206 / 472
第百七十三話 なんやて工藤!?
しおりを挟む
その後、ミエルさんはお二人を捕まえて折檻を加え、団長室に戻って行きました。
ボロボロのまま、お二人は大の字に倒れています。
「み、ミエルの奴め……、手加減しろよ……」
「本当……なんでロワ君は無事なのよ」
「だよな。元はと言えば、ロワの質問が元凶なのによ」
「あははは……治療するので許してください……」
恨み事を言っているお二人をヒールシュートで治療します。
体が緑色の光に包まれ目立った傷が無くなると、お二人は立ち上がりました。
「よし!そろそろ飯に行くか!」
「すぐ前までノビてた奴のセリフじゃないわね」
「腹が減っては何とやらって奴だ。むしろ、腹が減ってたからミエルに追いつかれたんだ。きっとそうに違いない」
「あの気迫のミエルさんからは逃げられないと思いますけどね」
ホウリさんとの特訓を経て、ミエルさんの敏捷性がかなり高くなった気がする。騎士とはいえ、魔装を使ったミエルさんからは簡単に逃げられないと思う。
ケット先輩の言葉にリン先輩は呆れた表情になった。
「あんたね、もう少し真面目にやりなさいよ」
「いいじゃねえか。ロワだって腹減っただろ?」
「確かにお腹空きましたね」
「じゃあ決まりだな。今日は先輩が奢ってやるよ」
「わーい!」
「ちょっとあんたたち」
ケット先輩に肩を組まれて、そのまま部屋を出る。呆れながらリン先輩も僕たちを追って来た。
「なんだ、リンも腹減ったのか?」
「2人だけだとご飯の後にご飯の後に戻ってこないかもしれないでしょ。入ったばっかのロワ君にサボり癖付けない為に私もいくわ」
「もしかして、リンの奢りか?」
「そんな訳ないでしょ」
「ちぇー」
こうして僕達3人はご飯を食べに食堂に向かう事にしました。
お二人と共に廊下を歩いていると、お昼も間近という事もあり行きかう人の数も多くなってきました。ケット先輩はというと、向かってくる人を避けながら虚空を見つめていました。
「何食うかなー」
「どうせお肉しか食べないんでしょ?考えるだけ無駄よ」
「そんなこと無いぞ」
「じゃあ、今日は何を食べるんですか?」
「かつ丼!」
「やっぱりお肉じゃないの」
お二人と他愛のない話をしていると、食堂に到着した。
リンさんは食堂の前に置かれているメニュー表を凝視する。
「私はラーメンにしようかな?ロワ君は?」
「僕は魚が食べたいのでアジフライ定食にします」
「お、ステーキもあるな。かつ丼やめてステーキにするか?生姜焼きもいいな?」
「早く決めないと人が集まって来るわよ?」
「急かすなよ」
ケット先輩が悩んでいる間にも、人はどんどん増えていく。このままだと売り切れで買えないかもしれない。
「ケット先輩、急いだほうがいいんじゃないですか?」
「今決めるから待ってろよ」
そう言ってケット先輩はメニュー表とのにらめっこを続ける。
「これは長くなりそうですね」
「私達だけで先に入っておきましょうか?」
「それはケット先輩に悪いんじゃないですかね?」
口ではそう言いますが、僕もリン先輩の意見に賛成です。僕達だけでも並んでケット先輩には後から来てもらった方が……
「あ?お前は?」
どうするか悩んでいると、後ろから聞き覚えがある声が聞こえて来た。
振り向くと、そこには見学の時に会ったフローランさんがいました。そういえば、前にあった時も食堂で会いましたっけ?とりあえず、挨拶しておきましょうか。
「フローランさん、お久しぶりです」
「なぜ貴様がここにいる?」
「今日から騎士団でお世話になる事になりました。これからよろしくお願いします」
「新規の募集はまだの筈だが?」
「え?長官さんは別に良いって言ってましたよ?」
「あの人、適当過ぎるだろ……」
フローランさんが頭を手で押さえる。頭でも痛いのかな?
