魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百八十話 じっちゃんの名にかけて

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 やる事を終えた俺は久々に明るい内に帰宅していた。


「夕飯までには時間があるな。ちょっと手の込んだ料理でも作るか」


 何を作るか頭の中で考えながら家の門を押す。すると、家の中から老人達が怒鳴りあう声と、若い女が叫ぶ声が聞こえてきた。


「なぜ貴様がいるんだ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「二人とも落ち着いて!」


 その声を聞いた俺は回れ右したくなる気持ちを必死に押さえる。


「……行くか」


 絶対に面倒な事になってる。けど、ここで逃げても状況が悪化するだけだ。
 意を決して門を開ける。門から玄関までがやけに長く感じる。こんなにも気が重くなるとはな。


「ただいまー」
「おお!お帰りホウリ!」


 玄関を開けると、リビングからミエルが駆けてきた。


「よお、お客さんか?」
「その通りだ。助けてくれ」


 真剣な表情で迫って来るミエル。相手が相手なだけにしかたないか。


「事情は分かっているのだろう?何とかしてくれないか?」
「分かったよ」


 俺は溜息を吐きながらリビングに入る。すると、予想通りミエルの祖父である金持ちのエンゼと貧乏のバーリングが言い合いをしていた。


「ここは貴様のような貧乏人が来るところではない」
「俺はミエルの祖母だ!貴様こそ、どんな権利でここにいるんだ!」
「私だってミエルの祖母だ。貴様よりも立派だぞ?」
「なにを~?」
「お二人とも、何してるんですか?」


 俺はわざと低く響く声で二人に話しかける。
 俺に気付いた二人は老人とは思えないスピードで距離を詰めて来た。


「ホウリ!こいつの方が場違いだよな!?」
「ホウリ君、この分からずやにここがどんな所か教えてやってくれ」
「そうですね……」


 二人の言葉に俺は優しく微笑んで口を開く。


「お二人とも邪魔です」
「「は?」」
「今からノエルが帰ってきます。小学生にこんな言い合いを聞かせるつもりですか?」
「だが、元はと言えばこいつが」
「私は悪くないのだが」
「争いは同じ次元でしか発生しません。口答えするならお二人まとめて出禁にしますよ?」


 俺の圧が伝わったのか二人は押し黙る。
 俺は玄関の方を指さしながら俺は再び笑顔で言う。


「お帰りはあちらです。今度はこちらから招待させていただきますので、今日はお引き取りください」
「……そういう事なら仕方ない」
「……ここは素直に引き下がろう」


 二人は走りながら競うように出ていった。
 それを見たミエルは胸を撫でおろしてリビングに入ってきた。


「すまないホウリ。急にお爺ちゃん達が来てしまってな」
「どうせ『ミエルを後継者に』とか言ってたんだろ?」
「その通りだ」


 あの2人はちょくちょく遊びに来ている。だが、その目的はミエルを後継者する事だ。だが、最近は来る頻度が上がっていて、少し迷惑している。


「ミエルは今日は早く帰って来たんだな。仕事を引き受けてくれた奴がいたのか?」
「その通りだが、なぜ知っている?」
「確かロワは新人研修だったか。だったら少し遅くなるな」
「本当に、なぜ騎士団の内部事情を知っている?」
「俺に隠し事が通用すると思うなよ?食堂で誰が何を食ったかも把握してるからな?」
「お前の情報収集能力は本当に意味が分からないな」


