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第百八十七話 なぁにこれ?
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冒険者パーティーであるスターダストが住んでいるとある家。今日はそんなスターダストの日常を見てみよう。
日が昇り街に朝を告げる頃、家から運動着に着替えたノエルが庭に出てきた。それに合わせるように、ホウリが家に帰ってきた。
「おはようノエル」
「ホウリお兄ちゃん、おはよー!」
「準備は良いか?」
「ばっちり!」
「じゃあ構えろ」
「はーい」
ノエルとホウリは日の出と同時に戦闘訓練をするのが日課となっている。ノエルの急成長の理由もここにある。
ノエルが笑顔のままナイフを構える。それを見たホウリも新月を構える。
互いの表情は穏やかだが、2人に油断は一片もない。武器を構えたまま2人がタイミングを計っている。
太陽が徐々に昇っていき、2人の顔を照らした瞬間、ノエルがホウリに向かって突進する。
「はあ!」
ノエルはホウリの顔面目掛けてナイフを突き出す。ホウリは慌てる様子もなく首を傾けて回避する。
ノエルは回避されのを見て、左手で拳銃を取り出す。そして、ナイフで死角になっている所から引き金を引く。
(これでホウリお兄ちゃんに大ダメージだ)
そう思ったノエルだったが、引き金を引いても弾が発射されることはなかった。不思議に思ったノエルが拳銃に視線を向けると、ハンマーにパチンコ玉が挟まっていた。
「狙いは悪くなかったぞ」
ホウリはそういうと新月でノエルを弾き飛ばす。そこでホウリとノエルは大きく距離を引き離されてしまう。
「くぅ、ホウリお兄ちゃんには通用しないか……」
「大抵の奴には通じるだろうから落ち込むな。というか、魔装とセイントヒールは使わないのか?」
「前にフロランちゃんと戦った時に、中々勝負がつかなくて。もっと戦い方を練習しないとって思ってさ」
「なるほどな。そういう事ならここからは手加減無しで行くか」
「今まで手加減してたの?」
「新月しか使ってなかっただろ?本気なら爆薬もワイヤーも使う」
「そういえばそっか」
ノエルは納得したようにナイフと拳銃を構える。それを見たホウリはさっきと同じように新月を構える。
「いっくよー!」
「来い!」
ノエルは突進しながらホウリに向かって連続で発砲する。ホウリは弾丸を新月ですべて叩き落とす。
こうしてホウリのノエルは30分戦った後、家の中まで戻ったのだった。
家の中ではロワが朝食を用意して、リビングに並べていた。
「おはようございます。今日も特訓ですか?制が出ますね」
「むぅ……」
「その様子を見るに、ホウリさんに負けちゃったのかな?」
「今日もかすり傷すら付けられなかったよ……」
「魔装とセイントヒールを使わなかったにしては頑張ったと思うぞ?」
3人で話しているとミエルとフランもリビングに入ってきた。
「おはよう。今日も皆早いな」
「おはようじゃ……」
「おはようございます」
「おはよー!」
「おはよう。全員そろったし朝飯にするぞ」
全員が席に着き一斉に手を合わせる。
「「「「「いただきまーす」」」」」
朝食を食べながら、それぞれは会話をし始める。
「今日の特訓はどうだったんだ?」
「今日も勝てなかったよ~」
「残念だったな。だが、頑張って続けていけばホウリに勝てるだろう」
「ありがと……。でも、今日は何がいけなかったんだろ?」
「技術不足と攻撃方法の選択だな。具体的には……」
「フランさん、いつもより眠そうですね?」
「遅くまでホウリと台本の読み合わせをしていたからのう。おかげで寝不足じゃわい」
反省や雑談を交わしつつ、スターダストのメンバーは交流を深める。
朝食が終わると各々はそれぞれで準備を始める。ノエルやロワ、ミエルは制服に着替え、ホウリは動きやすい格好に着替える。
フランはというと大きくあくびをすると、再び2階に上がっていった。
「あれ?フランさんは出かけないんですか?」
「今日は少し遅めに出かけるのでな。それまで寝るわい」
「おやすみなさーい」