「大丈夫ですか?」
「ああ?お前に心配される覚えはないぞ?」
「そう言われても心配は心配ですし……」
「相変わらずムカつく奴だな」
フローランさんが渋い顔でそっぽを向きます。うーん、今日は機嫌が悪いみたいですね。
「じゃあ、僕達はご飯を食べに行くので失礼しますね」
「ちょっと待て」
食堂の中に入ろうとすると、フローランさんに呼び止められました。
「どうしました?もしかして、一緒にご飯食べたいんですか?」
「そんな訳ないだろ」
フローランさんが呆れた視線を向けてくる。また何か間違ったみたいです。
「それじゃ何ですか?」
「俺と戦え」
急な提案に僕は思わず目を丸くします。
不意を付かれた僕は纏まらない言葉で質問してみます。
「えっと……なんで僕が戦うですか?」
「ただ戦うだけじゃない。負けた方が騎士団を辞めるんだ」
「騎士団を辞める!?」
予想だにしていない言葉に今度は目だけじゃなくて口も開きっぱなしになる。
「どうだ?受けるか?」
「ロワ君、こんな勝負受けなくていいわよ」
僕が面食らっていると、後ろで話を聞いていたリン先輩が口を挟んできた。そんなリン先輩をフローランさんは睨みつける。
「部外者は黙って貰えないか?俺は今ロワと話しているんだ」
「可愛い後輩を守るのが先輩としての義務よ。それに、私闘は規則で禁止されてるわ。謹慎にされたいのかしら?」
「ちょっとした手合わせだ。お前らがいつもやってる事だろ?それとも、俺に負けるのが怖いのか?」
「はぁ!?」
「リン先輩!?ちょっと落ち着いてください!?」
リン先輩が顔を真っ赤にしてフローランさんに掴み掛からんとする。そんなリン先輩を僕は羽交い絞めにして抑える。
「こんな奴に言われっぱなしで黙ってられるものですか!」
「だからって暴力はダメですよ!リン先輩の方が謹慎になっちゃいます!」
「グルルルル……」
猛獣と化したリン先輩を必死に抑える。というか、力が強すぎて抑えきれないんですけど!?
「ふ、フローランさん!抑えるの手伝ってください!じゃないと八つ裂きにされますよ!周りの人も手伝ってください!」
「お、おう……」
「分かったわ……」
フローランさんや周りの人達と協力して、リン先輩を取り押さえます。もはや人じゃなくて獣を相手取っている気分です。
5分後、地面に押し付ける形でリン先輩を取り押さえる事に成功しました。
「グルルルル……」
「な、なんとかなりましたね」
「そうだな。それで、戦うのか?」
「え?この状況で聞くんですか?」
「関係ない。俺が興味あるのはお前の答えだけだ」
こんな時にも聞いてくるだなんて、よっぽど僕と戦いんだろう。そう言う事なら仕方がない。
「分かりました」
「戦うんだな?」
「お断ります」
「はぁ?」
フローランさんが訳が分からないと言った表情をします。しかし、その表情はニヤリとしたホウリさんが良くする表情へと変わったのでした。
「どうした?勝負するのが怖いのか?」
「そうよ!こんな奴なんかぶっ飛ばして騎士団から追い出しなさいよ!」
「リン先輩は反対してましたよね?」
僕たちが騒ぎすぎてしまったせいで、周りの人達の視線も僕らに向いています。このままだと周りの人達に迷惑が掛かってしまうかもしれませんね。
「場所を変えましょう。食堂でなら落ち着いて話せるんじゃないですか?」
「……分かった」
フローランさんも目立つのは本意ではないのか、僕の案に賛成してくれます。
落ち着いたリン先輩を開放して、僕らは食堂に入ります。
「カツカレーも良いな。ローストビーフ丼も捨てがたい……」
ちなみに、ケット先輩はまだ悩んでいた。
☆ ☆ ☆ ☆
食堂に入った僕らは注文を済ませて、目立たない食堂の隅の方に座ります。
僕の前に不機嫌そうなフローランさん、隣には同じく不機嫌そうなリン先輩が座っています。
……なんだか雰囲気が悪いですね?雑談でもして空気を和ませた方が良いでしょうか?
