22 / 27
㉒医師の過ごしてきた環境
しおりを挟む
『異次元の旅人』が再び消えていなくなる話を耳にしてしまった、とロティルは伝えた。ベッドでカヤミの横に座り、項垂れている。
『何処からか現れた人間が、また急にいなくなった噂』
『白い光に包まれて、恐らく消えてしまった』
『2度と戻ってこなかったらしい』
「カヤミにも、いつか突然⋯⋯そんな可能性があるんじゃないかって、そう考えたら怖くなってきて⋯⋯」
掠れた声になり、憔悴しているロティル。あぐらに近い姿勢をしながら隣で見つめるカヤミは、心配を和らげられるよう言葉を選びながら返答する。
「俺は⋯⋯何もないと言い切れるかは、正直わからない 。
けど、今のを聞いた印象は、その話をしてた人達は、目の前で消えたのを直接見たわけじゃ、多分ないよな。
ただの家出した人のことを言ってるみたいにも聞こえる。それに 噂、恐らく、らしい ⋯⋯不確定な言葉ばかりだし。ロティルだって、消えた人なんて今まで見たことないだろ」
「『異次元の旅人』 自体⋯⋯会ったのはカヤミが初めてで」
解釈を聞いてロティルは少しだけ顔を上げた。カヤミは口元に手を当てて、また何か考えているようだ。
「ん。 あとは、そうだな⋯⋯俺がこっちに来る前、向こうでいつも思ってた。
ここから いなくなりたい って」
「え⋯⋯」
医者になる事を義務付けられていたカヤミの家。その為の勉強等が最優先で、年端もいかない頃から常に親から圧力をかけられ続けてきた。自由を許されず、抑えつけられた10数年⋯⋯
長年ずっと我慢した甲斐もあり、最終的に素晴らしい学歴で無事に医師免許も取得。やっと解放される筈だったが。
職場の病院の環境も全くと言っていいほど、良くはなかった。親が医者ということが周囲に知られていたのもあってか、必要以上にキツい物言いをされたり、妬み嫉みからの嫌がらせ、非協力的で、足を引っ張られるような出来事。
業務を必死に覚えて何とか こなしてはいたが、人との関わりでは気持ちはずっと閉ざされ続けたまま。親からの重圧も殆ど変わりなかった。
心の休まる時がなく、安眠出来ない日々が続く。
誰も信用できない
俺は人を助ける仕事をしてるのに
俺を助けてくれる人は 誰もいない
なんか⋯⋯疲れた
ここから いなくなってしまいたい
そんな気持ちで迎えたある朝の通勤途中。自転車に乗っていた時、強風と共に突然空間が歪み、白い光に包まれ⋯⋯
目を開けると、こっちの世界に来ていた。突然の夜の森。訳がわからず、スマホを取り出し何とかしようとしたが、満充電だったにも関わらず電池は0になっていて、間もなく画面は暗くなる。
その後、ずっと森を彷徨い、持っていたペットボトルの水も尽き、靴も紛失。そして、海岸で座り込んでいた所をジゼに助けられ、海辺の町の治療院に身を寄せることとなった。
「いなくなりたいっていう願いを 〝 何か 〟 が叶えてくれたのかもしれない、なんて考えたりしてるんだけど」
「今まで⋯⋯そんな環境にいたの⋯⋯? カヤミは辛いことが、多い な 何 で⋯⋯」
「悪い⋯⋯気分が、もっと滅入っちゃうか」
カヤミの過去の話を聞いて、悲痛な面持ちになるロティル。感情が更に揺れ始める。
「まぁ⋯⋯要するに、前とは逆で ここにいたい と思っていれば、多分⋯⋯大丈夫なんじゃないかな。
かなり単純な考察だけど、当事者の俺が言うんだから噂話よりは多少 説得力ない?」
自分の経験したことをもとに語り、カヤミは割と穏やかな表情でいたが、再び下を向いてしまったロティルの周りには暗雲が漂っている。
「理屈は、何となくわかったけど⋯⋯白い光は、それから見てないの?」
「⋯⋯⋯⋯昨日の、 頭が痛かった⋯⋯って話。その直前に見た。同じものだと思う⋯⋯」
「⋯⋯っ!? また 見てる のか」
息を呑む音をさせ、ロティルが青ざめていく。
「起きた直後だったし、眩しかっただけで関係ないかもしれない。どっちにしろ、俺は今この場にいるんだから気にする必要は⋯⋯」
「⋯⋯」
「ロティル」
「⋯⋯出来れば カヤミの言う 多分 大丈夫を 俺は 信じたい けど これから先また なにか あったら」
ロティルの言葉が辿々しくなり、震えている声と身体。カヤミがそれに気がついた。
『何処からか現れた人間が、また急にいなくなった噂』
『白い光に包まれて、恐らく消えてしまった』
『2度と戻ってこなかったらしい』
「カヤミにも、いつか突然⋯⋯そんな可能性があるんじゃないかって、そう考えたら怖くなってきて⋯⋯」
掠れた声になり、憔悴しているロティル。あぐらに近い姿勢をしながら隣で見つめるカヤミは、心配を和らげられるよう言葉を選びながら返答する。
「俺は⋯⋯何もないと言い切れるかは、正直わからない 。
けど、今のを聞いた印象は、その話をしてた人達は、目の前で消えたのを直接見たわけじゃ、多分ないよな。
