断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

文字の大きさ
55 / 105
2章 魔王討伐

2-3 全力をぶつけて

しおりを挟む
 一瞬、自分の呼吸が止まった。
 斜め後ろにいるイザークも、リリィやレオナルド、兵たちも息をのんでいる。

 なぜ、魔王はそんなことを知っているのか。
 イザークと知り合いなのか。

 それよりイザークはどう思っただろう。

 心配になって、斜め後ろを振り返る。
 いつもの無表情は少し崩れ、イザークは怪訝そうに眉を寄せていた。

「イザーク、知り合いなの?」

「いいえ。しかし、あの声……まさか……」

「声?」

 聞き返しても、イザークの答えはない。
 イケボが気になるんだろうか。
 
(とにかく、ショックは受けてなさそうでよかった。でも困惑してる感じ……魔王がイザークの事情を知ってるの、やっぱりおかしいよね)

 どういうことなんだろう。
 魔王はイザークの祖国ファルガランの人だった?

 正直、色々知っていてもおかしくはないけど。
 ゲーム内で「俺は世界を見通す目を持っている!」と豪語していたから。

 とにかく……今は悩んでいる場合じゃない。
 魔王を倒さないと。

 最初は、右手へ風属性の攻撃だ。
 手順を間違えると、効果が半分以下になる。

 私は、小声でペンダントに話しかけた。
 
「ナギ、魔王の右手を攻撃して」

「かしこまりました」

 オコジョなナギが、ほわんと現れる。
 目の前で揺れる尻尾を、思わずもふってしまった。

 ナギが喉の奥でクルクルと笑う。
 ふわふわの体が光り始める。

 その光に魔王が気付いたらしい。
 大きな顔が、ゆっくりとこちらへ近づき──

 ドンッ!という爆音とともに、巨木のような右腕が破裂した。

「おおっ!」

 私の背後で兵たちの歓声が湧く。
 魔王が笑みを消し、塵と化した右腕を見下ろす。

 途端に、黒い巨体が膨らんでいく。
 全体攻撃を放つため、力を溜め始めたんだ。

 私は、すかさずペンダントに声をかけた。
 
「次はミゾレ!魔王の左手を狙って!」

「はぁい」

 ぼんやりした声とともに、ふかふかの水色うさぎが現れる。
 魔王は焦ったように、左手をこちらへ伸ばしてくるが──

 ギンッ!という、耳をつんざく音があたりに響いた。
 指先から肩まで、一瞬にして氷漬けだ。

「なんだ、これは……!」

 魔王が腕を振り上げると、氷ごと粉々に砕け散った。
 力を溜め続けながらも、魔王は両腕を失い、ひどく慌てている。

 その様子を眺めながら、私はミゾレのあご下をもふった。
 ミゾレは気持ちよさそうに「ぷぴぃ」と鼻を鳴らしている。

 次はヒナの火属性攻撃だけど……
 呼び出したあと、首周りを揉んであげようか。

 魔王がイザークに話しかけていたから、全体攻撃まであと二十秒以上ある。
 少し休憩してもよさそうだ。

 その間に、戦う気満々のリリィたちに攻撃してもらおう。
 これだけぞろぞろと兵士を連れて、あっさり倒してしまったら気まずい。

 リリィやルークが杖を構え、レオナルドが弓兵に指示を出す。
 その直後、魔王は必死の形相をイザークに近づけた。

「俺を見殺しにするのか!俺が誰なのかわかっているんだろう?」

 剣を抜くイザークを、光る目が見つめている。

「それともアルデリアの犬に成り下がったのか?斬れと言われれば従うのか!お前が気にしている、その女の首も!」

 魔王が、今度は私を見下ろす。
 思わず後ずさってしまったが、すぐに光る目を睨み返した。

(シャレにならないよ!私、まだ死刑囚なのに!)

 イザークもイラッとしているのでは、と彼を見る。
 しかし、そこにあったのは予想外の表情だった。

「黙れ……!」

 呟いたイザークは、青ざめた顔で魔王を見つめている。
 剣を持つ手は明らかに震えている。
 彼の方が、死を宣告された人みたいだ。

 魔王とイザークのやり取りに、兵たちが顔を見合わせる。
 私の中に、ふざけるなという怒りが溜まっていく。

 イザークが心の底に沈めた傷をえぐり出して、大勢の前でさらすなんて。
 許せない。
 
「イザーク、お前は人の顔をした悪魔──」

「うっさいわ、ボケー!!」

 私は、怒りとともに溜めていた力を解放した。
 全力を魔王にぶつけて、と精霊たちに念じながら。

 視界のすべてを白い光が満たす。
 地を揺るがす轟音が響き渡る。
 一気に魔力を使ったから、数秒めまいに襲われる。

 そこへ、空気の壁が真正面から突進してきた。

「わあっ!」

 圧に押されてひっくり返ってしまった。
 お尻、背中、頭の順に、ドン!ドン!ボスン!と鈍い痛みが走る。

(でも、頭があんまり痛くないような……ここ、石がゴロゴロしてたのに)

 後頭部に触れる感触は柔らかい。
 もしや、と私は視線を動かした。
 恐ろしいほどの美顔が私を覗き込んでいる。
 
「アナベル様、大丈夫ですか」

 イザークが淡々と尋ねてくる。

「それはこっちのセリフだよ!私の頭、手でかばったでしょ!?」

 叫びながら、私はすばやく起き上がった。
 それから、頭の下に敷いていたイザークの手を取る。

「ぎゃーっ!い、石が刺さってる……!ねえ、骨折してない!?」

「大丈夫です」

 そう返してきた声は、いつもより元気がなかった。
 とても大丈夫には見えない。

 というか、もしかしてイザークの「大丈夫」って「死んでません」って意味なんじゃないか。

 それは全然大丈夫じゃない。
 私は、周りでモフモフと浮いている精霊たちを見回した。

「みんな!イザークを……あ、さっきの風でリリィたちも転んでる……この辺の人たち、全員治して!」

「はーい!」
 
 まずは茶色の毛玉──地の精霊のコハクが飛び上がる。
 コハクは手足をぴこぴこと動かし、私の頭上で輝き始めた。
 続いてほかの三匹も上昇し、光を放つ。

 温かいその光が、慈雨のように降ってくる。
 イザークの手の傷が消えていく。

 転んで怪我をした人がいても、この光で治っただろう。

(じゃあ、あとは魔王だ!とどめを刺してやる!)

 全力をぶち込んだから、攻撃を行う上半身は吹っ飛んだだろう。
 とはいえ手順を無視したから、かかとぐらいは残ったかもしれない。
 魔王は地面から穢れを吸うから、足がくっついてるし。
 
「今度こそ粉々の散り散りに……あれ?」

 魔王がいた方向を見やると、荒野が眼前に広がっていた。
 さっきは高い山があったはずなのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。 そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー 辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...