「席が空いていて助かりましたね」
「雑談は良い。お前、俺と戦わないつもりか?」
「そ、そのピザ美味しいですよね。僕もピザにすれば良かったかな~」
「飯なんてどうでもいい。さっさと答えろ」
渾身の雑談が一刀両断されました。僕の気のせいでなければリン先輩の視線が更に鋭くなってます。
これ以上、話を脱線させると更に空気が悪くなるでしょう。僕は渋々話を本題に戻します。
「だって、負けた方が騎士団を辞めなくちゃいけないんですよね?」
「その通りだ」
「じゃあやる意味ないじゃないですか」
「勝ったら俺を追い出せるんだぞ?意味があるじゃないか」
「え?なんでフローランさんを追い出す事に意味があるんですか?」
「え?」
「え?」
お二人が首を傾げて僕を見てきます。なんでしょう、話がかみ合っていない気がします。
「なんでフローランさんを追い出す事に意味があるんですか?」
「だって、こいつはミエルと仲が悪いのよ?追い出したくならないの?」
「そうなんですか!?」
「なんで気付かないのよ……」
僕の言葉にリン先輩とフローランさんが頭を抱えます。あれ?でもだとしたら不思議な事がありますね?
「ミエルさんと仲が悪いからフローランさんを追い出したいって事ですか。という事はフローランさんは僕を追い出したいんですか?」
「そうだ」
「どうしてですか?僕とフローランさんって前に食堂で会ったきりですよね?」
「お前が嫌いだからだよ」
「そうなんですか!?」
「だから、なんで気付かないんだよ……」
僕の言葉にリン先輩とフローランさんが再び頭を抱えます。今日はびっくりすることがいっぱいですね。
「え?なんで僕を嫌ってるんですか?僕、何かしましたっけ?」
「あれだけの人数の前で恥かかせといて自覚がないのか?」
「はじ?」
「……おい、こいつと話すのすっごく疲れるんだが?」
「……私も頭痛が酷くなってきたわ」
「あ、頭痛持ってますよ。いりますか?」
頭痛薬を差し出すと、お二人は無言で飲みました。よっぽど頭痛が酷かったみたいです。
「とりあえず、僕がフローランさんに何かしてしまって、それで僕が嫌いになってしまったって事なんですね?」
「そうだが、お前を追い出したい理由がもう一つある」
「なんですか?」
「ミエル・クランへの嫌がらせだ」
「ミエルさんへの?」
ここでミエルさんの名前が出てくるなんて予想外です。
「僕が辞めちゃうとミエルさんが困るんですか?」
「お前はミエルのコネで入ったんだろ?そんなお前が数日で辞めれば、あの女の顔に泥を塗れるって訳だ」
コネ?そんなのがあったんでしょうか?まあ、何か言って困惑させてはいけないので、口には出さないようにしましょう。
「フローランさんが僕に勝負を持ち掛けた理由は分かりました」
「だったら受けるな?」
「お断りします」
頭を下げて丁寧にお断りをする。さて、これで話は終わったわけだし冷めない内にご飯を……
「なぜだ!なぜここまで理解して戦おうとしない!?」
フローランさんが目をひん剥いて立ち上がります。あれ?これ話が終わってませんね?
