断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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2章 魔王討伐

2-2 対峙

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 父は、議員たちのこわばった顔を見回した。

「ケッティ伯爵には、食料の提供を頼みたい」

「ひっ!」

「グレイモア侯爵は、護衛の兵士を提供してください」

「うっ……」

「ほかにもありますよ。聖女たちが留守の間、王都を守るための私兵の提供と……」

 父が口を開くたび、議員たちは肩を縮こめる。

「魔王を倒すためです。協力いただけますね」

 評議室の空気が、さらに重くなる。
 みんなカツカツで生活しているのだろう。

 その中で、たぶん私だけは別のことで落ち込んでいた。

(そうだよね。ゲームなら移動コマンドを選ぶだけだから、意識してなかったけど。現実なら色々あるよね)

 先日の大聖堂は、入り口までしか入らなかった。
 だから日帰りで往復できたのだ。

 魔王の棲家まで行くなら、片道二日はかかるだろうか。
 物資も人手も、それなりに必要になる。

 前世では旅行に行かなかったから、考えつかなかった。
 だって外に出たらゲームできないし。

 議員たちに続いて私もため息が出てしまう。
 すると、私の隣にいるレオナルドが立ち上がった。

「魔王を倒せば、食料や人材の不足はすべて解決する。各々おのおの、出せる分だけでいい。協力してくれないか」

 急に堂々としたと思ったら、足がものすごく震えている。
 王様、頑張ってるなあ。

「出せるだけでよろしければ……」

「魔王を倒すためですから……」

 父の鞭とレオナルドの飴で、議員たちは渋々と頷いた。
 その後、誰が何を提供するかを細かく決めて、議会は終了。

 私が廊下へ出ると、レオナルドとリリィが追いかけてきた。

「アナベル、私もエルディリスの兵士を連れて行くわ。少しでもアナベルを支えたいの」

「僕も親衛隊と一緒に行くよ」

「いや、そこまでは……」

「アナベル、甘えておけ」

 声をかけられて振り返ると、父が立っていた。

「でも私、魔物なら──」

「近頃、盗賊が増えてきたらしい」

「えっ!な、なんで?」

「町や村の外で魔物が減った分、潜伏しやすくなったのだろう」

「……なるほど」

 それならたしかに護衛がいる。
 
 精霊は暴走でもしない限り、人間を害さない。
 賊に襲われたら、私は何もできなくなる。

「アナベル!」

 当然、リリィが私の肩をガシッとつかんだ。

「な、何?」

「私、聖女の資質は弱いでしょ?だから、代わりに魔法の素質がないか調べたの。そうしたら、暗黒魔法が使えるってわかったのよ」

「えっ、そうなの?」

「ええ。だから盗賊が襲ってきたら、麻痺させたり眠らせたりできるわ」

「それはありがたいけど、暗黒魔法って世間的に、その……」

「色々言われるでしょうね……特に貴族から。でも、殺されるわけじゃないもの。ルークの励みにもなるだろうし、頑張るわ!」

 その一言で、私は目を丸くした。
 レオナルドもぽつりと呟く。

「……リリィ、強くなったね」

 マチルダの抑圧がなくなったせいだろうか。

 か弱い彼女も好きだったから、ちょっと複雑だけど。
 下を向いたままよりはずっといい──と、リリィを見つめる。

 すると、彼女は華奢な腕でガッツポーズを披露した。

「だって、私もアナベルみたいに強くなりたいから!」

 私の影響だった!

「ごめん、レオナルド……花のようなヒロインを竹みたいにしちゃって……」

「何が?」

 レオナルドはニコニコしている。
 妹の成長を見守るお兄ちゃんみたいな気持ちらしい。

 喜んでくれてるなら、まあいいか。
 
「そういうことだから、私も頼りにして!」

「僕も国王としてしっかりしなくちゃな」

「わ、わかった。じゃあよろしく」

 やる気あふれるレオナルドとリリィに別れを告げ、準備が整う日を待った。

  ◇

 ──そして、当日。

 イザークもついていくというので、私は彼を同行させた。
 魔王討伐の噂が王都に広がり、彼の耳にも入ったらしい。

 頼りにはなるけど、これまでのことを考えると無茶をしそうで怖い。
 私は馬車の中で、イザークにしつこく言い含めた。

「無理しないでよ。HPが三十%以下になったら駄目!」

「ひっとぽいんと……?」

「体力のこと!」

「承知しました」

 本当に大丈夫かな。
 でも魔王はさっさと倒せるだろうし。
 今回はイザークの心配はしなくていいか。

 あまりの大所帯に、盗賊は偵察にすら来ない……という話を小耳に挟み、私は完全に油断していた。
 何も案ずることはない、と。



 その考えは外れた。
 しかも、まったく予想外の方向に。



 魔王の棲家にたどり着くと、富士山みたいな形の山から、タール様の塊が盛り上がり、漆黒の巨人が現れた。

 ドラゴンの角と尾、羽が生えていて、さながら竜人だ。
 膝をついているのに、山を二つ重ねてもまだ足りないほど大きい。
 
 その巨人は──魔王は、光る目で私たちを見下ろし、真っ黒な口を開けてニヤニヤと笑った。

「アルデリアの奴らがもう来たか」

 意外とイケボだ。
 ゲームの魔王はボイス無しだったから知らなかった。

 もう少し聞いていたいけど、そうもいかない。
 リリィにペンダントを借りて、こっそりと力を溜める。

 私が最初の一撃を食らわせようとした時、魔王はある一点に目を留めた。
 そして、不気味なほど楽しそうに笑った。

「イザーク、お前も来たんだな。家族の次は、俺の首を落とすのか?」
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