断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

19 和解への一歩

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「処刑が延期されたあと……急に不安になったの。アナベルにペンダントを渡したら、私は踏み台にされるんじゃないかって。ごめんなさい……」

「そんな、謝らないでよ。これまで嫌味ざんまいだったんだから、私を信じられなくて当たり前だよ。こっちこそ、今までごめんね」

 私が頭を下げると、リリィは意外そうに目を瞬いた。

「……本当に、昔とは全然違うのね」

「そんなに変わった?」

「うん……お茶会の時には、血走った目で私を見ながら、ずっと歯ぎしりをしていたり……」

「それは完全に危険人物だね!」
 
 リリィとルークが怯え、ギデオンとエリオットが警戒するのは当然だ。

 レオナルドが私に優しいのは奇跡かもしれない。
 処刑が決まった時点で婚約は無効になったけど、私だったらそれより前に逃げ出す。

「ごめん!もう本当、ごめん!」
 
 バネ仕掛けの人形みたいにペコペコしまくった。
 そのたび、腕の中のコハクが「ほえ」「ぴや」と鳴く。

「ううん。私も、何となくわかってたの」

 リリィは泣き腫らした顔に、ようやく小さな苦笑を浮かべた。

「自分は本物の聖女じゃないんだって。だから、アナベルが『この偽物!』って水をかけてきた時、言い返せなかったの」

 そういえばそんなこともあった……
 私、めちゃくちゃ最低じゃないか。

「ご、ごめんなさい、リリィさん……そんな最低な奴ですけど、ペンダント、借りてもいいですか?精霊を仲間にしたら、速攻で返しますから……」

 ビクビクしながら尋ねると、リリィは静かに頷いてくれた。
 ルークが気遣わしげに、リリィへ声をかける。

「それでいいの?」

「ええ。ルークだって、今のアナベルなら大丈夫だと思うでしょ?」

「それはそうだけど……」

 まだ心配そうなルークに、リリィは弱々しく微笑んだ。
 それから大きく息を吸い込み、ペンダントを首から外した。

「あ、ありがとう!本当にありがとう……!」

 拝む私に、リリィがペンダントをかけてくれる。
 その様子をギデオンたちは、

「リリィ様がいいと言うなら……」

「たしかに、今のアナベル様は別人のようですし……」

 と、言い合いながら見守っている。

 ペンダントの宝石が、コハクの頭にポフッと触れた。
 次の瞬間、腕の中のコハクが「ぴぃ!」と声を上げる。

「これでペンダントに入れる!聖女さま、戦うときもいっしょ?いっしょ?」

 大喜びのコハクへ、リリィは寂しげに笑いかける。

「精霊様、よかったですね。これからは戦う時も、なるべくペンダントをアナベルに渡します」

「えっ……本当に⁉︎」

 目を見開く私の胸元で、コハクが手足をパタパタさせる。

「うれしい!ありがと、リリィ!」

 それからぴょんとジャンプをすると、

「聖女さまの近く、スッキリする~。しあわせ~」

 と、うっとりしながらペンダントの宝石に入っていった。
 ナギとコハクの歓声が、ペンダントから小さく聞こえた。

「精霊様に、初めて『ありがとう』って言われた……」

 またリリィが涙ぐむ。
 今度は頬を赤らめている。
 感激しているらしい。

 ゲームでは、無視か罵倒しかされてなかったもんね。
 精霊たちが落ち着いたら、リリィに優しくするよう言って聞かせなくちゃ。
 
「じゃ、地の精霊が仲間になったし。敵が出る前に帰ろっか」

 私がそう言った時だった。
 左手にある茂みが、大きく揺れた。

「ん?」

 何だろう。
 茂みというか木が密集して、しかもツタがびっしりと絡んで、奥がよく見えない。

 ──と、私の首根っこをイザークが思い切り引っ張った。

「ぐえっ!」

 ケープのリボンが喉に食い込み、カエル声で叫んでしまった。
 後ろに投げられた私は、草むらの上へ仰向けに落下した。

 びっくりするじゃない、痛くはなかったけど──と、怒ろうとした瞬間。
 巨大なものが茂みを突き破り、砲丸のように飛び出してきた。

(げっ、ボス狼⁉︎)

 ゲームプレイ時も大きいと思っていたけど、迫力がまるで違う。
 もし虎がここにいたら、子猫に見えただろう。
 
 ボス狼の口の中には、何本もの鋭い牙が並んでいる。
 その一本一本が、私の手首より太い。

 レオナルドたちは身についた習慣で、リリィの周りへ集まった。
 だけど、かなり動揺しているらしい。
 互いに肩をぶつけ合い、よろめいている。

 ボス狼は、誰から食おうかと私たちに視線を走らせた。
 その視線が、据え膳状態の私に定まる。

 あ、死ぬ──そう思ったら、急に体が固まってしまった。

 大きく開いた真っ赤な口が迫ってくる。
 誰も動けない。
 いや、誰かが私の前に躍り出た。

 剣を構えたイザークだ。

「……精霊、助けて!」

 考える前に叫んでいた。
 ペンダントが眩い光を放つ。
 
「聖女様!」

「あぶない!」
 
 ペンダントから精霊たちが現れる。
 ナギが白く輝くと、ゴウッという音が私の上を駆け抜けた。

「ギャンッ!」

 ボス狼が悲鳴を上げてひっくり返る。

 強い風が吹いたのか、と理解する前に、ボス狼の真下の地面がメリメリと裂けた。
 巨体は、あっという間に亀裂の中へ飲み込まれてしまった。

 一呼吸のあと、バクンと地面の口が閉じる。
 木々が一瞬震え、そのあとは静けさが戻った。
 ポコポコと、川の泡立つ音が聞こえてくる。
 
「えーっと……ボス狼、倒したんだよね?」

 周囲がすっかり元通りなので、起きたまま居眠りしたのかと心配になる。

 とりあえず立ち上がろう。
 そう思ったけど、体が重くて動かない。
 
「何? 何か乗っかって……ぎゃー!」
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