僕は持っていた箸を置いてフローランさんに向き直ります。
「だってメリットないですし」
「俺に勝てばあの女が喜ぶんだぞ?メリットしかないだろ?」
「そこはミエルさんとフローランさんの問題ですので、僕が口出しする事じゃないです」
ミエルさんに頼まれたら別ですけど、頼まれてないのであれば何もしない方が良いでしょう。少なくとも、ミエルさんに相談せずに即決する事じゃないですね。
「それに、フローランさんも団長さんですよね?突然辞めたら部署の人達が困るんじゃないですか?」
「それはまあ……」
「だったら止めましょうよ」
「……分かったぞ」
フローランは座るとニヤリと笑って口を開いた。
「俺に負けるのが怖いんだろ?」
「そうですね」
「違うというんなら潔く戦って……はぁ?」
僕の答えが意外だったのか、フローランさんが再び目を丸くします。流石にこれ以上待つと料理が冷めきっちゃいますね。食べながら話しますか。
「お前、神級スキルの使い手の癖に俺に負けるのが怖いのか?」
「初めて戦う人は手の内が分かりませんし、負ける可能性は十分あります。スキルで勝敗が決する訳でもありませんしね」
スキルだけで勝負が決まるんだったら、僕がホウリさんに勝てないのはおかしいです。
僕はお味噌汁を飲みながら話を進めます。
「しかも、団長さんってどの部署の人も強いんですよね?だったら負ける可能性は大いにあると思いますよ?」
「ロワ君の言う通り、こいつはムカつくけど戦闘の腕は確かよ」
「ですよね。そういう訳なので、負けるリスクがある以上、フローランさんとは戦いません。あ、負けたら辞めるって条件が無ければ戦ってもいいですよ」
団長さんと戦うのはいい経験になりそうです。
今度こそ話は終わったと思った僕はサクサクのアジフライにかぶりつきます。
フローランさんはというと、呆気にとられた様に椅子に座っていましたが、自身のトレーを持つと席を移動していきました。移動するときにキッと睨みつけて来たので、僕が嫌いだというのは本心なのでしょう。
その後、僕とリン先輩は無言で食事を勧めたのでした。
「うーん、から揚げも捨てがたいな……」
「いつまで悩んでるのよ」
ボロボロのまま、お二人は大の字に倒れています。
「み、ミエルの奴め……、手加減しろよ……」
「本当……なんでロワ君は無事なのよ」
「だよな。元はと言えば、ロワの質問が元凶なのによ」
「あははは……治療するので許してください……」
恨み事を言っているお二人をヒールシュートで治療します。
体が緑色の光に包まれ目立った傷が無くなると、お二人は立ち上がりました。
「よし!そろそろ飯に行くか!」
「すぐ前までノビてた奴のセリフじゃないわね」
「腹が減っては何とやらって奴だ。むしろ、腹が減ってたからミエルに追いつかれたんだ。きっとそうに違いない」
「あの気迫のミエルさんからは逃げられないと思いますけどね」
ホウリさんとの特訓を経て、ミエルさんの敏捷性がかなり高くなった気がする。騎士とはいえ、魔装を使ったミエルさんからは簡単に逃げられないと思う。
ケット先輩の言葉にリン先輩は呆れた表情になった。
「あんたね、もう少し真面目にやりなさいよ」
「いいじゃねえか。ロワだって腹減っただろ?」
「確かにお腹空きましたね」
「じゃあ決まりだな。今日は先輩が奢ってやるよ」
「わーい!」
「ちょっとあんたたち」
ケット先輩に肩を組まれて、そのまま部屋を出る。呆れながらリン先輩も僕たちを追って来た。
「なんだ、リンも腹減ったのか?」
「2人だけだとご飯の後にご飯の後に戻ってこないかもしれないでしょ。入ったばっかのロワ君にサボり癖付けない為に私もいくわ」
「もしかして、リンの奢りか?」
「そんな訳ないでしょ」
「ちぇー」
こうして僕達3人はご飯を食べに食堂に向かう事にしました。
