魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百八十六話 金、金、金!騎士としてはずかしくないのか!

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 フランが舞台女優を引き受けた日、俺はフランと台本読み合わせをしていた。


「ここのセリフの意図はなんじゃ?このセリフで主人公の強さがブレると思うんじゃが?」
「主人公は完璧な訳じゃない。内面に弱さを押し殺しているのがそのセリフでにじみ出ている訳だ」
「なるほどのう。ここはどうじゃ?」


 フランから意見を貰いながら台本の読み合わせを進める。


「実際にやってみるか。1ページの最初のセリフからやってみろ」
「うむ」


 フランは咳ばらいをすると、最初のセリフを読み始める。


「私はキャロン、この街の中で生まれて育ったの」
「違う、それは街を嫌いながらも、多少の愛着がある事を表すセリフだ。憎悪10:愛着1くらいで表現してくれ」


 昨日に比べれば良くなっているが、まだ細かい表現がなっていない。演劇好きとはいえ、難しい表現だったか?もしかしたら、難しすぎると言われるかもな。
 そう思ってフランの方を見てみると、台本を持って熟考していた。杞憂だったな。


「ホウリ、ここのセリフは?」
「化け猫に会った時のセリフか。主人公は丹力が強い。驚きは弱くていいから困惑を強く出してくれ」
「分かった」


 そういって台本にメモ書きを残す。この熱意なら多少は厳しくしても問題ないな。


「……なんだか悪寒がしたんじゃが?」
「風邪か?これからは体調管理にも気を付けろよ?」
「わしが風邪なんぞに負けるか。体温を300℃まで上げて滅してくれるわい」
「頼もしい限りだな」
「そういえば、他の役者はおらんのか?」


 フランが周りを見渡すが稽古場に他の奴はいない。そろそろ稽古を始めないといけないし不信に思っているかもな。


「今の所、キャスティングはフランだけしか決まっていない」
「なぜそんな……クランチ監督じゃからか」


 フランも監督についての知識はあったみたいで、納得したように頷く。話が早くて助かるな。


「じゃが、クランチ監督でも流石にそろそろキャスティングを決めないといけんじゃろう?」
「だな。そこはクランチ監督に任せるしかないだろう」
「それもそうじゃな。わしらはわしらで出来る事をするか」


 クランチ監督の事を置いといて、俺たちは台本の読み合わせを進めるのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「今日はここまでだな」
「あー疲れたわい」


 3時間の読み合わせの後、俺たちは夕食の買い物をしながら帰り道を歩く。


「まさか2ページだけで3時間もかかるとはのう」
「フランの質問が多いからな。普通の人なら10ページは進むだろうよ」
「むう、わしのせいか?」
「むしろ褒めてる。これを続ければかなりいい出来になるだろうよ。家でも読み合わせ出来るしな」
「そう言われると助かる」


 買い物袋を手に持ち、喋りながら人通りの多い道を歩く。


「そういえば、これからのスケジュールはどうなるんじゃ?」
「今日から毎日劇場に来い。キャスティングが決まった後は不定期に呼び出しを受けるはずだ。他の俳優との兼ね合いもあるだろうしな」
「そうか。一気に忙しくなるのう」
「今までの退屈がご褒美だと思えるくらいに鍛えてやるからな」
「……魔王の仕事とどっちが大変じゃ?」
「休みもあるしあっちよりはマシじゃないか?」
「ならばよい。……む?あれはノエルではないか?」


 フランが指さす方を見ると、フランが制服を着た同級生と歩いてくるのが見えた。どうやら、マカダど言い合いをしているようだ。


『バカって言う方がバカなんだよ!バカ!』
『だったらノエルもバカだな。俺たちはお互いにバカってわけだ』
『お前ら、何くだらない事を言い合ってるんだ?』
『あ、ホウリお兄ちゃん』


 声を掛けるとノエル達もこちらに気が付いて手を振ってくる。


「学校からの帰りか?」
「ううん、孤児院からの帰りだよ?」
「パンプの所に行ったのか」
「うん」


 確かロワのノエルと金を盗んだ奴だったな。学校には行っていないみたいだが説得でもしたか?
 ノエルは友達を分かれると、俺とフランの間に潜り込み、笑顔で手を差し出してくる。
 俺たちはノエルの手を取ると、歩幅を合わせて歩く。


「ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんはどうしたの?」
「わしは舞台女優の話を受ける為に劇場に行ったんじゃ」
「で、その舞台の脚本家が俺だったわけだ」
「じゃあ、そのまま劇場でお芝居の練習してたって事?」
「その通りじゃ」
「ノエルは何してたんだ?」
「ノエルはね───」


 ノエルの話を聞きながら帰り道を歩く。ノエルの話を全部聞き終わる頃には家についていた。


「ただいまー」
「おかえりなさーい」


 リビングからロワの声が聞こえる。リビングに向かうとエプロンを付けたロワがいた。


「ミエルはどうした?」
「今日は残業みたいです。もうすぐ帰ってくるとは思いますけど」
「見たところ、ロワが今日の夕飯当番か?」
「今日のご飯なにー?」
「シチューだよ」
「わーい!」


 ロワは微笑むとそのままキッチンへと入っていった。
 フランとノエルは椅子に座るとそのままテーブルに倒れこんだ。


「疲れたのう」
「お茶でも淹れるか」
「あ、そうだ。ホウリお兄ちゃんにお願いがあるんだった」


 ノエルは何かを思い出したのか顔を上げる。


「なんだ?」
「パンプ君の病気のことは知ってる?」
「耳の病気の事なら知ってるぞ」
「ホウリお兄ちゃんなら治せない?」
「手術すれば治せるぞ。なんなら、俺の力が無くても金さえあれば手術は出来る」
「どのくらいのお金がいるの?」
「5億G」
「それってどれくらい?」


 ノエルがフランに向かって尋ねる。


「そうじゃな、ロワが一生懸命働いても20年はかかるのう」
「そんなにいっぱいのお金がいるんだ……」
「ホウリ、ノエルの頼みなんじゃし考え直してはくれんか?」
「小学校1年生にそんな大金要求しねえよ」
「そうじゃよな」
「2000万Gでよいぞ」
「それでも多いのう!?」


 えーっと、元の4%のお金になったんだね。かなり大盤振る舞いだね?


