私とイザークを、それからレオナルドに視線を向けて、フンと鼻を鳴らした。
そして、高らかに言い放った。
「皆の者、聞け!そこの黒髪の男は、アルデリアの国王だぞ!」
「はあ、知ってます」
村人の一人が、拍子抜けしたように答えた。
カスティル公爵が、少しだけ目を泳がせる。
「む……そ、そうか。しかし、これでわかっただろう。イザーク王子はアルデリアと手を組んでいる。この男は犬に成り下がったのだ!言われるまま、民をアルデリアの盾として使い捨てるつもりだ!」
カスティル公爵は、レオナルドに人差し指を突きつけた。
私とイザークは、とっさにレオナルドたちの前へ出た。
カスティル公爵の話は、長年ファルガランに根付いていた不信感を煽ってしまう。
いつでも壁を出せるように、私はペンダントを握りしめた。
しかし、村人たちはレオナルドやイザークをチラリとも見ない。
冷ややかにカスティル公爵を眺めるだけだ。
「き、貴様ら、その顔はなんだ!」
「カスティル公爵。僕たちは、別の話をしに来たんですよ」
狼狽する公爵へ、レオナルドは静かに声をかけた。
それから、ルークへ目配せをした。
「ルーク、読んでくれるか?アナベルたちにも伝えなくちゃいけないし」
「うん、わかった」
ルークが前へ進み出てくる。
手にした筒状の羊皮紙を広げる。
村人たちが楽しげに微笑んだ。
カスティル公爵や周りの騎士たちは、怪訝そうにルークを睨んでいる。
ルークはにっこりと笑って、羊皮紙に書かれた内容を読み上げ始めた。
しかし、私は言葉を返せなかった。
私の全記憶を掘り返しても、恋や愛というものを、どう表せばいいのかわからなかった。
イザークを支えたいという気持ちは、確かにあるのに……
途方に暮れる私に、イザークは苦笑した。
「突然、申し訳ありません。しばらく考えてみてください。私は、ほかの部屋を借りてまいります」
大きな手が、小さな子どもをなだめるように、私の頭をポンポンと叩いた。
イザークが部屋を出て行ってからも、私は床にへたり込んだまま、動けなかった。
──翌朝。
イザークとどんな顔で会えばいいのか、と部屋で思い悩んでいると、窓の外が騒がしくなったのに気付いた。
「何?兵士でも来た……えっ!」
広場にいたのは兵士ではなく、よく知る顔ぶれだった。
私は部屋を飛び出し、広場に駆け込んだ。
それとほぼ同時に、
「アナベル様!」
と、横からイザークに声をかけられた。
「うわあっ!」
私は飛び上がって、そうっとイザークを伺った。
彼は慌てた様子で、私と訪問者たちを交互に見ている。
昨日のことを引きずってはいないらしい。
ホッとしたような、がっかりしたような、何とも言えない気持ちを飲み込んで、イザークに尋ねた。
「ねえ、知ってた?みんながファルガランに来るって……」
「いえ、何も聞いておりません」
私とイザークは、よく知る顔ぶれを──レオナルドとリリィを見つめた。
二人を囲む護衛、ギデオンやエリオットたちも、町民のような素朴な服を着ている。
それでも、馬を村の入り口に繋ぎ、ぞろぞろとやってきた集団は、農村の中で明らかに浮いていた。
どう声をかけるべきだろう。
困っていると、向こうも私たちに気付いたらしく、嬉しそうに手を振ってくる。
「アナベル、イザーク、久しぶり!」
「久しぶり、じゃないよ……」
呑気なレオナルドたちに、私は脱力した。
「素性を黙ってたら、村で襲われることはないだろうけど……」
「あら、もう話したわよ?」
リリィにきょとんと言われて、私とイザークは目を剥いた。
そして、二人でレオナルドに詰め寄った。
「なんということを!危険すぎます!」
「そうだよ!レオナルドたちなら負けることはないだろうけどさあ!」
目を吊り上げる私たちに、レオナルドはのほほんと笑いかけてくる。
「大丈夫。こっちの状況をサムエルから聞いて、安全そうな場所を通ってきたから。それに、僕らがやろうとしていることは、村人たちの益になるはずだよ。そうだよね?」
レオナルドが周囲を見回すと、人々は笑顔で頷いた。
「ええ、それはもう。いやあ、イザーク殿下が戻ってきてくださってよかった!」
「まったくだ。あのアルデリアとうまくやれるなんて、カスティル公爵には無理だろうからな」
そう言い合いながら、みんなはルークの持つ羊皮紙を覗き込み、「もう一度読んでくれ」と頼んでいる。
何がどうなっているのか。
私は、おずおずとレオナルドを見た。
「村の人たちに、何て言ったの?」
「僕たちは、イザークの援護射撃をしに来た。それを話したんだ」
「援護射撃?」
聞き返した時、荒々しい蹄の音が近付いてきた。
入り口にいた馬たちが暴れたのかと焦ったが、広場に現れたのは、乗り手のいる馬ばかり。
そして乗り手の誰もが、煌びやかな鎧を身につけている。
その中の、リーダー格と思わしき男性が、私たちの方へ馬を進めてきた。
彼の顔を見て、イザークは目を見開き、そして苦々しげにうなった。
「カスティル公爵……!」
「えっ、この人が?」
私は内心で怯みつつも、カスティル公爵を睨みつけた。
公爵は私とイザークを、それからレオナルドに視線を向けて、フンと鼻を鳴らした。
そして、高らかに言い放った。
「皆の者、聞け!そこの黒髪の男は、アルデリアの国王だぞ!」
「はあ、知ってます」
村人の一人が、拍子抜けしたように答えた。
カスティル公爵が、少しだけ目を泳がせる。
「む……そ、そうか。しかし、これでわかっただろう。イザーク王子はアルデリアと手を組んでいる。この男は犬に成り下がったのだ!言われるまま、民をアルデリアの盾として使い捨てるつもりだ!」
カスティル公爵は、レオナルドに人差し指を突きつけた。
私とイザークは、とっさにレオナルドたちの前へ出た。
カスティル公爵の話は、長年ファルガランに根付いていた不信感を煽ってしまう。
いつでも壁を出せるように、私はペンダントを握りしめた。
しかし、村人たちはレオナルドやイザークをチラリとも見ない。
冷ややかにカスティル公爵を眺めるだけだ。
「き、貴様ら、その顔はなんだ!」
「カスティル公爵。僕たちは、別の話をしに来たんですよ」
狼狽する公爵へ、レオナルドは静かに声をかけた。
それから、ルークへ目配せをした。
「ルーク、読んでくれるか?アナベルたちにも伝えなくちゃいけないし」
「うん、わかった」
ルークが前へ進み出てくる。
手にした筒状の羊皮紙を広げる。
村人たちが楽しげに微笑んだ。
カスティル公爵や周りの騎士たちは、怪訝そうにルークを睨んでいる。
ルークはにっこりと笑って、羊皮紙に書かれた内容を読み上げ始めた。
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