異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑱黒い手袋

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 森を出発し、昼過ぎには治療院に到着。念の為にジゼに診察してもらうと、2人とも解毒は問題なく出来ていた。カヤミはヘビに咬まれた傷の洗浄をしてもらい、ロティルは大事ないというので、毒ヘビ騒動は収束する。
 昼食後、今日は なるべくなら安静にしている方が良いと言われたので、各々部屋へと戻った。 



 ベッドに転がり、うつ伏せで枕に顔を埋めるロティルはズボンのポケットに入れてある物に気がつく。


あ カヤミの手袋⋯⋯俺が持ったままだ
⋯⋯右手にアザというか 古い感じの傷痕があった
あれは向こうの世界で負ったものなのかな

『んんっ⋯⋯ ロティル! ま、待っ て⋯⋯!』

今になって思うけど随分 変な声を出させてしまった
あの声と表情で一段と色気が増して⋯⋯

──── あれ?

『俺のせいでロティルまで毒に⋯⋯』

名前⋯⋯俺のこと
ロティル って呼んでた?
一番最初の時みたいに覚えてない っていう感じではなかった


 心が躍動するような高揚感。ガバっと起き上がると、それが気のせいや聞き間違いではないと確信し、無性にカヤミと話がしたい衝動に駆られてくる。
 しかし、疲れていて休みたいだろうし今はやめた方が⋯⋯そんな葛藤が生じる。

 悩んでいる間に響いたノックの音。ドアを開けると正に今しがた望んでいたカヤミの姿がそこにあった。

「今、平気?」
「うん。俺も丁度カヤミに話が」
「俺は手袋のことなんだけど」
「あ、これね」

 ポケットに入っていた黒い手袋を手渡す。カヤミの用件は、本当にそれだけで あっという間に終わってしまった。

「ありがとう。 それで、そっちの話って⋯⋯?」
「えぇと⋯⋯部屋で話すのはダメかな⋯⋯?
いっぱい歩いて疲れてると思うし、無理にとは⋯⋯」

 どうせなら立ち話ではなく、また部屋でカヤミとゆっくり話がしたい⋯⋯ロティルの ささやかな お願いである。遠慮してはいるが、出来れば⋯⋯という態度がカヤミにも、それとなく伝わった。

「いいよ、話すくらい」
「ホント!? じゃあ入ってて! 何か もらってくる」
 
 承諾するやいなや、顔をほころばせ、軽い足取りで階下へ降りていくロティルの背中を見てカヤミが呟く。

「態度が わかりやすい人だな⋯⋯」



 2人掛けの薄緑色のソファに隣り合わせて座り、ミルクティーの入ったマグカップを渡す。

「はい、ちょっと熱いけど」
「ありがと⋯⋯」

 手袋はソファの前のローテーブルに置いたままになっており、カヤミの右の掌が見える状態だった。手首付近のヘビに咬まれたところ、そこにロティルが口付けた赤い痕跡が まだくっきりと残り、その存在を主張する。
 掌の真ん中辺りに皮膚に濃く刻まれている茶色いアザとシワが混合したような痕。他の滑らかな白い肌と違って、そこだけ異質感が際立っていた。
 
「その手首のさっき俺が付けた痕、今日中に消えないかも⋯⋯」
「まぁ同じ箇所に何度もすれば、そうなるんじゃない」

 ロティルの頭の中に、それはキスマークとほぼ同じではないか!? という、そんな気付きが過った。


だって⋯⋯たとえ手首でも肌に口唇を当てて吸うって⋯⋯
咄嗟とはいえ ものすごいことを俺はしたんだな
そりゃカヤミも あんな表情になる⋯⋯


 手で覆って顔色を隠すようにしながら、会話を続ける。

「カヤミの右手の⋯⋯それって、傷なの?」
「あぁ、古い火傷やけど
7歳くらいの時だったかな⋯⋯1人で食事作るのに火を使おうとして、けっこう酷い状態になって」
「7歳で1人で⋯⋯?」

 ロティルは思わず言葉を繰り返す。悪戯で遊んでいたわけではない。何故子どもが1人で食事を作ろうとしたのか、どうして大人が側にいなかったのか等、疑問ばかりが湧く状況。

「利き手だったし、何するにも しばらくキツかったな。治ったあとも傷の見た目がひどかったから、周りが気味悪がって嫌がって⋯⋯それから手袋して隠すようになった」

 いつも通り淡々とカヤミは語る。そういう環境にもう慣れてしまっている⋯⋯そんな薄い笑みまで浮かべながら。
 ロティルは、カヤミのことをもっと知りたいとは思っているが、暗い出来事が多々あるので、やるせない感情が交錯してしまう。

「だから、いつも手袋を⋯⋯それなのに勝手に触って、ごめん。痛みは? 古傷が痛むこともあるから⋯⋯」
「痛くない。 コレを人に触られたことなんて、今までないから、びっくりしたけど⋯⋯気持ち悪く、ないのかな って⋯⋯」

 カヤミが伏し目がちになって口唇を少しだけ噛む。

「そんなのは、ちっとも思ってない」
「!  ⋯⋯ん⋯⋯ そっか⋯⋯」
 
 気遣いではなく、嘘偽りのない真っ直ぐなロティルの答えと眼差し。強張っていたカヤミは表情は和らぎ、傷痕をなぞりながら長い瞬きをした。
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