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⑭〝 好き 〟の自覚
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22時ぴったりの時刻に本日2度目のノックの音。誰が訪ねてくるのかを知っていても⋯⋯むしろ相手がわかっているからこそ心臓の鼓動は賑やかだった。大きく深呼吸をしてからドアを開けた。
「申し訳ないです。遅い時間に」
「全然いいよ、入って待ってて。お茶か何か持ってくる」
「え、 そんなの大丈夫ですから⋯⋯」
「俺が ゆっくりして欲しいな って思ってるから」
「⋯⋯すみません」
余裕そうな事を口にして微笑んでみせたロティルだったが、顔も耳もずっと赤い。すれ違ったカヤミから、あの石けんの香り⋯⋯それが鼻をくすぐってきた。使う人で こんなにも印象が変化するのか と、また気持ちが昂る事態に密かに陥る。
入浴後のまだ乾ききっていない柔らかで艶めく青い髪、細く白いうなじや肩につい目がいって⋯⋯冗談で妄想してしまう、このあとの甘い展開。あり得ないと わかりきっているのに胸の高鳴りは止まらない。
なんで こんなこと考えてるんだろ⋯⋯
カヤミは なんかこう⋯⋯色気があるせいかな
ロティルが部屋に戻ってくると2人掛けのソファに座り、お茶で一息つく。
カヤミは、ひと口だけ飲むとローテーブルの上に水色のマグカップをそっと置いた。そして、隣にいるロティルに向き直った途端、単刀直入に用件を伝える。
「俺に薬草の勉強を教えてもらえませんか」
「え、勉強?」
勉強を見てほしいと お願いされるという想定外。ロティルは意表を突かれたが納得も出来た。苦情などではないかという不安も取り払われ、落ち着きが戻ってくる。拍子抜けしてしまった感も否めないが⋯⋯薄っすら甘い妄想も鳴りを潜めた。
「教えるって、薬草の種類や効能ってこと?」
「はい、診察時間以外だとジゼから教わる時間はかなり限られてるし、睡眠時間を削ってもらう訳にもいかないので。早く覚えたくても⋯⋯独学じゃ難しくて。あなたは薬草のことに、かなり詳しいから⋯⋯」
落ち込んだような、思う様に進まないもどかしさをどうにかしたいという気持ちの表れたカヤミの顔。早く知識を身につけたいと言っていたのを以前聞いているロティルは、そのひたむきさを痛感する。
「まぁ、俺はジゼみたいにあんな早くには寝ないし」
「あなたの負担じゃなければ⋯⋯」
「負担になんて思わないよ。俺で良ければ⋯⋯滞在中は、いつでも教えてあげられる」
「じゃあ⋯⋯」
ロティルに断る理由はない。むしろカヤミとの関わりが増えて願ったり叶ったりだ。頼りにしてくれたことも嬉しい。
しかし、今回ばかりは少しだけ自分の為に という欲を出してみたくなった。
普段こんなのしようと思わない
どうせなら⋯⋯なんて姑息な考え
「⋯⋯構わないんだけど 俺からも、お願いしていい?」
「! ⋯⋯何ですか」
明らかに警戒している口調になるカヤミ。ジトッとした目つきでロティルを見ている。
「ズルいって言われると思う、けど。
俺に敬語使わないで欲しい」
「~~⋯⋯っ!」
唖然とした表情になり、そのあと口を噤んで目を思い切りそらした。若干これを予想もしていた様子だ。
「そりゃ、そういう顔になるよね⋯⋯」
「その話、考えておくって俺言いましたよね。何で急かすんですか。無理しないで なんて自分で言ってたくせに⋯⋯」
