魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
217 / 472

第百八十二話 たこ焼きライス

しおりを挟む
『今回の公演は以上となります。お帰りの際はお忘れ物の無いよう──』


 公演終了のアナウンスが劇場内に響く。一抹の寂しさを覚えつつ、パンフレットを持って立ち上がる。
 今の演劇は恋人同士が悲恋の死を迎えるという話じゃった。演者の演技やストーリーも唸る所があったが、バッドエンドじゃったし後味が悪かった。


「良い公演じゃったが、もう一度見る事は無いかのう?」


 悲劇よりも喜劇が好みなんじゃよな。面白かったが二度は見たくないのう。
 気を取り直してわしは今日の公演の予定表を取り出す。予定表はびっしりと前日の書き込みで埋まっている。前日に何の公演をどの時間帯で見るかの計画を立てておったのじゃ。しかし、わしの書き込みは今の公演を最後に途絶えておる。


「……これからどうするかのう?」


 今日の公演は今見たもので最後じゃ。これ以降も公演が無い訳ではないが、見たばかりの公演をその日のうちに見るのはどうかと思う。


「とりあえず昼飯を食いながら、この後の予定でも決めるか」


 最近は家に一人でいることが多い。家に籠りきりも性に合わないから外に出ておるが、毎日こうではやることが無くなる。流石にずっとホウリに頼り切りなのも悪いしのう。
 魔国にいたときは休みたくて仕方がなかったのに、いざ時間が出来ると何をして良いか分からん。


「ままならぬものじゃな」


 新たな趣味でも見つけるか。何が良いかのう?ノエルの為に裁縫でも習ってみるか?料理教室に通うのも良いのう?
 この後の事を考えながら劇場を出る。この辺りにカフェがあった筈じゃし、そこでナポリタンでも……


「ねぇねぇ、そこの彼女~」


 今はコーヒーではなくジュースの気分じゃ。レモネードでも飲んで気分をリフレッシュして……


「無視しないでよ~」
「……もしかして、わしに言っておるのか?」


 背後から軽薄そうな声をかけられる。振り向くと胸元が開いた服を着て、金色の趣味の悪いネックレスを付けた男がいた。肌は日で焼いているのか、不自然なまでに黒い。第一印象はチャラくて軽薄、じゃな。
 男はわしが振り向くと、上機嫌になって話し始めた。


「君可愛いね?今暇?俺と一緒に遊びに行かない?」
「悪いがナンパなら他所でやるんじゃな」


 こんな奴と遊ぶくらいなら、家で引きこもっておった方がマシじゃ。
 わしが手を振って追い払うも、男はしつこく言い寄ってくる。


「そんな事言わずにさ、きっと楽しいよ?」
「わしはお主みたいな奴が大嫌いなんじゃ。分かったら他所に行け」
「冷たいな~」


 これは話が通じぬ相手じゃな。無視して行くか。
 そう心に決めてわしは男を無視して、そのまま歩を進める。その態度を不快に思ったのか、強く肩を掴んできた。


「おい!こっちが下手に出てればいい気になりやがって!痛い目に合いたいのか!」
「…………」


 わしは掴んでいる手を掴むと、力を徐々に込めていく。


「うぐえええ!?」


 ミシミシと骨の軋む音が聞こえるが、わしは力を緩めずに掴む。ダメージはヒールで治療し、回復したら握ってダメージを与える。
 あまり騒がれるのもの面倒じゃし、サイレスで声が出ないようにしながらわしは手を掴み続ける。


「………………!?」


 男は声を上げることもできず、脂汗を流しながら膝を付く。
 そこまで見届けたわしは手を放してサイレスを解除し、男の耳元に口を寄せる。


「失せろ」
「ひっ……」


 男は悲鳴も上げずに、全速力で走り去っていった。
 その後ろ姿を見ながら、わしの心の中に少しやりすぎたのではないかという思いが湧いてくる。


「……まあ、ダメージも治療したし大丈夫じゃろ」


 少しテンションが下がってしまったのう。ここはカフェで一服ではなく、高めのレストランで美味いものでも……


「すみません」


 そう思った矢先にまたしても背後から声をかけられた。
 またナンパか?今日は厄日じゃな。
 わしはうんざりしながらも振り向く。


「なんじゃ?ナンパなら他所で……」


 声をかけた奴が視界に入った瞬間、わしの体が固まった。
 そこには小太りのスーツを着た男が、汗を流しながら立っていた。男は懐から名刺を取り出してわしに差し出してきた。


「初めまして、私の名前はクランチと申します。演劇の監督をしております」
「よく存じておるわい」


 演劇好きの間でクランチ監督は有名じゃ。あのプリにゃんの監督を3期連続で勤め、その公演は全てにおいて高い評価を得ておる。
 その後も、コメディからシリアスまで幅広い公演を手掛けておる。その脚本は素晴らしいものじゃが、もっとも素晴らしいのはキャスティングにある。
 どれだけ素晴らしい脚本があっても、キャスティングが合わなければ劇は台無しになる。しかし、クランチ監督はプロやアマチュアを問わず、多様なキャスティングをして劇のクオリティを上げておる。
 よくも悪くも演技一筋、そんな監督がわしに何の用じゃ?


「ああすみません。驚かせるつもりはなかったんですよ」


 わしが話さなくなって焦ったのか、クランチ監督が頭を下げる。


「い、いや有名な監督に合えて感激しただけじゃ。じゃから頭を上げてくれぬか?」


 有名な監督でなくても、真昼間に男が女に頭を下げている様子は見栄えが悪い。
 わしの言葉でクランチ監督が頭を上げる。


「そうでしたか。いやー、急に声をかけて悪いと思ったんですけどね。ここを逃してはいけないって思うと体が勝手に動いてしまうもので」
「それも存じておる。それで、わしに何か用か?」
「ああ、そうでした。それでは、単刀直入にお話しします」


 クランチ監督はそういうとニッコリと笑顔を張り付けながら言った。


「今度の劇に主役として出てみませんか?」
「…………は?」


 わしも年を取ったのかのう?ありえん聞き間違いをしてしまったわい。


「すまぬ、よく聞こえんかった。もう一度言ってくれぬか?」
「あなたに次の劇の主役をやって欲しいんです」


 ふむ、聞き間違えではなかったんみたいじゃな。


「って、えええええええええええええええええ!?」


 この100年で一番の衝撃がわしの脳に走る。
 開いた口を何とかふさぎつつ、わしは纏まらぬ頭を使って言葉を紡ぐ。


「え?あ?なんでわし?」
「次の劇が気の強い女性が世間のしがらみをなぎ倒していく、という脚本でして。キャスティングに悩んでいると、ちょうどあなたがナンパを追い返しているのが見えたんです」
「あれを見とったんか……」


 有名な人に見られていると思うと、少し恥ずかしいのう。というか、あれってあっちから仕掛けてきたとはいえ、犯罪ではないか?
 そこに気づいたわしの体から思わず大量の汗を流してしまう。
 その様子を見たクランチ監督は困ったように首を振った。


「いえいえ、憲兵に通報といったことはしません。むしろ、通報されたら正当防衛と証言します」
「それは助かる」


 クランチ監督の言葉に少し安堵する。
 安堵したついでにわしの頭も冷え、少しずつ状況を把握していく。


「えーっと、気の強い女性の役を探していたらわしが目に留まったんじゃな?」
「その通りです」
「気の強い役ならほかの女優でも出来るじゃろ。ほら、『ショウムース』に出とったファルとか」
「あんなマイナーな劇、よく知ってますね。流石は常連さんです」
「わしの事見ておったのか?」
「この劇場に来るといつも見てましたので、かなり熱心な常連さんだと思ってましたよ」


 クランチ監督に顔を知られておったとはのう。嬉しいやら恥ずかしいやら……。


「話を戻しますね。確かにファルさんでもその役は出来るでしょう」
「じゃったら……」
「しかし、私はただ出来る役者を求めていません。その役にピッタリなキャスティングをしたいのです」


 クランチ監督が熱心に訴えてくる。その熱心な目を見て、わしはさっき自分が考えていたことを思い出す。
 クランチ監督はキャスティングに特に拘る監督じゃ。そのクランチ監督がわしがピッタリというのであればその通りなんじゃろう。


「勿論、無理にとは言いません。人には向き不向きがありますからね」
「……わしが断ったらどうなる?」
「もう一度ピッタリな人物を探して……見つからなかったらあなたが言っていたファルさんに頼むことになるでしょう」
「じゃよな」
「ですが、私はあなたにやって欲しいです。仕草や身振り手振り、色々な公演への知識、ナンパにも怯まない胆力、どれをとっても私の思い描いていた通りです」
「むう、少し考えてもいいか?」
「勿論です。私は明日の正午までこの劇場にいますので、それまでに答えを聞かせてください」
「……一つ良いか?」
「なんでしょうか?」


 わしは一番気になっている事をクランチ監督に尋ねる。


「もし、その話を受けたとして、王都から離れる必要は出て来るのか?」
「いえ、その劇は王都でしか行いませんので、王都を離れる事はありません」
「そうか」
「他に質問はありますか?」
「いや無い」
「わかりました。いいお返事、期待してますよ」


 そう言うとクランチ監督は世話しなく劇場へと戻っていった。
 後には劇場に並んでいる人と立ち尽くしたわしだけが残っておる。劇場を出た時と同じ光景じゃ。
 手に持っている名刺が無ければ夢だったとすら思えるほどに衝撃的な出来事。恐らく、クランチ監督への回答次第でわしの今後が大きく変わっていくじゃろう。


「……とりあえず、目的のカフェにでも行くか」


 ここで悩んでいても仕方がない。後で皆に相談しよう。
 そう思ったわしはカフェに向かうのじゃった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...