お二人と共に廊下を歩いていると、お昼も間近という事もあり行きかう人の数も多くなってきました。ケット先輩はというと、向かってくる人を避けながら虚空を見つめていました。
「何食うかなー」
「どうせお肉しか食べないんでしょ?考えるだけ無駄よ」
「そんなこと無いぞ」
「じゃあ、今日は何を食べるんですか?」
「かつ丼!」
「やっぱりお肉じゃないの」
お二人と他愛のない話をしていると、食堂に到着した。
リンさんは食堂の前に置かれているメニュー表を凝視する。
「私はラーメンにしようかな?ロワ君は?」
「僕は魚が食べたいのでアジフライ定食にします」
「お、ステーキもあるな。かつ丼やめてステーキにするか?生姜焼きもいいな?」
「早く決めないと人が集まって来るわよ?」
「急かすなよ」
ケット先輩が悩んでいる間にも、人はどんどん増えていく。このままだと売り切れで買えないかもしれない。
「ケット先輩、急いだほうがいいんじゃないですか?」
「今決めるから待ってろよ」
そう言ってケット先輩はメニュー表とのにらめっこを続ける。
「これは長くなりそうですね」
「私達だけで先に入っておきましょうか?」
「それはケット先輩に悪いんじゃないですかね?」
口ではそう言いますが、僕もリン先輩の意見に賛成です。僕達だけでも並んでケット先輩には後から来てもらった方が……
「あ?お前は?」
どうするか悩んでいると、後ろから聞き覚えがある声が聞こえて来た。
振り向くと、そこには見学の時に会ったフローランさんがいました。そういえば、前にあった時も食堂で会いましたっけ?とりあえず、挨拶しておきましょうか。
「フローランさん、お久しぶりです」
「なぜ貴様がここにいる?」
「今日から騎士団でお世話になる事になりました。これからよろしくお願いします」
「新規の募集はまだの筈だが?」
「え?長官さんは別に良いって言ってましたよ?」
「あの人、適当過ぎるだろ……」
フローランさんが頭を手で押さえる。頭でも痛いのかな?
「大丈夫ですか?」
「ああ?お前に心配される覚えはないぞ?」
「そう言われても心配は心配ですし……」
「相変わらずムカつく奴だな」
フローランさんが渋い顔でそっぽを向きます。うーん、今日は機嫌が悪いみたいですね。
「じゃあ、僕達はご飯を食べに行くので失礼しますね」
「ちょっと待て」
食堂の中に入ろうとすると、フローランさんに呼び止められました。
「どうしました?もしかして、一緒にご飯食べたいんですか?」
「そんな訳ないだろ」
フローランさんが呆れた視線を向けてくる。また何か間違ったみたいです。
「それじゃ何ですか?」
「俺と戦え」
急な提案に僕は思わず目を丸くします。
不意を付かれた僕は纏まらない言葉で質問してみます。
「えっと……なんで僕が戦うですか?」
「ただ戦うだけじゃない。負けた方が騎士団を辞めるんだ」
「騎士団を辞める!?」
予想だにしていない言葉に今度は目だけじゃなくて口も開きっぱなしになる。
「どうだ?受けるか?」
「ロワ君、こんな勝負受けなくていいわよ」
僕が面食らっていると、後ろで話を聞いていたリン先輩が口を挟んできた。そんなリン先輩をフローランさんは睨みつける。
「部外者は黙って貰えないか?俺は今ロワと話しているんだ」
「可愛い後輩を守るのが先輩としての義務よ。それに、私闘は規則で禁止されてるわ。謹慎にされたいのかしら?」
「ちょっとした手合わせだ。お前らがいつもやってる事だろ?それとも、俺に負けるのが怖いのか?」
「はぁ!?」
「リン先輩!?ちょっと落ち着いてください!?」
リン先輩が顔を真っ赤にしてフローランさんに掴み掛からんとする。そんなリン先輩を僕は羽交い絞めにして抑える。
「こんな奴に言われっぱなしで黙ってられるものですか!」
「だからって暴力はダメですよ!リン先輩の方が謹慎になっちゃいます!」
「グルルルル……」
猛獣と化したリン先輩を必死に抑える。というか、力が強すぎて抑えきれないんですけど!?
