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第二百三十七話 今、誰か俺を笑ったか?
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稽古も進み時間は昼、私は何とかセリフを読み代わりを務めることが出来た。とはいえ、プロと比べると本当に読んでいるだけだ。演技ができているとは思えない。
ピリピリとした雰囲気を肌で感じながら、私はセリフを読む。
「皆、なんで怖い顔しているの?もっとハッピーに行こうよ☆」
「なぜそこまで能天気でいられるんだ!君は状況が分かっているのか!」
「分かってないけど~、笑顔が一番じゃん?」
恥ずかしさに耐え、フランが見せてくれたギオハの演技を真似る。こんなに自身と異なるキャラを演じきれるとは、役者は凄いな。
周りを見ながら頑張っていると、クランチ監督が手を叩いた。
「はーい、一旦中断してご飯にしますよー」
「もう腹がペコペコだぜ」
「今日の弁当はなにかのう?」
「弁当が出るのか?」
「いつもではないがのう。今日は出ると聞いておるぞ」
弁当が出るとは意外だ。この劇団は資金が豊富なのだろうか。
クランチ監督が紙袋を取り出し、壁際にある机に弁当を並べる。ん?あの黒い帯の弁当、どこかで見たような?
私が記憶を探っていると、弁当を取ったフォガートが叫んだ。
「これって『劉弦』の焼き肉弁当!?物凄く高いんでしょ!?」
「今回の弁当は脚本家のホウリさんからの差し入れです。なんでも稽古に参加できないお詫びだそうです」
「さっすが脚本家だな!これで午後も頑張れるぜ!」
そうか、お金が無くて何も食べられなかった日にラビが持ってきた弁当か。1つ5000Gはしたはず。弁当の中でも最高級で有名だ。
皆が満面の笑みで弁当を取る。だが、私は取って良いのか迷い弁当に手を出せずにいる。
「どうした?お腹空いていないのか?」
意気揚々と弁当を取ったフランが首をかしげる。
「私ってこの劇団のメンバーではないだろう?食べて良いものか迷っていてな」
「別に気にせんでよいじゃろ」
「そうか?」
「働かざる者食うべからずと言うじゃろ?逆に言えば働いた者は食っても良いんじゃ。ギオハもおらぬ以上、お主が食って問題なかろう」
「そうか」
フランに押し切られる形で焼き肉弁当を手に取る。稽古場の壁際に座り、フランと共に弁当を開ける。
他の皆も思い思いの場所で弁当を美味そうに食べている。
フランも弁当を開けて、中の焼き肉を頬張りながら喋る。
「まったく、そういう奥ゆかしい所がロワにガンガン行けない理由なんじゃろうな」
「わけあぐあklみお!?」
ロワの名前が出て動揺し、焼き肉弁当を落としそうになる。
「な、なにをいっているんだ!?」
「だってそうじゃろ?同じ家に住んでおるというのに、まったく進展がない。お主が行動を起こせておらんからではないか?」
「うう……」
図星を突かれて、私は唸るしかできない。
色んな人に同じような事を言われる。やはり、もっと積極的になるべきだろうか?
「初恋で色々と勝手が分からぬじゃろうが、恋愛は戦じゃ。うかうかしておると他の者に取られるぞ?」
「そ、そういうフランはどうなんだ?」
「わし?」
意外な返しだったのか、フランが箸を止めて私に視線を向けて来る。
「長く生きていれば、好きな人くらいはいただろう?」
「執務室で書類と格闘する人生じゃぞ?出会いなんてある訳ないじゃろ」
「だがずっとではないだろう?パーティーとかで出会いはあったんじゃないか?」
「権力が目当てで寄ってくる奴と、ラブロマンスなんてある訳なかろう」
「そうか」
王族ならそれは素晴らしい恋愛をしていると思っていた。現実は童話よりも現実だった。
「あまり面白い話にならなくて悪かったのう」
「そんな事は無い」