ただの家出した人のことを言ってるみたいにも聞こえる。それに 噂、恐らく、らしい ⋯⋯不確定な言葉ばかりだし。ロティルだって、消えた人なんて今まで見たことないだろ」
「『異次元の旅人』 自体⋯⋯会ったのはカヤミが初めてで」
解釈を聞いてロティルは少しだけ顔を上げた。カヤミは口元に手を当てて、また何か考えているようだ。
「ん。 あとは、そうだな⋯⋯俺がこっちに来る前、向こうでいつも思ってた。
ここから いなくなりたい って」
「え⋯⋯」
医者になる事を義務付けられていたカヤミの家。その為の勉強等が最優先で、年端もいかない頃から常に親から圧力をかけられ続けてきた。自由を許されず、抑えつけられた10数年⋯⋯
長年ずっと我慢した甲斐もあり、最終的に素晴らしい学歴で無事に医師免許も取得。やっと解放される筈だったが。
職場の病院の環境も全くと言っていいほど、良くはなかった。親が医者ということが周囲に知られていたのもあってか、必要以上にキツい物言いをされたり、妬み嫉みからの嫌がらせ、非協力的で、足を引っ張られるような出来事。
業務を必死に覚えて何とか こなしてはいたが、人との関わりでは気持ちはずっと閉ざされ続けたまま。親からの重圧も殆ど変わりなかった。
心の休まる時がなく、安眠出来ない日々が続く。
誰も信用できない
俺は人を助ける仕事をしてるのに
俺を助けてくれる人は 誰もいない
なんか⋯⋯疲れた
ここから いなくなってしまいたい
そんな気持ちで迎えたある朝の通勤途中。自転車に乗っていた時、強風と共に突然空間が歪み、白い光に包まれ⋯⋯
目を開けると、こっちの世界に来ていた。突然の夜の森。訳がわからず、スマホを取り出し何とかしようとしたが、満充電だったにも関わらず電池は0になっていて、間もなく画面は暗くなる。
その後、ずっと森を彷徨い、持っていたペットボトルの水も尽き、靴も紛失。そして、海岸で座り込んでいた所をジゼに助けられ、海辺の町の治療院に身を寄せることとなった。
「いなくなりたいっていう願いを 〝 何か 〟 が叶えてくれたのかもしれない、なんて考えたりしてるんだけど」
「今まで⋯⋯そんな環境にいたの⋯⋯? カヤミは辛いことが、多い な 何 で⋯⋯」
「悪い⋯⋯気分が、もっと滅入っちゃうか」
カヤミの過去の話を聞いて、悲痛な面持ちになるロティル。感情が更に揺れ始める。
「まぁ⋯⋯要するに、前とは逆で ここにいたい と思っていれば、多分⋯⋯大丈夫なんじゃないかな。
かなり単純な考察だけど、当事者の俺が言うんだから噂話よりは多少 説得力ない?」
自分の経験したことをもとに語り、カヤミは割と穏やかな表情でいたが、再び下を向いてしまったロティルの周りには暗雲が漂っている。
「理屈は、何となくわかったけど⋯⋯白い光は、それから見てないの?」
「⋯⋯⋯⋯昨日の、 頭が痛かった⋯⋯って話。その直前に見た。同じものだと思う⋯⋯」
「⋯⋯っ!? また 見てる のか」
息を呑む音をさせ、ロティルが青ざめていく。
「起きた直後だったし、眩しかっただけで関係ないかもしれない。どっちにしろ、俺は今この場にいるんだから気にする必要は⋯⋯」
「⋯⋯」
「ロティル」
「⋯⋯出来れば カヤミの言う 多分 大丈夫を 俺は 信じたい けど これから先また なにか あったら」
ロティルの言葉が辿々しくなり、震えている声と身体。カヤミがそれに気がついた。
0
あなたにおすすめの小説
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい
そよら
BL
少佐として部隊を率いる桐生蓮は、
ある朝、目覚めたベッドの隣で副官・冴木響が眠っていることに気づく。
昨夜の記憶は曖昧で、そこに至る経緯を思い出せない。
「事故だった」
そう割り切らなければ、隊長としての立場も、部隊の秩序も揺らいでしまう。
しかし冴木は何も語らず、何事もなかったかのように副官として振る舞い続ける。
二年前、戦場で出会ったあの日から、
冴木は桐生にとって、理解できない忠誠を向ける危うい存在だった。
あれは本当に事故だったのか、それとも。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
異世界でΩを隠してバリスタになりました
花嗚 颺鸕 (かおう あげろ)
BL
絶対に元の世界に戻りたいΩ×絶対に結婚したいαの物語。
Ωを隠して働くことになったバリスタの悟と憲兵団に所属するαのマルファス。珈琲を作る毎日だったが、治癒の力を使い人々を癒す治癒士としての側面も。バリスタ兼治癒士として働く中で、二人は徐々に距離を縮めていく。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる