魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百九十話 右ストレートでぶっ飛ばす

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 特訓が始まって数時間、キュイはボロボロになり地面に伏せていた。あの後も、どこがスイーツの特訓なのかツッコミたくなるような特訓を続けていた。わしはまともに相手するのを止めて、台本読みを進め、怪我がひどいと判断した時にだけ治していた。
 日はもう少しで山の向こうに消えようとしておる。そろそろ夕食の時間じゃな。
 わしは持っていた台本を仕舞い、帰る準備をする。


「ティム、わしはもう帰るぞ。今日はわしが飯当番なのでな」
「かしこまりました、ありがとうございます。我々はスイーツコンテストの前日までここにいます。誠に勝手ではございますが、お時間がある際には来てもらってもよろしいでしょうか?」
「気が向いたときにでも来てやるわい」


 毎日来ると頭がどうにかなりそうじゃ。こやつらが真剣なのは分かるが、あまり関わりたくはないのう。
 キュイにも挨拶をしようと思ったが、突っ伏したまま動く様子が無い。気絶しておるみたいじゃし、挨拶は無くてよいか。


「では、またのう」
「また会いましょう、お気をつけて」


 恭しく礼をするティムを背にわしは家に帰るのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


 鍋の中で煮込まれている芋を口の中に入れる。うむ、丁度よい具合じゃな。ま、わしの鑑定をもってすれば完璧な煮込み時間などお見通しじゃがな。
 完璧な出来に惚れ惚れしておると、玄関の扉が開く音がした。


「ただいまー!お腹すいたー!」
「おかえりじゃ」


 ノエルが着替えもせずにキッチンに突撃してきた。よほど腹が減っておるみたいじゃな。


「良い匂いだね!今日のご飯はなぁに?」
「肉じゃがじゃ。他の皆ももう少しで帰ってくるみたいじゃし、着替えたら配膳を手伝ってくれ」
「はーい!」


 ノエルが着替えて戻ってきて配膳を手伝ってくれる。
 大方の配膳が終わるとホウリ、ロワ、ミエルも帰ってきてすぐに夕食を始めた。


「いただきまーす」
「「「「いただきまーす!」」」」


 わしが作った完璧な肉じゃがに皆が口を付ける。


「美味いな」
「おいしー!」
「じゃろ?なんてったってわしの肉じゃがじゃからな」
「そういえば、ノエルちゃんって前の泥棒の子の所に通ってるんだって?」
「うん!仲良しさんになれたらなって」
「それは立派なことだが、その者の事は良く考えるのだぞ。独りよがりの行動では傷つけるかもしれないからな」
「はーい。そういえばさ、ロワお兄ちゃんとミエルお姉ちゃんはクラブ活動したことある?」
「僕はね……」


 いつも通りの雑談。いつもならわしも混ざる所じゃが今回は違う。
 わしは皆に聞こえないように、ホウリに念話をする。


『おい、昼のアレはどういう事じゃ』
『キュイの事か?』
『そうじゃ。何の説明も無しにティムだけ向かわせおって。何を企んでおる?』
『昼にも説明したが、理由は話せない』
『なぜじゃ?』
『話すこと自体がデメリットになるんだよ』


 話すこと自体がデメリット?どういう事じゃ?


『わしにも話せんのか?わしなら口外することも、他者のスキルで情報を抜かれることも無いぞ?』
『ダメだ。俺が話さないと決めたんだ。外部に情報が漏れるかは重要じゃない』


 むう、せっかく他の者に聞かれんように念話したんじゃがな。ホウリの決心は固いみたいじゃ。


『そこまで言うなら、お主の事情はもう聞かん』
『助かる』
『ただ、あの訳が分からん気とかいうのは説明が欲しいがな』
『ティムとキュイから聞いてないのか?』
『聞いたが分からんのじゃ。なんでスイーツ対決で気とかいうのが出て来るんじゃ』
『確かに事前知識なしだと困惑するかもな』


