魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百八十一話 飲んどる場合かーッ

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 話し合いをしてから1週間、俺たちは準備を進めていた。
 俺は花見の場所の確保や仕込み、フランやロワは弁当の仕込み、ノエルは友達を誘ったりと色々と行動している。
 ミエル?好きあらば弁当を作ろうとしたから、見張りをつけてけん制している。本当だったら孫娘の手料理を食べさせた方がいいんだろうが、流石に毒物を食べさせて逮捕されたくはない。
 ミエルは不満そうだったが、今回は大人しくしてもらった。
 そんなこんなでお花見当日、俺たちは貸切った公園にレジャーシートを広げていた。


「お爺ちゃん達はまだか?」
「あと10分くらいで来るんじゃないか?」


 重箱を取り出して緑茶を入れる準備をする。今回は和食が中心だから、いつもみたいな紅茶じゃなくて緑茶が合うだろう。


「ちょっと待ってよノエルちゃん!」
「コアコちゃん!こっちこっち!」
「あんたたち、少しは落ち着いたらどうなの?」
「あんまり遠くに行っちゃダメだよー」


 向こうを見るとノエルがコアコと追いかけっこをして、サルミが呆れた表情になっている。その様子をロワは微笑ましそうに見ている。あっちは楽しそうでいいな。


「それにしても、よく貸切れたな?ここって結構人気の公園だよな?」
「わしが公園の管理会社に連絡したら快く貸切ってくれたぞ?」
「俺の名前出すように言ったからな」
「なるほど。それなら簡単に貸切れるな」


 俺は簡単じゃないんけどな?


「それにしても満開だな」


 俺が見上げると満開に咲き誇る桜の花が目に入った。散ってる花びらが幻想的だ。
 この花は地球の桜と見た目はかなり似ている。手入れが大変みたいだが、見る分にはあまり遜色はないな。


「今日が一番見ごろらしいぞ?」
「そうなのか。タイミングがいいな」
「今日はあんまり花の咲き具合は意味ないけどな」


 花見はあくまで口実に過ぎない。目的は2人にノエルを諦めてもらう事だ。


「まあ、桜が綺麗であるに越したことはないじゃろ」
「それもそうだがな」


 今回は俺達が花見をするから、前回のお詫びとして2人を招待したというテイだ。あくまでも主役は俺達、2人はお呼ばれしたゲストだ。そうかしこまらなくても良いと全員には伝えてある。
 こうすれば2人に不信感を与えずに策を使うことが出来る。


「2人が来るまで桜でも見ながらのんびりとしておくか」
「そうだな」
「お茶を貰えるかのう?」
「了解」


 俺は魔法瓶からお湯を注いでお茶を作る。久しぶりにまったりとした時間が過ぎていく。普段はせわしなく情報を集めているから、こういう時間は貴重だ。
 3人でまったりとお茶を飲んでいると、向こうから人影がこちらに近づいてくるのが見えた。


「あれは老人どもか?」
「500歳が90歳を老人呼ばわりするのかよ」
「お爺ちゃん達で間違いないみたいだな」


 ミエルの言う通り、向かってくるのはバーリングとエンゼだった。バーリングには弟子のラザンが、エンゼには右腕であるアラザが付いている。俺が2人もぜひ一緒にと言っておいたんだ。
 相変わらず2人は言い合いをしながらこちらに向かってくる。


「なぜ貴様もここにいるんだ」
「毎回同じことを聞くな。私はノエルの祖父だ」
「俺だってそうだ!」
「いちいち、うるさいな。もう少し静かにできんのか?」
「なんだと!?」