「そう言ってくれると助かるわい。聞き耳を立てている奴も、面白い話を聞けなくて残念じゃったのう?」
フランの言葉に背中を向けているヌカレがビクリと体を震わせる。ヌカレが聞き耳を立てていたのか。全然気付かなかった。
「まったく、聞きたければ直接聞きに来い」
「それは私が困る……ん?待ってくれ」
「どうした?」
「ヌカレは聞き耳を立てていたのだよな?」
「ああ」
「私の恋バナも?」
「聞かれてたじゃろうな」
「ああああああああああああああ!」
私は魔装を使ってヌカレに速攻で掴みかかる。
「な、なんだ急に!?」
「忘れろ!今聞いたことは全部忘れるんだ!」
「む、無理に決まってるだろ!」
「フラン!記憶を操作するスキルとか無いのか!?」
「そんなスキルは無い。記憶を消したいなら死ぬ直前まで殴れ」
「フラン!相手役を殺そうとするな!」
「殺そうとするなんてとんでもない。死ぬ間際まで追い詰めろって言っただけじゃ」
「大差ないが!?」
私は大剣を取り出して天高く掲げる。
「ってなんで剣を掲げている!?」
「安心しろ、平になっている方で殴るだけだ」
「知ってるか?鉄の塊で殴られると人は死ぬんだぜ?」
「鉄?違うな、これは超合金。鉄なんかよりも重く固い」
「余計に悪いんだが!?」
その後、私は周りの人間に止められたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ミエルさん、今日はありがとうございました」
稽古が終わり、クランチ監督が私に頭を下げてくる。
「いやいや、私はただセリフを言っただけだ。そこまで大層な事はしていない」
「いえいえ、かなり助かりました。どうです?別の劇で主役をしてみませんか?」
「すまないが、騎士団では芸能活動は禁止されていてな。稽古に付き合うくらいは出来るのだが、劇に立つことは出来ないんだ」
「それは残念です」
「そういえば、フランは何処に?」
辺りを見渡してみるが、フランの姿が見えない。先に帰ったのだろうか?
「フランさんなら、ヌカレさんと特訓中ですよ」
「特訓?」
「今回の劇は稽古の期間が短いんです。それを埋めるために稽古の後に特訓をしているんです」
「そうなのか」
稽古時間と帰宅時間が合わないと思っていたが、特訓していたのか。帰りは一人になりそうだ。
「では、また何かあれば呼んでください」
「はい。ありがとうございました」
深くお辞儀するクランチ監督に手を振って劇場を出る。
外はすっかり夜だ。家に帰宅する人で溢れている。
私が料理する訳にもいかないし、夕飯はどうするかな。どこかで食べていくか。
「そういえば、一人で夕食を食べるのは久しぶりだな」
カロンから逃げている時は一人で食事することがほとんどだった。今はすっかり、にぎやかな食卓に慣れてしまったな。一人では外食する気力すら起きないな。
「適当にインスタントラーメンでも啜るか。料理は禁止されているが、流石にお湯くらいなら沸かしても良いだろう」
キッチンには入れないから、庭で火球を使ってお湯を沸かそう。インスタントラーメンなら買い置きが1つあったから、それを食べて……
「ねえねえそこの彼女」
食べたらいつも通り戦闘訓練して、家事の練習。今日は掃除の練習をするか。
「おーい、無視しないでよー」
今日は稽古の手伝いで疲れたからな。今夜は早めに寝て、明日は早く起きて多めに戦闘訓練をしよう。
「ちょっと!?聞こえてる!?」
「……ん?」
考え事をして歩いていると、急に腕を掴まれた。
何事かと思っていると、ピアスを付けたギラギラした服装のチャラい男が、気持ちの悪い顔で笑っていた。
「何か用か?」
「お姉さん一人?暇なら俺と遊ばない?」
「貴様のような軽薄そうな男に興味はない」
「そんな事いわないでよ。ほら、俺って結構イケメンだろ?一緒に遊べば楽しいぜ?」
「お前がイケメン?」
私は男の顔をマジマジと見つめる。この男がイケメン?
