断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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4章 主権奪還

4-8 援護射撃

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「『今後、アルデリアからファルガランへ、これまでに支給していた分の二倍の物資を支給する。アルデリア側で不正が発覚した場合は、不正の大小に関わらず、家財を全て没収する』。……カスティル公爵、大丈夫ですか?」

 ルークが困ったように微笑んだ。
 カスティル公爵は、口をぽかんと開けたまま硬直している。
 
 逆に、私は疑問を口に出さずにはいられなかった。
 
「レオナルド、どういうこと?支給って……しかも、今までの二倍?」

「貴族を説得したんだよ」

 レオナルドは小声で返してきた。

「魔王も魔物もいなくなったから、次は他国が侵略しにくるって。その時、ファルガランがアルデリアと敵対したら、僕たちに勝ち目はないだろ?それを話したら満場一致で支援が決まったよ」

「でも、周りの国は国境に壁を作っちゃったから、しばらくはこっちに来ないでしょ?」

「そんなの、黙っていればわからないさ」

 肩をすくめたレオナルドは、唖然とする私に微笑み、それからまたカスティル公爵に向き直った。

「アルデリアは、イザーク王子に何度も助けてもらいました。それに、王妃殿下とヴェリク王子の処刑は……前王が、ある貴族の暴走を止められなかったためです」

 ある貴族とは、リリィの母親マチルダのことだろう。
 レオナルドは深く一礼したあと、また口を開いた。

「何よりアルデリアは、十年前、ファルガランを貶めました。くず鉱石や腐った作物を送るなど……常に先陣を切っていたという、ファルガラン国王を侮辱するも同然です」

「ゴホン!……それはそうですな」

 カスティル公爵は、大げさに咳払いをしながら言った。

「だから償いをすると?殊勝なことだ」

「はい。ただし、アルデリアが支援するのは、イザーク王子に対してです。彼が国王になり、主権を握った時のみ、この契約は履行されます」

 その言葉で、ようやく私は「援護射撃」の意味がわかった。
 物資が以前の倍も支給されるなら、誰だってイザークを推すだろう。

 現に、カスティル公爵が連れている騎士たちも、迷うように主君とイザークを見比べている。
 焦っているのは公爵だけ。

「な、なぜ、王子が即位することが条件なのだ!」

 馬からずり落ちそうな公爵に、レオナルドは「いいですか」と話を続ける。

「アルデリアの魔物を討伐してくれたのは、イザーク王子。亡き王妃殿下とヴェリク王子の家族も、イザーク王子です。アルデリアは、彼に対して感謝と償いをします」

「し、しかし!十年前、アルデリアは不良品を送りつけてきた!その償いはどうする?」

「あれは、アルデリアの貴族の独断によるものです。失礼極まりない行為だったとは認めますが、補償するつもりはありません。国王同士で話し合えば、誤解は解け、適切な支給を再開できたはずですから」

