断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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2章 魔王討伐

2-1 魔王、倒します

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 私は、貴族の間では聖女だと認められた。
 支給されるドレスは華やかになり、食事の質も上がった。

 希望すれば議会にも参加できる。
 発言権もある。
 しかし、好きなように話せるわけではないらしい。

  ◇

 だだっ広い評議室で、円卓についてから三十分。
 私は、ドレスにあしらわれた大きなフリルをいじり回していた。

 リリィと貴族の問答を眺めている間、暇で仕方ないからだ。

「えっと……次は、グレイモア侯爵。今後の方針についてご意見をどうぞ」

 エルディリス家当主となったリリィが、あご髭をたくわえた男性に尋ねる。

「そうですな。まずはラーヴァ火山の魔物を一掃すべきでしょう」

「ありがとうございます。では、お隣のヴァルセリオン公爵。どうお考えですか?」

 リリィに問われた老人は、

「火山しかない侯爵領より、鉱山のある儂の領地でこそ討伐を行うべきじゃ」

 と、グレイモア侯爵を睨んだ。
 すると侯爵が言い返し、口論が勃発。

 たまらずレオナルドが立ち上がった。

「両者の意見は記録している!最後まで皆の話を聞き、結論を出すから落ち着いてくれ」

 すかさずリリィが声を張り上げる。

「お二人とも、ありがとうございました!では、次は……」

 そしてまた、似たようなやり取り。
 誰も彼も、自分の領地を守ることしか考えていない。
 
(早くしゃべりたーい!)

 発言順が決まっているので、私は最後まで待たなくてはならない。

 レオナルドの隣にいるリリィが一番、私の父が二番。
 そこからグルッと円卓を一周し、二十六番目が私。
 最後を国王が締めるのだ。

 今は、十二番目のケッティ伯爵が話している。
 まだ十二番目……

 みんな、順番を私に譲ってくれればいいのに。
 だって私の意見は、全員の願いを叶えるものだから。

 ドレスのフリルをいじるのに飽きた頃、ようやく隣にいる親衛隊長が話し終えた。

「じゃあ、次はアナベ──」

「はいっ!」

 靴の裏を床に叩きつけ、椅子が倒れそうな勢いで立ち上がる。

「魔王、倒します!」

 ます……ます……と、評議室に「ます」がこだまする。
 リリィもレオナルドも議員たちも、口と目を大きく開いて硬直している。

 これは話を聞く体勢だと受け取っていいんだろうか。
 そういうことにしよう。

「私は魔物と戦う中で、精霊の攻撃力を把握しました。今なら、多くとも五回の攻撃で魔王を倒せます」
 
 ゲーム知識を元に、見解を述べてみる。
 リリィの「ありがとうございました」は、まだない。

 このまま話していいのだろうか。
 それなら遠慮なく。

「そして精霊が攻撃できるのは、五秒に一回。戦闘開始から魔王の一撃目まで、三十秒。どんなに長くかかっても、二十五秒で魔王を倒せます。余裕でしょ?以上です」

 私はそう言って、席に座った。

「えっと……ありがとうございました……?」

 リリィは慣習として答えたものの、自信なげに眉を下げている。
 説明不足だっただろうか。
 質問があるか聞くべきだったかな。

 もう一度立ち上がろうと、私はちょっと腰を浮かせた。
 それと同時に、リリィはある人物を見た。

「あの……先程、『発言は最後に』とおっしゃいましたが、ご意見をうかがっても?」
 
 問われたのはヘイルフォード公爵。私の父だ。
 父は円卓の上で手を組み、横目で私を見た。

「私は、アナベルの意見に賛成です」

「えっ……」

 目を丸くして、父をまじまじと見つめる。
 父は周囲を見回し、厳かに続けた。

「これまでの報告から、魔王の攻撃速度は合っています……なぜ娘が知っているのかは、謎ですが」

 それは嫌でも覚えるよ。
 だって五十回ぐらい魔王と戦ったんだから。

 心の声が聞こえたわけではないだろうけど、父は私と視線を合わせて、きっぱりと告げた。

「魔王討伐が可能なら、まず問題の根本を絶つべきです」

 もしかして、最初から私の意見に賛成してくれるつもりだったんだろうか。
 だから最後まで発言を待っていたのか。

 父とまた仲良くなれた気がして、嬉しくなる。

(ほかの貴族の反応は……うん、そりゃそうだよね)

 ピリピリしていた対立の雰囲気が、急になごやかになっている。
 魔王を倒せば、どこを守るか考えなくて済む。

 それはそれで、新しい問題が出てくるのだろうけど……
 今はまだ考えなくていいことだ。

 レオナルドもホッとした様子で立ち上がった。

「では、これで議会は終了──」

「陛下、お待ちください。私の発言はまだ終わっておりません。魔王討伐のためには、貴族の協力が不可欠です。それについて、この場で承諾いただきたい」
 
 父の言葉で、なごやかな空気が再び張り詰めた。
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