「……ぷっ、あはははははは!面白い冗談だ!」
ロワの足元にも及ばない、この男がイケメン?最高の冗談だ。
1分間たっぷりと笑い涙を拭く。
「ひー、笑いすぎてお腹が痛い。貴様はコメディアンの才能があるな。すぐそこに劇場があるから、前座として応募するといい」
「…………」
私が男に視線を向けると、両手を震わせて顔を真っ赤にしていた。よく見ると、周りに人だかりも出来ている。私の笑い声に引き寄せられたんだろう。
「あー、なんだ。バカにするつもりは無かったんだ。すまん」
「この……バカにしてるだろ!」
「バカにしている訳ではないと言っただろう!?」
男はアイテムボックスから刀を取り出した。
「俺は顔も良いが、剣の腕も一流なんだよ。死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
男が刀の刃を舐めてニヤニヤと笑う。
これは私が完全に悪い。私が切りつけられるだけで済めばいいが、周りにギャラリーが多すぎる。どうしたものか。
とりあえず、落ち着かせてみるか。私は手を広げて男に向き直る。
「分かった。存分に切りつけてくれ」
「あ?」
私のリアクションが思っていた物と違ったからか、男が眉を顰める。
「随分余裕だな?」
「笑ってしまったのは悪いと思ったからな。気の済むまで切ればいい」
「その言葉、後悔するなよ!」
男は刀を振りかぶって私に切りかかる。服まで切れると不味いから、魔装で保護しておくか。
「俺に恥をかかせたことを後悔させてやる!死ね!」
刀が私の首筋に命中する。が、私には1ダメージも通らない。
「な!?」
「どうした?もう終わりか?」
「ま、まだだ!」
男の刀が青く光る。攻撃力増加スキルか。見た感じ100くらいは上がるだろうな。
「今度こそ死ね!」
男が私の胸元に刀を突きたてて来る。勿論、ダメージは通らない。
「な!?俺の全力だぞ!?」
「気が済むまで切って良いぞ。もう終わりなら言ってくれ」
「くうう!どこまでバカにする気だ!」
男が滅茶苦茶に刀を振り回す。案の定、全部ダメージは通らない。
「ぜぇぜぇ……」
「見て見て、あの人必死で刀振ってるよー」
「ほんと。女性に少しも効いてないなんて格好悪いわね」
「ああ?」
肩で息をしていた男が野次馬をしていた女性達に視線を向ける。
「おい、俺をバカにしたな?」
「あ、その……」
「バカにしたなぁぁぁぁ!」
男の標的が女性達に変わり、目を血走らせて駆け出す。
「死ねやぁぁぁぁ!」
「キャアアアア!」
男の刀が女性たちに振り下ろされる。誰もが女性たちの鮮血が噴き出すと思った瞬間、
「シン・ダブルプロフェクション」
白銀の盾が男の刀を受け止めた。そして、威力の2倍が男の刀に返る。
「うおっ!?」
想定以上の威力を受けた刀は吹き飛んで私の所まで転がって来た。
「ふん!」
私は転がって来た刀の刃を踏み砕く。
「な……」
武器が破壊され呆然としている男を私は睨みつける。
「私だけを攻撃するのは構わない。だが、周りの人間を巻き込むんだったら……」
私は大剣を取り出して男に向ける。
「容赦はしないぞ?」
「ごごごごごめんなさーい!」
男は足をもつれさせながら、必死に逃げていった。
大剣を仕舞うと、その様子を見ていたギャラリーから歓声が上がる。
「かっこいい!」
「あの人、何の人かしら?」
「さっき劇場から出てくるのを見たわよ」
「じゃあ役者かよ!何に出てるんだ!?」
このままだと良くない噂が立ちそうだな。どうにかしないと。
私は折れた刀を回収し、歓声に手を振る。そうだ、こういう時こそ、あいつの力を借りよう。
「皆さん、ご清聴いただきありがとうございました!私はキムラ・ホウリのパーティーメンバーでございます」
「ホウリ?」
「あのホウリか?」
ギャラリーの興味が一気にホウリへと変わる。流石ホウリの知名度だ。一気に私の事なんて忘れられた。このまま畳みかけよう。
「今のはホウリが企画した芝居です。面白かったらホウリに感想をお伝えください」
「そうだったのか」
「楽しかったぜー!嬢ちゃん!」
皆が満足そうな表情で解散していく。なんとか誤魔化せたみたいだ。
「疲れた……」
もうインスタントラーメンを作る気力すら残っていない。今日はもう寝てしまおうか。
そう考えていると、また腕を捕まえられた。
またか、そう思ってうんざりして振り返る。
「ナンパならお断り……」
「かっこよかったぞ、ミエル」
「フラン?特訓していたんじゃないのか?」
腕を掴んでいたのは、特訓していた筈のフランだった。
「いつから見てた?」
「最初からじゃ」
「そうか。少し恥ずかしいな」
照れて頭を掻いていると、フランが優しく笑った。
「どうしたんだ?」
「わしは嬉しいんじゃよ」
「なぜだ?」
「お主が力を使いこなしているからじゃよ」
「ああ。確かにそうか」
シン・ダブルプロフェクションは死ぬ間際でなくても使えるようになった。特訓したフランも嬉しいんだろう。
「シン・ダブルプロフェクションを使えるようになるまで、苦労したからな」
「それもあるが、わしが言いたいのは別のことじゃ」
「別?」
ここまで褒められる心当たりがない。何かしたか?