「うむ」
足取り重くフランは2階へと上がる。後の4人はそれぞれの向かうべき場所へと向かう。
ノエルは自身が通っている学園へと向かう。その途中、ノエルはとある人物を見つけて駆け寄った。
「コアコちゃ~ん!」
「あ、ノエルちゃん。おはよう」
「おはよー!」
駆け寄った勢いそのままにノエルはコアコに抱き着く。
コアコはノエルを受け止めると、そのまま後ろに倒れこんだ。
「痛たたた……」
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
ノエルはこっそりとセイントヒールでコアコを治療する。そこに通りがかったサルミが呆れたように息を吐く。
「あんたね、後先考えるってことを覚えなさいよ。コアコが怪我したらどうするつもり?」
「大丈夫だよ」
「なんでよ」
「だって……」
『セイントヒールがあるから』という言葉をノエルは飲み込む。
「なによ?」
急に黙ったノエルを不審に思ったのか、サルミが眉を顰める。
セイントヒールがある事は秘密にする、そう決めたことを思い出してノエルは焦り始める。
「だって……、ポーションとか色々あるし?」
「あんた、何か隠しているわね?」
「そそそそそんな事ないよ?」
「嘘が下手ね」
「ノエルちゃんって何でも出来るように見えて、意外と抜けてるよね」
「むう、そうかな?」
「コアコの言う通りよ。自覚しなさい」
ノエルとコアコにサルミも加わり通学路を歩く。
「そういえば、昨日パンプを助けるって言ってたけど、何か目途は立ったの?」
「ホウリお兄ちゃんなら手術で治せるんだって」
「そうなの!?だったらもう大丈夫だね!」
「……うん!もう大丈夫だよ!」
ノエルは精一杯の笑顔で答える。しかし、その顔を見たコアコとサルミは心配そうな表情へと変わる。
「やっぱり嘘が下手ね」
「何かあったの?」
2人の顔を見てノエルは嘘がバレたことを察する。
「……やっぱりノエルって嘘が下手なのかな?」
「さっきも言ったでしょ。で、パンプの手術には何か必要なの?」
「ホウリお兄ちゃんからおつかいを頼まれちゃって」
「私達に出来ることがあったら何でも言ってね」
「手間のかからない事だったら手伝ってあげるわ」
「ありがと、コアコちゃん、サルミちゃん」
「そんな事より、早くしないと遅刻するわよ」
「え!早く行かないと!2人とも行くよ!」
2人の手を引いてノエルは走り出す。その胸の中には何か暖かい物があふれていた。
一方、ロワとミエルはというと、2人で仲良く騎士団へ向かっていた。
「今日は何をするんでしたっけ?」
「近いうちに遠征がある。その遠征の詳細の確認だ」
「遠征ですか。いよいよですね」
「ロワは初めての遠征になるな」
「スターダストとしては色々と行ってますけど、騎士団としては初めてですね。相手は誰ですか?クラーケン?クワガンとかフラワーアイとかの軍団モンスターですか?」
「あんなのがポンポン出てきてたまるか。ゴブリンやコボルトの群れが相手だ」
「なんだ。簡単ですね」
「そうやって調子に乗っていると、また足元を掬われるぞ?」
ミエルの言葉にロワはバツが悪そうに顔を背ける。
「あははは、肝に銘じておきます」
「ホウリがロワを心配しているのが分かるな」
「面目ないです」
ロワが頭を掻きながら笑う。瞬間、一陣の風が吹きロワの顔を覆っていた布がめくれる。
「わっ……と」
ロワは焦って布を押える。周りを見渡してみるが、ロワへ視線を向けている者はいなかった。
ロワはホッと胸を撫でおろし再びミエルに視線を向ける。
「危なかったです。何か布以外の物も考えた方が良いですかね?」
「…………」
「ミエルさん?」
視線を向けるとミエルはロワから顔を背けていた。よく見ると耳が真っ赤になっている。
風で顕わになったロワの素顔を見てしまった影響だが、ロワはそれに気が付かない。
「ミエルさん?どうかしました?」
「な、なんでもない。早く行くぞ」
「ちょっと、ミエルさん!?」
誤魔化すように走り出したミエルをロワは追いかける。その後、顔を真っ赤にしながらロワと出勤したミエルは団員に質問攻めにあったのだった。
