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2章 魔王討伐
2-3 全力をぶつけて
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一瞬、自分の呼吸が止まった。
斜め後ろにいるイザークも、リリィやレオナルド、兵たちも息をのんでいる。
なぜ、魔王はそんなことを知っているのか。
イザークと知り合いなのか。
それよりイザークはどう思っただろう。
心配になって、斜め後ろを振り返る。
いつもの無表情は少し崩れ、イザークは怪訝そうに眉を寄せていた。
「イザーク、知り合いなの?」
「いいえ。しかし、あの声……まさか……」
「声?」
聞き返しても、イザークの答えはない。
イケボが気になるんだろうか。
(とにかく、ショックは受けてなさそうでよかった。でも困惑してる感じ……魔王がイザークの事情を知ってるの、やっぱりおかしいよね)
どういうことなんだろう。
魔王はイザークの祖国の人だった?
正直、色々知っていてもおかしくはないけど。
ゲーム内で「俺は世界を見通す目を持っている!」と豪語していたから。
とにかく……今は悩んでいる場合じゃない。
魔王を倒さないと。
最初は、右手へ風属性の攻撃だ。
手順を間違えると、効果が半分以下になる。
私は、小声でペンダントに話しかけた。
「ナギ、魔王の右手を攻撃して」
「かしこまりました」
オコジョなナギが、ほわんと現れる。
目の前で揺れる尻尾を、思わずもふってしまった。
ナギが喉の奥でクルクルと笑う。
ふわふわの体が光り始める。
その光に魔王が気付いたらしい。
大きな顔が、ゆっくりとこちらへ近づき──
ドンッ!という爆音とともに、巨木のような右腕が破裂した。
「おおっ!」
私の背後で兵たちの歓声が湧く。
魔王が笑みを消し、塵と化した右腕を見下ろす。
途端に、黒い巨体が膨らんでいく。
全体攻撃を放つため、力を溜め始めたんだ。
私は、すかさずペンダントに声をかけた。
「次はミゾレ!魔王の左手を狙って!」
「はぁい」
ぼんやりした声とともに、ふかふかの水色うさぎが現れる。
魔王は焦ったように、左手をこちらへ伸ばしてくるが──
ギンッ!という、耳をつんざく音があたりに響いた。
指先から肩まで、一瞬にして氷漬けだ。
「なんだ、これは……!」
魔王が腕を振り上げると、氷ごと粉々に砕け散った。
力を溜め続けながらも、魔王は両腕を失い、ひどく慌てている。
その様子を眺めながら、私はミゾレのあご下をもふった。
ミゾレは気持ちよさそうに「ぷぴぃ」と鼻を鳴らしている。
次はヒナの火属性攻撃だけど……
呼び出したあと、首周りを揉んであげようか。
魔王がイザークに話しかけていたから、全体攻撃まであと二十秒以上ある。
少し休憩してもよさそうだ。
その間に、戦う気満々のリリィたちに攻撃してもらおう。
これだけぞろぞろと兵士を連れて、あっさり倒してしまったら気まずい。
リリィやルークが杖を構え、レオナルドが弓兵に指示を出す。
その直後、魔王は必死の形相をイザークに近づけた。
「俺を見殺しにするのか!俺が誰なのかわかっているんだろう?」
剣を抜くイザークを、光る目が見つめている。
「それともアルデリアの犬に成り下がったのか?斬れと言われれば従うのか!お前が気にしている、その女の首も!」
魔王が、今度は私を見下ろす。
思わず後ずさってしまったが、すぐに光る目を睨み返した。
(シャレにならないよ!私、まだ死刑囚なのに!)
