異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑰甘い傷口

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 カヤミが右手を押さえて、苦悶の表情を浮かべていた。座っていた木の根元付近に、赤土をまぶしたような色で親指の太さほどの細長い生き物が這って移動している。

「あっ マブカヘビ! 咬まれたのか!? 手見せて!」
 
 ロティルがカヤミの手を取って調べると、右手首ギリギリ付近に小さな丸い2つの咬み傷を見つける。

「手袋取るよ。ゴメンね 、少しだけ我慢して」
「え  嘘 ちょっと⋯⋯  あっ⋯⋯!」
 
 カヤミが常に身に着けている右手の黒い手袋を外して取り去ると、ロティルは その手首に口唇をあて傷口に強めに吸い付いた。ヘビの毒を吸い上げて、地面へと吐き出す。

「んんっ⋯⋯ ロティル! ま、待っ て⋯⋯! やめ⋯⋯っ  ぁ⋯⋯」

 ロティルは制止する声に耳も貸さず、再び口を付けた。カヤミが声と吐息を漏らしながら、ロティルの肩をギュッと強く掴む。見開いていた目を片側だけつむって羞恥心で眉をしかめる。
 数回繰り返すと動きを止め、手首から口を離すと、白い肌に野イチゴのような赤い痕が刻まれている。止めさせようとしたが、されるがままになってしまったカヤミは、息が乱れ、顔を真っ赤にして愕然とした様子だった。

「カヤミ 大丈 ぶ?」
「何してんだよ!! 毒を口で吸い出す行為は危険だから、やったらいけないんだ!」
「おれは 慣れてる ひ⋯⋯ 舌がすこしシビれて る へど」

 普段あまり出さない大きな声で、ロティルの危険行為を叱るカヤミ。しかし、今は緊急事態なので説教どころではない。

「麻痺してんの!? ほら 言ったそばから! さっき見つけた解毒の花の蜜、早く取りに戻ろう!」
「ん」
「走るのだって毒が早く回るから、これもダメなんだけど⋯⋯もう2人共この状態だし、しょうがない⋯⋯!」

 上手く喋れないロティルを連れ、辿って来た道を急いで戻る。毒が体内になるべく回らないように祈りながら。
 山吹色の解毒の花の場所まで辿り着くと、カヤミは、すぐに花を摘み取って花弁の後ろのがく・・を取る。

「このまま飲ませればいいのかな。口開けられる? 少し上向いて⋯⋯」

 カヤミは薬としての植物の使用方法に戸惑い迷いつつ、ロティルの顔にそっと触れながら、花から流れ落ちる橙色の蜜を舌に垂らす。
 毒のせいで舌先に痺れがあるにも関わらず、今してもらっている事が何だか前にも経験した覚えが⋯⋯そんな思考を巡らす余裕がロティルにはまだあった。


カヤミの手⋯⋯ あ この感じ 
あの時と似てるんだ 
診察室で 口開けて あーんして って言われた⋯⋯


 口を閉じ、ゴクンと喉を鳴らして蜜を飲み込むと、すぐにカヤミの右手を握る。

「あ」
「ありがと⋯⋯ カヤミも手、早く」

 新しい花を摘み、蜜をカヤミの手首の咬まれた傷口へとかけてやる。服用も必要なので、カヤミは薄い口唇で花を軽く咥えると直接吸い上げ、指についた蜜を舌で舐めた。
 白い指に濃い橙の蜜の色が映え、それをペロリとすくい取る赤い舌先。その仕草がやけに艶めかしくロティルの目には映る。


何でこう⋯⋯いちいち色香が凄いのか
俺の気持ちとか脳内のせいだけじゃないでしょ


「しみたりも何もないけど、これだけでホントに効くのか? 味もハチミツみたいなものだし。血清とはまた違うのかな⋯⋯」

 毒を消す薬という物は少なくとも今まで習ってきたことの中には存在しなかった。こんな花の蜜なんかでどうにかなるのかとカヤミは不安を吐露する。

「俺の痺れは取れたよ。もう普通に喋れる」
「! そっか⋯⋯」

 症状がなくなっているとわかると、安心したのかカヤミは、はぁ⋯⋯と大きな溜め息を吐いた。

「こうやってすぐ解毒剤取りに行けば良かっただけなのに。俺 焦って、早くカヤミから毒をどうにかしなきゃって」
「⋯⋯さっきのアレ・・は、して欲しくない」
「本当に ごめんっ! 嫌、だよな⋯⋯」

 手首には、毒を吸い出した時のまだ痕が残っている。俯いていて怒っているであろうカヤミにロティルは必死に謝罪をする。

「そういう意味じゃなくて!」
「!?」
 
 声を少し張り上げたカヤミに驚き、ハッとして顔を上げた。

 「心配したんだ! いつもしてることだからって危険をそんなに認識してなかったんだろうけど⋯⋯傷の毒を口で直に吸ったら、そのあと吐き出しても身体の中に入る可能性がある。本当に危ないんだよ」
「ごめん⋯⋯」
「自分を犠牲にして助けてもらうのは、苦しい⋯⋯」
「⋯⋯!」

 感情をそこまで表に出さないカヤミだが、ハッキリと不安や懸念、憂慮を口にした。下手をしたら死ぬのもあり得る、そんな行為を自分のためにされ、辛く やりきれない顔をする。

「カヤミ⋯⋯」
「俺は⋯⋯そんなに人と深く関わってこなかったから、こういうのしてもらうのは慣れてなくて⋯⋯だから余計にそう感じるのかもしれない。
元はと言えば俺の不注意が原因で、ロティルまで毒に冒されたんだから⋯⋯」
「勝手に動いたのは俺なんだから、カヤミは悪くないよ! 咬まれたのだって不注意なんかじゃなくて事故だろ?」
「⋯⋯他人で、俺のために身体張る人なんて初めて会った。助けてくれようとしたのは、感謝してる から⋯⋯ありがとう」

 複雑な気持ちが織り交ぜてはあるが、カヤミは優しい表情で感謝の意を伝える。ロティルの胸が僅かにドキリとなった。

「い⋯⋯や⋯⋯ 心配させたのは申し訳ない⋯⋯」
「それから⋯⋯さっき、なんか勘違いしてたけど、嫌だった  って⋯⋯危険なことをされるのは嫌だって意味だから⋯⋯
口を つけられたのは気恥ずかしかっただけで、別に俺は⋯⋯」
「⋯⋯っっ」

 説明するのに目を伏し目がちにし、手首を押さえながら恥ずかしさで頬を染めるカヤミ。そんな顔、そんな態度を目の辺りにしたロティルは痛いくらいに胸が締め付けられ、自分の服の左胸辺りを鷲掴みするようにグッと押さえつけた。


う わぁ すごく 可愛い⋯⋯!
顔もそうなんだけど  控えめにしながら
わざわざそれを俺に伝えてくれるところも
また抱きしめたくなる⋯⋯っ
口に出して叫びそう 言ったら怒られるんだろうなぁ


「なに⋯⋯?」
「可愛⋯⋯ あ⋯⋯っ その、治ってよかったな って」

 まだ染まった頬でジトッと鋭い目になるカヤミに、誤魔化した ヘラリとゆるい笑顔でロティルは返答する。


「解毒剤は使ったから多分大丈夫なんだろうけど⋯⋯ここまで引き返して来たし、このまま戻ろう。一応ジゼに診てもらった方がいいから」
「そうだね⋯⋯また来たい時は言って。俺は何回でも
カヤミの助けになるから。無茶には、もうちょっと気をつける」
「うん⋯⋯頼りには、してる」
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