昼、仮眠を取っていたフランは起床し家から出発した。目的地はとある劇場だ。
「うう、まだ眠いのう」
目を擦りながら人通りの多くなった道を進む。足取りは安定せず、時々他の人にぶつかりそうになる。
「うお!危ないじゃないか!」
「……ああ、すまぬ」
寸での所で躱すがその姿は誰が見ても不安定だった。だが、理由が寝不足だとは夢にも思わないだろう。
何とか劇場にたどり着いたフランは裏口から中に入る。
「あ、フランさんではないですか」
「クランチ監督か」
「凄い顔ですよ?大丈夫ですか?」
「遅くまでホウリと台本の読み合わせをしていてのう。少し仮眠を取ったが眠いんじゃ」
「それは大変ですね。少し休みますか?」
「いらぬ。ホウリはおるか?」
「先ほどいらっしゃいましたよ。稽古場に向かいました」
「他のキャスティングは決まったか?」
「それが……まだなんです」
「わしが言う事ではないと思うが、そろそろ決めた方が良いのではないか?」
「そうですよね……」
クランチも自覚しているのか、悩まし気にこめかみを押える。
「後でホウリさんに相談してみますかね?」
「それが良いじゃろう」
「それでは私はこれで」
「うむ、またのう」
フランはクランチと別れ稽古場へと向かう。稽古場にはパイプ椅子に座って書き物をしているホウリがいた。
「よう、ずいぶんと眠そうだな?」
「お主が寝かせてくれんかったんじゃろ」
「その言葉だけ聞くと意味深だな。だが、そんな調子だと読み合わせするにも苦労するだろ」
そういってホウリはフラン瓶を投げ渡す。
フランが受け取ると瓶に貼られている文字を見て顔を顰める。
「レモの実100%ジュースと書いてあるのじゃが?」
「書いてある通りだ」
「今回は小細工なしか?」
「それを飲めば目が冴えるんだぞ?騙す必要あるか?」
「むう……」
レモの実が効果的なのはフランが良く知っている。しかし、その酸味も良く知っているが故に飲むのを躊躇ってしまう。
「どうした?お前の覚悟はそんな物か?」
「くう……やってやるわい!」
フランは瓶の蓋を外すと、一気に中身を呷る。
「んぐっんぐっ、ぷはー。効くのうー」
ジュースによってフランの頭が靄が晴れたようにスッキリする。だが、代償として酸味がフランの舌に多大なるダメージを与える。
「もう大丈夫だな」
「うむ、心配かけたのう」
「滅茶苦茶渋い顔をしているが大丈夫か?」
誰が見ても何かあった事が明白なほどフランの顔はゆがんでいる。とても劇の座長とは思えない。
「じゃあやるぞ。レモの実のジュースを飲んでも笑顔でいられるように特訓してやる」
「望むところじゃ!来い!」
最終決戦のように凛々しく叫ぶフラン。こうしてフランとホウリの戦いという名の読み合わせは始まったのだった。
時は経ち夕方、スターダストの面々も帰路につく。
「コアコちゃん、アルモンド君、またねー!」
「またね」
「ばいばい!」
友達と別れたノエルは家に向かう……事はなく、とある場所へと向かった。
昨日、皆と進んだ道を通り、目的地である孤児院にたどり着いた。
「パンプくーん」
ノエルはパンプを呼んで孤児院を歩く。
すると、昨日話したおばさんがノエルに気が付き、声を掛けてきた。
「あら?昨日の子じゃない?どうしたの?」
「パンプ君いますか?」
「パンプならブランコにいるわよ」
「ありがとうございます」
ノエルはお礼を言ってブランコへと向かう。
ブランコには昨日と同じようにパンプが座っていた。そのパンプの肩にノエルは手を置く。
「こんにちは、パンプ君」
「!?」
手を肩に置かれたパンプは肩をビクリと振るわせると、反射的に振り向いた。
振り向いた先には笑顔のノエルがいた。
「やあやあパンプ君。遊びに来たよ」
「………………」
「あ、そうか。パンプ君は耳が聞こえないんだっけ。だったら……」
ノエルはメモ帳とペンを取り出す。
「これなら話せるよね」
ノエルは「こんにちは。遊びに来たよ」と書いてパンプに見せる。しかし、パンプは紙を見ても首をひねるだけで何もしようとしない。
「……もしかして、文字も読めないの?」
その事実に気づいたノエルだったが、諦めずに思いつく限りの手段で意思疎通を図ろうとする。
