魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第六十四話 演出ご苦労ぉぉぉ!

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──────ステータス──────
この世界のステータスは一番重要な個人情報であり、全ての人間や魔族が秘匿している情報である。学校ではその重要さを低学年のころから教えており、不正な情報の入手は死罪になることもある。──────maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 



 ある日の夕方、僕はミエルさんの実家の広場でミエルさんと対峙していました。ミエルさんは盾を僕へと向けながら叫びます。


「明日はいよいよカロンとの試合だ!気合を入れていけ!」
「はい!」


 僕は弓に矢を番えてミエルさんに向けます。


「いつでも来い!」
「はい!」


 僕は番えた矢をミエルさんに放ちます。ミエルさんは矢を盾で弾くと僕に走って近付いてきました。騎士は基本的に近距離攻撃ですので近付けさせない事が重要になります。ですが、弓では騎士の盾を貫くのは難しいので工夫が必要になります。その一つが……


「今です!」


 僕の掛け声と共に弾かれた矢がミエルさんに向かって再び飛んでいきます。『アクセラレート』、矢の威力を一時的に0にして時間差で元に戻るというスキルです。矢が防御される瞬間に威力を無くして弾かれた後に威力を元に戻せば、防御された矢で再び攻撃することができます。
 一度無力化した攻撃が死角から飛んで来るのです。対応は出来するのは難しい筈です。


「はあ!」


 まあ、ミエルさんには効かないんですけどね。飛んできた矢を大剣で切り捨ててミエルさんは僕に走ってきます。
 僕は後ろに下がりながら、立て続けに矢を放ちますが全て盾で弾かれます。今は距離を取れていますが追い詰められると厳しいでしょう。今のうちに決めさせてもらいます。
 矢筒から青色に輝く矢を取り出して弓に番えます。それを見たミエルさんは顔色を変えて盾を構えなおします。僕が出した矢はトリシューラの複製です。複製とはいえ、直撃すればミエルさんでも多少ダメージを受けるでしょう。


「……そこだ!」


 僕は狙いをつけてミエルさんへ矢を放ちます。しかし、矢はミエルさんの肩を掠めると後ろへと飛んでいきました。


「マズい!」


 僕は矢筒から数本の矢を取り出すと一気に弓に番えて同時にミエルさんに放ちます。ミエルさんは全ての矢を立て続けに切り伏せると僕に向かって駆けてきました。後ろに下がるスペースは無い。何とかしないとやられてしまいます!


「はあ!」


 ミエルさんが振るった大剣をかわしてミエルさんの後方にワープアローを放ちます。広場の反対側へと逃げた僕を見てミエルさんは驚いた表情になります。
 

「良い判断力だ」
「ありがとうございます」


 ミエルさんに褒められるのは嬉しいですがいまだに決定打はないです。何とかしてダメージを与えたいですが、まずは盾を何とかしないといけませんね。
 僕は再びトリシューラの複製を弓に番えてミエルさんに狙いを定めます。それを見たミエルさんは距離を詰めるのを中断して盾を構えて衝撃に備えます。距離があり過ぎて詰める前に矢が命中するという考えでしょう。確かに今までの訓練では盾を全力で構えられたらダメージを与える手段はありませんでした。ですが、対策は既にたてています。
 ミエルさんは動かずに僕が矢を放つのを待っています。すると、盾は何かにぶつかったような音と共に大きく横に吹っ飛んでいきました。


「な!?」
「チャンス!」


 僕はがら空きになったミエルさんに向かってトリシューラの複製を放ちます。ミエルさんは大剣で断ち切ろうとしましたが、間に合わずに矢を受けて後ろに倒れました。しかし、1分は経過してもミエルさんは起き上がってきません
 もしかして、やりすぎました?慌てた僕は急いでミエルさんの元へと駆けだします。


「ミエルさん!大丈夫ですか!」


 僕が駆け寄ると、ミエルさんは目を開けて空を仰いでいました。僕が近付いてきたのを確認したミエルさんは体を起こしました。どうやら大きな怪我は無いみたいですね。安心しました。


