異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

文字の大きさ
16 / 27

⑯やむを得ない抱擁

しおりを挟む
「じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてね、カヤミ 無理しないように。何かあったらロティルカレアにすぐ言うのよ!」
「ん、わかった」

 出かける当日の朝、もはや母親状態のポーラの見送りをあとに2人で町を出た。海ではなく、森の方へと向かって。金具の付いた黒い上着と黒いブーツを着用したカヤミはロティルの後ろを付いていく。
 空は晴れ渡って出かけるのに丁度良い陽気だった。濃い緑の広い平原、草花の香りが鼻をくすぐる。

「久しぶり過ぎて不安だな⋯⋯」

 ジゼ達に保護されてから、危険な魔獣の存在もあるので町の外に出ていなかったカヤミは、約半年ぶりの外の世界に、かなり不安を感じて緊張しているようだった。

「大丈夫だよ。そのために俺が付いてるんだから。時間はあるし、ゆっくり行こう」
「ん⋯⋯」

 カヤミと2人きりの外出が嬉しくて仕方のないロティルは舞い上がっていて、落ち着きがない。自分がカヤミを守るという使命にも燃えていて、怖いものなし⋯⋯そんな様子が滲み出ている。

「カヤミの服⋯⋯今日は黒だから、いつもの白衣とは正反対の色だね。それ、初めて見たなぁ」
「これも元の世界で着てたやつ」

 日々の生活で見るカヤミの衣服は白衣と その下に着用しているシャツとズボン。それに夜の寝間着程度。こちらの世界に飛ばされた際に着ていた上着等は紛失した靴以外、クローゼットにずっと しまいっぱなしであった。

「そうなんだ。それも似合うよ」
「⋯⋯それは、どーも」

 言葉の素直さに若干決まりが悪そうにしながら、カヤミはロティルの腰に付いている剣に目をやる。

「そういう剣とかナイフとか、俺も持った方がいいのかな⋯⋯使ったことないけど」
「カヤミのことは俺がちゃんと守るから、それは平気」
「⋯⋯じゃあ任す」

 間髪入れず、迷いなく言い切るロティル。カヤミもそれを信じて頼る選択をした。



 1時間強歩き、ようやく森の入り口へ到着。山深いような場所ではないので、太陽の光は程よく差し込んでいて視界は明るい。汗はかいていないがカヤミは既に疲労困憊な様子だ。

「けっこう歩いたな。ここに到着するまでで、既に疲れてる⋯⋯目的は、まだこれからなのに」
「少し行ったら拓けた所があるから休憩しよう。水は?」
「さっき もらったから今は大丈夫」

 森の中に足を踏み入れると、木々の爽やかな良い匂いがしてくる。青空も見え、木漏れ日が所々草地を鮮やかに照らす。ある程度、道になっているので急勾配は無く、慣れないカヤミにも歩きやすい環境が整っていた。


 しばらく横並びで歩いていると、鳥のさえずりに混じって、ギィイ⋯⋯と奇妙な鳴き声が聴こえてくる。木の上で葉に隠れていた小さな苔の塊に細長い手足が生えたような生き物が、カヤミに向かって突然飛びかかってきた。

 疲れで足元がフラついたカヤミが声を出す前に、ロティルが身を挺して庇うようにし、その肩をグイッと自分の方へ抱き寄せる。
 左手で剣を素早く抜くと同時にヒュッと一回だけ振ると、苔のような生き物は一瞬で、横に真っ二つに斬られ、ボトリと地面に落ちた。真ん中には血の塊のような赤い核があり、飛び散ってバラバラに消滅していく。

 カヤミは魔物に襲われかけたことと、ロティルが剣を使用するのを初めて目の当たりにし、唖然として口が開いている。

「大丈夫? ケガはない?」
「⋯⋯うん⋯⋯」

 胸元にほぼ抱きしめるような格好で顔を見合わせた。無事を確認してくるロティルは至って落ち着いている。カヤミもいつも通りではあるが、驚きと照れくささで、頬には微かに赤みが差していて、ロティルのマントをギュッと握っていた手を恥ずかしそうに解放した。

「こういう弱い魔物はたまに出てくるかもしれないから」
「全然動けなかった⋯⋯ ありがと⋯⋯」

 12cmの身長差と近過ぎる距離で上目遣いになるカヤミ。顔と顔の間は30センチにも満たない。青い髪の毛の一本一本も、青紫の瞳の複雑な色合いもよくわかる。ロティルは肩を抱いていた手を緩めて少しだけ身体を離すと反対を向いた。

「⋯⋯ちょ ちょっと 、待って ね」
「?」

 平静を装っていたが時間差で汗がドッと出てくる。沸騰したように熱くなり、全身から湯気が立ち昇りそうだった。


めちゃくちゃ近いっ!!
抱きしめてしまった⋯⋯っ 
咄嗟に守るための行動をしたんだからコレは やむを得ないよな
俺はカヤミのことになると冷静さがなくなる⋯⋯



 何とか平常心を取り戻し先へと歩みを進める。白い木の根っ子付近に咲いていた山吹色をしたラッパ状の花をロティルが指差した。花弁の先端が6つに分かれ反り返っている。

「ほら、この花。へぇ⋯⋯今まで見た中でも、相当蜜の量が多いかも。育成環境が良かったのかなぁ。いっぱい咲いてるし」
「この前、教えてくれた解毒のやつ? 形は百合に似てる⋯⋯結構大きいんだな。掌くらいはある」
「詰んで、下のがく・・の部分を取れば摂取も採取も しやすい。患部に塗るのと服用どっちもした方がいいと思う」
「⋯⋯塗布とふと服用、両方⋯⋯か」


 触れて観察し、カヤミがメモを取り終えると再び探索を開始する2人。数種類薬草を見つけたあと、大木の木陰で休憩をすることにした。

「疲れたでしょ。はい」
「ありがとう。普段 動かないから、俺ホント体力なくて⋯⋯」

 水の入った容れ物をロティルが差し出す。診療所では疲れた等の弱音を言わないカヤミだが、野外の活動ではそうもいかないらしい。
 出発してから常に甲斐甲斐しく動いているロティルには、そういう本音、姿をカヤミが自分に見せてくれることが、新鮮でもあり、なおかつ嬉しかった。


「俺なんか慣れてるだけだからさ。さっき見つけた薬草は帰り際に採って行こう」
「⋯⋯風が、気持ちいいな。  涼しい⋯⋯」

 木に寄りかかって座り、木漏れ陽の下で目を閉じるカヤミ。陽の光があたった髪が、風でそよいでキラキラと輝いている。隣に座るその姿にまたロティルの胸が高鳴り、そして ときめく。


こうして無防備でいてくれるのは多少は
心を許してくれるようになったからなのか
⋯⋯この先も こうして俺の隣にいて欲しい



「痛ッ⋯⋯!」
「え!? カヤミ? どうした!?」
「手に 痛みが  急に」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい

そよら
BL
少佐として部隊を率いる桐生蓮は、 ある朝、目覚めたベッドの隣で副官・冴木響が眠っていることに気づく。 昨夜の記憶は曖昧で、そこに至る経緯を思い出せない。 「事故だった」 そう割り切らなければ、隊長としての立場も、部隊の秩序も揺らいでしまう。 しかし冴木は何も語らず、何事もなかったかのように副官として振る舞い続ける。 二年前、戦場で出会ったあの日から、 冴木は桐生にとって、理解できない忠誠を向ける危うい存在だった。 あれは本当に事故だったのか、それとも。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

異世界でΩを隠してバリスタになりました

花嗚 颺鸕 (かおう あげろ)
BL
絶対に元の世界に戻りたいΩ×絶対に結婚したいαの物語。 Ωを隠して働くことになったバリスタの悟と憲兵団に所属するαのマルファス。珈琲を作る毎日だったが、治癒の力を使い人々を癒す治癒士としての側面も。バリスタ兼治癒士として働く中で、二人は徐々に距離を縮めていく。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

処理中です...