30分ノエルはパンプと意思疎通しようと頑張った。しかし、時間が来てしまい泣く泣く孤児院を後にすることになった。
「じゃあねパンプ君。また来るからね」
「………………」
通じていないかもしれないが、ノエルはパンプに笑いかける。
ノエルは家まで走って帰るのだった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえり」
ノエルが家に帰るとロワとミエル、フランがすでに帰っていた。
「おかえりじゃ。遅かったのう?」
「ちょっとパンプ君の所に行って遅くなっちゃった」
「そうか。行くのは良いがあまり遅くなるでないぞ?」
「はーい」
そうこうしている内にホウリも帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりじゃ」
「遅くなって悪かったな。今から飯を作るから待ってろ」
「今日のご飯は何?」
「ハンバーグだ」
「やったー!ハンバアアアアグ」
スターダストは朝食と同じように談笑しながら夕食を食べる。
夕食後、各々が風呂に入り、夜の時間を好きに過ごす。
「ホウリ、わしの部屋に来い。読み合わせの続きをやるぞ」
「了解」
「ミエルお姉ちゃん、ノエルの勉強みてくれない?」
「だったら僕も勉強したいですね」
「だったらリビングでやるか」
「はーい」
各々が好きに過ごし、夜は更けていく。そして、各々の時間を過ごした後は自室で体を休める。
そんな草木も眠る丑三つ時、家の中から出ていく影があった。キムラ・ホウリである。漆黒の衣に身を包み、ホウリは街の中に溶けていくのであった。
日が昇り街に朝を告げる頃、家から運動着に着替えたノエルが庭に出てきた。それに合わせるように、ホウリが家に帰ってきた。
「おはようノエル」
「ホウリお兄ちゃん、おはよー!」
「準備は良いか?」
「ばっちり!」
「じゃあ構えろ」
「はーい」
ノエルとホウリは日の出と同時に戦闘訓練をするのが日課となっている。ノエルの急成長の理由もここにある。
ノエルが笑顔のままナイフを構える。それを見たホウリも新月を構える。
互いの表情は穏やかだが、2人に油断は一片もない。武器を構えたまま2人がタイミングを計っている。
太陽が徐々に昇っていき、2人の顔を照らした瞬間、ノエルがホウリに向かって突進する。
「はあ!」
ノエルはホウリの顔面目掛けてナイフを突き出す。ホウリは慌てる様子もなく首を傾けて回避する。
ノエルは回避されのを見て、左手で拳銃を取り出す。そして、ナイフで死角になっている所から引き金を引く。
(これでホウリお兄ちゃんに大ダメージだ)
そう思ったノエルだったが、引き金を引いても弾が発射されることはなかった。不思議に思ったノエルが拳銃に視線を向けると、ハンマーにパチンコ玉が挟まっていた。
「狙いは悪くなかったぞ」
ホウリはそういうと新月でノエルを弾き飛ばす。そこでホウリとノエルは大きく距離を引き離されてしまう。
「くぅ、ホウリお兄ちゃんには通用しないか……」
「大抵の奴には通じるだろうから落ち込むな。というか、魔装とセイントヒールは使わないのか?」
「前にフロランちゃんと戦った時に、中々勝負がつかなくて。もっと戦い方を練習しないとって思ってさ」
「なるほどな。そういう事ならここからは手加減無しで行くか」
「今まで手加減してたの?」
「新月しか使ってなかっただろ?本気なら爆薬もワイヤーも使う」
「そういえばそっか」
ノエルは納得したようにナイフと拳銃を構える。それを見たホウリはさっきと同じように新月を構える。
「いっくよー!」
「来い!」
ノエルは突進しながらホウリに向かって連続で発砲する。ホウリは弾丸を新月ですべて叩き落とす。
こうしてホウリのノエルは30分戦った後、家の中まで戻ったのだった。
家の中ではロワが朝食を用意して、リビングに並べていた。
「おはようございます。今日も特訓ですか?制が出ますね」
「むぅ……」
「その様子を見るに、ホウリさんに負けちゃったのかな?」
「今日もかすり傷すら付けられなかったよ……」
