魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百三十六話 恥ずかしくないもん!

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 朝、私がリビングに降りると、フランがコーヒーを飲みながら渋い顔をしていた。


「おはよう。どうした?コーヒーが苦いのか?」
「おお、ミエルか。おはよう。少し困っておってのう」


 そう言ってフランは天井を仰ぐ。表情を見るにかなり深刻みたいだ。
 こんなに深刻そうな顔をする原因は一つだけだろう。


「ノエルがハイファイに行ったからか?」
「なぜ知っている?ノエルがハイファイに行くことが、決まったのはさっきじゃぞ?」
「扉にホウリからの手紙が張り付けてあってな。ロワとノエルと共にハイファイへ行くと書いてあった」
「ミエルも貰っていたのか」


 言い方からして、フランも同じ手紙を貰ったみたいだ。


「最大で1週間はノエルに会えない、それが原因だろう?」
「わしを何じゃと思っておる。ノエルに会えんのは悩みの8割じゃ」
「想像通りではないか」


 フランのノエル好きにも困ったものだ。これはホウリがノエル離れをしろ、と言っているのも頷ける。


「で、ノエル以外の悩みとはなんだ?」
「12時から劇の稽古があるんじゃが、1人が用事で来られなくなってのう」
「それが残りの2割か」
「いや、1割じゃ。残りは今日の晩御飯を何にするかじゃな」
「ノエル>劇=晩御飯になっているぞ?」


 晩御飯くらいの悩みであんな深刻そうだったのか。この世の終わりのような顔だったぞ。


「稽古が出来ないから困っているのか」
「そうじゃな。知り合いに頼めそうな者も……あ、そうじゃ」


 フランが何かを思いついたように手を叩く。なんだろうか、とても嫌な予感がする。


「お主、演劇に興味はないか?」
「……は?」


 フランの言葉に一瞬だけ思考が止まる。そして、言葉の意味を理解した私は、全力で首を横に振った。


「むむむ無理だ!私に演技など出来ないぞ!」
「別に客の前で演技をする訳ではない。台本を見ながらセリフを話すだけで良い」
「しかしな……」


 稽古とはいえ、プロに自分の演技を見られるのだ。精神的にキツイことは容易に想像できる。
 冷たい視線を一身に受ける、想像しただけで体が震える。


「別にクオリティを気にする必要はないぞ?皆も善意で協力する者を無下にはせん」
「……分かった。そこまで言うのであれば、協力しよう」
「恩に着る。礼に何かしたいのじゃが、わしにして欲しい事はあるか?」
「ならば、時間まで鍛錬に付き合ってくれ。休み過ぎて体が鈍っている」


 昨日までほとんど寝ていて碌に訓練をしていない。久しぶりにフランと戦うのも悪くないだろう。


「わしと戦いたいと言われたのは初めてじゃな。どういう意味か分かっておるな?」
「ああ」


 フランが邪悪に口角を上げる。その姿はラスボスとして満点の表情だ。
 私の特訓相手にフランはピッタリだ。最強フランに自分の力がどこまで通じるのか、試してみたい。


「良い目をしておるのう。ホウリを倒して、お主が勇者になったほうが良いのでは無いか?」
「私がホウリを倒せるのであれば考えよう」
「少しは躊躇え」


 そんなこんなで、稽古の時間までフランと戦ったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 戦闘訓練の後、私たちは劇場に向かっていた。


「思った以上に強くなっておったのう。まさか、白銀の盾を自在に出せるようになったとは、驚いたわい」
「文字通り、死ぬ気で特訓したからな」


 もう死にかけたくない思いから、白銀の盾を必死に会得した。まだ数秒しか維持できないが、使えるようになったのはかなり大きい。


「わしの渾身の攻撃が跳ね返されたときは、負けるかと思ったぞ」
「あれだけ余裕そうな顔をしておいて、よく言ったものだ」
「お主を評価しておるのは本当じゃぞ?わしの見立てでは、この世界で一番強いのはミエル、お主じゃ」
「は?」
「勿論、わしを除いてじゃがな」


 私が最強?冗談だと思いたいが、フランの目は本気だ。


「いきなり何を言っている?」
「お主が思っておるよりも、白銀の盾は強力じゃ。大きさも個数も自由自在で、出現させるまでの時間も短い。そしてなにより……」
「なにより?」
「お主が使いこなせておる。それがかなり大きい」
「どういう意味だ?」
「力が強くても、それを使いこなせるかは別の話じゃ。お主は敵を良く見て、タイミング良く白銀の盾を展開できておる」
「そこまで褒められると照れるな」


 闘技大会で負けてから、自分の力不足に嘆いていた。だが、この力を使いこなして皆を守れるほどに強くなったのなら、これ以上の喜びは無い。


「その、ありがとう」
「別に礼はいらんぞ。お主の力はお主の努力の成果じゃ」
「そんなに褒められると体がくすぐったくなるな」


 そんな話をしているうちに、劇場が見えて来た。思ったよりも近い場所にあるな。
 フランは人気が無い劇場に入り、受け付けの横にある「スタッフオンリー」と書かれている扉に入る。


「関係者用の扉じゃ。わしと一緒なら入れるぞ」


 扉の影からフランが手招きをしている。私はフランに招かれるままに、扉の中へと入る。
 暗く長い廊下を抜けると、舞台の上に出た。


「あの通路は舞台につながっていたのか」
「わしも初めて来たときは驚いたわい。稽古場はこの奥じゃ」


 フランは更に舞台裏に進む。少し歩いた先にある『稽古場』の札が掛かっている扉を開ける。
 そこには十数人の男女が台本を読んだり、お喋りをしていた。そんな稽古場にフランは臆せずに入っていった。