 最近は見慣れてきたが、本当に仲が悪いんだよな。
 不機嫌そうにしていたバーリングだったが、俺達が見えるところまで来ると笑顔で手を振ってきた。


「よお、ホウリ。今日は呼んでくれてありがとな。これ、お土産だ」
「ありがとうございます」


 俺は差し出された箱を受け取って開けてみる。
 箱の中には渋い色の皿が入っていた。すこしゴツゴツしているが、中々良い色身をしている。


「これはバーリングさんの作品ですか?」
「そうだ。ぜひ使ってくれ」
「ありがとうございます」


 アイテムボックスに皿をしまってバーリングにお礼をする。
 バーリングは陶芸家で、その作品はかなり人気が高い。しかし、あまり金儲けには興味がないみたいで、作品を安値で売っている。そのせいであまり金がないみたいだ。本人はやりたい事をやれていて満足しているみたいだけどな。
 俺が皿をアイテムボックスに仕舞ったのを見て、エンゼもアラザから紙袋を受け取って俺にさしだしてくる。


「ホウリ君、今日はお招きありがとう。これは皆で食べてくれ」


 袋の中を覗いてみると、有名店であるタイガー屋のどら焼きが入っていた。俺でも手に入れるの苦労する一品だ。
 エンゼは世界一の貿易会社を運営している。この世の金の5%を保有していると言われる程の資産家だ。それだけの資産家であるだけあり、一日中デスクに座りっぱなしや、1年間家に帰れない何て事もあるらしい。


「ありがとうございます」


 俺は丁寧にアイテムボックスにどら焼きを仕舞う。あとで有難くいただこう。


「皆さんも揃った事ですし、お花見を始めますか。ミエル、重箱を取ってくれ」
「わかった」
「フランはロワ達を呼んできてくれ。俺はお茶を入れておく」
「了解じゃ」


 フランは靴を履いてロワ達の所へ向かう。
 俺は魔法瓶からお茶を淹れて2人に差し出す。


「どうぞ」
「ありがとよ」
「いただこうか」
「アラザさんとラザンさんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」


 4人はお茶を飲むとフーッと息をはいた。
 

「このお茶、上手いな」
「キンク地方にある散茶だな。中々味わい深い」
「ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、向こうで遊んでいたノエルが突撃してきた。


「わーい!おなかすいた!」
「こら!走ったら危ないでしょ!」
「あはは……」


 子供組が元気よくブルーシートの上に飛び乗る。


「ホウリお兄ちゃん、お皿ちょーだい」
「はいはい。皆も遠慮しないで食べてね」
「ありがとうございます」
「言われなくても遠慮しないわよ」


 全員の反応が三者三葉で面白い。よく仲良くなれたな。これもノエルの性格か。
 重箱を開けて、皆で中身をつつく。


「唐揚げ美味しい!」
「卵焼きも出汁が利いてて良いですね」
「ふむ、この煮物も味が染みてるな」
「全体的に高クオリティだ。流石ホウリ君だ」


 子供もお年寄りも食べられるように色々な種類を用意したが、非常に好評のようだ。少し多めに作ったがもう無くなりそうだ。
 ラザンやアラザの方を伺ってみるが、2人も美味しそうに料理を食べている。アウェーで緊張していないか心配だったが、杞憂だったみたいだな。
 ご飯も進み、重箱の中身が少なくなってきた所を見計らって、俺は話を切り出した。


「そういえば、バーリングさん。見てもらいたい物があるんですよ」
「見てもらいたい物?」
「俺が作った皿があるんですけど、よかったら評価してくれませんか?」
「おお良いぞ。見せてみろ」


 俺は皿を取り出してバーリングに差し出す。
 取り出した皿は珍しく真っ白な皿だった。しかし、どことなく高貴な雰囲気が漂っている。
 皿を見たバーリングは握りしめながら目を見開く。


「これは凄い。俺が作るものとは違う良さがある。少し作りこみが甘いが修行次第では化けるぞ」
「ありがとうございます」
「ホウリ、やっぱり陶芸やらないか?お前ならわしを超えるかもしれんぞ?」
「すみません、やることがあるので陶芸家にはなれないです」
「そうか……」


 バーリングが残念そうに俯く。気に入ってくれたようで何よりだ。
 俺は次にエンゼに視線を向ける。


「エンゼさん、前に一部事業の改善案が欲しいって言ってたじゃないですか」
「そんな事言ってた事もあったな」
「俺なりに資料にまとめてみたのでどうぞ」
「見てみよう」