「魔装とセイントヒールを使わなかったにしては頑張ったと思うぞ?」
3人で話しているとミエルとフランもリビングに入ってきた。
「おはよう。今日も皆早いな」
「おはようじゃ……」
「おはようございます」
「おはよー!」
「おはよう。全員そろったし朝飯にするぞ」
全員が席に着き一斉に手を合わせる。
「「「「「いただきまーす」」」」」
朝食を食べながら、それぞれは会話をし始める。
「今日の特訓はどうだったんだ?」
「今日も勝てなかったよ~」
「残念だったな。だが、頑張って続けていけばホウリに勝てるだろう」
「ありがと……。でも、今日は何がいけなかったんだろ?」
「技術不足と攻撃方法の選択だな。具体的には……」
「フランさん、いつもより眠そうですね?」
「遅くまでホウリと台本の読み合わせをしていたからのう。おかげで寝不足じゃわい」
反省や雑談を交わしつつ、スターダストのメンバーは交流を深める。
朝食が終わると各々はそれぞれで準備を始める。ノエルやロワ、ミエルは制服に着替え、ホウリは動きやすい格好に着替える。
フランはというと大きくあくびをすると、再び2階に上がっていった。
「あれ?フランさんは出かけないんですか?」
「今日は少し遅めに出かけるのでな。それまで寝るわい」
「おやすみなさーい」
「うむ」
足取り重くフランは2階へと上がる。後の4人はそれぞれの向かうべき場所へと向かう。
ノエルは自身が通っている学園へと向かう。その途中、ノエルはとある人物を見つけて駆け寄った。
「コアコちゃ~ん!」
「あ、ノエルちゃん。おはよう」
「おはよー!」
駆け寄った勢いそのままにノエルはコアコに抱き着く。
コアコはノエルを受け止めると、そのまま後ろに倒れこんだ。
「痛たたた……」
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
ノエルはこっそりとセイントヒールでコアコを治療する。そこに通りがかったサルミが呆れたように息を吐く。
「あんたね、後先考えるってことを覚えなさいよ。コアコが怪我したらどうするつもり?」
「大丈夫だよ」
「なんでよ」
「だって……」
『セイントヒールがあるから』という言葉をノエルは飲み込む。
「なによ?」
急に黙ったノエルを不審に思ったのか、サルミが眉を顰める。
セイントヒールがある事は秘密にする、そう決めたことを思い出してノエルは焦り始める。
「だって……、ポーションとか色々あるし?」
「あんた、何か隠しているわね?」
「そそそそそんな事ないよ?」
「嘘が下手ね」
「ノエルちゃんって何でも出来るように見えて、意外と抜けてるよね」
「むう、そうかな?」
「コアコの言う通りよ。自覚しなさい」
ノエルとコアコにサルミも加わり通学路を歩く。
「そういえば、昨日パンプを助けるって言ってたけど、何か目途は立ったの?」
「ホウリお兄ちゃんなら手術で治せるんだって」
「そうなの!?だったらもう大丈夫だね!」
「……うん!もう大丈夫だよ!」
ノエルは精一杯の笑顔で答える。しかし、その顔を見たコアコとサルミは心配そうな表情へと変わる。
「やっぱり嘘が下手ね」
「何かあったの?」
2人の顔を見てノエルは嘘がバレたことを察する。
「……やっぱりノエルって嘘が下手なのかな?」
「さっきも言ったでしょ。で、パンプの手術には何か必要なの?」
「ホウリお兄ちゃんからおつかいを頼まれちゃって」
「私達に出来ることがあったら何でも言ってね」
「手間のかからない事だったら手伝ってあげるわ」
「ありがと、コアコちゃん、サルミちゃん」
「そんな事より、早くしないと遅刻するわよ」
「え!早く行かないと!2人とも行くよ!」
2人の手を引いてノエルは走り出す。その胸の中には何か暖かい物があふれていた。
一方、ロワとミエルはというと、2人で仲良く騎士団へ向かっていた。
「今日は何をするんでしたっけ?」
「近いうちに遠征がある。その遠征の詳細の確認だ」
「遠征ですか。いよいよですね」
「ロワは初めての遠征になるな」
「スターダストとしては色々と行ってますけど、騎士団としては初めてですね。相手は誰ですか?クラーケン?クワガンとかフラワーアイとかの軍団モンスターですか?」