「おっはよーう!」
「お邪魔します」


 フランが元気よく挨拶をすす。私も気を引き締めて稽古場に入る。
 すると、長身でスタイルの良い女の人がやって来た。


「フランちゃん、来たわね。あれ?後ろの人は誰?」
「こやつはミエル。わしのパーティーメンバーじゃ」
「ミエルだ。稽古に参加できない人がいると聞いて、代理で来た」
「初めまして。私はフォガートよ。よろしくね」


 差し出された手を握り返す。どうやら迷惑には思われていないみたいだ。


「おーいフラン。来たなら稽古を始めるぞー」
「うむ」


 ロワ程ではないがハンサムな男がフランを呼ぶ。
 フランはその男に手を振って、そいつの元に向かう。


「待たせたの、ヌカレ」
「先輩を待たせるとは良い度胸だな?」
「申し訳ない。お詫びにハイミノタウロスの討伐旅行に招待しよう」
「謹んで辞退する」


 ヌカレという名を聞いてフランの話を思い出す。そういえば、ハイミノタウロスを討伐した聞いた時に、ヌカレという名を聞いたな。こいつが例の性悪男か。
 見た感じだと今は仲が悪くないみたいだな。


「ん?後ろの奴は誰だ?」
「初めまして。私はフランと同じパーティーのミエルだ。来れない者の代理で来た」
「そうか。よろしくな」


 私に対しても愛想は良い。フランとキャンプをして心を入れ替えたか?
 ヌカレと握手を握手をする。すると、稽古場の扉が開いて太った男が入ってきた。


「皆さん、お待たせしました」
「誰だ?」
『この舞台の監督である、クランチ監督じゃ。この監督の舞台は外れが無いと言われている程に腕の良い監督じゃ』


 私の問いかけにフランが念話で答える。


『そんなに凄い人なのか』
『演劇は見ないのか?』
『昔、ラッカに連れられて行ったことがある。だが、それ以外は無いな』
『どんな劇じゃ?』
『山の中で剣士たちが殺しあう奴だ』
『ヒトコロパーティーか。あれはスプラッターじゃからミエルには合わんかものう』


 今のでなんで分かるんだ。
 フランと話していると、クランチ監督は汗を拭きながらニコリと笑った。


「既にお知らせしていますが、ギオハさんが今日は不在です。勝手は違うと思いますが、頑張りましょう」
「それについてじゃが、代理を連れて来た」


 フランがそう言って私を指さす。私はクランチ監督に礼をする。


「ミエル・クランです。今日は代理で来ました。微力ですがお力添えできれば幸いです」
「いえいえ、そんなに畏まらなくて良いですよ。今日はよろしくお願いします」


 クランチ監督も私に頭を下げた。偉い人だろうが、簡単に頭を下げるな。特にそういうのを気にしない人みたいだ。
 あまり畏まる方が相手を困らせると判断し、私は頭を上げる。


「よろしくお願いします」
「それでは早速ですが始めましょうか」
「あれ?ホウリ君は?」


 フォガートが辺りをキョロキョロと見渡す。そういえば、ホウリも脚本家として関わっているのだったな。本当に何でもやるな。


「ホウリはハイファイまで言っておる。最短で5日、最大で1週間くらいで帰ってくる」
「あらそうなの?」
「その代わりではないですが、私が皆さんの稽古を見ることになりました」
「クランチ監督がいるなら安心だな」
「分かったならさっさとやるぞ」
「一番遅く来た癖に偉そうだな?」
「その言葉はわしより遅く来たクランチ監督にも刺さるぞ?」
「今日もはりきって稽古するぞー」


 誤魔化すようにヌカレが稽古場の中心に向かう。こいつの性格がなんとなくわかって来た。


「ミエルちゃんは台本持ってる?」
「持っていないな。余っているものがあれば貸して欲しい」
「わしが複製した物があるから渡そう」
「ありがとう」


 フランから台本を受け取り中を見てみる。


「どれが私のセリフだ?」
「キョウホというキャラのセリフじゃ」


 どれどれ、「やっほー、キョウホちゃんだよ☆皆をキュンキュンさせちゃうぞ☆」か。


「待ってくれ!こんな恥ずかしいセリフを言えるわけないだろ!?」
「ちょっとセリフを言うだけで何言っておるのじゃ?」
「私の性格とは真逆なキャラだぞ!?」
「安心して。本来の演者のギオハの方が性格が終わっているわ」
「そこまで違うのか?」
「あれはヤクザじゃな」
「確実に何人か殺して海に沈めているわよ」
「凄い言われようだな!?」


 この場にいないが、かなり不憫になって来た。


「しかし、演技の経験が無いのに、自分と反対のキャラを演じるのは……」
「セリフを言うだけでも良いんじゃ。そこまで難しく考えるでない」
「そうか」


 気にするなと言われても、こんなセリフは言うだけでも恥ずかしい。くぅ、やると言ったことを後悔し始めている。


「ミエルの出番は後の方じゃし、普段の稽古の様子を見て雰囲気だけも掴んだらどうじゃ?」
「そうするとしよう」


 その後、私はフランに稽古の様子を見せてもらい、恥ずかしさに耐えて稽古をやったのだった。
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