イザークもイラッとしているのでは、と彼を見る。
しかし、そこにあったのは予想外の表情だった。
「黙れ……!」
呟いたイザークは、青ざめた顔で魔王を見つめている。
剣を持つ手は明らかに震えている。
彼の方が、死を宣告された人みたいだ。
魔王とイザークのやり取りに、兵たちが顔を見合わせる。
私の中に、ふざけるなという怒りが溜まっていく。
イザークが心の底に沈めた傷をえぐり出して、大勢の前でさらすなんて。
許せない。
「イザーク、お前は人の顔をした悪魔──」
「うっさいわ、ボケー!!」
私は、怒りとともに溜めていた力を解放した。
全力を魔王にぶつけて、と精霊たちに念じながら。
視界のすべてを白い光が満たす。
地を揺るがす轟音が響き渡る。
一気に魔力を使ったから、数秒めまいに襲われる。
そこへ、空気の壁が真正面から突進してきた。
「わあっ!」
圧に押されてひっくり返ってしまった。
お尻、背中、頭の順に、ドン!ドン!ボスン!と鈍い痛みが走る。
(でも、頭があんまり痛くないような……ここ、石がゴロゴロしてたのに)
後頭部に触れる感触は柔らかい。
もしや、と私は視線を動かした。
恐ろしいほどの美顔が私を覗き込んでいる。
「アナベル様、大丈夫ですか」
イザークが淡々と尋ねてくる。
「それはこっちのセリフだよ!私の頭、手でかばったでしょ!?」
叫びながら、私はすばやく起き上がった。
それから、頭の下に敷いていたイザークの手を取る。
「ぎゃーっ!い、石が刺さってる……!ねえ、骨折してない!?」
「大丈夫です」
そう返してきた声は、いつもより元気がなかった。
とても大丈夫には見えない。
というか、もしかしてイザークの「大丈夫」って「死んでません」って意味なんじゃないか。
それは全然大丈夫じゃない。
私は、周りでモフモフと浮いている精霊たちを見回した。
「みんな!イザークを……あ、さっきの風でリリィたちも転んでる……この辺の人たち、全員治して!」
「はーい!」
まずは茶色の毛玉──地の精霊のコハクが飛び上がる。
コハクは手足をぴこぴこと動かし、私の頭上で輝き始めた。
続いてほかの三匹も上昇し、光を放つ。
温かいその光が、慈雨のように降ってくる。
イザークの手の傷が消えていく。
転んで怪我をした人がいても、この光で治っただろう。
(じゃあ、あとは魔王だ!とどめを刺してやる!)
全力をぶち込んだから、攻撃を行う上半身は吹っ飛んだだろう。
とはいえ手順を無視したから、踵ぐらいは残ったかもしれない。
魔王は地面から穢れを吸うから、足がくっついてるし。
「今度こそ粉々の散り散りに……あれ?」
魔王がいた方向を見やると、荒野が眼前に広がっていた。
さっきは高い山があったはずなのに。
斜め後ろにいるイザークも、リリィやレオナルド、兵たちも息をのんでいる。
なぜ、魔王はそんなことを知っているのか。
イザークと知り合いなのか。
それよりイザークはどう思っただろう。
心配になって、斜め後ろを振り返る。
いつもの無表情は少し崩れ、イザークは怪訝そうに眉を寄せていた。
「イザーク、知り合いなの?」
「いいえ。しかし、あの声……まさか……」
「声?」
聞き返しても、イザークの答えはない。
イケボが気になるんだろうか。
(とにかく、ショックは受けてなさそうでよかった。でも困惑してる感じ……魔王がイザークの事情を知ってるの、やっぱりおかしいよね)
どういうことなんだろう。
魔王はイザークの祖国の人だった?
