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1章 断罪回避
36 ボスも瞬殺
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私は魔物の群れを睨みつけた。
精霊に指示を出して、一掃。
また現れた群れを一掃……
なかなかのペースだ。
この調子なら、あと数分で大聖堂の魔物を殲滅できるだろう。
(そういえば、ダンジョンごとにボスモンスターがいるはずだけど……大聖堂では遭遇したことないなあ)
攻略サイトには掲載されていたのかもしれないけど。
私は知らない。
たとえ激ムズのマゾゲーであろうと、自力でクリアするのが楽しいんじゃないか。
それは一旦置いておこう。
ここのボスは何だろう。
虫系だったら嫌だな。
何が出ても、精霊たちが最強すぎて秒殺だろうけど。
(ついでに魔王も倒しちゃおうか。でも、ゲームプレイ時は五十回ぐらい全滅したんだよね。慎重を期して、一旦帰るべきかなあ)
ナギが起こした竜巻と、ぶっ飛ばされるコウモリ軍団を眺めつつ、ぼんやりと考えていた。
すると、足元でコロコロ転がっていたコハクが、突然起き上がった。
「ぴょえっ!聖女さま、たいへん、たいへん!」
短い手足をバタバタさせて、ジャンプしたり走り回ったり……
いつもちょこまか動いているけど、比べ物にならない大騒ぎだ。
(もしかして魔物が来る?で、コハクがここまで騒ぐってことは……)
きっとボスのお出ましだ。
モグラ系の。
それなら下から来るはず。
「リリィ、イザーク、しゃがんで!コハクは地下に──うわっ⁉︎」
攻撃して、と言おうとした時、地面がメリメリと盛り上がった。
真上にいる私たちは、ぐうっと持ち上げられていく。
「……っ!」
足元からくぐもった咆哮が聞こえてくる。
地面がビリビリと震動する。
8の形をした壁が、地面と分離する。
急速に傾いていく。
イザークが私に手を伸ばしてくる。
その時、壁の向こうで、
「助けて……!」
と、リリィの悲鳴が聞こえた。
呆然としていた私はハッと我に返り、とっさにイザークにすがった。
「リリィを守って!」
しかし、イザークは無理難題を言われたかのように硬直してしまった。
目を泳がせながら、私と一緒に倒れていく。
「イザーク!」
「……間に合いません!失礼します!」
イザークは私を胸元に引き寄せ、強く抱きしめた。
そのまま体が落下して──ドンッ!という衝撃が来る。
イザークの腕と体がクッションになって、痛みはほとんどなかった。
ただ、自分の体が驚いているのか、すぐに手足が動かせない。
「聖女さま!」
「ご無事ですか⁉︎」
倒れた私とイザークの周りで、精霊たちが騒いでいる。
そうか、みんなに頼めばよかったんだ。
気が動転して、いつも助けてくれる人に、つい……馬鹿すぎる。
自己嫌悪で落ち込んでいると、ナギがコウモリを倒し終えたのか、慌てた様子で帰ってきた。
「コハク、何をしているのですか⁉︎ちゃんと聖女様をお守りしなさい!」
「だ、だって、びっくりしたんだもん」
「そうだよね……聖女様、イザークにお願いしちゃってたし……」
そうだ、イザークは無事だろうか。
私は彼の背中に手を回し、ペシペシと叩いた。
「イザーク、生きてる⁉︎」
「問題ありません」
本当かな。
骨折とかしてるんじゃないか。
というかリリィを守ってと言ったのに。
気になることも言いたいこともあるけど、イザークの生存確認はできたから、次は──
(リリィ!)
私は手足をどうにか動かして、イザークの腕から這い出した。
横倒しになった筒状の壁の外へ出る。
リリィは、瓦礫の上に倒れていた。
落下の衝撃で壁から飛び出したようだ。
横たわる華奢な体を、急いで抱き起こす。
しかし反応がない。
目を閉じたままだ。
自分の背筋が、すうっと冷たくなった。
そこへイザークが駆け寄ってくる。
彼は泣きそうな私を見ると、小さく頷きを返してきた。
イザークが、リリィの手首に指を押し当てる。
それから可憐な唇に耳を寄せて、何か考えながら呟いた。
「脈と呼吸は正常ですね。頭部の外傷もないようです」
「あ……大丈夫ってこと?」
「……アナベル?」
リリィが薄く目を開けた。
しかし、すぐにまた気を失う。
口が小さく動き、むにゃむにゃと何か言っている。
寝てしまったんだろうか。
とにかく、リリィは生きている。
よかった、本当によかった。
(よかった……けどぉー!)
目の前の地面から巨大モグラの頭が飛び出した。
大口を開けて、こっちに迫ってくる。
イザークが剣を抜いたけど、どうにかなるとは思えない。
食われる、と思った瞬間、ガチッ!と上下の牙が閉じた。
巨大モグラは口をモムモムと動かしたあと、しきりに辺りを見回している。
(もしかして、目が悪いから私たちの位置を間違えた?た、助かった!)
心臓をバクバクさせながら、私は後ろのコハクを振り返った。
「コハク、お願い……あいつを倒して……」
ごく小さい声で囁くと、
「はーい!」
と、コハクは元気よく私の頭に飛び乗った。
巨大モグラの顔が、サッとこっちを向く。
餌の場所を正しく認識したらしい。
(いやああぁぁぁ!)
もう駄目だ今度こそ食われる、と白目を剥く直前、巨大モグラの上から、それ以上に巨大な岩が落ちてきた。
目の前に、ちょっとしたエアーズロックがそそり立つ。
この岩、どこから出てきたんだろう。
唖然とする私の前で、エアーズロックは地面に沈んでいった。
モグラはもう、影も形もない。
(えっと……とにかくボスモグラは倒したし。ほかの魔物ももういないみたい。まずはリリィを治療して……)
考えながら顔を上げると、十メートルほど離れた場所に、人が立っていた。
自分が一気に青ざめていくのがわかる。
ペンダントが、急にずしりと重くなった気がした。
「なんで……マチルダが、そこにいるの?」
精霊に指示を出して、一掃。
また現れた群れを一掃……
なかなかのペースだ。
この調子なら、あと数分で大聖堂の魔物を殲滅できるだろう。
(そういえば、ダンジョンごとにボスモンスターがいるはずだけど……大聖堂では遭遇したことないなあ)
攻略サイトには掲載されていたのかもしれないけど。
私は知らない。
たとえ激ムズのマゾゲーであろうと、自力でクリアするのが楽しいんじゃないか。
それは一旦置いておこう。
ここのボスは何だろう。
虫系だったら嫌だな。
何が出ても、精霊たちが最強すぎて秒殺だろうけど。
(ついでに魔王も倒しちゃおうか。でも、ゲームプレイ時は五十回ぐらい全滅したんだよね。慎重を期して、一旦帰るべきかなあ)
ナギが起こした竜巻と、ぶっ飛ばされるコウモリ軍団を眺めつつ、ぼんやりと考えていた。
すると、足元でコロコロ転がっていたコハクが、突然起き上がった。
「ぴょえっ!聖女さま、たいへん、たいへん!」
短い手足をバタバタさせて、ジャンプしたり走り回ったり……
いつもちょこまか動いているけど、比べ物にならない大騒ぎだ。
(もしかして魔物が来る?で、コハクがここまで騒ぐってことは……)
きっとボスのお出ましだ。
モグラ系の。
それなら下から来るはず。
「リリィ、イザーク、しゃがんで!コハクは地下に──うわっ⁉︎」
攻撃して、と言おうとした時、地面がメリメリと盛り上がった。
真上にいる私たちは、ぐうっと持ち上げられていく。
「……っ!」
足元からくぐもった咆哮が聞こえてくる。
地面がビリビリと震動する。
8の形をした壁が、地面と分離する。
急速に傾いていく。
イザークが私に手を伸ばしてくる。
その時、壁の向こうで、
「助けて……!」
と、リリィの悲鳴が聞こえた。
呆然としていた私はハッと我に返り、とっさにイザークにすがった。
「リリィを守って!」
しかし、イザークは無理難題を言われたかのように硬直してしまった。
目を泳がせながら、私と一緒に倒れていく。
「イザーク!」
「……間に合いません!失礼します!」
イザークは私を胸元に引き寄せ、強く抱きしめた。
そのまま体が落下して──ドンッ!という衝撃が来る。
イザークの腕と体がクッションになって、痛みはほとんどなかった。
ただ、自分の体が驚いているのか、すぐに手足が動かせない。
「聖女さま!」
「ご無事ですか⁉︎」
倒れた私とイザークの周りで、精霊たちが騒いでいる。
そうか、みんなに頼めばよかったんだ。
気が動転して、いつも助けてくれる人に、つい……馬鹿すぎる。
自己嫌悪で落ち込んでいると、ナギがコウモリを倒し終えたのか、慌てた様子で帰ってきた。
「コハク、何をしているのですか⁉︎ちゃんと聖女様をお守りしなさい!」
「だ、だって、びっくりしたんだもん」
「そうだよね……聖女様、イザークにお願いしちゃってたし……」
そうだ、イザークは無事だろうか。
私は彼の背中に手を回し、ペシペシと叩いた。
「イザーク、生きてる⁉︎」
「問題ありません」
本当かな。
骨折とかしてるんじゃないか。
というかリリィを守ってと言ったのに。
気になることも言いたいこともあるけど、イザークの生存確認はできたから、次は──
(リリィ!)
私は手足をどうにか動かして、イザークの腕から這い出した。
横倒しになった筒状の壁の外へ出る。
リリィは、瓦礫の上に倒れていた。
落下の衝撃で壁から飛び出したようだ。
横たわる華奢な体を、急いで抱き起こす。
しかし反応がない。
目を閉じたままだ。
自分の背筋が、すうっと冷たくなった。
そこへイザークが駆け寄ってくる。
彼は泣きそうな私を見ると、小さく頷きを返してきた。
イザークが、リリィの手首に指を押し当てる。
それから可憐な唇に耳を寄せて、何か考えながら呟いた。
「脈と呼吸は正常ですね。頭部の外傷もないようです」
「あ……大丈夫ってこと?」
「……アナベル?」
リリィが薄く目を開けた。
しかし、すぐにまた気を失う。
口が小さく動き、むにゃむにゃと何か言っている。
寝てしまったんだろうか。
とにかく、リリィは生きている。
よかった、本当によかった。
(よかった……けどぉー!)
目の前の地面から巨大モグラの頭が飛び出した。
大口を開けて、こっちに迫ってくる。
イザークが剣を抜いたけど、どうにかなるとは思えない。
食われる、と思った瞬間、ガチッ!と上下の牙が閉じた。
巨大モグラは口をモムモムと動かしたあと、しきりに辺りを見回している。
(もしかして、目が悪いから私たちの位置を間違えた?た、助かった!)
心臓をバクバクさせながら、私は後ろのコハクを振り返った。
「コハク、お願い……あいつを倒して……」
ごく小さい声で囁くと、
「はーい!」
と、コハクは元気よく私の頭に飛び乗った。
巨大モグラの顔が、サッとこっちを向く。
餌の場所を正しく認識したらしい。
(いやああぁぁぁ!)
もう駄目だ今度こそ食われる、と白目を剥く直前、巨大モグラの上から、それ以上に巨大な岩が落ちてきた。
目の前に、ちょっとしたエアーズロックがそそり立つ。
この岩、どこから出てきたんだろう。
唖然とする私の前で、エアーズロックは地面に沈んでいった。
モグラはもう、影も形もない。
(えっと……とにかくボスモグラは倒したし。ほかの魔物ももういないみたい。まずはリリィを治療して……)
考えながら顔を上げると、十メートルほど離れた場所に、人が立っていた。
自分が一気に青ざめていくのがわかる。
ペンダントが、急にずしりと重くなった気がした。
「なんで……マチルダが、そこにいるの?」
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