「あんなのがポンポン出てきてたまるか。ゴブリンやコボルトの群れが相手だ」
「なんだ。簡単ですね」
「そうやって調子に乗っていると、また足元を掬われるぞ?」
ミエルの言葉にロワはバツが悪そうに顔を背ける。
「あははは、肝に銘じておきます」
「ホウリがロワを心配しているのが分かるな」
「面目ないです」
ロワが頭を掻きながら笑う。瞬間、一陣の風が吹きロワの顔を覆っていた布がめくれる。
「わっ……と」
ロワは焦って布を押える。周りを見渡してみるが、ロワへ視線を向けている者はいなかった。
ロワはホッと胸を撫でおろし再びミエルに視線を向ける。
「危なかったです。何か布以外の物も考えた方が良いですかね?」
「…………」
「ミエルさん?」
視線を向けるとミエルはロワから顔を背けていた。よく見ると耳が真っ赤になっている。
風で顕わになったロワの素顔を見てしまった影響だが、ロワはそれに気が付かない。
「ミエルさん?どうかしました?」
「な、なんでもない。早く行くぞ」
「ちょっと、ミエルさん!?」
誤魔化すように走り出したミエルをロワは追いかける。その後、顔を真っ赤にしながらロワと出勤したミエルは団員に質問攻めにあったのだった。
昼、仮眠を取っていたフランは起床し家から出発した。目的地はとある劇場だ。
「うう、まだ眠いのう」
目を擦りながら人通りの多くなった道を進む。足取りは安定せず、時々他の人にぶつかりそうになる。
「うお!危ないじゃないか!」
「……ああ、すまぬ」
寸での所で躱すがその姿は誰が見ても不安定だった。だが、理由が寝不足だとは夢にも思わないだろう。
何とか劇場にたどり着いたフランは裏口から中に入る。
「あ、フランさんではないですか」
「クランチ監督か」
「凄い顔ですよ?大丈夫ですか?」
「遅くまでホウリと台本の読み合わせをしていてのう。少し仮眠を取ったが眠いんじゃ」
「それは大変ですね。少し休みますか?」
「いらぬ。ホウリはおるか?」
「先ほどいらっしゃいましたよ。稽古場に向かいました」
「他のキャスティングは決まったか?」
「それが……まだなんです」
「わしが言う事ではないと思うが、そろそろ決めた方が良いのではないか?」
「そうですよね……」
クランチも自覚しているのか、悩まし気にこめかみを押える。
「後でホウリさんに相談してみますかね?」
「それが良いじゃろう」
「それでは私はこれで」
「うむ、またのう」
フランはクランチと別れ稽古場へと向かう。稽古場にはパイプ椅子に座って書き物をしているホウリがいた。
「よう、ずいぶんと眠そうだな?」
「お主が寝かせてくれんかったんじゃろ」
「その言葉だけ聞くと意味深だな。だが、そんな調子だと読み合わせするにも苦労するだろ」
そういってホウリはフラン瓶を投げ渡す。
フランが受け取ると瓶に貼られている文字を見て顔を顰める。
「レモの実100%ジュースと書いてあるのじゃが?」
「書いてある通りだ」
「今回は小細工なしか?」
「それを飲めば目が冴えるんだぞ?騙す必要あるか?」
「むう……」
レモの実が効果的なのはフランが良く知っている。しかし、その酸味も良く知っているが故に飲むのを躊躇ってしまう。
「どうした?お前の覚悟はそんな物か?」
「くう……やってやるわい!」
フランは瓶の蓋を外すと、一気に中身を呷る。
「んぐっんぐっ、ぷはー。効くのうー」
ジュースによってフランの頭が靄が晴れたようにスッキリする。だが、代償として酸味がフランの舌に多大なるダメージを与える。
「もう大丈夫だな」
「うむ、心配かけたのう」
「滅茶苦茶渋い顔をしているが大丈夫か?」
誰が見ても何かあった事が明白なほどフランの顔はゆがんでいる。とても劇の座長とは思えない。
「じゃあやるぞ。レモの実のジュースを飲んでも笑顔でいられるように特訓してやる」
「望むところじゃ!来い!」
最終決戦のように凛々しく叫ぶフラン。こうしてフランとホウリの戦いという名の読み合わせは始まったのだった。
時は経ち夕方、スターダストの面々も帰路につく。
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「またね」