 ミエルのじっとりとした視線を受けつつ、俺はキッチンに向かう。


「今からカレーを作る。ミエルも手伝ってくれないか?」
「私が料理してもいいのか!?」
「食材を切るだけだぞ?味付けとかは絶対にさせないからな?」
「ちぇ」


☆   ☆   ☆   ☆


「よし、後は煮込むだけだな」


 カレーの鍋の火を弱くする。これでしばらく煮込めば完成だ。


「お疲れさん」
「……なあ、やっぱりこのスパイスも入れた方が良いんじゃないか?」
「知ってるか?洗剤はスパイスって言わないんだぜ?」


 火は弱くしてあるし、何かあれば自動で止まる。リビングで休んでも問題ないだろう。
 

「何か飲むか?」
「先に洗い物をしておくからいらない」
「そうか」


 ジュースを取り出そうと冷蔵庫を開ける。すると、玄関が開き元気な声がキッチンまで響いてきた。


「ただいまー!」
「ノエルか」


 俺はリビングまで言ってノエルを迎える。


「おかえり」
「あ、ホウリお兄ちゃんだ!」


 俺を見るなり、制服姿のノエルが猪並みのスピードで突進してくる。俺はノエルを優しく抱き留め──


「痛っ」


 無防備な頭に手刀を振り下ろす。


「いきなり飛び込んでくるな。危ないだろ」
「えへへ、ごめんなさい。あれ?」


 ノエルは何かに気が付いたのか、スンスンと匂いをかぐ。


「もしかして、今日のご飯はカレー?」
「よく分かったな?」
「やったー!」


 カレーだと分かった途端に飛び跳ねて喜ぶノエル。


「出来るのはもう少し後だ。今の内に着替えてこい」
「はーい」


 ノエルは上機嫌で2階に上がっていく。
 すると、再び玄関が開いてロワとフランが帰って来た。


「ただいま戻りましたー」
「ただいまじゃー」
「おかえり」
「お、今日はカレーですか?」
「正解」
「やったー!」


 ロワもノエルと同じように飛び跳ねて喜ぶ。小学生と同じ反応か。


「あれ?ホウリさんどうしました?」
「何でもない。それよりも相談したい事がある。運動しながら皆で話そうぜ」
「了解じゃ。庭に集合でよいか?」
「それでいい」
「わかりました。ミエルさんとノエルちゃんにも声をかけておきますね」
「頼んだ。武器も忘れるなよ」



☆   ☆   ☆   ☆



「また奴らが来たんか」


 俺の話を聞いて、忌々しそうに呟きながら杖で殴り掛かってくるフラン。
 バーリングとエンゼにはフランも迷惑そうにしていたし、この反応も当たり前か。


「この調子だとまた来るだろうな」
「いっそ出禁を言い渡してはどうじゃ?」
「むやみに出禁にすると都合が悪くてな」


 俺は杖をいなしながらフランの腹にこぶしを叩き込む。
 エンゼはこの世界で最大の貿易会社をしていて、バーリングは腕のいい陶芸家として有名で発言力がある。この2人と仲が悪くなる事は避けたい。


「確かにさっきのような対応はいつまでもは出来ないだろうな」
「じゃあどうするんですか?」


 ロワの放った矢をミエルが大剣で切り裂く。すると、切り裂かれた矢から黒い煙が噴き出し、ミエルを覆った。
 視界が利かなくなったミエル目掛けてロワは弓を引き絞る。


「ミエルさんが団長である以上、どちらかを継ぐ訳にはいきませんしね」
「うーん、なんでお爺ちゃん達はミエルお姉ちゃんを継がせたいんだろ?」


 ロワの隙を突いてノエルがナイフで襲い掛かる。
 ロワは寸での所で回避して、ワープアローを使ってノエルから距離を取る。


「それは可愛い孫だからじゃない?」
「か、可愛いだなんてそんな……」
「ロワの言葉は別にミエルを褒めた訳じゃないからな?」


 俺はミエルがいる黒煙に向かって爆破キックを繰り出す。


「まあ、ロワの言ったことも理由の一つだろうな」
「まだ理由があるといった口ぶりじゃな?」
「その通りだ」


 爆破キックをミエルの盾で弾かれ、俺は地面に着地する。そして、着地の隙を狙って放たれたロワの矢を受け止めてへし折る。


「あの二人はミエルをもう一方に渡したくないんだよ」
「どういう事?」
「仲が悪いって事か?」
「それもあるが、大きな理由は価値観の違いだ」
「価値観?」


 ノエルに向かって大剣を振るうミエル。ノエルは魔装したナイフで大剣を難なく受け止める。


「エンゼは貧乏を不幸だと思っていて、バーリングは働きすぎることを不幸だと思っている。お互いが合わない理由もこれだな」
「それが家に来る理由ですか?」
「自分が不幸だと思っている生き方をしてる奴が孫娘を誑かしている。これは何とかしないといけないと思うわけだ」
「つまり、ミエルを不幸にしない為に何とかミエルを自分の後継者にしようとしている訳か?」
「勿論、ミエルに才能があると思い込んでいるのもあるけどな」