 ホウリがうんうんと唸る。


「ホウリお兄ちゃんはクラブ活動とかしたことある?」
「俺の場合はかなり特殊だぞ?」
「特殊?」
「幽霊クラブ、自身が幽霊になるクラブだ」
「そんなクラブがあるのか?」
「ああ。実際に何回か幽霊になったしな」
『フランは陽の気と陰の気については知ってるか?』
『大まかには説明されたから知っておるぞ。陽の気はスイーツ作りに必要な気で陰の気は人を操るんじゃろ?』
「幽霊ってどうやってなるの?」
「特殊な道具が必要なんだが、なるだけなら簡単だぞ?」
『じゃあ、そこの説明は省くか』


 起用に会話と念話を両立するホウリ。相変わらず器用な奴じゃ。
 おかげでわしと念話しておることはバレそうにないのう。


『陽の気は人のプラスの感情、楽しいとか嬉しいとかを凝縮したものだ』
『陰の気は苦しいとか悲しいとかマイナスの感情なんじゃろ?なんでそんな物がスイーツ作りに関係ある?』
『陽の気は美味しいも含まれるんだよ』
『なるほど?』


 美味しいという陽の気を練りこむことで、食べた者に美味しいと強く感じさせるのか。理にはかなっておるのう。


『陰の気は人を操れると聞いたが、どういう理屈じゃ?』
『基本的に、人は陰の気の方が強い。そこに干渉することで操るんだよ。ただし、ノエルみたいな陽の気の方が強い人間や、俺やフランみたいに気の影響を受けにくい人間には効果が薄い』
『なぜ食わせる必要がある?直接流し込めば良いじゃろ?』
『経口摂取の方が効率がいい。毒は注射器で流し込むよりも、食べ物に混ぜた方が多くの人にいきわたるだろ?』
『そう考えるとむごいのう』
『だろ?で、その陰の気を打ち消せるのが陽の気って訳だ』


 なるほど、じゃからキュイのような者がおる訳か。
 納得しかけたわしじゃったが、とある疑問が沸き上がる。


『……スイーツでやる必要なくないか?』
『何を言っている。スイーツは人生に必要不可欠な物だ。そこに目を付けるのは当然だろ?』
『お主に聞いたわしが間違っておった』


 世界が滅ぶとか聞いていたが、聞いてみれば大したことないのう。スイーツを食わんと陰の気は取り込まれんし、効かん奴もおる。更に対抗できる手段もあるのなら、そう大きく問えらえる必要はない。
 肩の力が抜け、肉じゃがを箸で挟む。わしの干渉が無くてもなんとかなりそうじゃし、明日からはいつも通り……


『あ、言い忘れてたが、陰の気は
『……は?』


 掴んでいた肉じゃがが箸から滑り落ちる。


『どういう意味じゃ?』
『周りに陰の気を取り込んだ奴が大勢いれば、スイーツを食ってない奴も陰の気の影響を受ける』
『待て、その話が本当なら……』
『スイーツコンテストには観客がいる。そいつら全員が陰の気に充てられたら、感染は急激に進んでいくかもな』
『……思った以上に危機的状況じゃな?』
『だからキュイには頑張って貰わないとな』
『何をじゃ?』
『決まってるだろ』


 ホウリはノエル達と話しながら笑顔を少しだけ深くする。


『美味いスイーツを作って貰う事だよ』


☆   ☆   ☆   ☆


 何日か経ったある日、やる事もないわしはキュイが特訓している場所まで行ってみた。ホウリにあそこまで言われると気になってしまうわい。


「わしに出来る事は少ないじゃろうが、多少は力になれるじゃろう」


 キュイが負けることがあれば、ホウリが陽の気を開放するか、わしが武力で制圧するかじゃろう。わしが出ることになれば多少なりとも被害は出るじゃろうし、キュイが勝つに越したことはない。


「さて、キュイとティムがどこかのう?」
(ドガアアアアン!)