「ばいばい!」
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「パンプくーん」
ノエルはパンプを呼んで孤児院を歩く。
すると、昨日話したおばさんがノエルに気が付き、声を掛けてきた。
「あら?昨日の子じゃない?どうしたの?」
「パンプ君いますか?」
「パンプならブランコにいるわよ」
「ありがとうございます」
ノエルはお礼を言ってブランコへと向かう。
ブランコには昨日と同じようにパンプが座っていた。そのパンプの肩にノエルは手を置く。
「こんにちは、パンプ君」
「!?」
手を肩に置かれたパンプは肩をビクリと振るわせると、反射的に振り向いた。
振り向いた先には笑顔のノエルがいた。
「やあやあパンプ君。遊びに来たよ」
「………………」
「あ、そうか。パンプ君は耳が聞こえないんだっけ。だったら……」
ノエルはメモ帳とペンを取り出す。
「これなら話せるよね」
ノエルは「こんにちは。遊びに来たよ」と書いてパンプに見せる。しかし、パンプは紙を見ても首をひねるだけで何もしようとしない。
「……もしかして、文字も読めないの?」
その事実に気づいたノエルだったが、諦めずに思いつく限りの手段で意思疎通を図ろうとする。
30分ノエルはパンプと意思疎通しようと頑張った。しかし、時間が来てしまい泣く泣く孤児院を後にすることになった。
「じゃあねパンプ君。また来るからね」
「………………」
通じていないかもしれないが、ノエルはパンプに笑いかける。
ノエルは家まで走って帰るのだった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえり」
ノエルが家に帰るとロワとミエル、フランがすでに帰っていた。
「おかえりじゃ。遅かったのう?」
「ちょっとパンプ君の所に行って遅くなっちゃった」
「そうか。行くのは良いがあまり遅くなるでないぞ?」
「はーい」
そうこうしている内にホウリも帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりじゃ」
「遅くなって悪かったな。今から飯を作るから待ってろ」
「今日のご飯は何?」
「ハンバーグだ」
「やったー!ハンバアアアアグ」
スターダストは朝食と同じように談笑しながら夕食を食べる。
夕食後、各々が風呂に入り、夜の時間を好きに過ごす。
「ホウリ、わしの部屋に来い。読み合わせの続きをやるぞ」
「了解」
「ミエルお姉ちゃん、ノエルの勉強みてくれない?」
「だったら僕も勉強したいですね」
「だったらリビングでやるか」
「はーい」
各々が好きに過ごし、夜は更けていく。そして、各々の時間を過ごした後は自室で体を休める。
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それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
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建築×育児×チート×ギャル
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高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
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高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
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この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
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