魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
454 / 472

第三百八十九話 気が高まる溢れる

しおりを挟む
 俺は久し振りに深夜に自分の部屋のベッドに寝転がっていた。久しぶりに時間ができたから家で睡眠を取ることにしたのだ。
 しっかり動いてしっかり休む。最大のパフォーマンスを発揮するためのコツだ。今日は20分は眠れるな。
 俺は部屋を暗くしてベッドで目を閉じる。すると、腹のあたりに重みと体温を感じた。
 扉を開ける音も聞こえず、気配は全く感じられなかった。こんなの出来るのは一人しか知らない。
 そう思って目を開けると、案の定フランが馬乗りになっていた。


「なんの用だ?」


 俺の問いかけにフランは答えない。月明りに照らされているフランの顔が赤く染まっている。呼吸は荒く胸が激しく上下している。


「はぁ……はぁ……」


 潤んだ眼をしながら荒い呼吸をするフラン。
 なんと言えばいいのか分からずにいると、フランは俺に顔を近づけて来た。


「……ホウリ」
「なんだ」
「もう我慢できん」


 フランは俺の顔に手を添えると、艶やかな唇を開いた。


「思い切り暴れたい」


 そんな事だろうと思った。


☆   ☆   ☆   ☆


 俺はフランを連れて夜中の街を歩いていた。


「前にもこんな事があったよな」
「あの時はラーメンを食べに行ったがのう。じゃが、今回は緊急なんじゃ」
「破壊衝動が抑えきれなくなったんだったか」


 フランは顔を赤くしながら頷く。
 しおらしく照れているように見えるフラン。その実、破壊衝動が抑えきれずに必死に堪えているだけらしい。


「力を振るえん期間が長いと、破壊衝動が抑えきれんくなってな。今はまだ我慢できるが、そろそろ限界なんじゃ」
「限界を迎えるとどうなる?」
「理性を失い破壊の限りを尽くすようになる」
「魔国で書類仕事していた時はどうしてたんだよ」
「こっそり抜け出して暴れたのう。人気のない山とかを破壊しておったわい」


 衝動を抑えるために山を破壊か。魔王らしいスケールだな。


「というか、前に魔国も襲撃にあっただろ?その時にゾンビドラゴンが4体も現れたって聞いたぜ?その時に暴れた無かったのか?」
「あの時は分け合って拍子抜けするほどあっさり終わったんじゃ。あそこで本気を出せておれば、もう少しは持ったかもしれんのう」


 ゾンビドラゴンが拍子抜けだったか。戦いの詳細を調べておくか。


「それで?今は何処に向かっておるんじゃ?」
「ワープのための魔法陣だよ。王都で暴れられたら半壊しかねない」
「王都ではない場所で暴れるんじゃな?」
「ああ。向かう場所はスミルだ」
「スミルか。中々に期待できるのう」


 スミルは山の上にある寒冷地域。騎士団がヤマタノオロチ討伐の手伝いに行った地域でもある。


「あの地域には強い魔物が多いからのう。一晩中戦えばなんとか、破壊衝動は発散できそうじゃ」
「それなんだが、戦い魔物は決まってるんだ」
「む?そうなのか?相手はどいつじゃ?」
「ブリザードラット」
「相手に不足は無いのう」


 フランはニヤリと笑う。
 ブリザードラット。体長は10mもある巨大なネズミ型の魔物だ。この魔物は冷気を操り、攻撃をされても氷の鎧で防いでしまう強敵だ。ステータスも高く、通常であればダメージを与えるのも難しい。
 しかも、ブリザードラットの脅威は別にある。ブリザードラットはアイスラットという子供を大量に生むのだ。
 ブリザードラットほどではないにせよ、アイスラットも強敵だ。素早く攻撃が当たりにくく、接近されると超低温の息で凍らせてくる。それが無尽蔵に襲ってくるのだから、ブリザードラットは見つけ次第に駆逐しなくては被害が拡大してしまう。


「それにしても、ブリザードラットが相手か。スミルは大丈夫なのか?」
「スミルの騎士団は最強だからな。時間さえあれば駆逐も用意だ」
「中々やるのう?今度手合わせ願いたいものじゃ」
「機会があればな」


 フランが相手だとやり過ぎる可能性があるからな。その辺りは慎重に決めないとな。


「着いた。さっさと行くぞ」
「うむ。腕が鳴るわい」


 そんな訳で、俺達は魔法陣でスミルに向かったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 ここはスミルの雪山。スミルの騎士団長である私は、騎士団の皆と共にブリザードラットと対峙していた。
 アイスラットが次々と向かってくるに1人の団員が愚痴を吐く。


「くそっ!?数が多すぎる!?」
「このくらいで音を上げてるのか?ヤワだな」
「は?嘘だが?本当はこのくらい楽勝だが?」
「奇遇だな!俺もだ!」


 軽口を叩いている団員達は、次々とやってくるアイスラットを葬っていく。なんだかんだ言って、頼りになる団員たちだ。
 この前のヤマタノオロチとの戦いで、もっと強くなりたいという思いが団員達の中でも強くなっているようだ。最近はたるんでいる雰囲気があったし、引き締める意味ではヤマタノオロチは良い薬になったわね。


「ほら!喋ってないで戦いなさい!」
「了解!」


 団員達を叱りつつ、敏捷性を上げるスキルを掛ける。
 素早くなった団員達はアイスラットを次々と葬り去っていく。このまま行けばブリザードラットまで攻撃が届く。


「魔法部隊は魔法を準備してくれ!アイスラットが少なくなり次第、一気に焼き払う!」


 ブリザードラットは固い氷の鎧に守られている。だから、強い炎の魔法で焼き払い、氷が無くなったところを攻め立てるのが攻略法だ。
 アイスラットが順調に数を減らしていき、そろそろブリザードラットに攻撃が届きそうになる。
 あとはタイミングを見計らって魔法を放って、攻撃のタイミングに合わせてバフを発動させるだけだ。


「……今だ───」
「ぜりゃあああああ!」


 魔法を放つ指示をする瞬間、空から何かが落ちてきて、雪を巻き上げた。
 雪で周りが見えない中、降って来た何かは立ち上がった。


「はーっはっは!見つけたぞ!」


 雪が晴れてくると、何かの正体が徐々に明らかになっていく。その正体は……


「フランちゃん!?」


 その子はオダリムで会ったことがあるフランちゃんだった。


「何でここに!?」
「こやつはわしの獲物じゃ!お主らは手を出すな!」


 フランちゃんは理由を答えずに、ブリザードラットへと視線を向ける。その表情は獲物を狙う狩人のようだった。そして、何よりも私達が動けないほどの迫力を放っている。
 下手に動けば死ぬ。そんな気がしてならない。
 ここにいる理由は分からない。けど、今のフランちゃんはブリザードラットよりも恐ろしい存在だということは確かだ。


「皆!退避してくれ!」
「「「「了解!」」」」


 団員に命令すると、何も聞かずに皆が後ろに下がってくれた。


「一体なんだって言うのよ」
「それは俺が説明しよう」


 私が呟くと後ろから聞き覚えがある声がしてきた。振り向くと、スキーで迫ってくるホウリ君の姿があった。


「ホウリ君!?」
「よっと」


 ホウリ君は器用に私たちのすぐ傍で止まると、スキー板を取り外した。


「いきなり済まないな」
「何で2人がクラフにいるの?またヤマタノオロチみたいな奴が現れたってこと?」
「そういう訳じゃない。実はな……」


 私はホウリ君から今までの経緯を聞く。


「強いの相手と戦いたいからクラフに来た?正気なの?」
「正気……とはいえないな。まあ、お前たちの獲物を譲ってほしい」
「断ったら?」
「全員フランにぶちのめされる」
「分かったわ、こちらとしてもぶちのめされるのは勘弁だしね」


 フランちゃんなら1分もかからず私達を全滅させてくるだろう。背に腹は代えられないって奴だ。


「それでは行くぞ!」


 フランちゃんは鬱憤を晴らすかのように、ブリザードラットに突撃していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党
ファンタジー
人類が滅亡した後の世界に、俺はバンパイアとして蘇った。 常識外れの怪力と不死身の肉体を持った俺だが、戦闘にはあまり興味がない。 俺は狼の魔物たちを従えて、安全圏を拡大していく。 好奇心旺盛なホビットたち、技術屋のドワーフたち、脳筋女騎士に魔術師の少女も仲間に加わった。 迷惑なエルフに悩まされつつも、俺たちは便利で快適な生活を目指して奮闘するのだった。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...