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㉑意地悪で すごく優しい
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誰もいないカヤミの部屋の中で立ち尽くすロティル。冷たい汗が背筋を伝い、足元がふらつく。小刻みに辛うじてしていた呼吸さえ、する方法がわからなくなってくる。
息って⋯⋯どうやってするんだっけ⋯⋯
息が できない
「 カ⋯⋯ ヤ 」
「ロティル?」
「!!!」
振り返ると、階段の方から現れたカヤミの姿がそこにあった。
「戻ったんだ⋯⋯ 声がしたから」
「⋯⋯カヤ ミ⋯⋯? え 何処に⋯⋯!?」
心身共に限界の中、ますます混乱するロティルの思考は追いつかない。
「何処って⋯⋯シャワー行ってただけだよ」
よくよく見ればほんのりと赤みがかった頬と細い首筋、青い髪もしっとり濡れていて、オレンジ色のタオルを手に持っている。
「シャワー⋯⋯? あぁ、 そっ か⋯⋯」
「⋯⋯何か、ボロボロだけど大丈夫か?」
目の前に、ちゃんと存在する。いつもの心配してくれる声も耳に入ってくる。確認するために触れたくて、ロティルは手を伸ばした。
「ちょっとロティルカレア! 荷物が泥だらけじゃないの!? も~こんなに汚してっ!」
「「!?」」
階下からポーラの大きな喚き声が響いてくる。服を泥だらけにして帰ってきて家を汚した子どもを叱る母親の正にそれだった。
「今 着てる服も洗濯するから、今すぐシャワー浴びて着替えなさい!!」
その声にカヤミは くすりと笑い、ロティルにも優しく笑い掛ける。
「⋯⋯だって さ。あんなに叫ぶのロティルが熱で倒れたとき以来かもな」
「昨日から、ずっと動きっぱなしだったから。
うわ、靴もかなり汚れてる⋯⋯ごめん、部屋汚しちゃって」
「大丈夫だから、行ってきなよ」
「うん⋯⋯」
カヤミとすれ違ったあと、ロティルは すぐに立ち止まり、背中を向けたまま声を掛けて尋ねた。
「カヤミ⋯⋯ あとで、また来てもいい?」
「⋯⋯ん いいよ。待ってる」
「ありがと⋯⋯」
姿を確認したから一安心という気持ちにはなれない。漠然とした心配、恐れは全部払拭は出来ないままシャワーを浴びる。汚れは簡単に落とせても疲労と不安感は残ったまま。
ロティルはシャワーを終えると、頭にタオルをかけた状態でキッチンへ立ち寄った。
「ポーラごめんね。汚しまくってて」
「ホントよ~ 今回は相当大変だったのね。荷物の量もすごくなって」
「まぁ うん。俺のせいで忙しいとこ悪いんだけど、何か頼んでいいかな、2つ」
「構わないけど、 カヤミをあんまり無理させちゃダメよ?」
せかせか動いていたポーラが手を止めてロティルへ忠告する。
「⋯⋯体調でも悪いの⋯⋯?」
「昨日からだけど、頭痛いって休んでたのよ。それで、さっき汗流したいからってシャワー使って。急に何処にいるって聞かれたから、うっかりしてたわ」
「⋯⋯」
赤い髪から、落ちた水滴が首筋を伝って、流れていく。
「カヤミ、入るよ」
ポーラからハチミツ入りのホットミルクを2つもらい、トレイに乗せて、カヤミの部屋へと やってきたロティル。カヤミはベッドに座って本を読んでいた。
「サッパリした?」
「うん、だいぶ。 寝てなくていいの? 調子悪かったの俺知らなくて⋯⋯」
「昨日少し頭痛があっただけで、今は問題ない。大丈夫だから今日の診察は出るって言ったんだけど、ポーラがまだ休めって」
「そうなんだ⋯⋯」
トレイをベッド横のチェストに置くと、ロティルは立ったままで、動きを止め、何か思いに沈んでいる。
ゆっくりとした動作でピンクのマグカップを手に取ると、ドアの方を向いてカヤミに顔を見せず、また背中を向けたまま伝えた。
「⋯⋯やっぱり部屋に戻る。ポーラが言うように今日は休んだ方がいいと思う から」
部屋を出ていくつもりで、一歩足を進めた。カヤミは本を閉じると、ロティルの後ろから言葉を投げかける。
「ロティル、 ⋯⋯ どうした?」
「!」
ロティルは、また身体を硬直させて黙ってしまった。
「すごく慌てて帰ってきて、俺のこと捜してたよね」
「え 知ってたの!?」
声を上げて振り返ったロティルは、ハッとしてカヤミの表情を見る。片膝を立てて座り、頬杖をついて煽るような顎の角度。
「知ってるも何も、あんだけ大声で名前呼ばれたら浴室まで聞こえるし、声がした って、俺はさっき言った」
「う⋯⋯」
「ロティル」
射抜くような眼差しで見つめてくるカヤミ。何かあるのに言おうとしなかったロティルのことは露見している。鋭く威圧的ですらあるその視線に、バツが悪くて耐えられず目をそらそうとした。
一度、長いまばたきをするとカヤミの青紫色の瞳は穏やかな目に変化する。
「おいで」
「!」
「隣り、座って。せっかく帰ってきたんだから、話 しよう」
