断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

29 対策を立ててはみたものの

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「アナベル、何だ?リリィがどうかしたのか?」

「うん……昨日、コハクが岩のドームを作ってくれたでしょ?リリィも、あんな感じで壁を作れないかな。ドームというか、筒みたいな」

 レオナルドはちょっと首を傾げて、それから「なるほど」と手を打った。

「そこに隠れて、リリィからペンダントを受け取るってことか」

「そうそう!二人分ならサイズも小さく済むだろうし。リリィにできる?」

「大丈夫だと思うよ。魔物が巣から出ないように、事前に壁を作ることもあったから」

 そうだったのか。
 ゲームでは、いきなりダンジョンに入っていたから知らなかった。

「少し時間はかかるだろうけど……魔物が現れてから襲撃されるまでには、間に合うと思う」

「そっか、じゃあ問題なさそうだね!」

 精霊が言うことを聞かなかったら、私からもお願いしてみよう。
 ガッツポーズの私とは裏腹に、レオナルドの顔は浮かない。

「でも、不自然じゃないか?マチルダは絶対怪しむよ」

「それは、『大聖堂の魔物は凶悪だから、まず防御を強化する』ってことで。精霊の攻撃もすさまじいでしょ?防壁、必要でしょ?」

「たしかに……処刑場でも風がすごかったな。押し通せるかもしれない」

「いける、いける。私がペンダントを着けたら、マチルダたちの前にも壁を作るし。疑問の声が上がったら、『安全第一だ』ってごり押しして!頼りにしてるよ、王様!」

 私はレオナルドの背中をバーン!と叩いた。

「痛いって!……まあ、頑張ってみるよ」

 お飾りの国王は、まんざらでもなさそうに笑った。
 これで大聖堂の戦いも乗り切れるだろう。

 ……という流れで立てた対策は、ことごとく崩れることになるのだった。

 ◇

 数日後、私は馬車に乗り、王都を出発した。
 ほかの馬車も一緒だけど、私がいるのは一番襲われやすい先頭。
 マチルダの指示らしい。

 あちこちで魔物を倒しまくったからか、何も襲ってこないけど。

 後ろからついてくるのは、レオナルドの乗った馬車。
 それを取り囲む親衛隊の中に、ギデオンとエリオットがいる。

 ルーク、リリィもそれぞれの家の馬車に乗り、行列に混じっているのだろう。

 貴族の馬車を護衛が囲み、騎士の隣には従者がはべる。
 今すぐ戦争ができそうだ。
 
 イザークはといえば、私と同じ馬車に乗っている。
 今回も、「アナベルがリリィのペンダントを奪ったら首を斬れ」と命じられているらしい。
 マチルダに。

 正直、焦ってやらかす可能性はある。
 大聖堂では、魔物が思いもよらない場所から出現するのだ。
 気をつけないと。

(というか……マチルダのやり方って、『アナベルが本物の聖女だ』って認めてるようなものじゃない?ここまであからさまに私を消そうとするなんて、普通じゃないよ)

 気持ちはわからなくもないけど。

 マチルダは、かなり歪んでいるものの、リリィを溺愛している。
 リリィより目立とうとする私は、邪魔でしかないだろう。

 そうでなくても、リリィに殺害予告が送られてきたのだ。
 本物の聖女はアナベルだ、という噂のせいで。
 
 娘を守るために、私を消そうと躍起になるのも無理はない。

(……あれ?でも、アナベルが本物の聖女だって噂される前から、アナベルを処刑したがってたよね)

 以前、処刑場で浮かんだ仮説が、再びよみがえってくる。

(やっぱりマチルダは……自分が聖女じゃないってわかってた?自分の姉と、その娘のアナベルが本物の聖女なんだって、最初から気付いてたの?)

 マチルダがそう考えていたのなら、一連の行動は不自然じゃない。
 アナベルが生まれたその時から、殺したくてたまらなかっただろう。

 すべて私の妄想だけど。
 妄想だけど……妙にしっくりくる。

 とはいえ、真偽を確かめる手段も、マチルダの嘘を証明できるものも、何一つ持っていない。

 じれったいけど、まずは目の前のことに集中だ。
 私はイザークに話しかけた。

「ねえ、イザーク。私も頑張るけど、大聖堂って危ないからさ。リリィのことも気にかけてあげてくれない?」

「私はアナベル様の監視役ですが」

「それはわかるけど、聖女を守るのも大事でしょ?」

「聖女はアナベル様なのでは?」

 だからそんな格好をしているのだろう、と言いたげに、イザークが私の服を見つめる。

 私もつられて下を見る。
 うつむいた拍子に、宝石を連ねた耳飾りが、シャランと揺れた。

 私の身を包むのは、純白のローブだ。
 レースが幾重にも重なり、縫い付けられた真珠がやわらかく光る。

 これもマチルダが用意したらしい。
 全身がキラキラと煌めいて、いかにも魔物に狙われやすそう。

 一体、どこの聖女様なんだ。

「……まあ、聖女なんだけど」

「そうですね」

 イザークは、話は終わった、とばかりに窓の外を見た。

「ちょっと待ってよ。リリィも聖女ってことにしないと、あの子が危険なんだって……それより、イザークの中でどうなってるの?」

「何の話ですか?」

「イザークは、私が本物の聖女だから守ってくれるんでしょ?でも、私を殺せっていう命令には従うんだよね。矛盾してない?」

「しているといえば、していますね」

 イザークは、拍子抜けするほどあっさりと頷いた。

「私個人としては、アナベル様を生かす方が国益になると考えています。ですから処刑には反対です。しかし、私は大罪人の弟。この国に生かされている者です。ですから、最後には……」

 淀みなく話していたイザークは、突然黙り込んだ。
 そして、両手を握ったり開いたりし始めた。

「どうかした?」

「いえ……私は、王侯貴族の命令に、従わなくてはなりません」

 イザークはそう言うと、ひときわ強く拳を握りしめた。
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