断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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4章 主権奪還

4-4 好き放題してやる

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「カスティル公爵の手下が、注意喚起に来たんですよ……ゲホッ、ゲホッ!」

 五十歳くらいの男性が、咳き込みながら進み出てくる。
 さっき村長と呼ばれていた人だ。

 侍女長さんは、眉をひそめて聞き返した。

「村長、どういうことです?」

「『イザーク王子が、アルデリアの聖女に騙されて、二人で村人を虐げている』と言われたんです!」

「何ですって?」

 私たちは、三人で顔を見合わせた。
 最初にイザークが口を開く。
 
「もしや、エルヴァが……アナベル様の力を見て、アルデリアの聖女だと思ったのでしょうか」

 その言葉に、侍女長さんがうなずく。
 
「そうかもしれません。ファルガランの聖女は、証を持っていませんし。王子殿下はアルデリアにおられたのですから、そこからお連れしたと考えるのが自然です」

 そこでエルヴァは、アルデリアへの反感を利用し、悪評を広め、私を疎外しようと考えたのだろう。

「でも、早すぎない?力を使ってから、まだ三日しか経ってないよ」

「エルヴァ・カスティルの独断で、すぐに騎士を派遣したのでしょう」

 侍女長さんはうつむき、唇を噛んだ。

「恐ろしい娘ですよ。敵と定めた相手は、潰すまで追いかけていく……私の部下も、何人消されたか」

「おい……ゲホッ、聞いているのか!?」

 村長さんが、また咳き込みながら叫んだ。

「カスティル公爵には黙っておいてやるから、さっさとアルデリアに帰れ!儂らを見下し、嘲笑うのはもう十分だろう!?」

「いや、私はそんなつもりじゃ……」

「うるさい!王子殿下と、聖女様の侍女長様までたぶらかしやがって!」

「そうだ!何を企んでる!?」

「アルデリアの力を見せびらかして、貧しい私たちに自慢したいの!?」

 口々に言い立てる村人たちに、イザークが顔をしかめる。
 彼は何か言おうとしたが、その前に私はサッと手を挙げた。

「そうだよ!聖女の力、見たいでしょ?今から自慢するね!」

 ぽぽぽん、と空中に四匹のもふもふ精霊が現れる。

「みんな、この人たちを黙らせてくれるかな!」

「ア、アナベル様?」

 イザークと侍女長さんが、私を見る。
 二人とも、精霊が人を傷つけないと知っているから、私を止めようとはしない。
 ただ、「何をするつもりなのか」と困惑しているようだ。

 しかし、村人は違う。
 ファルガランの聖女は力を発揮する機会がなかった。
 一般の人々に、精霊についての知識はないだろう。

「逃げろ、精霊だ!」

「殺されるぞ!」

 みんな、悲鳴を上げて逃げ惑っている。
 そんな彼らに、精霊たちの放つ優しい光が降り注ぐ。

 こっちの話を聞かずに、悪者だと決めつけるなんて。
 腹が立って仕方がない。
 私はそこまで心が広くないんだ。
 こうなったら好き放題してやる。

 全員、めちゃくちゃ癒してやる!

「ぎゃーっ!……ん?」

 白目を剥いた村長さんが、ふと我に返り、喉をさすり始める。
 周りの村人たちが、心配そうに彼に駆け寄った。

「村長、どうしたんですか!」

「……治った」

 村長さんは何度か咳払いをすると、目を見開いた。

「喉の病が治った!咳が出ないぞ!」

「わ、私も腰の痛みがなくなったわ!」

「ちょっと、何が起きてるんだい!?」
 
 一軒の家から、四十歳くらいの女性が飛び出してくる。

「あたりがパーッと光ったと思ったら、うちのばあちゃんが立ち上がったんだけど!?」

 そう言った女性の後ろから、七十歳くらいのおばあさんが、ひょっこりと顔を出した。
 周囲の村人が、シーン……と静まり返った。

「あ、あのばあさん、何ヶ月も寝たきりだったよな?」

「足の骨が曲がっちまって、立てなかったはずだぞ」

 呆然とする人々の視線を受けて、おばあさんは、うんと伸びをした。
 
「ああ、久しぶりの外だ。ずいぶん休ませてもらったし、そろそろ仕事をしなくちゃ……でも、その前に」

 おばあさんは、のんびりと辺りを見回した。

「私を治してくれたのは、誰かね?侍女長様、ご存じですか?」

「あ……ええ、こちらのアナベル様よ。アルデリアの聖女様だけど、ファルガランを立て直すため、力を貸してくださるそうなの」

「おや、まあ。アルデリアの……こんなところまで、よくおいでくださいました」

 おばあさんは皺を深くして笑うと、私の方へゆったりと歩いてきた。

「昔から、『アルデリアはファルガランに土地を与えてくれた、尊き存在だ』と教わってきました。それだけでなく、聖女様が私たちを助けてくださるなんて……ありがたや、ありがたや」

「い、いえ。それより、体はちゃんと治ってますか?ほかにも、荒れた畑を耕したり、壊れた橋を修理したりできますけど」

 その言葉で、棒立ちになっていた村人たちの目の色が変わった。

「畑を耕してくれる……?」

「し、修理できるって言ったよな?」

「聖女様、よろしいのですか?」

 おばあさんが、ためらいがちに私を見つめてくる。

「はい。私は、ただイザークを手伝いたいだけなので」

「ですが、その……魔物の襲撃で、埋まってしまった土地もあります。どこからどこまでがうちの村の耕作地か、わかりませんで……」

「でしたら、私が確かめましょう」

 イザークが私の隣に来て、おばあさんに微笑みかけた。

「目印に四角い岩を置いていましたよね?」

「はい……ただ、壊されたものもありまして……」

「残った岩から、元の区画を割り出します。一区画ごとの面積は決まっていますから、計算できると思います」

 イザークの言葉に、村の人たちだけでなく、侍女長さんまで目を丸くした。

「橋の基部にも、文字の書いた石が埋め込まれているはずです。勝手に位置を変えられないよう、領主しか知らないことですが……皆さんを信じて、教えます」

 イザークは村人たちを見回した。
 急な展開についていけないのか、誰も彼も、呆然としている。
 
 苦笑するイザークに、私は声をかけた。

「じゃあ、まずは私に教えてくれる?指示を出してくれたら、畑でも橋でも豪邸でも、何でも作るから」

 私の周りで浮かぶ精霊たちも、うんうん、と頷いた。

「いいですよね?村を整えても」

 私が村人の方を見ると、「はい」「もちろん」と、みんな慌てたように返事をした。
 さっきのおばあさんはといえば、私たちを拝んでいる。

「聖女様、ありがとうございます。ですが、少しだけお待ちくださいな」

 おばあさんは穏やかにそう言うと、くるりと村人たちの方を向いた。
 そして、別人のような怒鳴り声で吼えた。

「あんたたちっ!さっきの話、聞こえてたよ!誰が魔女だって?聖女様にお願いする前に、まずは謝罪しな!」

「ひぃっ!も、申し訳ありませんでした!」

 私を非難した人たちが、ペコペコと頭を下げる。
 村長さんはおばあさんの息子だったらしく、土下座までしていた。

 それから、精霊やイザークと一緒に、村を回って……

 翌日には、私とイザークは村の救世主扱い。
 「ほかにも味方になってくれそうな村はない?」と尋ねると、村長さんは喜んで教えてくれた。
 
 それどころか私たちの行いを、推しを布教するかのごとく、熱く語ってきたらしい。
 それなら門前払いはされないだろう、と安心しつつ、私とイザークは次の村へ赴いた。

「むしろ歓迎されたりして」

 不安そうなイザークに、冗談めかしてそう言ってみた。
 それが冗談ではなく、真実になるとは思わなかった。
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