異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑮恋の相手と外出の約束

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 出会って間もないのに、こんなにも短期間で恋に落ちるなんて。きっと一目見た時から もう心の奥底で惹かれていたんだろう⋯⋯
 溜め息が止まらない。良い意味も悪い意味も両方併せ持った溜め息。恋焦がれて頬を赤らめ、知られる怖さで青ざめる⋯⋯


 自身のカヤミへの恋心をハッキリと知ってしまったロティル。勉強を見てほしいとお願いされたあのあと、心が乱れきってどうしようもなくなった。目の前にいる恋の相手に説明するなど、もちろん出来ない。
 
 その様子を見たカヤミは、今日は調子が良くなさそうだと察し、部屋に戻ることにした。
 また発熱しているのではという可能性も考えて、以前のように手で体温を確認してくれようとしたが、ロティルは大丈夫だと必死に断った。事実、顔は熱くなっており、見てわかるくらい真っ赤になっていたのだろう。
 
 しかし、今カヤミに触れられたら⋯⋯勢いで抱擁くらいしてしてしまいそうな、それくらいの心理状態であった。触れられるのを断るのも、一緒にいる時間を終了させるのも、残念で名残惜しくて仕方ないのに。
 
 冷静にならないと、全部が またたく間になくなってしまうかもしれない。心の内を知られたら、どうなるのか。そんな心配が頭に纏わりつく。

「ごめんね、また明日⋯⋯ おやすみ」

 そんな挨拶を去り際にドア付近で交わして、ロティルは部屋に1人になった。明日も会える、それだけでも心は躍って救われる。
 ローテーブルには、ピンクと水色の2つの空のマグカップ。まだカヤミの座っていた温もりが残っているソファに腰掛け、これから先のことを考えた。


俺は  どうすればいいのかな
好きじゃないふり?
そんなのは出来ない したくない
変に避けるとボロが出るし離れるのは俺が無理だ

今まで通りの流れのまま あくまで親しい間柄での『好き』
俺の行動はカヤミに懐いてる・・・・から
こだわる理由として不自然ではないと思う⋯⋯けど

これはカヤミにつく嘘じゃない
自分への暗示みたいなものだ
まだまだ距離を近くしたい欲はある

とにかく恋愛感情だということは 隠さないと


 今後の計画のような方針のような、そんな事を脳内で整頓し終わると、ベッドに勢いよく転がった。ほんの少しだけ部屋にジャスミンの石けんの残り香がする。仰向けに体勢を変え、両腕で目を覆い隠すような格好になって、はあぁ~⋯⋯と、長く大きく息を吐く。

 カヤミが遂に見せてくれた笑顔。氷の中に隠された宝石⋯⋯やっと溶けて触れることが出来た⋯⋯そんな気持ちだった。手中に収めることは今はまだ無理だと思っている。

 脳裏に、またあの微笑みが蘇ってくる。まだ引いていない顔の火照りが更に増して、口から自然と想いが漏れ出た。

「あー⋯⋯ もう ほんと好き⋯⋯」



 翌日の夜21時から薬草倉庫での勉強が開始。その日の朝、診察時間前にカヤミに声を掛け、今日は大丈夫だという旨を伝えた。
 あれから、口をきくまでは非常に緊張していたロティルだったが、会話も出来て普通にすることが出来ている、と自己評価では思う。
 きちんと敬語なしで対応してくれるカヤミに対して胸の奥がまた締め付けられては頬を緩ませる。


 倉庫に保管してある薬草を実際に見せながら、薬草の名前、効果、その他の組み合わせや禁忌等の細かい決まり事をロティルが講義し、カヤミがノートをとって質問をする。
 ひたすら真面目に教えている方が感情の高ぶりが抑えられ、ロティル的には都合が良かったので話の脱線は、殆どしない。


 実施して3日目を迎えた勉強。現状、ひとつ屋根の下で寝泊まりし、顔を合わせれば話すことが出来る。そして夜は2人きりで一緒に勉強。


かなり幸せな環境ではあるよな
好きな人と毎日こんなに近くにいられるなんて
逆に旅に出てる間がしんどそうだ 前よりも ずっと

⋯⋯俺 耐えられるのか?



 慣れと共にロティルの雑念が顔をのぞかせる。昼間は窓から たっぷりと日光が入る倉庫だが、夜は電球のオレンジがかった色の灯りのみ。温かみのある その光に照らされたカヤミの横顔やペンを持つ細い指先を眺めていると、すぐに魅入ってしまう。
 初めて会った日の診察と同じことを今されたら、どうなってしまうだろうか。この指先が、また自身の顔に触れたら⋯⋯

「ありがとう、3日も連続で付き合ってくれて」
「えっ」
 
 カヤミから突然、礼を述べられた。ロティルは目を丸くして意識をそちらに向ける。
 
「おかげで、だいぶ捗ってる」
「あ⋯⋯役に立ててるみたいで良かった。俺は教えるの楽しいから毎日でも全然平気だよ。
そういえば、いつも21時から勉強してるけど、ジゼには今 教わってないの? その時間なら、まだ寝てないんじゃない?」

 下を向いて、カヤミが一瞬 口ごもった。

「⋯⋯滞在中は教えてもらうって言ったら、その方が楽だから大いに結構だって笑ってた。俺も、それでいいと思ってる」
「あ、そうなんだ。じゃあ今は俺だけってことか」
「正直⋯⋯ジゼより丁寧で ゆっくり教えてくれるから、分かりやすいよ」
「ホント? へへ、嬉しい」

 褒められて自分を選んでもらえたようで、ロティルは素直に喜び満面の笑みを見せる。


そういえば
あれから一回きりで名前は呼んでもらえてないなぁ
俺なんて1日何回カヤミの名前を口にしてることか


 ──23時
通常なら勉強を終了する時刻だが、カヤミが明日は休みをもらっていると言うので、30分程延長することになった。先ほどより緩い雰囲気で質疑応答を中心に会話をする。

「乾燥した薬草と、そうじゃない物で効能に差は?」
「ある、かな。特に蜜とか果汁みたいな生物ナマモノというか。俺が自分で使ってみた感覚では新鮮な方が、やっぱり効果が高いと思う。瓶に詰めて持ち帰れるけど、あまり たくさんは採れないし」

 ロティルは棚にある小さな瓶を手にしてカヤミに見せた。濃い橙色のハチミツのような液体が容器の3分の1ほど入っている。

「採取後は時間が経つと色が抜けていくんだ。効果も弱まる。これは、この間 俺が採ってきたばかりだから、まだ色が濃いでしょ。これのみで充分、毒消しに効く」
「こういうのは定期的に採取しないといけないから大変なんだな。それ、この辺りには生えてないのか?」
「まぁ⋯⋯ちょっと歩くけど、そんなに遠くはないよ」

 静寂後、ロティルが息を整えてからカヤミに視線をやった。

「 一緒に行ってみる⋯⋯?」
「! ⋯⋯採取前の薬草も、いずれ見てみたいとは思ってた」

 突然の誘いに明らかにびっくりしていたカヤミだったが、興味を持ってはいるようだ。

「ちょうど明日休みならさ」
「いいんだけど⋯⋯その⋯⋯ 俺、町の外に出たことなくて。慣れてないから、迷惑かけるんじゃないか と」

 申し訳なさそうにカヤミが言う。その しおらしくする様子にロティルは可愛さを覚えてしまい、言葉に詰まったあと、返答した。

「⋯⋯っ お⋯⋯俺が一緒にいるから大丈夫だよ、 ね?」
「⋯⋯うん」


う⋯⋯
たまに見せてくれるああいうのが 堪らない

勢いまかせに一緒に出かける約束をしてしまったけど
ちょっと強引だったか!?
距離⋯⋯詰め過ぎかな
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