「ふ、フローランさん!抑えるの手伝ってください!じゃないと八つ裂きにされますよ!周りの人も手伝ってください!」
「お、おう……」
「分かったわ……」
フローランさんや周りの人達と協力して、リン先輩を取り押さえます。もはや人じゃなくて獣を相手取っている気分です。
5分後、地面に押し付ける形でリン先輩を取り押さえる事に成功しました。
「グルルルル……」
「な、なんとかなりましたね」
「そうだな。それで、戦うのか?」
「え?この状況で聞くんですか?」
「関係ない。俺が興味あるのはお前の答えだけだ」
こんな時にも聞いてくるだなんて、よっぽど僕と戦いんだろう。そう言う事なら仕方がない。
「分かりました」
「戦うんだな?」
「お断ります」
「はぁ?」
フローランさんが訳が分からないと言った表情をします。しかし、その表情はニヤリとしたホウリさんが良くする表情へと変わったのでした。
「どうした?勝負するのが怖いのか?」
「そうよ!こんな奴なんかぶっ飛ばして騎士団から追い出しなさいよ!」
「リン先輩は反対してましたよね?」
僕たちが騒ぎすぎてしまったせいで、周りの人達の視線も僕らに向いています。このままだと周りの人達に迷惑が掛かってしまうかもしれませんね。
「場所を変えましょう。食堂でなら落ち着いて話せるんじゃないですか?」
「……分かった」
フローランさんも目立つのは本意ではないのか、僕の案に賛成してくれます。
落ち着いたリン先輩を開放して、僕らは食堂に入ります。
「カツカレーも良いな。ローストビーフ丼も捨てがたい……」
ちなみに、ケット先輩はまだ悩んでいた。
☆ ☆ ☆ ☆
食堂に入った僕らは注文を済ませて、目立たない食堂の隅の方に座ります。
僕の前に不機嫌そうなフローランさん、隣には同じく不機嫌そうなリン先輩が座っています。
……なんだか雰囲気が悪いですね?雑談でもして空気を和ませた方が良いでしょうか?
「席が空いていて助かりましたね」
「雑談は良い。お前、俺と戦わないつもりか?」
「そ、そのピザ美味しいですよね。僕もピザにすれば良かったかな~」
「飯なんてどうでもいい。さっさと答えろ」
渾身の雑談が一刀両断されました。僕の気のせいでなければリン先輩の視線が更に鋭くなってます。
これ以上、話を脱線させると更に空気が悪くなるでしょう。僕は渋々話を本題に戻します。
「だって、負けた方が騎士団を辞めなくちゃいけないんですよね?」
「その通りだ」
「じゃあやる意味ないじゃないですか」
「勝ったら俺を追い出せるんだぞ?意味があるじゃないか」
「え?なんでフローランさんを追い出す事に意味があるんですか?」
「え?」
「え?」
お二人が首を傾げて僕を見てきます。なんでしょう、話がかみ合っていない気がします。
「なんでフローランさんを追い出す事に意味があるんですか?」
「だって、こいつはミエルと仲が悪いのよ?追い出したくならないの?」
「そうなんですか!?」
「なんで気付かないのよ……」
僕の言葉にリン先輩とフローランさんが頭を抱えます。あれ?でもだとしたら不思議な事がありますね?
