異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑳大切な貴方が消えたら

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 旅路について かなり経過したが、眠ってもすぐに目が覚めてしまうことが続いていた。まともに眠れた夜は数少なく、気を紛らわす為に剣を研ぐ回数が無駄に増える。


頭から離れない


『ロティル』
 

思い出してばかりで⋯⋯






『明日出発するから、しばらく勉強見てあげられなくなるんだ』
『どれくらい?』

 薬草の倉庫でカヤミに勉強を教えていた時に、また旅に出ることを伝えた。ノートに文字を書きながらカヤミが不在の期間を問う。

『う~ん、今回は前より長くかかるから 1か月くらい?』
『ふぅん⋯⋯ 確かに長いな』

 ペンを持っているカヤミの手が止まり、ロティルに視線をやった。流し目のように一瞬だけ。

『うん⋯⋯行く場所 多くて。距離もあるし』
『⋯⋯また、朝早くに出るの?』

 カヤミからの再びの質問に、間をあけてからロティルが答える。

『そのつもり ⋯⋯明日は、見送りはしなくていいよ』 

 自分で言っていて、なんて おこがましい言葉だとロティルは思う。まだそんな話もされていない上、見送りして欲しいとも聞こえ、なかった場合に自身が傷つかない為のセリフ。

『⋯⋯迷惑だった?』
『迷惑なわけないよ! むしろ逆で⋯⋯俺が嘘で あんなに喜ぶなんて真似、無理なのわかるでしょ』

 迷惑という言葉に反応して、ロティルは思わずカヤミの肩に触れ、目をしっかり見ながら、それを強く否定する。一瞬ビクッとなったカヤミは下を向いてしまった。

『まぁ ね⋯⋯ 下手そう』
『⋯⋯俺がいつも朝早い時間に出発してたのは、見送りされると寂しくなっちゃうから、誰にも会わないようにしてたんだ⋯⋯
でも、前にカヤミが来てくれた時、いってらっしゃい って言われるの、こんなに嬉しいんだなぁ⋯⋯って知って』
『ん⋯⋯』
『今は⋯⋯見送りはされたいけど、寂しさが勝ってしまう気がして。 俺の ただのワガママだからさ⋯⋯』


カヤミのこと好きで  離れるのが余計 嫌になるから 
そこは言えない⋯⋯


『了解。 前回は化膿止めの薬を渡す為だったしな』
『⋯⋯⋯⋯』

 嘘はついていないが 真実ほんとうも伝えられない。


 次の日の早朝、前回と同じ様な時間に部屋を出た。以前のようにカヤミの部屋のドアが開くことはない。
 カヤミに関してだけは、会わない方が後でよっぽど しんどくなるのではないか。ロティルは今更そんなことに気が付いた。


どうせ すぐに会いたくて仕方なくなる
だったら我慢しないで見送りしてもらって
顔を見てから出発した方が良かった⋯⋯
自分のダメさ加減が情けなくて 嫌になる


『ロティル』
『!!』

 溜め息をつきながら外に出ると、すぐに あの名を呼ぶ声。振り返ると2階の窓が開いていてカヤミの姿が見え、頬杖を付きながらロティルに向かって、ひと言だけ告げた。

『いってらっしゃい』
『カヤミ⋯⋯   ⋯⋯いってきます』

 ロティルが泣きそうな笑顔で手を振ると、手を挙げて微笑み返してくれる。


⋯⋯朝だって早いのに
驚かされてばかりでホントに敵わないな

俺の強がり とか  して欲しいこと とか 
何となく わかってくれて
好きになってからも  もっと ずっと惹かれてやまない



 以前から予想してた通り、今回は離れがたい辛さが非常に堪える。道中、精神的、肉体的にも相当しんどくて。
 旅に行きたくないと初めて思い、出発したらしたで、常に早く帰りたくなる。駄々をこねる子どものような心境に自分でも呆れてしまう。

 魔獣の討伐の依頼を普段より過剰に引き受ける⋯⋯そんなこともしていた。戦い、斬ってる間は、そのことを考えずに済む。ひりつく空気も血なまぐさい臭いも、カヤミと過ごす それとは何もかもが かけ離れているから。
 
 そんな状況の中で必死になったかいもあり、採取や仕入れは、かなり順調に進み納品も滞り無く終わった。より遠くに足を運んだおかげで、貴重な薬草も数多く手に入る。


やっぱり1ヶ月くらいかかったな
けど予定より量を仕入れられたし これで次まで余裕が出るから しばらく ゆっくり出来る
荷物も だいぶ多くなった⋯⋯  帰ろう  早く顔が見たい


 その後、すぐ耳に入ってしまったあの噂話。空の色は怖いくらい鮮やかな夕陽の燃える赤色で覆われていた そんな時刻。


白い光・・・に包まれて『異次元の旅人』が
消えて 戻ってこなくなったらしい


 その日は、そこの街の宿で一晩過ごし朝に出発するつもりだったが、居ても立ってもいられず予定を取り消してロティルは走り出した。
 夜を通して海辺の町までの移動に専念し続ける。馬車を使うような距離を小休止のみの不眠状態で一心不乱に前へと進んだ。
 喉や肺が焼けるように痛くなり、吐き気がして、足を動かすのにも震えがくる。不安というより、もはや恐怖に近い⋯⋯そんな感情に支配されていた。


「おえ⋯⋯ ぇ ッ⋯⋯  
ヤバい 動き過ぎか⋯⋯
もう少し休憩入れないと倒れるかもな⋯⋯
けど⋯⋯ じっとしてる時間が耐えられない」


カヤミが消えていなくなってしまうかもしれない


 

 日が昇りきった時間には辿り着くことが出来た。もう見える位置まで来ているのに、治療院の青い屋根までが異様に遠く感じる。到着するとノックも忘れて玄関の扉を壊れそうなくらいの勢いで開けた。

「カヤミ!!!」
「ひゃあぁっ!! ビックリした!
ロティルカレア⋯⋯もう! 強盗かと思うじゃない!
大声出して⋯⋯そんな開け方しなくても」

 キッチンにいたポーラが仰天して身構えながら悲鳴を上げた。そんな様子にもロティルは意に介さず、カヤミのことを何度も尋ね続ける。

「カヤミはっ!? 診察⋯⋯!?」
「え? 何、帰ってくるなり⋯⋯ 今は部屋に」
「部屋⋯⋯っ」
「⋯⋯  あ!? そうだ! さっき⋯⋯」

 ポーラが何か言いかけたのも聞かずに、ロティルは荷物を放り投げ、階段を1段抜かしで駆け上がってカヤミの部屋を目指す。


次元が違う場所から来た人となんて
普通なら出会うこと自体が あり得なかった
じゃあ⋯⋯消えて何事もなかったように
今まで通りになるかって⋯⋯ そんなのは もう無理だ
それくらい存在が大きくなり過ぎて 大切で


 カヤミの部屋のドア僅かに開いている。ロティルは恐る恐る中を覗き込んだ。
 開け放たれた窓からそよぐ風がカーテンを揺らしている。そして、使った跡はあるが空のベッド。カヤミがいる気配はない。


本当に いなくなった⋯⋯?
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