異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

文字の大きさ
19 / 26

⑲ロティルの名前 カヤミの氏名

しおりを挟む
 少々躊躇いながら、ロティルは今すぐ聞きたかったことを おずおずと切り出す。

「あの さ、 さっき俺の名前⋯⋯呼んでくれたでしょ、外で。 ロティル って」
「⋯⋯あれは⋯⋯別に間違えたわけじゃないんだけど」
「わかってる。俺、ああいう風に呼ばれたの⋯⋯初めてで」

 ソファに座り、前屈み気味な姿勢の身体の前で組んだ手。指先を落ち着きなく動かして、照れ臭そうにモジモジしているロティル。

「初めて? だって⋯⋯ロティルカレアって、少し長くない? 正直ちょっと呼びづらくて、あんまり名前呼ばないようにしてた⋯⋯」
「そうなの!? だから、あの一回きり⋯⋯」

 敬語が解禁され、カヤミへの恋心を自覚したあの日⋯⋯ 一度だけロティルカレア と名前を口にしてもらえた。
 その後、なかなか呼んでもらえなかった内情、理由があったことを知り、何となくホッとした。

「もしかして⋯⋯こっちの世界では、名前を略すとか、あだ名って習慣がないのか?」
「名前は長い方が立派って考えの人が割かし多いかな⋯⋯俺の家もそんな感じだった。カヤミが言った そのあだ名・・・っていうのは、よく分かんない⋯⋯」

 特別古い考えというわけでは無いが、名前の文字数は多い方が良いというのは、上流階級で未だに よく見られるこちらの世界の風習である。
 ロティルカレアという名前を短縮して呼んでいる人は周囲では確かにいなかったと、カヤミも認識している。
 
「あだ名は、親しみを込めて呼びやすくとか、そんな意味もあるんだけど。こっちでは失礼にあたる行為なのかもしれないしな⋯⋯やめた方がいいなら戻す」
「ま、待って待って! カヤミが呼んでくれたそれ・・が、初めてのはずなのに 俺は、何か すごく嬉しくて⋯⋯!
親しみを込めてなんでしょ? だったら尚更。大袈裟じゃなくて俺だけ・・・の⋯⋯特別な感じがするから、やめないでほしい⋯⋯!」

 こちらの世界特有の常識があるのかもしれないと、カヤミは引こうとしたが、ロティルが熱弁を振るって全力で止めにかかる。

「そこまで⋯⋯? それなら、これからそう呼んで欲しいって周りの人にもさ⋯⋯」
「いや、その⋯⋯俺はカヤミだけにしか呼ばれたくない」
「⋯⋯!」
「カヤミが、そういう風に呼んでるのも、俺だけ・・・⋯⋯じゃないの⋯⋯?」 
「まぁ⋯⋯そうかな ⋯⋯わかった。じゃあ、これからも、そうする⋯⋯」

 あまりに真面目な顔つきでキッパリとロティルから言われたので、カヤミは若干たじろいだが、了承してもらったロティルは満面の笑みになる。

「ありがと⋯⋯
俺ばっかり質問してて申し訳ないんだけど、カヤミは名前の呼ばれ方って他にあったの?」
「⋯⋯⋯⋯  き⋯⋯  」
「き??」

 カヤミは一文字だけ発したが、悩んだ様子になると口を結んで言葉を続けるのを止めてしまった。

「⋯⋯やっぱり、言わない」
「えぇえ~?? あるなら知りたかったのに」

 寸前で教えてもらえずロティルは がっくりと肩を落とす。途中まで伝えておいて拒否するのも可哀想か とカヤミ自身も思ったようだ。
 項垂れるロティルに少しだけ肩を寄せ、耳の近くで囁いた。

「その内、教えるよ。 ロティルにだけ・・・・・・・ ⋯⋯そういうのが、いいんだろ」
「⋯⋯⋯⋯っっ!!」

 からかうカヤミの悪戯っぽい笑顔と あの名前を呼ぶ声に、ロティルは、またいつものように耳まで赤く染め上げられる。
 

 カヤミが元の世界から持ってきたショルダーバッグの中に入っている写真付きのIDカード。それにはカヤミの氏名・・が表記されていた。
 
        
氏名︰[夏夜見カヤミ 京平キョウヘイ




§ § § § § § § §


──── 約1カ月後 

 長期の旅に出ていたロティルは、やっと仕入れや納品の目処がつき、海辺の町に戻るところであった。


早く帰って顔を見たい
また心配させてしまってるかな


 道中、寄った大きな街で誰かの会話が耳に入ってくる。

「何処からか現れた人間が、また急にいなくなったって噂知ってる?」

「家を出て行っただけじゃないの? それから帰ってきた?」

白い光・・・に包まれて、消えてしまったんだって。2度と戻ってこなかったらしい」


 ロティルは血が凍るような感覚に襲われる。痛いくらい動悸が激しくなって、息が苦しい。


あれは『異次元の旅人』のことを言っている?
何故この場所に現れたのか原因不明なんだから
それが もう一度同じ人物に起こる可能性もあるのか?
前触れもなく突然⋯⋯

カヤミ にも⋯⋯!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい

そよら
BL
少佐として部隊を率いる桐生蓮は、 ある朝、目覚めたベッドの隣で副官・冴木響が眠っていることに気づく。 昨夜の記憶は曖昧で、そこに至る経緯を思い出せない。 「事故だった」 そう割り切らなければ、隊長としての立場も、部隊の秩序も揺らいでしまう。 しかし冴木は何も語らず、何事もなかったかのように副官として振る舞い続ける。 二年前、戦場で出会ったあの日から、 冴木は桐生にとって、理解できない忠誠を向ける危うい存在だった。 あれは本当に事故だったのか、それとも。

異世界でΩを隠してバリスタになりました

花嗚 颺鸕 (かおう あげろ)
BL
絶対に元の世界に戻りたいΩ×絶対に結婚したいαの物語。 Ωを隠して働くことになったバリスタの悟と憲兵団に所属するαのマルファス。珈琲を作る毎日だったが、治癒の力を使い人々を癒す治癒士としての側面も。バリスタ兼治癒士として働く中で、二人は徐々に距離を縮めていく。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

好きなわけ、ないだろ

春夜夢
BL
放課後の屋上――不良の匠は、優等生の蓮から突然「好きだ」と告げられた。 あまりにも真っ直ぐな瞳に、心臓がうるさく鳴ってしまう。 だけど、笑うしかなかった。 誰かに愛されるなんて、自分には似合わないと思っていたから。 それから二人の距離は、近くて、でも遠いままだった。 避けようとする匠、追いかける蓮。 すれ違いばかりの毎日に、いつしか匠の心にも、気づきたくなかった“感情”が芽生えていく。 ある雨の夜、蓮の転校の噂が流れる。 逃げ続けてきた匠は初めて、自分の心と正面から向き合う。 駅前でずぶ濡れになりながら、声を震わせて絞り出した言葉―― 「行くなよ……好きなんだ」 誰かを想う気持ちは、こんなにも苦しくて、眩しい。 曇り空の下で始まった恋は、まだぎこちなく、でも確かにあたたかい。 涙とキスで繋がる、初恋の物語。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...