労るように温かく、側へと促すカヤミ。ロティルに抗う理由など何もない。
「⋯⋯うん⋯⋯」
カヤミは 意地悪で すごく優しい
息って⋯⋯どうやってするんだっけ⋯⋯
息が できない
「 カ⋯⋯ ヤ 」
「ロティル?」
「!!!」
振り返ると、階段の方から現れたカヤミの姿がそこにあった。
「戻ったんだ⋯⋯ 声がしたから」
「⋯⋯カヤ ミ⋯⋯? え 何処に⋯⋯!?」
心身共に限界の中、ますます混乱するロティルの思考は追いつかない。
「何処って⋯⋯シャワー行ってただけだよ」
よくよく見ればほんのりと赤みがかった頬と細い首筋、青い髪もしっとり濡れていて、オレンジ色のタオルを手に持っている。
「シャワー⋯⋯? あぁ、 そっ か⋯⋯」
「⋯⋯何か、ボロボロだけど大丈夫か?」
目の前に、ちゃんと存在する。いつもの心配してくれる声も耳に入ってくる。確認するために触れたくて、ロティルは手を伸ばした。
「ちょっとロティルカレア! 荷物が泥だらけじゃないの!? も~こんなに汚してっ!」
「「!?」」
階下からポーラの大きな喚き声が響いてくる。服を泥だらけにして帰ってきて家を汚した子どもを叱る母親の正にそれだった。
「今 着てる服も洗濯するから、今すぐシャワー浴びて着替えなさい!!」
その声にカヤミは くすりと笑い、ロティルにも優しく笑い掛ける。
「⋯⋯だって さ。あんなに叫ぶのロティルが熱で倒れたとき以来かもな」
「昨日から、ずっと動きっぱなしだったから。
うわ、靴もかなり汚れてる⋯⋯ごめん、部屋汚しちゃって」
「大丈夫だから、行ってきなよ」
「うん⋯⋯」
カヤミとすれ違ったあと、ロティルは すぐに立ち止まり、背中を向けたまま声を掛けて尋ねた。
「カヤミ⋯⋯ あとで、また来てもいい?」
「⋯⋯ん いいよ。待ってる」
「ありがと⋯⋯」
姿を確認したから一安心という気持ちにはなれない。漠然とした心配、恐れは全部払拭は出来ないままシャワーを浴びる。汚れは簡単に落とせても疲労と不安感は残ったまま。
ロティルはシャワーを終えると、頭にタオルをかけた状態でキッチンへ立ち寄った。
「ポーラごめんね。汚しまくってて」
「ホントよ~ 今回は相当大変だったのね。荷物の量もすごくなって」
「まぁ うん。俺のせいで忙しいとこ悪いんだけど、何か頼んでいいかな、2つ」
「構わないけど、 カヤミをあんまり無理させちゃダメよ?」
せかせか動いていたポーラが手を止めてロティルへ忠告する。
「⋯⋯体調でも悪いの⋯⋯?」
「昨日からだけど、頭痛いって休んでたのよ。それで、さっき汗流したいからってシャワー使って。急に何処にいるって聞かれたから、うっかりしてたわ」
「⋯⋯」
赤い髪から、落ちた水滴が首筋を伝って、流れていく。
「カヤミ、入るよ」
ポーラからハチミツ入りのホットミルクを2つもらい、トレイに乗せて、カヤミの部屋へと やってきたロティル。カヤミはベッドに座って本を読んでいた。
「サッパリした?」
「うん、だいぶ。 寝てなくていいの? 調子悪かったの俺知らなくて⋯⋯」
「昨日少し頭痛があっただけで、今は問題ない。大丈夫だから今日の診察は出るって言ったんだけど、ポーラがまだ休めって」
「そうなんだ⋯⋯」
トレイをベッド横のチェストに置くと、ロティルは立ったままで、動きを止め、何か思いに沈んでいる。
ゆっくりとした動作でピンクのマグカップを手に取ると、ドアの方を向いてカヤミに顔を見せず、また背中を向けたまま伝えた。
「⋯⋯やっぱり部屋に戻る。ポーラが言うように今日は休んだ方がいいと思う から」
部屋を出ていくつもりで、一歩足を進めた。カヤミは本を閉じると、ロティルの後ろから言葉を投げかける。
「ロティル、 ⋯⋯ どうした?」
「!」
ロティルは、また身体を硬直させて黙ってしまった。
「すごく慌てて帰ってきて、俺のこと捜してたよね」
「え 知ってたの!?」
声を上げて振り返ったロティルは、ハッとしてカヤミの表情を見る。片膝を立てて座り、頬杖をついて煽るような顎の角度。
「知ってるも何も、あんだけ大声で名前呼ばれたら浴室まで聞こえるし、声がした って、俺はさっき言った」
「う⋯⋯」
「ロティル」
射抜くような眼差しで見つめてくるカヤミ。何かあるのに言おうとしなかったロティルのことは露見している。鋭く威圧的ですらあるその視線に、バツが悪くて耐えられず目をそらそうとした。
一度、長いまばたきをするとカヤミの青紫色の瞳は穏やかな目に変化する。
「おいで」
「!」
「隣り、座って。せっかく帰ってきたんだから、話 しよう」
労るように温かく、側へと促すカヤミ。ロティルに抗う理由など何もない。
「⋯⋯うん⋯⋯」
カヤミは 意地悪で すごく優しい
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