魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百八十九話 全然わからん

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 ティムをリビングに通すと、キュイが驚いたように立ち上がった。


「え!?ティム・リコットさん!?」
「お初にお目にかかります。ティム・リコットと申します」


 驚いているキュイにティムが恭しく頭を下げる。名を知られておるのか。思った以上に有名なのか?


「フランさん、この方はどなたですか?」
「そういえば、お主らはティム初対面じゃったか」


 わしはオダリムでの出来事(主にスイーツの美味さ)を皆に話す。


「……そんな事があったんですか」
「わしの知らん所で更に色々とあったみたいじゃがな。詳しいことが知りたいならティムかホウリにでも聞くとよい」
「ホウリも街に来たばかりで無茶をするな」
「ノエルも美味しいお菓子食べたーい」
「あまり無茶を言うでないぞ。それで、お主はホウリに言われてきたのか?」
「その通りです。聞いたところスイーツコンテストで優勝したい人がいるとか?」
「はい!」


 ティムの問いにキュイが勢いよく手を上げる。


「スイーツコンテストで優勝したいです!」
「あなたでしたか。お名前は?」
「キュイと言います!お会いできて光栄です!」


 キュイがティムの手を握る。そんなにティムは有名なのか。
 じゃが、ティムってディフェンドの店長じゃったよな?安々と引き受けてくれるかのう?
 わしが心配に思っておると、ティムがニッコリと笑う。


「勿論、私でよければお手伝いしますよ」
「ありがとうございます!」


 キュイ腰を直角に折り曲げ、ものすごい勢いで頭を下げる。
 わしは満足そうに頷いているティムの背後に周り、こっそりと耳打ちをする。


「良いのか?お主には店があるんじゃろ?」
「娘に任せているので問題ないですよ」
「なら、わしからいう事は無いのう」


 この家で話し合っておるが忘れておったが、わしらは部外者じゃ。悪の組織だか分からんが、残りは他所でやってもらおう。


「では、早速修行にいきましょう」
「はい!」


 優雅に歩くティムの後ろをキュイが追う。その様子は師匠と弟子のようであった。


☆   ☆   ☆   ☆


「これから修業を始めます。準備は良いですか?」
「はい!」
「ちょっと待たんかい!」


 荒野の中心でわしは、なぜかティムとキュイと一緒にいた。


「なんでわしがお主らと一緒におるんじゃ!」
「フランさんのその格好を見るにやる気満々って感じでは?」


 キュイの言葉通り、わしはキュイと同じようにチャイナ服を着ておる。髪はいつものツインテールではなくお団子にして服に合うようにしておる。傍から見ればノリノリと思われても仕方ないかもしれぬ。
 じゃが、これだけは声を大にして言いたい。


「別に乗り気ではないわ!」
「そうなんですか?」
「修行をしたいので補助をお願いしたのですが?」
「そんなのお主らでやれ!わしを巻き込むな!」
「申し訳ございません。この街にフランさん以外で補助を頼める知り合いがいなくてですね……」
「むう、それは……」


 どうしてもと言われたからここまで来たんじゃが、始めると聞いた瞬間に疑問が噴出してしまったわい。


「ああもう!分かったわい!最後まで付き合ってやるわい!」
「ありがとうございます。お礼に終わったら特性のケーキをお作りしますね」
「スターダスト全員の分を頼むぞ」
「勿論です」


 正直、労力の割に合わぬ気がするがそこは考えんでおくか。


「というか、なんでこんな荒野におるんじゃ?スイーツの修行ならキッチンじゃろ?わしらのキッチンであれば、大抵の機材はあるぞ?」
「何言ってるんですか?スイーツの修行が屋内で出来る訳ないでしょう?」
「わしからしたらお主が何を言っておるって感じじゃがな」


 屋内で料理出来ぬとはどういう了見じゃ。


「まあまあ、フランさんはスイーツの修行を受けてない人です。一から説明しましょう」


 そう言ってティムがわしくらいの大きさの丸太のような物を取り出す。
 シナモンのような香辛料じゃろうか?


「なんじゃこれ?」
「丸太ですよ。見たことないんですか?」
「なぜスイーツの修行で丸太が出て来るんじゃ?」
「抜き手の練習ですよ。キュイ君」
「はい」


 キュイが丸太の前に立って両手を開き右手を大きく引く。大きく深呼吸をして呼吸を整え、右手に力を込めていく。


「……はぁ!」


 力を籠め切った右手を丸太に向かって突き出す。
 右手は鈍い音を立てながら丸太に突き刺さる。しかし、指の半分までしか突き刺さらず、血が滴っている。


「うぐっ……」


 無理やり指を引き抜き、痛さで顔をゆがめる。その様子を見ておったわしは心の中に沸いた感想をそのまま口に出す。


「なんじゃこれ」
「陽の気のコントール訓練です。気で指を保護できれば丸太も貫けるようになります」
「繰り返しの質問じゃが、スイーツ作りの特訓じゃよな?」
「そうですよ」
「こんなので気の特訓とやらになるのか?」


 わしは無造作に丸太に向かって手人差し指を突き出す。
 人差し指は丸太に深々と突き刺さる。そのまま指で丸太を切り裂き、真っ二つになった丸太を裂けるチーズのように細かく裂く。
 わしの周りに細かい木の破片が散乱する。


