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第百八十八話 ここからがマグマなんです
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「おやつ作るが食うか?」
とある日の昼、珍しく皆が家に揃っていると唐突にホウリが言ってきた。
「食べるー!」
「私もいただこう」
「僕も食べます」
「わしも食っていいか?」
「良いぞ」
「何を作るつもりだ?」
「見てのお楽しみだ」
そう言うと、ホウリはキッチンに引っ込んでいった。
ホウリはあまり信用出来ないが、スイーツにおいては嘘を吐かん。安心して待っておればいいじゃろう。
大人しく待っておるとお盆の上グラスを5つ乗せたホウリがやってきた。
全員の前にグラスを置くが、グラスの中には何も入っていない。
「何も入ってないよ?」
「ここからがお楽しみだ」
そう言うと、ホウリがオレンジ色の球体を取り出す。球体の周りには冷気が漂っていてかなり冷たいのが分かる。
「なんじゃそれ?」
「前にミントに冷凍庫を作ってもらっただろ?あれで凍らせたオレの実だ」
「そんなのどうするつもりだ?」
「こうするんだよ」
すると、ホウリはおろし金のようなものを取り出し勢いよくオレの実を擦りおろし始めた。
俺の実は雪のように細かくなると、わしのグラスの上に降り積もった。
「おお、綺麗ですね」
「だろ?見た目だけじゃなくて味も良いんだぜ?」
黄色の雪山を崩しスプーンに乗せる。スプーンの熱だけで少しずつ溶けていくのを見て、わしは急いで口に入れる。
オレの果肉が程よく溶けていき口の中に広がる。
「美味い」
「それは良かった。冷凍庫を準備したかいがあったぜ」
「まさか、シャーベットを作るために巨大冷凍庫を作ったのか?」
「そんな訳ないだろ。アイスクリームも作る」
「わーい!アイスクリーム!」
「貴様の動機はスイーツしかないのか」
「否定はしない」
「そこは否定せんかい」
話しながらもホウリはシャーベット作りを進めていく。ものの1分で全員の前にシャーベットを作り終えたホウリはゆっくりとシャーベットを味わう。
「う~ん、この瞬間のために生きてるんだよな~」
「爺臭いのう」
「爺言葉のフランには言われたくないな」
味わいながらも即座に食い終わるホウリ。後から食い始めたのに、食い終わるのが誰よりも早い。
「どうした?いつもより食うのが早くないか?」
「ちょっと急いでてな。これから出かけてくる。帰りは遅くなると思う」
「分かりました」
そう言い残してのホウリは早々に家から出ていく。その様子をわしらはシャーベットを食いながら見送った。
「今日はいつにも増して忙しないですね」
「なんだか熱気が違うのう」
いつもは冷静なホウリだったが、今日はやけに張り切っているようじゃ。なんだか嫌な予感がするわい。
「ホウリの事は考えても仕方ないだろう。どうせ理解できない」
「そうじゃな。今はこの美味いシャーベットを味わう方が優先じゃ」
ホウリの事を考えても味が悪くなるだけじゃ。分からんことは考えないようにせんとな。
「うーん、美味い」
「おかわりないの?」
空のグラスを差し出し物欲しそうな顔をするノエル。わしも自分のグラスを見るがとっくに空じゃ。
「わしもおかわりは欲しいのう。オレの実が冷凍庫に無いか見てくるか……」
(ピンポーン)
キッチンに向かおうと席を立った瞬間、玄関からインターホンが鳴った。
「ホウリさんでしょうか?」
「ホウリならばインターホンは鳴らさぬじゃろ。丁度良い、わしが出よう」
玄関に向かい扉に手をかける。念のため透視で怪しい奴じゃないか確かめるか。
「む?なんじゃこいつ?」
扉の前にはチャイナ服を着た男が立っていた。怪しくはあるが害は無さそうじゃ。わしは鍵を外し玄関を開ける。
「はいはーい、どちら様じゃー」
扉を開けると、そいつは拳を掌で包み恭しく礼をした。
「お初にお目にかかります。私はキュイ・マダンと申します」
「わしはフランじゃ。この家に何か用か?」
わしが聞くとキュイが勢いよく顔を上げた。
「この家にキムラ・ホウリ殿が居ると聞いてやってきました!」
「ホウリに用があるのか。それはタイミングが悪かったのう」
「もしかして、いらっしゃらないんですか?」
「ついさっき出かけてのう」
「いつ戻られますか?」
「遅くなるとは言っていたが、いつ戻るかは分からん。今日は出直した方が良いのではないか?」
「……それじゃ遅いんだ」
キュイがぼそりと呟く。
「とりあえず、中に入るか?」
ただ事ではない雰囲気を感じ取り、わしはキュイを招き入れる。
もしかしたら、わしらの今後を左右する話かもしれぬ。話を聞く位はよいじゃろう。
「フランさん、誰でしたか……って、どなたですか?」
「自己紹介は自分でせい。わしはホウリと連絡を取る」
「分かりました」
キュイをリビングに押し込み、わしは廊下でホウリに念話を送る。
『ホウリ、少し良いか?』
『フランか。どうした?』
『キュイ・マダンという奴が訪ねてきたんじゃが、心当たりはあるか?』
『あー、あいつか。やっぱり早めに家を出てよかったな』
『その口調だと心当たりがあるんじゃな』
『まあな。そいつに伝えてほしい事がある』
『なんじゃ?』
『キュイがいる限り俺は家に帰らないし、キュイと会うつもりもない』
『はあ?』
『その代わり、とある人物を向かわせる。その人に相談してくれ。じゃあな』
『おい!ちょっと待つんじゃ!説明せい!』
その後、ホウリは念話に応じることはなかった。
なんじゃあいつ。状況が全く分からん。とりあえず、伝言だけは伝えるか。
リビングに入ると、キュイが玄関の時と同じように拳を掌で包んでいて礼をしていた。ミエルはリビングにわしが入ってきたのに気が付くと視線を向けてくる。
「フラン、ホウリは何と言っていた?」
「キュイがいる限り家には帰らんらしい」
「どうしてですか?」
「さあのう」
「……私は邪魔のようですね。すぐに出ていきます」
「待つんじゃ」
出ていこうとしたキュイを呼び止める。
「ホウリはとある人物を向かわせると言っておった。出ていくのはその者に会ってからでも遅くなかろう」
「とある人?どなたですか?」
「そこまでは聞いとらん。じゃが、ホウリの事じゃ。そう時間はかからんで来ると思うぞ?」
「そういう事ならお待ちします」
出ていこうとしていたキュイだったが、気を変えて椅子に座る。わしはキュイの体面に座り腕を組む。
「今のうちに何が起こっているかを説明してもらうかのう」
「そうだな、急に大変だと言われても何がなんだか分からないぞ」
「分かりました。僕の目的をお話します」
あれだけタダならぬ雰囲気を醸し出しておるのだ。理由を聞いておいた方がよいじゃろう。
「実は世界が滅びそうなんです」
「そうか。続けてくれ」
「……驚かないんですか?」
「だって……ねえ?」
魔王と勇者関連は下手したら世界が滅ぶ。そんな中で世界が滅ぶと言われても大して驚かん。
「それで、なんで世界が滅ぶんじゃ?」
「悪の組織であるデスムースが1ヶ月後のスイーツコンテストで優勝し、悪の気を世界中にまき散らそうとしているんです」
「……なんて?」
「悪の組織であるデスムースが1ヶ月後のスイーツコンテストで優勝し、悪の気を世界中にまき散らそうとしているんです」
一字一句同じ文言を聞き、聞き間違いでなかったと確信する。
「ちょっと待つんじゃ、聞きなれん単語がいくつか出てきたぞ?」
「そうだよ。スイーツコンテストって何?」
「ノエルや、それ以外に気になる単語があるじゃろ」
「そうですね、色々と説明しましょう」
デスムースとはスイーツで世界を侵略しようとしている悪の組織である。スイーツ作りの際、本来は陽の気を練りこむ必要がある。しかし、デスムースは逆に悪の気を練りこむことで、人を内側から操ろうとしているのだ。それを阻止するためにキュイは王都にやってきたのだ。
キュイの流派は『ビスケ流』、陽の気を専門とする中では一番大きく、門下生も人族と魔族を合わせて数千人いる。その中でキュイは一番の使い手だった。
しかし、昨日陰の気を使う流派の物に完膚なきまで叩きのめされた。スイーツ大会でデスムースが優勝すると陰の気が練りこまれたスイーツが世界中に広まってしまう。
今の自分では実力が不足している、そう痛感したキュイは教えを乞うためにキムラ・ホウリを訪ねたのであった。
「……というのが、僕がこの家にきた理由です」
「待たんかい」
「なんですか?」
「『なんですか?』じゃないわ。説明されて更に訳が分からんくなったわい」
1つ潰しても増えて出現するなど、名前を呼びたくない虫みたいではないか。
「大体、陽の気とか陰の気とはなんじゃい」
「気とはスイーツを作る時に練りこむ体内エネルギーです。素材、工程、気、これがスイーツ作りに重要な要素らしいですよ?」
「なんでロワが答えるんじゃ?」
「しかも、気は多ければいいというものでもない。工程ごとに適切な量の気を練るのが重要なんだ」
「ミエルもどうした?ホウリに吹き込まれたか?」
「この気を扱うのはとっても大変なんだって。扱えるようになるまで10年はかかるんだよ?」
「ノエルまでどうした?あれか?わしが常識無いだけか?」
ロワやミエルだけでなく、ノエルも知っとるのは可笑しくないか?これってこの世界の常識なのか?
「陰の気とは、人間の内側から出て来るマイナスの感情の事です。それをスイーツを通して他者に流し込む事で人を操れるんです」
「回りくどいのう。直接流し込めばいいではないか」
「それだとダメなんです。スイーツを通じてじゃないと陰の気は流れにくいんです」
大真面目な顔でキュイは言う。ダメじゃ、三文雑誌に載ってる小説の設定のように無茶苦茶に聞こえる。
「もう面倒じゃな。わしがそいつらの拠点をぶっ潰してくるわい」
「それが、デスムースのアジトはまだ分かっていないんです」
「ならばホウリに調べさせる。それでわしが壊滅させる。それで終わりじゃ」
「それじゃ……ダメなんです」
キュイが目を閉じて力なくうなだれる。
「なぜじゃ?わしなら絶対に殲滅出来るぞ?」
「昨日襲われたって言いましたよね?」
「そうじゃな」
「敵は僕の幼馴染である『ビス』でした」
「なんじゃと?」
キュイ曰く、ビスは幼少期から一緒に鍛錬を積んだ友人じゃったらしい。穏やかで優しい性格ながらも、修行に対する情熱は強かったらしい。
そんな友人と修行を送っていたが、3年前にビスは姿を消したらしい。姿を消した友人を探すために王都へやってきた。
「そんな中で闇落ちした友人に出会ったんですね」
「悪の気を使う人を救うには、スイーツバトルで勝つしかありません。だから、同門の僕がやるしかないんです」
「めんどうじゃな。殴って正気に戻した方が早いじゃろ」
「話聞いてました!?」
話に全く現実味がなく、やる気が起こらん。真面目に考えるのも面倒じゃ。
「事情は大体わかった。わしらにはどうにも出来そうにないな」
「心苦しいが、ホウリが手配したという奴に任せよう」
「そうですね」
ここで皆が協力しようと言い出さんで良かった。本人は真面目で危機的なんじゃろうけど、正直関わりたくない。
そう思っていると、丁度よくインターホンが鳴った。
「わしが出るぞ」
「分かりました」
この状況を終わらせようと思って、いち早く玄関に向かう。
「どちら様じゃー」
玄関を勢いよく開けると、そこには久しぶりに見た顔があった。
そいつは物腰穏やかな表情に口に蓄えた白髭、ここにおるはずの無い人物。
「ティムか?」
「お久しぶりです、フラン様」