カヤミが不満を捲し立てる。言い分通り、ロティルが以前言ってた発言と矛盾している。
「もちろん、わかってる。つけ込んでるみたいなことだっていうのもわかるんだけど⋯⋯
もっと素を出してくれたらいいのにって思ってる。カヤミの信頼できる相手に⋯⋯お 俺は、なりたくて」
「⋯⋯それで、敬語が問題になるんですか?」
冷ややかな口調のカヤミに対してロティルが顔を赤くしながら、言葉を綴っていく。ピンク色のマグカップを両手で持ったまま、終始 下を向いている。
「ジゼとポーラには違うのに、俺にだけは必ず敬語だしさ⋯⋯俺とは会って、まだ大して経ってないから?」
「別に、深い意味はないですよ。出会ってからの時間の長さなんて関係あると思っていないし。誰とどう話そうがそんなの個人の自由でしょう。
何で、そんなにそれに こだわってるのか わからない」
質問し、また質問され、カヤミは眉をしかめて不機嫌さを隠そうとはしない。ロティルの声量は先程より小さくなっていき、それから寂しそうにポツリと言った。
「⋯⋯だって、ずっと医者と患者のまま みたいだ」
「!」
怪訝そうにしていたカヤミがピクリと反応すると、目を丸くし驚いた表情へ変化した。そして赤い髪を垂らしながら俯く彼へ、澄んだ静かな声で問う。
「あなたは俺と⋯⋯どうしたいんですか」
「⋯⋯どうしたい って言われたら⋯⋯
俺は カヤミと、仲良く なりたい⋯⋯かな」
聞かれたので思わず答えてしまったが、ドッと汗が吹き出してロティルの感情が渋滞してきた。伝えたいことをつらつらと並べてみたものの、言葉選びがちょっと違うのではないか と心の中で喚き叫ぶ。
ええぇっ ちょっと 俺 今 何言った!?
他の人には こんなこと言わないし
しかも 仲良くなりたい って
これじゃなんか 口説いてる みたいで
「⋯⋯信頼できる相手が交換条件なんて出してくるのも、どうかと思うけど?」
「う、確かに⋯⋯ ゴメン」
カヤミの口調が変わっているのにロティルは気がついていない。
フッと笑う声が聞こえてきた。
ロティルが顔を上げると、カヤミは口元に手をあて、口角が少し上がっている。
「変な人だな⋯⋯」
「あ」
今 笑っ⋯⋯た
今まで見ていた作り笑顔とは違う自然な笑顔。穏やかに微笑んで、青紫の大きな瞳も柔らかな青い髪も艶やかな白い肌も細い指先も、一層 輝いてるように見える。
ただ純粋に 綺麗だ と思った。あまりにも瞬間的に魅了され、顔も身体も心の中までも自身の全てが熱に支配されていくような感覚。鼓動は 早くはないがドクン、ドクンと大きな音が頭の中に響いてくる。
カヤミは少し笑ったあと、はぁ と呆れたような短い溜め息をついたが、怒っている様子ではない。
「仕方ないな⋯⋯わかったよ。
そんなに言われて、俺も意固地になってても あんまり意味ないし。
⋯⋯ロティルカレア、
俺に 勉強、教えてほしいんだけど⋯⋯いい?」
「──── ッッ」
カヤミが真っ直ぐ見つめて伝えて来た言葉に、ロティルは先程以上に赤面し汗をかいて固まってしまった。堪らず下向きになり、か細い声で一言 言う。
「⋯⋯ ワカリ マシタ」
「何だ それ!? 今、自分で 敬語がいやだ って俺に言ったんだろ!」
上手く話せない。カヤミの怒る声が僅かに耳に入るくらいにしか聞こえず、目の前も光って霞んでいるように見える。
ずっと笑って欲しかったんだ
作った笑顔じゃなくて
この本当の笑顔を俺に見せてほしかった
嬉しいのに 握り潰されてるみたいに 胸が苦しい
ちゃんと名前呼んでもらえたのも初めてじゃない?
⋯⋯あぁ そうか これが⋯⋯
今 わかった 最近ずっと おかしかった理由
自覚できてなかっただけで
俺はこの人が
カヤミのことが 好き だったんだ
だから こんなに嬉しくて
何よりこだわって
誰よりも特別で
見つめていたいのに見られない
カヤミの何もかも全部
さっきより もっと眩しく感じる
「申し訳ないです。遅い時間に」
「全然いいよ、入って待ってて。お茶か何か持ってくる」
「え、 そんなの大丈夫ですから⋯⋯」
「俺が ゆっくりして欲しいな って思ってるから」
「⋯⋯すみません」
余裕そうな事を口にして微笑んでみせたロティルだったが、顔も耳もずっと赤い。すれ違ったカヤミから、あの石けんの香り⋯⋯それが鼻をくすぐってきた。使う人で こんなにも印象が変化するのか と、また気持ちが昂る事態に密かに陥る。
入浴後のまだ乾ききっていない柔らかで艶めく青い髪、細く白いうなじや肩につい目がいって⋯⋯冗談で妄想してしまう、このあとの甘い展開。あり得ないと わかりきっているのに胸の高鳴りは止まらない。
なんで こんなこと考えてるんだろ⋯⋯
カヤミは なんかこう⋯⋯色気があるせいかな
ロティルが部屋に戻ってくると2人掛けのソファに座り、お茶で一息つく。
カヤミは、ひと口だけ飲むとローテーブルの上に水色のマグカップをそっと置いた。そして、隣にいるロティルに向き直った途端、単刀直入に用件を伝える。
「俺に薬草の勉強を教えてもらえませんか」
「え、勉強?」
勉強を見てほしいと お願いされるという想定外。ロティルは意表を突かれたが納得も出来た。苦情などではないかという不安も取り払われ、落ち着きが戻ってくる。拍子抜けしてしまった感も否めないが⋯⋯薄っすら甘い妄想も鳴りを潜めた。
「教えるって、薬草の種類や効能ってこと?」
「はい、診察時間以外だとジゼから教わる時間はかなり限られてるし、睡眠時間を削ってもらう訳にもいかないので。早く覚えたくても⋯⋯独学じゃ難しくて。あなたは薬草のことに、かなり詳しいから⋯⋯」
落ち込んだような、思う様に進まないもどかしさをどうにかしたいという気持ちの表れたカヤミの顔。早く知識を身につけたいと言っていたのを以前聞いているロティルは、そのひたむきさを痛感する。
「まぁ、俺はジゼみたいにあんな早くには寝ないし」
「あなたの負担じゃなければ⋯⋯」
「負担になんて思わないよ。俺で良ければ⋯⋯滞在中は、いつでも教えてあげられる」
「じゃあ⋯⋯」
ロティルに断る理由はない。むしろカヤミとの関わりが増えて願ったり叶ったりだ。頼りにしてくれたことも嬉しい。
しかし、今回ばかりは少しだけ自分の為に という欲を出してみたくなった。
普段こんなのしようと思わない
どうせなら⋯⋯なんて姑息な考え
「⋯⋯構わないんだけど 俺からも、お願いしていい?」
「! ⋯⋯何ですか」
明らかに警戒している口調になるカヤミ。ジトッとした目つきでロティルを見ている。
「ズルいって言われると思う、けど。
俺に敬語使わないで欲しい」
「~~⋯⋯っ!」
唖然とした表情になり、そのあと口を噤んで目を思い切りそらした。若干これを予想もしていた様子だ。
「そりゃ、そういう顔になるよね⋯⋯」
「その話、考えておくって俺言いましたよね。何で急かすんですか。無理しないで なんて自分で言ってたくせに⋯⋯」
カヤミが不満を捲し立てる。言い分通り、ロティルが以前言ってた発言と矛盾している。
「もちろん、わかってる。つけ込んでるみたいなことだっていうのもわかるんだけど⋯⋯
もっと素を出してくれたらいいのにって思ってる。カヤミの信頼できる相手に⋯⋯お 俺は、なりたくて」
「⋯⋯それで、敬語が問題になるんですか?」
冷ややかな口調のカヤミに対してロティルが顔を赤くしながら、言葉を綴っていく。ピンク色のマグカップを両手で持ったまま、終始 下を向いている。
「ジゼとポーラには違うのに、俺にだけは必ず敬語だしさ⋯⋯俺とは会って、まだ大して経ってないから?」
「別に、深い意味はないですよ。出会ってからの時間の長さなんて関係あると思っていないし。誰とどう話そうがそんなの個人の自由でしょう。
何で、そんなにそれに こだわってるのか わからない」
質問し、また質問され、カヤミは眉をしかめて不機嫌さを隠そうとはしない。ロティルの声量は先程より小さくなっていき、それから寂しそうにポツリと言った。
「⋯⋯だって、ずっと医者と患者のまま みたいだ」
「!」
怪訝そうにしていたカヤミがピクリと反応すると、目を丸くし驚いた表情へ変化した。そして赤い髪を垂らしながら俯く彼へ、澄んだ静かな声で問う。
「あなたは俺と⋯⋯どうしたいんですか」
「⋯⋯どうしたい って言われたら⋯⋯
俺は カヤミと、仲良く なりたい⋯⋯かな」
聞かれたので思わず答えてしまったが、ドッと汗が吹き出してロティルの感情が渋滞してきた。伝えたいことをつらつらと並べてみたものの、言葉選びがちょっと違うのではないか と心の中で喚き叫ぶ。
ええぇっ ちょっと 俺 今 何言った!?
他の人には こんなこと言わないし
しかも 仲良くなりたい って
これじゃなんか 口説いてる みたいで
「⋯⋯信頼できる相手が交換条件なんて出してくるのも、どうかと思うけど?」
「う、確かに⋯⋯ ゴメン」
カヤミの口調が変わっているのにロティルは気がついていない。
フッと笑う声が聞こえてきた。
ロティルが顔を上げると、カヤミは口元に手をあて、口角が少し上がっている。
「変な人だな⋯⋯」
「あ」
今 笑っ⋯⋯た
今まで見ていた作り笑顔とは違う自然な笑顔。穏やかに微笑んで、青紫の大きな瞳も柔らかな青い髪も艶やかな白い肌も細い指先も、一層 輝いてるように見える。
ただ純粋に 綺麗だ と思った。あまりにも瞬間的に魅了され、顔も身体も心の中までも自身の全てが熱に支配されていくような感覚。鼓動は 早くはないがドクン、ドクンと大きな音が頭の中に響いてくる。
カヤミは少し笑ったあと、はぁ と呆れたような短い溜め息をついたが、怒っている様子ではない。
「仕方ないな⋯⋯わかったよ。
そんなに言われて、俺も意固地になってても あんまり意味ないし。
⋯⋯ロティルカレア、
俺に 勉強、教えてほしいんだけど⋯⋯いい?」
「──── ッッ」
カヤミが真っ直ぐ見つめて伝えて来た言葉に、ロティルは先程以上に赤面し汗をかいて固まってしまった。堪らず下向きになり、か細い声で一言 言う。
「⋯⋯ ワカリ マシタ」
「何だ それ!? 今、自分で 敬語がいやだ って俺に言ったんだろ!」
上手く話せない。カヤミの怒る声が僅かに耳に入るくらいにしか聞こえず、目の前も光って霞んでいるように見える。
ずっと笑って欲しかったんだ
作った笑顔じゃなくて
この本当の笑顔を俺に見せてほしかった
嬉しいのに 握り潰されてるみたいに 胸が苦しい
ちゃんと名前呼んでもらえたのも初めてじゃない?
⋯⋯あぁ そうか これが⋯⋯
今 わかった 最近ずっと おかしかった理由
自覚できてなかっただけで
俺はこの人が
カヤミのことが 好き だったんだ
だから こんなに嬉しくて
何よりこだわって
誰よりも特別で
見つめていたいのに見られない
カヤミの何もかも全部
さっきより もっと眩しく感じる
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