「騙されてはならんぞ。ノエルにとってはかなり厳しい金額じゃからな?」
「でもさ、ロワお兄ちゃんなら1年以内に稼げるんだよね?」
「まさか、ロワに全額出させるつもりか?」
「そうじゃぞ。頼むならわしに頼むんじゃ」
「そういう事でもないけどな」


 妹のために2000万Gを使うなんて、どこの大富豪だ。


「言っておくが、他の奴に金を貰うのは無しだからな。ちなみに、働いて稼ぐのはアリだ」
「小学生で働ける範囲で2000万も稼げるわけあるまい」
「ねーねー、ノエル頑張るからさ、何かお金を稼げる方法を教えてよ」


 自分で言っておいてなんだが、確かに1年生が2000万Gを稼ぐ方法はかなり少ない。これは救済措置が必要か。


「確かにノエルがお金を稼ぐのは難しいな」
「じゃったら、タダで引き受けても良いんじゃないか?」
「それはダメだ。何かを求めるなら相応の対価が必要なんだよ」
「むう、しかし……」
「こればっかりは曲げられない。ノエルの力で金を稼いでくれ」
「……うん、ノエル頑張る!」
「いいのか?」
「難しいって事は出来ない訳じゃないんでしょ?だったら、頑張る!」


 俺の言葉を聞いたノエルの目に絶望や諦めはない。むしろ、やる気になっているみたいだ。こういう覚悟があるなら救済措置を提案しても問題ないな。


「だったら、一つ提案があるぞ」
「なあに?」
「おつかいをしてくれれば、お駄賃を手術費に充てよう」
「おつかい?」
「お主のお使いは嫌な予感がするのう?」
「大体あってるぞ」


 俺は紙におつかいの詳細を書いてテーブルに置く。


「例えば、悪の組織の壊滅は1000万Gだ」
「おつかいの規模がおかしい!そんなの騎士団が受け持つような案件じゃろ!?」
「にぎやかですね。どうかしました?」


 フランの叫びが聞こえたのか、ロワがキッチンから出てきた。
 手をハンカチで拭きながらロワが椅子に座る。そんなロワにフランが呆れたように説明する。


「聞いてくれロワ。ホウリがノエルにおつかいを提案したんじゃ」
「字面だけ見れば普通なんですけどね。ホウリさんの口から発せられるだけで不穏になりますね」
「その認識は間違って無いぞ」


 ロワは俺の書いた紙に目を通す。瞬間、ロワの顔が引きつる。


「これ、ノエルちゃんがやるんですか?」
「勿論」
「悪の組織の壊滅1000万Gとか、ボディーガード500万とか、小学生がやるような事じゃないですよね?」
「商品のお届けなど、普通のお使いみたいじゃのに300万じゃぞ?逆に怪しいわい」
「ノエル専用お使いだ。難しい分、お駄賃も多いぞ」
「これはお駄賃ではなく給料のレベルですよ。僕の月給よりもはるかに多いですよ?」
「こんなに貰えるんだったパンプ君を助けられるね!」
「ノエルは値段以外も見た方が良いと思うぞ?」


 ノエルがキラキラした目で紙を見つめる。20個は書いたから選びたい放題だろう。


「お使いの詳細を聞きたい場合は聞いてくれ」
「これってさ、今日からやってもいいの?」
「いいぞ」
「ノエル、こういうのは準備をしてからやるものじゃ。急ぐのは分かるが、焦るのはダメじゃ」
「脳筋魔王の言葉とは思えないな」
「喧嘩なら買うぞ?」
「俺もフランの言うことに賛成だ。焦りすぎると逆に時間がかかるからな」
「むー」


 ノエルが不満そうに頬を膨らませる。


「おすすめがあれば教えるし、新しいおつかいが出来たら追加していく。焦らず待つのも手だぞ」
「そうそう。僕たちも手伝うからさ」
「は?何言ってんだ?他のスターダストメンバーは手出し禁止だからな?」
「え?」
「ノエルの覚悟を見るのが主だからな。あと、2000万Gを超えてお駄賃を稼いだとしても換金はしないから注意しろ」
「ピッタリ2000万Gの方がお得なの?」
「そういう事だな」
「わしら以外の手を借りることはいいのか?」
「人脈も力だ。使えるものは使っていいぞ」


 説明は以上だ、とノエルに視線を向ける。ノエルはうんうん唸っていたが、やがてテーブルに倒れこむ。


「つかれたー。明日考えるー」
「それが良いよ。そろそろシチューも出来るだろうし、ご飯にしようか」
「そうだな」
「わしも配膳を手伝うぞ」
「お願いします」


 その後、ミエルも帰宅し全員で夕食を楽しんだのであった。
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