正直、色々知っていてもおかしくはないけど。
ゲーム内で「俺は世界を見通す目を持っている!」と豪語していたから。
とにかく……今は悩んでいる場合じゃない。
魔王を倒さないと。
最初は、右手へ風属性の攻撃だ。
手順を間違えると、効果が半分以下になる。
私は、小声でペンダントに話しかけた。
「ナギ、魔王の右手を攻撃して」
「かしこまりました」
オコジョなナギが、ほわんと現れる。
目の前で揺れる尻尾を、思わずもふってしまった。
ナギが喉の奥でクルクルと笑う。
ふわふわの体が光り始める。
その光に魔王が気付いたらしい。
大きな顔が、ゆっくりとこちらへ近づき──
ドンッ!という爆音とともに、巨木のような右腕が破裂した。
「おおっ!」
私の背後で兵たちの歓声が湧く。
魔王が笑みを消し、塵と化した右腕を見下ろす。
途端に、黒い巨体が膨らんでいく。
全体攻撃を放つため、力を溜め始めたんだ。
私は、すかさずペンダントに声をかけた。
「次はミゾレ!魔王の左手を狙って!」
「はぁい」
ぼんやりした声とともに、ふかふかの水色うさぎが現れる。
魔王は焦ったように、左手をこちらへ伸ばしてくるが──
ギンッ!という、耳をつんざく音があたりに響いた。
指先から肩まで、一瞬にして氷漬けだ。
「なんだ、これは……!」
魔王が腕を振り上げると、氷ごと粉々に砕け散った。
力を溜め続けながらも、魔王は両腕を失い、ひどく慌てている。
その様子を眺めながら、私はミゾレのあご下をもふった。
ミゾレは気持ちよさそうに「ぷぴぃ」と鼻を鳴らしている。
次はヒナの火属性攻撃だけど……
呼び出したあと、首周りを揉んであげようか。
魔王がイザークに話しかけていたから、全体攻撃まであと二十秒以上ある。
少し休憩してもよさそうだ。
その間に、戦う気満々のリリィたちに攻撃してもらおう。
これだけぞろぞろと兵士を連れて、あっさり倒してしまったら気まずい。
リリィやルークが杖を構え、レオナルドが弓兵に指示を出す。
その直後、魔王は必死の形相をイザークに近づけた。
「俺を見殺しにするのか!俺が誰なのかわかっているんだろう?」
剣を抜くイザークを、光る目が見つめている。
「それともアルデリアの犬に成り下がったのか?斬れと言われれば従うのか!お前が気にしている、その女の首も!」
魔王が、今度は私を見下ろす。
思わず後ずさってしまったが、すぐに光る目を睨み返した。
(シャレにならないよ!私、まだ死刑囚なのに!)
イザークもイラッとしているのでは、と彼を見る。
しかし、そこにあったのは予想外の表情だった。
「黙れ……!」
呟いたイザークは、青ざめた顔で魔王を見つめている。
剣を持つ手は明らかに震えている。
彼の方が、死を宣告された人みたいだ。
魔王とイザークのやり取りに、兵たちが顔を見合わせる。
私の中に、ふざけるなという怒りが溜まっていく。
イザークが心の底に沈めた傷をえぐり出して、大勢の前でさらすなんて。
許せない。
「イザーク、お前は人の顔をした悪魔──」
「うっさいわ、ボケー!!」
私は、怒りとともに溜めていた力を解放した。
全力を魔王にぶつけて、と精霊たちに念じながら。
視界のすべてを白い光が満たす。
地を揺るがす轟音が響き渡る。
一気に魔力を使ったから、数秒めまいに襲われる。
そこへ、空気の壁が真正面から突進してきた。
「わあっ!」
圧に押されてひっくり返ってしまった。
お尻、背中、頭の順に、ドン!ドン!ボスン!と鈍い痛みが走る。
(でも、頭があんまり痛くないような……ここ、石がゴロゴロしてたのに)
後頭部に触れる感触は柔らかい。
もしや、と私は視線を動かした。
恐ろしいほどの美顔が私を覗き込んでいる。
「アナベル様、大丈夫ですか」
イザークが淡々と尋ねてくる。
「それはこっちのセリフだよ!私の頭、手でかばったでしょ!?」
叫びながら、私はすばやく起き上がった。
それから、頭の下に敷いていたイザークの手を取る。
「ぎゃーっ!い、石が刺さってる……!ねえ、骨折してない!?」
「大丈夫です」
そう返してきた声は、いつもより元気がなかった。
とても大丈夫には見えない。
というか、もしかしてイザークの「大丈夫」って「死んでません」って意味なんじゃないか。
それは全然大丈夫じゃない。
私は、周りでモフモフと浮いている精霊たちを見回した。
「みんな!イザークを……あ、さっきの風でリリィたちも転んでる……この辺の人たち、全員治して!」
「はーい!」
まずは茶色の毛玉──地の精霊のコハクが飛び上がる。
コハクは手足をぴこぴこと動かし、私の頭上で輝き始めた。
続いてほかの三匹も上昇し、光を放つ。
温かいその光が、慈雨のように降ってくる。
イザークの手の傷が消えていく。
転んで怪我をした人がいても、この光で治っただろう。
(じゃあ、あとは魔王だ!とどめを刺してやる!)
全力をぶち込んだから、攻撃を行う上半身は吹っ飛んだだろう。
とはいえ手順を無視したから、踵ぐらいは残ったかもしれない。
魔王は地面から穢れを吸うから、足がくっついてるし。
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