「魔王の襲撃を受けながら、どうやって話し合えというのだ!」

「どこかの貴族が主権を奪おうとせず、一致団結していれば、可能だったのでは?」

 微笑むレオナルドを前に、カスティル公爵は凍りついた。
 私は冷や汗をかきながら、二人のやり取りを見ていた。

 レオナルドは言外に、こう言ったのだ。
 「お前が乗っ取りを企てたから、話がこじれた。そんな相手になぜ補償が必要なのか?」と。

 まあ、一番こじれさせたのは、魔王を生んだヴェリクなんだけど……
 それを言えば、「王族はやっぱりろくなことを考えない」と、揚げ足を取られる。

 黙っていれば、わからないのだ。

「レオナルド陛下……感謝を申し上げます」

 イザークはレオナルドの前でひざまずき、こうべを垂れた。
 すると、レオナルドもその場で片膝をついた。

「こちらこそ、父や僕が頼りないばかりに、君に不要な苦悩を負わせてしまった。この程度しかできず、すまない」

 そう言ってレオナルドもうなだれる。
 村人たちは二人を見ながら、ヒソヒソと言い合った。

「おい、アルデリアの国王がうちの王子に謝ってるぞ」

「殿下が即位したら、昔よりずっと暮らしが楽になるかもしれんな」

「カスティル公爵も、潔く隠居すればいいのに」

 馬鹿にしたような笑いが、広場に湧き始める。
 それを消したのは怒号だった。

「ふざけるなっ!」

 カスティル公爵が剣を抜いた。
 こめかみに青筋を立て、イザークを睨んでいる。

「貴様は我々を捨て、アルデリアに飼われていた!その事実は消えん!貴様がファルガランの頂点に立つなど、おこがましいにも程があるわ!この場で斬り捨ててくれる!」

「でもねえ、今は公爵様が不利なんじゃないですか?」

 村の女性がニヤリと笑う。

 公爵の味方は数騎の騎士。
 こちらにいるのはレオナルドとリリィ、二人を護衛する数人の精鋭。それから私とイザーク、さらには数十人の村人だ。
 
 公爵は「ぐっ」とうめいたものの、すぐ騎士たちに向かって叫んだ。

「怯むな!ここにいるのは、ぬくぬくと守られてきたアルデリア人と、剣も持たぬ農民だけ!」

「あ、そうだ。言い忘れていたのですが」

 リリィが手を叩き、花のような笑みを浮かべる。

「ファルガランの北東と南東地域に、大きな魔物がいましたよね。あれを倒したのは、私とアナベルですから」

「は……!?う、嘘をつくな!我々でさえ手を焼いた魔物を、アルデリア人が倒せるものか!」

 公爵の言葉に、私は思わず「じゃあ精霊たちを見せようか」と考えてしまった。
 それを察したもふもふたちが、ペンダントから飛び出してくる。

 リリィも同じことを考えたらしく、彼女の指輪から四匹のプニプニが現れた。

 想定外の事態に声も出ないのか、公爵は口をパクパクさせている。

「あらら……みんな出てきちゃった。でも、全力は出しちゃ駄目だよ」

 私がもふもふとプニプニを見回すと、みんなはちょっとがっかりした様子で頷いた。
 ただ──

「じゃ、ちょっぴりならいいんですね!」

「火花なら大丈夫デスよね!」

 火の精霊たち、ヒナと赤いプニプニが、ほのかに光った。
 直後、カスティル公爵の周りに、バチバチバチッ!と火花が散る。
 
 線香花火百本くらいに、一気に火をつけたかのようだ。
 当然ながら馬は大パニック、飛び上がって暴れ始めた。

「ちょっ、こら……落ち着け!うわっ!」

 ついでに公爵も大パニックだ。

「何をしてるんですか、まったく!」

「危ないことをしマスね」

 今度はナギとフーが風を起こして、乗り手ごと馬を宙に浮かせた。
 馬たちはさらに暴れたが、しばらくすると危険がないとわかったのか、無闇に動くのをやめた。
 
 それから、ゆっくりゆっくり、馬たちは地面に下ろされた。

「ひ、ひいぃ……」

 公爵たちは憔悴しきって、ブルブルと震えている。
 そこへ、ギデオンとエリオットが近づいていく。
 
「不足でしたら、僕の聖術もお見せしましょうか?」

「決闘なら、俺が受けて立ちますよ」

「け、結構だ!今日のところは勘弁してやる、覚えていろ!」

 カスティル公爵は、小悪党の捨て台詞を吐いて逃げていった。
 騎士たちは「本当はあっちに行きたい」と言いたげに、イザークをチラチラと振り返りつつ、公爵を追いかけていった。

 おそらくカスティル公爵領に家族がいて、人質に取られているのだろう。
 昼食の時、イザークがそう教えてくれた。

 さらに、「王冠を取り返せるのは時間の問題でしょう」とも。
 
 村人も騎士も、王子とアルデリアの関係を仲間に伝えるだろう。
 自動的にイザークへの支持は上がり、そうなれば、あとは私たちがカスティル公爵を追い詰めるだけだ。

 王冠を返せ、と。

 昼食後は、私は村の壊れた柵を直したり、子どもの風邪を治療して回った。
 大丈夫だと言ったのだが、リリィも協力してくれた。

 そして、夜。
 レオナルドたちも村長さんの家に泊めてもらうことになった。
 とはいえ部屋数が限られているので、私とリリィは同じ部屋だ。

「久しぶりのお泊まり会ね」

 ベッドに腰掛けるリリィが、嬉しそうに笑った。
 私もなんだか楽しい気分になってくる。
 
「そうだね。リリィの家に泊まらせてもらった時は、遅くまでおしゃべりしたっけ」

 でも今夜は疲れているだろうから、すぐに寝るかな──と、リリィを見ると。

「え……どうしたの?リリィ」

 リリィは頬を染め、うつむき、両手をモジモジさせている。
 これは、まさか。

 恋バナ!?
 
「リリィ、もしかして話したいことがあるの?あるんでしょ?あるよね?」

 レオナルドとの仲をこっそり応援していた身としては、そうであってほしい。
 
 私はリリィの隣に腰を下ろし、鼻息が荒いのを隠すため、両手で鼻と口を覆った。
 すると、リリィも同じようなポーズをして、消え入りそうな声で呟いた。

「実は、私とレオ……婚約したの」
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