「この程度で気の修行になるのか?もっと鉄板とかにした方が良いのではないか?」
「ば、化け物ですかフランさんは……」


 散乱している木の破片を見ながら、キュイが顔を引きつらせる。
 対照的にティムに驚きの表情は無く、困ったような表情になっている。


「確かに行く行くは鉄板で特訓しますが、今は丸太で十分です。なので、あの丸太はまだ使うんですけど……」
「そうじゃったのか?それは悪いことをしたのう、ちょっと待っておれ」


 わしは手を開き物質再生スキルである『オールメーカー』を発動する。瞬間、わしの周りに散らばっていた木片が次々と集まってきて、元の丸太に再生していった。
 完璧に再生した丸太を驚愕しているティムの前に置く。


「ほれ、元に戻したぞ」
「ありがとうございます。この大きさの丸太を用意するのは骨が折れましてね。使いまわせるとかなり助かります」
「わしの補助とは丸太の再生の事か?」
「それもありますね」


 思ったよりも楽じゃな。これなら台本を読みながら合間に丸太を直すだけで良さそうじゃ。


「ならばついでじゃ。さっきの傷も治してやろう。キュイ、右手をみせてみい」


 キュイが素直に右手を差し出してくる。
 ヒールで治そうと手を見ると、とある違和感に気が付いた。


「さっきよりも傷が小さくなっておる?」
「それが気の効果です。体内にある気を傷口に集中させることによって、傷の修復を速めることが出来ます」
「便利じゃな。もしかして、ホウリも使えるのか?」
「確実に使えるでしょうね」


 なるほど、裁判の時に襲われた際、傷がほんの少し小さかったのは気の影響か。最初はノエルが頑張ったものじゃと思っておったが、ホウリが無意識のうちに気を操ってたのが正解じゃったか。
 それにしても、MPを使わずに傷の修復を速めたり攻撃力をあげられるのか。スキルに恵まれて居らん者からすればかなり有用じゃな。


「この技術は一般に広めたりせんのか?」
「気の操作は門外不出なんです。どうしても会得したい場合はパティシエになるしかありません」
「うむ、理解不能じゃな。そういえば、修行の面倒を見ておるという事はティムも『何とか流』の修行者なのか?」
「ビスケ流ですね。お察しの通りです。丸太くらいなら片手で割れますよ」


 こんなスーツ姿の老人が丸太を割れるのか。人は見かけによらぬのう。


「さて、休憩はこれくらいでいいでしょう。キュイ、丸太抜き手100本の次はブラマンジェバランス1時間ですよ」
「げぇ、あれやるんですか……」
「また訳わからん単語が出てきおったな。ブラマンジェバランスとはなんじゃ?」


 分からん単語を消化したら別の分からん単語が出てきおる。このままでは単語で胃がもたれそうじゃ。


「ブラマンジェバランスとは、ブラマンジェが乗った皿を頭の上に乗せ、目隠しして針の上でバランスを撮るというものです。自分かブラマンジェを落としたら最初からになります」
「つまり、その状態で1時間耐える必要があると?」
「そうですね」
「これも気の特訓か?」
「いえ、これは必殺技を出すときのバランス力を鍛えるための特訓です」
「必殺技!?」


 わしの叫びにビックリしたキュイが狙いを外し、指が丸太に刺さらずあらぬ方向へと曲がる。


「痛っ!」
「ああすまぬ。治療するから右手をだせ」


 キュイを治療しながらも、わしは驚愕を隠せない。必殺技ってなんじゃい。忘れがちじゃが、これってスイーツ作る特訓じゃろ?


「必殺技とは、その者が得意とする技術をさらに特化させた技です」
「……ああ、酒で香りを付けるフランベとかじゃな」
「それは技術ですね。フランベを必殺技にすると、『アイスフランベーション』になります」
「はぁ?なんじゃそれ?」
「火で香りを付ける所を、逆に気で凍らせることで香りを強くする必殺技です」
「……全く分からん」
「分かりました。アイスフランベではありませんが、実際に私の必殺技を使って見せましょうか」


 そう言うと、ティムは懐から熊の形をしたマシュマロを取り出す。店で買える市販のマシュマロじゃな。
 ティムはマシュマロを手に目を瞑る。


「……フルテイスト」


 そう呟くと、ティムの体から七色の光があふれだし、マシュマロを包み込んだ。
 光はマシュマロに吸い込まれる。すべての光がマシュマロに吸い込まれると、ティムがわしにマシュマロを差し出してきた。


「どうぞ」


 わしはマシュマロを受け取り口に運ぶ。瞬間、わしは思わず目を見開いた。


「これは、わしの知っておるマシュマロではない……」


 前に食った時よりも甘さが上品になっている。これが必殺技の効果じゃというのか。


「ティムさんの必殺技……生で見れて感激だな~」
「本気ではありませんけどね」
「……半信半疑じゃったが、実際に体験したとなると信じるしかないのう」


 あの光とか意味が全く分からんが、現に起こっておるのだ。そういう物だと飲み込むしかないじゃろう。
 わしが納得したのをみて、ティムが満足そうに頷く。


「他に聞きたいことはありますか」
「では1つ聞くぞ」
「なんでしょう?」


 わしは人差し指を立てる。


「なんでブラマンジェを頭にのせる必要がある?」
「スイーツと一体化することにより、必殺技の精度を上げるためです」


 うん!やっぱり分からん!
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