断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

文字の大きさ
103 / 105
4章 主権奪還

4-14 よみがえった王都

しおりを挟む
 王都を修復するのに、一ヶ月かかった。
 魔力に限界があることも一因だが、最大の理由は別である。

 なるべく元通りにしようと思い、王都を知る人たちに色々教わりながらの作業だったからだ。
 一つ何かを作るたび、誰かに突っ込まれる。

「アナベル。柱は木材ではなく、石材でお願いします」

 家を作ると、イザークがそう言った。

「ああ、そっか。燃えやすいと困るもんね。じゃ、こっちの壊れた……時計塔かな?これも頑丈にしておこうか」

「アナベル様、そちらは監視塔にございます!」

 元近衛兵が、ビシッと敬礼した。

「えっ、それならさっき作ったけど」

「異変をいち早く察知できるよう、何基もの監視塔が必要なのです」

「ははあ、なるほど……」

 角度や高さによって、見えやすい部分と見えにくい部分ができるんだろうか。

「監視塔を建てて……そろそろ町の中の壁を直そうかな」

 そう言って、迷路のような壁を修復していると、

「聖女様、壁に装飾は不要です」

 と、侍女長さんが一言。

「でも、目印になるものがないと迷子になりませんか?」

「なりますが、それで結構です。敵兵を混乱させるためのものですから」

「じゃあ、町の人が迷子になったら……?」

「それを見つけるためにも監視塔があるのですよ」

「なるほど!」

 こんな調子で作業は進んだ。
 中央の王城を直す時は、さらに細かく指示が入ったので、一朝一夕ではとても終わらない。

 それでも人の手で行うよりは、何百倍も早い。

 建物を完成させるたび、みんなは目を見張った。
 修復が進むにつれて、その目に涙が浮かんだ。

「また、この風景を見られる日が来るとは……」

 元文官長のおじいさんが、皺だらけの手を静かに合わせる。
 私は照れくさくなって肩をすくめた。

「私の感覚でやってるから、前とは違うかもしれませんけど」

「いえ、ファルガランではそういうものですよ」

 市場で売り子をしていたという女性が、微笑んだ。

「敵の襲撃を受けては、作り直す。そうやって続いてきた国なんです」

「……そうなんだね」

 どうりで、みんなの指示が妙だと思った。
 ディテールは細かいのに、ざっくりした町並みについてはほとんど何も言われなかった。

 この人たちにとって、変化は日常の一部なのだ。
 だから、突然現れた次期王妃も、すんなり受け入れてくれたのだろう。


 王城が完成した時、「まずは王子殿下と聖女様が」と勧められた。
 私とイザークは、真新しいお城の中を、二人きりで進んでいく。

「謁見の間も、すっかり綺麗になりましたね」

 イザークは、玉座が二つ──国王と王妃のもの──並んだ部屋を、ぐるりと見回した。

「アナベル、ありがとうございます」

「ん?何が?」

 聞き返すと、イザークはきょとんとして、それから肩を揺らして笑った。

「王都を直してくださったことです。決まっているでしょう?」

「いや、だって、もう二百回ぐらい言われてるから。十分というか……」

「千回言っても足りませんよ」

 イザークは私の髪をなでて、笑うのをやめた。
 ただ、やわらかな微笑みは口元に残っている。

「愛しています、アナベル」

「そ、それももういいから」

「一万回言っても足りません」

「それはさすがに多すぎない?」

「キスをしてもいいですか?」

「なんで!?」

 脈絡がなければ、心の準備をする暇もない。
 とっさにイザークの胸元を押したものの、彼は私との距離を詰めてきた。

「今は二人きりで、ここに子どもたちはいませんから」

 そう言われると、拒否する理由がなくなってしまう。
 私は死ぬほど恥ずかしいのを我慢して、頷いた。

 イザークの唇が、私の唇に重なる。
 少し長いキスが、私の頭をぼうっとさせる。

 イザークは唇を離すと、包み込むように私を抱きしめた。

「これから、忙しくなりますね」

「え……?どういうこと?」

「連続で儀式などを行わなくてはなりません。父の葬儀、戴冠式、アルデリアとの会談。結婚式は後回しでしょうね」

 どことなく不機嫌そうな声色だ。
 対して、私はさらに頭がふわふわしていた。
 
 結婚式。
 そうか、私とイザークは結婚するんだ。

 楽しいことより苦しいことの方が多いだろうけど、それでも、これからはイザークと支え合っていくんだ。

 そう思うと、胸の奥から幸福感が湧いてくる。
 自然と手が動いて、大きな背中を抱きしめ返した。

「イザーク、一緒に生きよう」

「もちろんです」

 イザークの声が、にわかに明るくなった。
 私たちはしばらく抱き合い、手を取り合って城を出た。

  ◇

 それからの日々は、「忙しい」というレベルではなかった。
 
 貴族への挨拶やら、アルデリアとのやり取りやら。
 まだ荒れている地方を視察しては、儀式の流れの暗記……

 頭がおかしくなりそうだ。

 ストレス発散のため、意味もなく精霊たちを呼び出しては、もふもふな体に顔を埋めていた。
 もちろん、精霊たちは大喜びだった。

 結婚式の準備も、完全に作業と化した。

 アルデリアだけでなく、敵対国以外の国にも招待状を送るのだが。
 どの国の誰に何を言ってはいけないだとか、挨拶の仕方はどうだとか……
 城勤めの貴族たちに、散々覚えさせられた。
 
 そして、魔王との決戦に挑むような気持ちで、私は結婚式当日を迎えたのだった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。 そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー 辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...