【書籍化決定】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子

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第三章

12 インタビュー

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 レンズの向こう側で、チカチカと目映(まばゆ)い星が煌めいている。


 眩しい光に目を細めながら、保はカメラをじっと見つめた。カメラの向こう側では、藍人がこちらを見つめて、ゆったりと微笑んでいる。その顔が一番美しく、視聴者から見て魅力的に映る角度を探りながら、カメラの位置を調整する。

 椅子が二つ並べられただけの収録スタジオで、藍人の隣に座るインタビュアーが、にこやかな表情で口を開く。


「先月最終回を迎えたドラマ『藍とともに沈む』が大ヒットして、凄まじい視聴率を叩き出した清水藍人さんですが、やはり周りの熱狂はご自身も感じられていますか?」
「そうですね。有り難いことにSNSで話題にしていただけることが多くて、そういった面では自分の顔を目にすることが多くなっています」


 インタビュアーからの質問に、藍人がそつのない返答をする。


「『藍とともに沈む』では、清水さんがヒロインへと向けるサドっ気を滲ませた表情や、ヒロインを必死に追い求める哀しい姿に、心を奪われてしまう女性が続出したようですが、これまでは爽やかな役をされることが多かった清水さんにとっても、今回の役柄は新境地だったのでは?」
「はい。今回の役では、自分の弱さや惨めさなども表に出さなくてはならなかったので、自分の新たな扉を開かせていただきました。神村亮という役柄を演じることによって、『完璧な王子様』というイメージからも脱却できたのかなと思います」


 そう返すと、藍人は伏せていた視線上げて、保のカメラをまっすぐ見つめてきた。カメラ越しに射貫くような藍人の眼差しに、一瞬咽喉が鈍く上下する。わずかな戦慄きすらも見透かしたように、藍人が目を細める。まるで怯える獲物を愛おしんでいる肉食獣のような表情だ。


「そのおかげで、これまで挑戦できなかったような役柄のオファーも来るようになって、とても有り難いです」
「沖永(おきなが)照(てる)監督の最新作にも出演予定とお伺いしましたが」


 少し食い気味にインタビュアーが問い掛ける。

 沖永照監督というのは、これまで国内外の名だたる賞を数え切れないほど獲得してきた、映画界の中でも重鎮の監督だ。こだわりが非常に強く、スタッフや役者にも一切の妥協をしないことで有名だ。そんな監督に選ばれることは、俳優にとって最高の名誉のひとつだろう。


「はい。大変光栄なことに出演させていただくことが決まりました」
「清水さんはどのような役を演じられるのですか?」
「僕が演じさせていただくのは、羽野(はの)息吹(いぶき)という神父です。周りから見れば汚れひとつない、清廉潔白で敬虔(けいけん)な神の僕(しもべ)ですが、実際には人間の悪意に絶望し、神の存在に疑念を抱いて、次々と殺人を犯していくという人物になります」
「殺人鬼の神父ということですか? それは難しそうな役柄ですね」
「そうですね。沖永監督は『君にピッタリな役柄だ』とおっしゃってくださったんですけどね」


 藍人がおかしそうに上半身を丸めて小さく笑う。役柄を滲ませているのか、その表情や仕草ですらどこか不気味さを感じさせる。それを見て、インタビュアーがかすかに笑みを引き攣らせるのが見えた。


「沖永監督は以前僕が出た番組を拝見してくださったようで、そのときの表情を見て、今回の役に繋がったようです」
「それは、俗に言う『メロ藍人事件』のときのことでしょうか?」


 インタビュアーの口から出た単語を聞いて、藍人が自身の額を押さえて苦笑いを浮かべる。保も仕事中じゃなかったら、顔面から床にずっこけたかった。


「そんな事件名がついてるんですか?」
「それはもう凄まじい騒ぎでしたから。数日間は『メロ藍人』というハッシュタグがSNSのトレンド一位をキープしていましたからね」


 興奮気味な口調でインタビュアーが言う。

 藍人が困ったように自身の首筋を撫でていると、インタビュアーは前のめりになって訊ねてきた。


「それで、デビューから七年目にして、次々と新たな一面を見せてくださっている清水さんですが、それには何かキッカケがあったのでしょうか?」


 そう質問された瞬間、滑るように藍人の視線が保のカメラへと向けられた。わずかな沈黙の後、藍人がゆっくりと瞬いてから、不意にふにゃりと表情を崩す。甘くとろけるものを食べたときみたいな、幼子みたいに緩みきった笑顔だ。


「ずっと探していたものを見つけたからでしょうか」


 ひどく幸せそうな声で、藍人はそう呟いた。インタビュアーが息を呑んで、藍人を凝視している。だが、すぐさまインタビュアーは慌てたように口を開いた。


「ええと、ファンの方からも清水さん宛ての質問をたくさんいただいておりまして、そちらにもお答えいただければと――」


 インタビュアーが覚束ない手付きで手元の紙を開いて、質問を続けていく。

 保はカメラを操作する手に力を込めながら、『きっと今の表情も、今頃SNSに流れてるんだろうな』と頭の隅で考えた。そうして、藍人が見つけたものが何なのかについて、ファンが盛大に議論を始めるんだろうとも。


『絶対に、藍人は運命に出会ったんだよ』


 先日SNSに流れていた文章を思い出して、じわりと嫌な唾液が舌の上に滲んだ。


『藍人が変わったのって、三ヵ月前のドラマ番宣の生放送からでしょう?』
『じゃあ藍人の運命って、あの番組に出てた人ってこと?』
『ならやっぱり女優の桐山(きりやま)蓮華(れんげ)じゃない? 藍人がいた場所からも近かったし』
『桐山蓮華って、確か憧れてる俳優として藍人の名前あげてたよねー。なんつーか、そういう打算的というか、自分の好意を露骨に匂わせちゃうところが鼻につくわー』
『でも、蓮華ちゃんはめっちゃ可愛いじゃん』
『藍人の隣に並ぶなら、あれぐらい美人じゃなきゃ許せん』


 SNSで見た文章が次々と頭をよぎって、胃の奥からかすかな吐き気が込み上げてくる。

 ダメだ、仕事に集中しろ。余計なことは考えるな。

 そう自分自身に言い聞かせながら、奥歯を食い縛ってカメラを見続ける。

 冷汗が滲んだ手で必死にカメラを動かしていると、ようやくインタビューが終わった。インタビュアーと藍人が握手をしてから立ち上がるのを見て、ほっと息が漏れる。

 カメラの電源を落とした瞬間、真っ暗になったモニターに平凡を体現したような自分の顔が映って、保はとっさに視線を逸らした。
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