「どうしたんですか?」
「王都に来てからロワの特訓に付き合っていて、ついに私にダメージを与えるまでになったかと思うと。……感極まってしまってな」
「そこまでですか?」
「ああ、これなら大丈夫だ。カロンの奴をボコボコに出来るだろう」
「本当ですか!?」


 ミエルさんのお墨付きをもらえた!?飛び上がりたい程嬉しいです!
 僕は気持ちを抑えつつ、ミエルさんに手を指しだします。ミエルさんは僕の手を握ると立ち上がりました。


「そういえば、さっきの訓練で盾の横から衝撃が来たのだが、あれは何だ?」
「秘密はこれです」


 僕は手の平をミエルさんに見せるように開きます。


「何も無いじゃないか」
「ふっふっふ、これならどうですか?」


 僕が指をパチンと鳴らすと僕の手の平に徐々にトリシューラの複製が現れました。それを見たミエルさんは納得したように頷きました。


「なるほど、トリシューラの複製を透明にしてそれで盾を弾いたのか」
「はい!最初に射った複製の軌道を変えて盾に当てました。見えなくすれば当たるかと思ったんですが上手く行って良かったです」


 ホウリさんには当たる気がしませんが、ミエルさんに通じるのであれば大抵の人や魔物には通じるでしょう。これで騎士対策は完璧です。


「特訓も終わった事だし、そろそろ家に戻ろう」
「そうですね、そろそろ晩御飯ですし戻りましょうか」


 僕たちは家の中に入ってリビングに向かいます。


「ただいま戻りました」
「ただいまー」
「おかえりなさーい」


 リビングにはノエルちゃんが一人で料理を待っていました。ホウリさんとフランさんの姿は見えません。


「ホウリとフランはどうしたんだ?」
「用事があるから朝から出かけているよ」
「そういえば朝ごはんの時もいなかったですよね?」

 
 僕らが話していると玄関から扉が開く音が聞こえて、ホウリさんとフランさんがリビングに入ってきました。


「ただいまー」
「今戻ったぞー」
「おかえりー!」


 ノエルちゃんはお二方を見ると、走って抱き着きました。ホウリさんとフランさんはそんなノエルちゃんの頭を優しく撫でます。
 

「すまない、少し遅くなった」
「ううん、大丈夫!」


 こうして見ると、ノエルちゃんは本当にお二方の事が好きなんですね。僕も仲良くなってきたとは思いますが、お二方には敵わないです。
 そうこうしていると、キッチンからタードさんが料理をお盆に乗せて運んできました。


「お待たせ~、皆揃ってるわね」
「ママ、今日のご飯は?」
「明日はロワ君の大切な試合があるでしょ?だから……」


 タードさんはテーブルの上にどんぶりを置きました。


「今日はかつ丼です」
「わーい、ママのかつ丼大好き!」
「もうママ呼びを隠そうともせんのう」
「隠しても無駄だって分かったんじゃないか?」


 皆で席について手を合わせます。


「「「「「「いただきまーす」」」」」」


 お箸を持ってかつ丼を一口食べてみます。


「これ美味しいですね」
「そうじゃな」


 かつのサクサクが残りながらも卵のトロトロが楽しく、出汁の香りも効いています。これは本当に美味しいです。


「そういえば、特訓はどうなったんだ?」
「それが聞いてくれ、ロワが私にダメージを与えたのだ」
「ほう、それはすごいのう」


 かつ丼を頬張りながらフランさんが驚きます。


「具体的にはどうしたんだ?」
「透明にしたトリシューラの複製で盾を弾いて、それから2本目の複製を打ち込みました」
「なるほど、良い手じゃないか」
「ありがとうございます!」


 ホウリさんからも褒められました。もう負ける気がしないです。
 ものの数分でかつ丼を平らげたホウリさんはプリンを取り出して食べ始めます。


「今回の試合に関しては必勝方があるから気を追う必要は無い」
「必勝法?」
「あとで教えてやる」


 もったいぶられると気になりますが、後で教えてくれるのでしたら問題ないですね。


「そういえば、対戦相手の事は何か分かったんですか?」
「そんなのとっくに調べ終えてる」


 そう言うと、ホウリさんはテーブルの上に紙を置きました。


「『カロン・ボーン』22歳、両親は騎士団の筆頭騎士であり子供のころから英才教育を受けていた。しかし、カロン自身に才能は無く並みの騎士としての実力しか無かった」
「ほう?実力はそこまででもないのか?」
「ミエルにダメージ与えられるなら問題なく勝てる。ステータスやスキル、精神力に至るまで完全にロワより低い」
「貴様はステータスまで調べ上げたのか」


 ステータスは個人情報の中でも最も重要なものです。調べるのは相当難しい筈ですが……ホウリさんなら何とかしますよね。


「スキルはどんなものが?」
「主に防御力を上げるものや武器の軽量化だな。スキルや魔装を使ってもトリシューラの複製で決着がつくぐらいの標準的な騎士だ」
「え?騎士の人ってそんなに脆いんですか?」
「ミエルと比べるなよ?最低でも普通の騎士の30倍の性能しているからな?」
「わしでも防御面では勝てるか怪しいからのう」
「ミエルお姉ちゃんって本当に凄いんだね!」
「改めて言われると照れるな……」


 ミエルさんが顔を赤らめて頭を掻きます。
 ん?よく考えたら、そんなミエルさんにダメージを与えた僕ってすごくないですか?


「ロワ、急にニヤついてどうしたんだ?」
「……いえ、なんでもないです」


 話を聞く限りでは普通の騎士はあまり強くないみたいですし、必勝法使わなくても勝てるのでは?


「……また悪い癖が出てるな」
「ん?ホウリさん何か言いました?」
「説明を続けるって言ったんだ。次になぜカロンがミエルに執着しているか説明する」
「カロン君、まだミエルにちょっかい出しているの?」


 タードさんがミエルさんの目を見て驚きます。そんなタードさんにホウリさんは微笑みかけました。


「心配いりませんよ、ロワが明日の試合で勝てば付きまといは無くなるので」
「そうなの?」
「まあ、そうだね」


 タードさんは僕の目をまっすぐに見てきた後に、深々とお辞儀をします。


「ロワ君、娘の事よろしく頼みます」
「ママ!それだと別の意味になっちゃうから!」
「わかりました!」
「ロワも分かっちゃダメ!」
「……話を続ける。カロンがミエルに付きまとう理由、それは権力だ」
「権力ですか?」

 
 確かミエルさんは一般の騎士だった筈です。結婚しても権力が手に入るとは思わないのですが?


「そこは先行投資だな。神級スキル使える奴は例外なく出世するからな」
「そうなんですか……ん?ということは僕も?」
「騎士団に入れば出世するだろうな」


 この旅が終わったら騎士団への入団を考えましょう。


「つまり、カロンは親のように出世できなかったコンプレックスからミエルに付きまとっておるんじゃな?」
「そういう事だ、明日の聖戦で付きまといをやめさせれば解決って訳だ」
「確かに勝てればよい。じゃが……」


 フランさんは心配そうな表情で僕を見てきます。


「なんか心配なんじゃよな……」
「どうしてですか?ミエルさんにダメージも与えられましたし、今の僕には楽勝ですよ」
「やはり心配じゃな」


 なぜでしょうか?安心させるどころか逆効果になっている気がします。


「勝負に関しては俺に任せろ。憂いは全部取っ払っておく」
「うむ、今回限りはお主が頼もしく見えるわい」
「いつもはどう見えてるんだ」


 なにかしっくり来ませんがホウリさんがいるなら安心ですね。
 美味しいご飯を食べた僕たちは明日に向けて早めに休んだのでした。
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