オダリムのスイーツショップ、『ディフェンド』の店主であるティム・リコットがそこにいた。
とある日の昼、珍しく皆が家に揃っていると唐突にホウリが言ってきた。
「食べるー!」
「私もいただこう」
「僕も食べます」
「わしも食っていいか?」
「良いぞ」
「何を作るつもりだ?」
「見てのお楽しみだ」
そう言うと、ホウリはキッチンに引っ込んでいった。
ホウリはあまり信用出来ないが、スイーツにおいては嘘を吐かん。安心して待っておればいいじゃろう。
大人しく待っておるとお盆の上グラスを5つ乗せたホウリがやってきた。
全員の前にグラスを置くが、グラスの中には何も入っていない。
「何も入ってないよ?」
「ここからがお楽しみだ」
そう言うと、ホウリがオレンジ色の球体を取り出す。球体の周りには冷気が漂っていてかなり冷たいのが分かる。
「なんじゃそれ?」
「前にミントに冷凍庫を作ってもらっただろ?あれで凍らせたオレの実だ」
「そんなのどうするつもりだ?」
「こうするんだよ」
すると、ホウリはおろし金のようなものを取り出し勢いよくオレの実を擦りおろし始めた。
俺の実は雪のように細かくなると、わしのグラスの上に降り積もった。
「おお、綺麗ですね」
「だろ?見た目だけじゃなくて味も良いんだぜ?」
黄色の雪山を崩しスプーンに乗せる。スプーンの熱だけで少しずつ溶けていくのを見て、わしは急いで口に入れる。
オレの果肉が程よく溶けていき口の中に広がる。
「美味い」
「それは良かった。冷凍庫を準備したかいがあったぜ」
「まさか、シャーベットを作るために巨大冷凍庫を作ったのか?」
「そんな訳ないだろ。アイスクリームも作る」
「わーい!アイスクリーム!」
「貴様の動機はスイーツしかないのか」
「否定はしない」
「そこは否定せんかい」
話しながらもホウリはシャーベット作りを進めていく。ものの1分で全員の前にシャーベットを作り終えたホウリはゆっくりとシャーベットを味わう。
「う~ん、この瞬間のために生きてるんだよな~」
「爺臭いのう」
「爺言葉のフランには言われたくないな」
味わいながらも即座に食い終わるホウリ。後から食い始めたのに、食い終わるのが誰よりも早い。
「どうした?いつもより食うのが早くないか?」
「ちょっと急いでてな。これから出かけてくる。帰りは遅くなると思う」
「分かりました」
そう言い残してのホウリは早々に家から出ていく。その様子をわしらはシャーベットを食いながら見送った。
「今日はいつにも増して忙しないですね」
「なんだか熱気が違うのう」
いつもは冷静なホウリだったが、今日はやけに張り切っているようじゃ。なんだか嫌な予感がするわい。
「ホウリの事は考えても仕方ないだろう。どうせ理解できない」
「そうじゃな。今はこの美味いシャーベットを味わう方が優先じゃ」
ホウリの事を考えても味が悪くなるだけじゃ。分からんことは考えないようにせんとな。
「うーん、美味い」
「おかわりないの?」
空のグラスを差し出し物欲しそうな顔をするノエル。わしも自分のグラスを見るがとっくに空じゃ。
「わしもおかわりは欲しいのう。オレの実が冷凍庫に無いか見てくるか……」
(ピンポーン)
キッチンに向かおうと席を立った瞬間、玄関からインターホンが鳴った。
「ホウリさんでしょうか?」
「ホウリならばインターホンは鳴らさぬじゃろ。丁度良い、わしが出よう」
玄関に向かい扉に手をかける。念のため透視で怪しい奴じゃないか確かめるか。
「む?なんじゃこいつ?」
扉の前にはチャイナ服を着た男が立っていた。怪しくはあるが害は無さそうじゃ。わしは鍵を外し玄関を開ける。
「はいはーい、どちら様じゃー」
扉を開けると、そいつは拳を掌で包み恭しく礼をした。
「お初にお目にかかります。私はキュイ・マダンと申します」
「わしはフランじゃ。この家に何か用か?」