 資料を受け取ったエンゼは眼鏡をかけて読み始める。
 しばらく資料を読んでいたエンゼだったが、読み終えると感心したように顎を撫でる。


「ほお、これは良く出来ているな」
「ありがとうございます」
「だが、すぐに使える域には無いな。だが、少し改善すれば使えるだろう」
「良ければお持ちください」
「そうさせて貰おう」


 エンゼは俺から貰った資料をアイテムボックスに仕舞う。うんうん、ここまでは予定通りだな。
 ここで俺は2人にとある事を伝える。


「バーリングさん、陶器の底にある銘を見てください。エンゼさんは最後のページのサインを見てください」
「ん?」
「何かあるのか?」


 不思議そうに2人は指定された所を見てみる。瞬間、2人の目が大きく見開かれた。


「アラザ!?」
「ラザン!?」


 2人は自分で連れてきた弟子と右腕の方へ思わず視線を向ける。


「これお前が作ったのか!?」
「いつの間にこんな事してたのだ!?」


 そう、この皿や資料を作ったのはアラザとラザンだ。2人にはエンゼやバーリングに自分の作品を俺が作ったとして見せる事を伝えていて、あらかじめ作ってもらった。
 なぜそんな事をしたのか。それはとある事をするためだ。


「お二人とも、なぜ俺がこんなことをしたと思いますか?」
「なぜだ?」
「お二人が周りを見ていないからです」
「なんだと?」
「だってそうでしょう?一番身近にいる人がこれだけの実力を付けていたんです。それに気づかなかったんですよね?」
「…………」


 俺の言葉に2人は押し黙る。そこに俺は畳みかけるように話を続ける。


「ラザンは朝早く起きてバーリングさんよりも多くの作品を作ってます。アラザさんは寝る間も惜しんで、経営に問題点がないか調べています。お二人とも知っていましたか?」
「「………………」」


 ぐうの音もで出ないといった様子の2人。ここまで行けば後は簡単だ。


「お二人はミエルを後継者にと言ってますね。しかし、それは本当にミエルの事を見て言ってますか?孫娘が可愛いだけじゃないですか?嫌いな人への対抗心じゃないですか?」
「「……………」」
「失礼だと思いますが、仮にミエルがお二人の後を継いだとして、幸せにできるとは思えませんよ?」
「「………………」」


 流石にショックだったのか2人は言葉を失う。そこにミエルが話し始めた。


「バーリングお爺ちゃん、エンゼお爺ちゃん、2人が後を継がないかって言った時さ、結構うれしかったんだ」
「「…………」」
「でもね、私には私にしか出来ない事があるの。だから、お爺ちゃん達はお爺ちゃん達にしか出来ないことをして欲しいな」
「ミエル……」


 2人は放心したようにミエルを眺める。
 ミエルは2人にうんざりしていたが、嫌っている訳じゃない。2人がミエルを見ていると、2人にとってもあまり良くない、ミエルはそう考えていたようだ。


「……わしらは周りを見ていなかったのか?」
「……そうかもしれんな」


 2人が湯呑を持ちながら桜を見上げる。
 俺が原因なんだがしんみりしてきたな。こんな雰囲気は花見にふさわしくない。


「お二人とも、こういう時は……」
「こういう時は?」


 俺はアイテムボックスから一升瓶を取り出してニッコリと笑う。


「飲みましょう」
「は?」
「嫌な時は飲む。これで大抵なんとかなりますよ」


 紙コップを取り出して2人に無理やり押し付ける。


「え?ちょっと……」
「はい注ぎますよ」


 紙コップに酒を注いで飲むように促すと、2人は渋々といった様子でのみ始めた。


「……美味いな?」
「そりゃいいお酒ですからね」
「もう一杯いただこうか?」
「良いですよ?」
「ずるいぞ!俺にもくれ!」
「沢山あるから大丈夫ですよ」
「わしにもくれるか?」
「良いぞ」
「ノエルも欲しい!」
「ノエルはダメ」
「ケチー!」


 こうして、花見は酒盛りに変わった。
 この日から二人のお爺ちゃんはミエルを後継者にすると押しかけて来る事はなくなった。
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