 ノエルが大剣を押し返し、そのままミエルの懐に潜り込む。しかし、無防備なミエルの腹に魔装を込めた拳を叩き込もうとした瞬間、フランから放たれた魔弾がノエルに炸裂する。


「そう言われると余計に無下に出来ないな」
「ですが、ミエルさんは騎士団の団長です。そんなミエルさんが他の仕事に就くとは思えません」
「可能性が0じゃないから心配なんだろ。フランのノエルに対する愛情くらい深いんじゃないか?」
「ほざけ、わしの愛情がそんなに小さいわけないじゃろ。わしなら出禁ごときで引き下がらん」
「はいはい凄い凄い」


 俺はフランにワイヤーを巻き付け動きを一時的に封じる。そして、ノエルの攻撃を受けなかったミエルがスラッシュをフランに放つ。


「だったらさ、お爺ちゃん達はこれからもお家に来るの?」
「それは嫌じゃな。いっそのこと始末するか?」
「なんで一番の不正解を生き生きと提案してくるんだ?」
「ホウリさんは何か案はあるんですか?」
「今から考える。誰かいい案がある奴は言ってみてくれ」
「暗殺」
「却下」


 スラッシュはフランに命中し大きく吹き飛ばした。俺はフランにつられて吹き飛ばないように拘束を解除する。そして、今度はミエルに向かって新月を振るう。


「うーん、一番はお二人が仲良くなる事なんですけどね」
「だったらさ、一緒にご飯食べれば良いんじゃない?ご飯を食べたら仲良しさんになるよ」
「じゃあさ、皆でお花見でもする?ちょうど公園のお花が満開みたいだよ?」
「そんなので関係が改善するかのう?」
「無理じゃないか?」
「……いや、案外いいかもしれないぞ?」


 新月は火花を散らせてミエルの鎧に弾かれる。しかし、俺は火花で視界が悪くなった瞬間を狙い、ミエルの鎧に爆弾を仕込む。


「なんじゃ?お主も一緒に飯を食えば仲良くなると思っておるのか?」
「違ぇよ。ちょっと良いこと思いついただけだ」
「貴様の良いことは信用できないのだがな?」
「聞くだけ聞いてくれよ。要はお互いにミエル以外の後継者を見つければいいんだ。つまり……」


 ミエルは俺が仕込んだ爆弾に気づき、仕込まれた爆弾を遠くに投げる。
 俺は慌てずに仕込んでいたもう一つの爆弾のスイッチを起動する。足に仕込まれていた爆弾が轟音を挙げて爆発し、ミエルの体制が崩れる。
 崩れてくるミエルに合わせるように俺は膝蹴りをミエルの顔面に叩き込む。
 しかし、俺の膝蹴りを食らってもなお、ミエルはダメージを受けた様子を見せずに立ち上がった。
 俺は反撃を受けないように後ろに跳んで距離を取る。瞬間、青い光が視界外から飛んできて、ミエルのこめかみに命中した。
 青い光はミエルの頭に命中した後、クルクルと回転して上に上がった。それは夕日に照らされて輝きを放つトリシューラ(複製)だった。
 本来ならば戦闘どころか死んでいても可笑しくない一撃。しかし、それを受けてもなおミエルは起き上がってきた。


「…………ということだ」
「お主にしてはまともな案じゃな」
「これなら上手くいきそうですね」
「問題は決行する日だな」
「そこは俺が調整する。俺にしか出来ない仕込みもあるしな」
「それは頼もしいですね」
「皆でお花見?」
「ああ、何なら友達も誘っていいぞ」
「良いの!?」
「好きなだけ呼んで来い」
「わーい!」


 そこまで話を進めた俺は新月をアイテムボックスにしまう。時間的にそろそろ良いだろう。


「そろそろカレーが出来る頃合いだ。話し合い兼乱闘訓練はこれでおしまいだ。準備してくるから手を洗ってこい」
「わーい!やったー!」
「そういえば腹が減ったのう」
「カレーの具はなんだ?」
「シーフードだ」
「良いですね~、ちょうど海鮮を食べたいと思ってたんですよ」


 ノエルが家の中へ駆けていき、それをロワが追う。その様子を微笑ましく見ながらミエルとフランが続いた。
 さてと、花が散るまでに終えられるかな?
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