わしが聞くとキュイが勢いよく顔を上げた。
「この家にキムラ・ホウリ殿が居ると聞いてやってきました!」
「ホウリに用があるのか。それはタイミングが悪かったのう」
「もしかして、いらっしゃらないんですか?」
「ついさっき出かけてのう」
「いつ戻られますか?」
「遅くなるとは言っていたが、いつ戻るかは分からん。今日は出直した方が良いのではないか?」
「……それじゃ遅いんだ」
キュイがぼそりと呟く。
「とりあえず、中に入るか?」
ただ事ではない雰囲気を感じ取り、わしはキュイを招き入れる。
もしかしたら、わしらの今後を左右する話かもしれぬ。話を聞く位はよいじゃろう。
「フランさん、誰でしたか……って、どなたですか?」
「自己紹介は自分でせい。わしはホウリと連絡を取る」
「分かりました」
キュイをリビングに押し込み、わしは廊下でホウリに念話を送る。
『ホウリ、少し良いか?』
『フランか。どうした?』
『キュイ・マダンという奴が訪ねてきたんじゃが、心当たりはあるか?』
『あー、あいつか。やっぱり早めに家を出てよかったな』
『その口調だと心当たりがあるんじゃな』
『まあな。そいつに伝えてほしい事がある』
『なんじゃ?』
『キュイがいる限り俺は家に帰らないし、キュイと会うつもりもない』
『はあ?』
『その代わり、とある人物を向かわせる。その人に相談してくれ。じゃあな』
『おい!ちょっと待つんじゃ!説明せい!』
その後、ホウリは念話に応じることはなかった。
なんじゃあいつ。状況が全く分からん。とりあえず、伝言だけは伝えるか。
リビングに入ると、キュイが玄関の時と同じように拳を掌で包んでいて礼をしていた。ミエルはリビングにわしが入ってきたのに気が付くと視線を向けてくる。
「フラン、ホウリは何と言っていた?」
「キュイがいる限り家には帰らんらしい」
「どうしてですか?」
「さあのう」
「……私は邪魔のようですね。すぐに出ていきます」
「待つんじゃ」
出ていこうとしたキュイを呼び止める。
「ホウリはとある人物を向かわせると言っておった。出ていくのはその者に会ってからでも遅くなかろう」
「とある人?どなたですか?」
「そこまでは聞いとらん。じゃが、ホウリの事じゃ。そう時間はかからんで来ると思うぞ?」
「そういう事ならお待ちします」
出ていこうとしていたキュイだったが、気を変えて椅子に座る。わしはキュイの体面に座り腕を組む。
「今のうちに何が起こっているかを説明してもらうかのう」
「そうだな、急に大変だと言われても何がなんだか分からないぞ」
「分かりました。僕の目的をお話します」
あれだけタダならぬ雰囲気を醸し出しておるのだ。理由を聞いておいた方がよいじゃろう。
「実は世界が滅びそうなんです」
「そうか。続けてくれ」
「……驚かないんですか?」
「だって……ねえ?」
魔王と勇者関連は下手したら世界が滅ぶ。そんな中で世界が滅ぶと言われても大して驚かん。
「それで、なんで世界が滅ぶんじゃ?」
「悪の組織であるデスムースが1ヶ月後のスイーツコンテストで優勝し、悪の気を世界中にまき散らそうとしているんです」
「……なんて?」
「悪の組織であるデスムースが1ヶ月後のスイーツコンテストで優勝し、悪の気を世界中にまき散らそうとしているんです」
一字一句同じ文言を聞き、聞き間違いでなかったと確信する。
「ちょっと待つんじゃ、聞きなれん単語がいくつか出てきたぞ?」
「そうだよ。スイーツコンテストって何?」
「ノエルや、それ以外に気になる単語があるじゃろ」
「そうですね、色々と説明しましょう」
デスムースとはスイーツで世界を侵略しようとしている悪の組織である。スイーツ作りの際、本来は陽の気を練りこむ必要がある。しかし、デスムースは逆に悪の気を練りこむことで、人を内側から操ろうとしているのだ。それを阻止するためにキュイは王都にやってきたのだ。
キュイの流派は『ビスケ流』、陽の気を専門とする中では一番大きく、門下生も人族と魔族を合わせて数千人いる。その中でキュイは一番の使い手だった。
しかし、昨日陰の気を使う流派の物に完膚なきまで叩きのめされた。スイーツ大会でデスムースが優勝すると陰の気が練りこまれたスイーツが世界中に広まってしまう。
今の自分では実力が不足している、そう痛感したキュイは教えを乞うためにキムラ・ホウリを訪ねたのであった。
「……というのが、僕がこの家にきた理由です」
「待たんかい」
「なんですか?」
「『なんですか?』じゃないわ。説明されて更に訳が分からんくなったわい」
1つ潰しても増えて出現するなど、名前を呼びたくない虫みたいではないか。
「大体、陽の気とか陰の気とはなんじゃい」
「気とはスイーツを作る時に練りこむ体内エネルギーです。素材、工程、気、これがスイーツ作りに重要な要素らしいですよ?」
「なんでロワが答えるんじゃ?」
「しかも、気は多ければいいというものでもない。工程ごとに適切な量の気を練るのが重要なんだ」
「ミエルもどうした?ホウリに吹き込まれたか?」
「この気を扱うのはとっても大変なんだって。扱えるようになるまで10年はかかるんだよ?」
「ノエルまでどうした?あれか?わしが常識無いだけか?」
ロワやミエルだけでなく、ノエルも知っとるのは可笑しくないか?これってこの世界の常識なのか?
「陰の気とは、人間の内側から出て来るマイナスの感情の事です。それをスイーツを通して他者に流し込む事で人を操れるんです」
「回りくどいのう。直接流し込めばいいではないか」
「それだとダメなんです。スイーツを通じてじゃないと陰の気は流れにくいんです」
大真面目な顔でキュイは言う。ダメじゃ、三文雑誌に載ってる小説の設定のように無茶苦茶に聞こえる。
「もう面倒じゃな。わしがそいつらの拠点をぶっ潰してくるわい」
「それが、デスムースのアジトはまだ分かっていないんです」
「ならばホウリに調べさせる。それでわしが壊滅させる。それで終わりじゃ」
「それじゃ……ダメなんです」
キュイが目を閉じて力なくうなだれる。
「なぜじゃ?わしなら絶対に殲滅出来るぞ?」
「昨日襲われたって言いましたよね?」
「そうじゃな」
「敵は僕の幼馴染である『ビス』でした」
「なんじゃと?」
キュイ曰く、ビスは幼少期から一緒に鍛錬を積んだ友人じゃったらしい。穏やかで優しい性格ながらも、修行に対する情熱は強かったらしい。
そんな友人と修行を送っていたが、3年前にビスは姿を消したらしい。姿を消した友人を探すために王都へやってきた。
「そんな中で闇落ちした友人に出会ったんですね」
「悪の気を使う人を救うには、スイーツバトルで勝つしかありません。だから、同門の僕がやるしかないんです」
「めんどうじゃな。殴って正気に戻した方が早いじゃろ」
「話聞いてました!?」
話に全く現実味がなく、やる気が起こらん。真面目に考えるのも面倒じゃ。
「事情は大体わかった。わしらにはどうにも出来そうにないな」
「心苦しいが、ホウリが手配したという奴に任せよう」
「そうですね」
ここで皆が協力しようと言い出さんで良かった。本人は真面目で危機的なんじゃろうけど、正直関わりたくない。
そう思っていると、丁度よくインターホンが鳴った。
「わしが出るぞ」
「分かりました」
この状況を終わらせようと思って、いち早く玄関に向かう。
「どちら様じゃー」
玄関を勢いよく開けると、そこには久しぶりに見た顔があった。
そいつは物腰穏やかな表情に口に蓄えた白髭、ここにおるはずの無い人物。
「ティムか?」
「お久しぶりです、フラン様」
オダリムのスイーツショップ、『ディフェンド』の店主であるティム・リコットがそこにいた。
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