「ミエルさんと仲が悪いからフローランさんを追い出したいって事ですか。という事はフローランさんは僕を追い出したいんですか?」
「そうだ」
「どうしてですか?僕とフローランさんって前に食堂で会ったきりですよね?」
「お前が嫌いだからだよ」
「そうなんですか!?」
「だから、なんで気付かないんだよ……」
僕の言葉にリン先輩とフローランさんが再び頭を抱えます。今日はびっくりすることがいっぱいですね。
「え?なんで僕を嫌ってるんですか?僕、何かしましたっけ?」
「あれだけの人数の前で恥かかせといて自覚がないのか?」
「はじ?」
「……おい、こいつと話すのすっごく疲れるんだが?」
「……私も頭痛が酷くなってきたわ」
「あ、頭痛持ってますよ。いりますか?」
頭痛薬を差し出すと、お二人は無言で飲みました。よっぽど頭痛が酷かったみたいです。
「とりあえず、僕がフローランさんに何かしてしまって、それで僕が嫌いになってしまったって事なんですね?」
「そうだが、お前を追い出したい理由がもう一つある」
「なんですか?」
「ミエル・クランへの嫌がらせだ」
「ミエルさんへの?」
ここでミエルさんの名前が出てくるなんて予想外です。
「僕が辞めちゃうとミエルさんが困るんですか?」
「お前はミエルのコネで入ったんだろ?そんなお前が数日で辞めれば、あの女の顔に泥を塗れるって訳だ」
コネ?そんなのがあったんでしょうか?まあ、何か言って困惑させてはいけないので、口には出さないようにしましょう。
「フローランさんが僕に勝負を持ち掛けた理由は分かりました」
「だったら受けるな?」
「お断りします」
頭を下げて丁寧にお断りをする。さて、これで話は終わったわけだし冷めない内にご飯を……
「なぜだ!なぜここまで理解して戦おうとしない!?」
フローランさんが目をひん剥いて立ち上がります。あれ?これ話が終わってませんね?
僕は持っていた箸を置いてフローランさんに向き直ります。
「だってメリットないですし」
「俺に勝てばあの女が喜ぶんだぞ?メリットしかないだろ?」
「そこはミエルさんとフローランさんの問題ですので、僕が口出しする事じゃないです」
ミエルさんに頼まれたら別ですけど、頼まれてないのであれば何もしない方が良いでしょう。少なくとも、ミエルさんに相談せずに即決する事じゃないですね。
「それに、フローランさんも団長さんですよね?突然辞めたら部署の人達が困るんじゃないですか?」
「それはまあ……」
「だったら止めましょうよ」
「……分かったぞ」
フローランは座るとニヤリと笑って口を開いた。
「俺に負けるのが怖いんだろ?」
「そうですね」
「違うというんなら潔く戦って……はぁ?」
僕の答えが意外だったのか、フローランさんが再び目を丸くします。流石にこれ以上待つと料理が冷めきっちゃいますね。食べながら話しますか。
「お前、神級スキルの使い手の癖に俺に負けるのが怖いのか?」
「初めて戦う人は手の内が分かりませんし、負ける可能性は十分あります。スキルで勝敗が決する訳でもありませんしね」
スキルだけで勝負が決まるんだったら、僕がホウリさんに勝てないのはおかしいです。
僕はお味噌汁を飲みながら話を進めます。
「しかも、団長さんってどの部署の人も強いんですよね?だったら負ける可能性は大いにあると思いますよ?」
「ロワ君の言う通り、こいつはムカつくけど戦闘の腕は確かよ」
「ですよね。そういう訳なので、負けるリスクがある以上、フローランさんとは戦いません。あ、負けたら辞めるって条件が無ければ戦ってもいいですよ」
団長さんと戦うのはいい経験になりそうです。
今度こそ話は終わったと思った僕はサクサクのアジフライにかぶりつきます。
フローランさんはというと、呆気にとられた様に椅子に座っていましたが、自身のトレーを持つと席を移動していきました。移動するときにキッと睨みつけて来たので、僕が嫌いだというのは本心なのでしょう。
その後、僕とリン先輩は無言で食事を勧めたのでした。
「うーん、から揚げも捨てがたいな……」
「いつまで悩んでるのよ」
0
あなたにおすすめの小説
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる