断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

40 やるべきことは一つ

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「皆さんが心配なさっているのは、民の暴動ですよね。エルディリス家は、私兵を大勢保有しています。民を抑え込めるのでは?」

 イザークは当然のように言ってのけた。
 その態度が、エリオットとギデオンの怒りを煽る。

「現時点で恐るべきは、民ではありません!気づかなかったのですか?今や貴族のほとんどが、マチルダ様を見限っているのですよ!」

「そうだ!マチルダ様が議会に来たが最後、議員どもはエルディリス家を潰すために動くはず……リリィ様も無事では済まないぞ!」

「そうでしたか……痛ましいことです。ですが、本物の聖女を守るためなら、やむを得ない犠牲ですね」

 イザーク以外の全員が、ハッと息をのむ。

 その音を最後に、室内が静まり返った。
 爆発前提の沈黙だ。 

 精霊たちもなかなかの爆弾発言を投下していたが、イザークは輪をかけてひどい。
 私は、怖々とギデオンたち三人の顔をうかがった。

 全員、揃って青ざめて、武器を握りしめている。

 まずい。バトルが勃発する。
 私は慌てて叫んだ。

「落ち着いてってば!あのマチルダが、黙ってやられるとは思えないよ」

 そのマチルダが、リリィの最大の敵なのだが。
 今それを言ってもみんなを不安にさせるだけだ。

「ひとまず議会の決定を待とう!」

 無難な部分だけ、大声で訴える。

 しかし誰も私を見ない。
 戦う気満々で、耳に入らないらしい。

 イザークに制裁を加えるまで、ギデオンたちは我を失ったままだろう。
 血を流さずにこの場を収める方法は……

(こうなったら……先にイザークに頭突きしよう!)

 腰を落とし、大きく息を吸い込む。
 その瞬間、部屋の外から見張りのジョルジュさんが声をかけてきた。

「アナベル様、陛下がお見えです」

「……!わかった、ありがとう!」

 天の助けだ。
 私は出入り口へと走り、ドアノブをすばやく引いた。

「うわっ!」

 ドアの前にいたレオナルドが、ビクッとして叫んだ。

 その声で、男性陣も主君の来訪に気づいたらしい。
 彼らの意識がレオナルドに移る。

「陛下、マチルダ様は!?」

「議会はどんな決定を!?」

 エリオットとギデオン、一拍遅れてルークも駆け寄ってくる。
 レオナルドは後ろ手にドアを閉めると、大きくため息をついた。

「マチルダは、議会に来なかった」

「え……?」

 唖然とする私たちへ、レオナルドは疲れた声で話を続ける。

「もちろん国王として命令したよ。でも、『王命無効権を行使する』の一点張りで……」

「じゃあリリィは⁉︎」

 私はレオナルドに詰め寄ったが、彼は力なく「わからない」とかぶりを振った。

「何も情報が入ってこないんだ。マチルダの弁明を聞くていで追い詰めるつもりだったのに。話を聞けないんじゃ、どうしようもない」

 どうすれば……と、四人は足元に視線を落とした。
 イザークは他人事のように傍観している。

 彼らを見て、私はじれったくなった。
 やるべきことは一つなのに、みんなは何をしているんだろう。

 私は拳を握り、声を張り上げた。

「どうしようもないなら、行くしかないでしょ!」

「どちらへですか?」

 イザークが怪訝そうに尋ねてくる。

「エルディリス家の屋敷だよ!」

  ◇

 翌日、私と男性五人は、エルディリス家の屋敷を訪れた。

 私は黒いドレスにフリル付きのエプロン、キャップを身につけている。
 いわゆるメイドさんの格好だ。

 死刑囚が、堂々と町を歩くのはまずい。
 見張りのジョルジュさんには「一時的に部屋を変える」とレオナルドが話していた。

 頻繁に外へ出るし、部屋も何度か変わっているので、まったく怪しまれなかった。
 ジョルジュさん、ごめんなさい。

 そして身分を隠すために、調達された服に着替えた。
 同じ意味で、イザークも黒いマントを脱いでいる。

 レオナルドとルークは上質な服を着ているが、普段より地味な格好だ。
 その横にエリオットとギデオンが立てば、“商家の息子らと護衛たち”のできあがり。

 まあ、全員イケメンだからどうしても目は引いちゃうんだけど……
 
 とにかく、エルディリス邸の前には到着した。
 私は、柵の向こうをチラチラと見ながら、ゆっくりと周りを歩いた。

「さて、どこから入ろうかな。この辺は見張りがズラッと立ってるし……」

 ブツブツと呟く私を、男性陣はちょっと離れて見ている。
 困ったような顔で。

 彼らは「とりあえず様子見だけなら」と、渋々ついてきたのだ。
 私が早々に侵入するつもりだとは、思っていなかったのだろう。

 イザークは、特に反対しているらしい。
 
「アナベル様、見張りの数はどこも同じです。無駄ですよ、戻りましょう」

 彼は顔をしかめて、私の腕を引いた。

「大丈夫、心配しないで。策ならあるから」

「怖ければ先に帰っていいんだぞ」

 ギデオンがフンと鼻を鳴らすと、イザークは即答した。

「私はアナベル様の監視役ですから、外出なさった時はおそばにいます」

「……つまらない奴だな」

 ギデオンが舌打ちをする。
 リリィを蔑ろにされたので、仕返しのために煽ったらしい。

「ギデオン、処刑人で遊んでいないで集中してください」

 そう言ったエリオットは、ギデオンの「何だと」という言葉を遮り、私に尋ねてきた。

「それで、策とはどのような?」

「ひとまず、こうやって見回りのふりをしながら、入れそうなところを探すの」

「見回りのふり?そうだったのか?」

 レオナルドが、急にオドオドと周りを気にし始めた。

「不安そうにしちゃダメ。悪いことをする時は、堂々とやった方がバレないんだよ」

 途端にレオナルドたちが、「悪いことをしたことがあるのか」という目で私を見る。

 ないわけじゃないけど、そこまで悪くはない。
 ゲームを親に禁止された時、リビングで本の陰にゲーム機を隠して遊んだ。 
 それくらいだ。

 国王であるレオナルドを先頭に立たせ、屋敷を観察しながらまた歩く。
 すると、柵の向こうから怒鳴り声が飛んできた。

「お前たち、さっきから何をしている!」

 見張りの兵士だ。
 レオナルドとルークが飛び上がる。

 だから、そんな態度じゃバレるってば……
 私はさりげなく前に出て、見張りの兵士にお辞儀をした。
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