 わしが周りを見渡すと、向こうで爆発が起きた。


「あっちか」


 あまりビックリもせずに爆発がした方向へと向かう。気で必殺技が出せるのじゃ。爆発位は起こるじゃろう。
 爆破した所に付くと、黒焦げで倒れて居るキュイと、その横で微動だにしていないティムがおった。


「おーい、大丈夫かー」
「フランさん、こんにちは。来ていただきありがとうございます」
「うむ。キュイは無事か?」
「死んでおりませんので大丈夫です」


 笑顔で鬼みたいな事を言うティム。


「何をすればどうなるんじゃ?」
「必殺技を練習していたらこうなりまして」
「そうか。とりあえず治療するぞ?」
「お願いします」


 キュイを起こし、ヒールで傷をいやす。数秒癒すと、キュイが目を覚ました。


「……フランさん?」
「ボロボロじゃな。何があった?」
「気の制御に失敗しました。すみません」
「手間ではないからよい」


 治療が完了すると、キュイが起き上がる。


「ありがとうございます」
「そういえば、ホウリから色々と聞いたぞ。お主も色々と背負っておるんじゃな」
「…………」


 わしの言葉にキュイが目を伏せる。


「どうしたんじゃ?」
「……僕、戦うのが怖いんです」
「いや、お主らはスイーツを作るだけじゃろ?戦うなんて大げさではないか?」
「ですが、僕が負ければ沢山の人が犠牲になります」
「お主が負けてもわしやホウリが何とかする。そう焦らんでも良いぞ?」
「……それじゃ、ダメなんです。あいつを救うには誰かに頼り切りじゃ……」


 そういえば、キュイの目的は闇落ちした友の救出じゃったな。他の誰かではなく、自分で助けたい。その気持ちは分からんでもないな。


「じゃが気負いすぎては勝てるものも勝てんぞ?」
「……実は僕は陰の気に支配されたことがあるんです」
「何じゃと?」
「その時に助けてくれたのがビスでした」
「今回の敵でお主の幼馴染じゃったか。その時の恩を返したいのか?」
「それもあります。けど、それだけじゃないです」


 そう言ってキュイは昔話を始めた。
 ビスは元々ビスケ流を継ぐものとして期待されていた。その期待通りビスは実力を伸ばし、ビスケ流の頭首としてふさわしい実力を身に着けた。
 しかし、ある日ビスは消えた。ビスケ流総出で探したがついにビスを見つけることが出来なかった。手掛かりは無いかとビスの自室を探したときに日記が出てきた。
 そこにはビスケ流を継ぐというプレッシャーに押しつぶされそうになっているビスがいた。そのプレシャーの一つがNO2であるキュイの存在だった。


「僕の存在がビスの足かせになっていた。僕はいろんなものをビスから受け取っていたのに、僕は奪っていたんです」
「ふむ」
「なのに僕はおこぼれで一番の座を受け取りました。本来ならビスの物なのに……」
「長い話じゃな。結局お主はどうしたいんじゃ?」
「……ビスに一言謝りたい」
「そうか」


 そこまで聞いたわしはティムに視線を向ける。


「気の特訓とやらは単純な戦闘でもよいのか?」
「問題ないです。むしろ、戦闘のほうが適していますね」
「分かった。ならば、今日はわしがキュイを鍛えてやろう」
「へ?」


 わしが何を言っておるのか分からないのか、キュイが首をかしげる。そんなキュイに向かってわしはニヤリと笑う。


「構えよ。わしが戦ってやる」
「え?ですが……」
「ビスに謝りたいんじゃろ?ならば手段を選ぶ必要はないと思うが?」
「……お願いします」


 キュイの表情が引き締まり構えを取る。覚悟を決めた良い目じゃ。ロワもこれくらい早くスイッチが入ればのう。


「先に言っておくが、治療は最低限に抑える。自分で傷を治すのも特訓なんじゃろ?」
「分かりました」
「最後に一つだけ……」


 まだあるのかとキュイが首を傾げた瞬間、わしは高速で懐に潜り込み、がら空きの腹を殴る。


「お主に地獄を見せてやる」


 こうして、わしはキュイの特訓の面倒を見ることになったのじゃった。
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