「お主、最初はシン・ダブルプロフェクションを使わなかったじゃろ?」
「そうだな」
「新しい力を付けた者は意味もなく力を使いたくなるものじゃ。それが大きい力であればなおさらじゃ。じゃが、お主は必要以上に使わなかった。わしはそれが嬉しいんじゃ」
そう言ってフランは私の優しく握る。
「その……さっきよりも恥ずかしいな?」
「そうか?もっと褒めてもよいんじゃぞ?」
「勘弁してくれ。そういえば、特訓はどうなったんだ?」
「ヌカレが急用でのう。今日の特訓は無くなったんじゃ」
「なら、ご飯を食べていくか?」
「いいのう。そこでミエル褒め大会でもするか」
「勘弁してくれ」
ピリピリとした雰囲気を肌で感じながら、私はセリフを読む。
「皆、なんで怖い顔しているの?もっとハッピーに行こうよ☆」
「なぜそこまで能天気でいられるんだ!君は状況が分かっているのか!」
「分かってないけど~、笑顔が一番じゃん?」
恥ずかしさに耐え、フランが見せてくれたギオハの演技を真似る。こんなに自身と異なるキャラを演じきれるとは、役者は凄いな。
周りを見ながら頑張っていると、クランチ監督が手を叩いた。
「はーい、一旦中断してご飯にしますよー」
「もう腹がペコペコだぜ」
「今日の弁当はなにかのう?」
「弁当が出るのか?」
「いつもではないがのう。今日は出ると聞いておるぞ」
弁当が出るとは意外だ。この劇団は資金が豊富なのだろうか。
クランチ監督が紙袋を取り出し、壁際にある机に弁当を並べる。ん?あの黒い帯の弁当、どこかで見たような?
私が記憶を探っていると、弁当を取ったフォガートが叫んだ。
「これって『劉弦』の焼き肉弁当!?物凄く高いんでしょ!?」
「今回の弁当は脚本家のホウリさんからの差し入れです。なんでも稽古に参加できないお詫びだそうです」
「さっすが脚本家だな!これで午後も頑張れるぜ!」
そうか、お金が無くて何も食べられなかった日にラビが持ってきた弁当か。1つ5000Gはしたはず。弁当の中でも最高級で有名だ。
皆が満面の笑みで弁当を取る。だが、私は取って良いのか迷い弁当に手を出せずにいる。
「どうした?お腹空いていないのか?」
意気揚々と弁当を取ったフランが首をかしげる。
「私ってこの劇団のメンバーではないだろう?食べて良いものか迷っていてな」
「別に気にせんでよいじゃろ」
「そうか?」
「働かざる者食うべからずと言うじゃろ?逆に言えば働いた者は食っても良いんじゃ。ギオハもおらぬ以上、お主が食って問題なかろう」
「そうか」
フランに押し切られる形で焼き肉弁当を手に取る。稽古場の壁際に座り、フランと共に弁当を開ける。
他の皆も思い思いの場所で弁当を美味そうに食べている。
フランも弁当を開けて、中の焼き肉を頬張りながら喋る。
「まったく、そういう奥ゆかしい所がロワにガンガン行けない理由なんじゃろうな」
「わけあぐあklみお!?」
ロワの名前が出て動揺し、焼き肉弁当を落としそうになる。
「な、なにをいっているんだ!?」
「だってそうじゃろ?同じ家に住んでおるというのに、まったく進展がない。お主が行動を起こせておらんからではないか?」
「うう……」
図星を突かれて、私は唸るしかできない。
色んな人に同じような事を言われる。やはり、もっと積極的になるべきだろうか?
「初恋で色々と勝手が分からぬじゃろうが、恋愛は戦じゃ。うかうかしておると他の者に取られるぞ?」
「そ、そういうフランはどうなんだ?」
「わし?」
意外な返しだったのか、フランが箸を止めて私に視線を向けて来る。
「長く生きていれば、好きな人くらいはいただろう?」
「執務室で書類と格闘する人生じゃぞ?出会いなんてある訳ないじゃろ」
「だがずっとではないだろう?パーティーとかで出会いはあったんじゃないか?」
「権力が目当てで寄ってくる奴と、ラブロマンスなんてある訳なかろう」
「そうか」
王族ならそれは素晴らしい恋愛をしていると思っていた。現実は童話よりも現実だった。
「あまり面白い話にならなくて悪かったのう」
「そんな事は無い」
「そう言ってくれると助かるわい。聞き耳を立てている奴も、面白い話を聞けなくて残念じゃったのう?」
フランの言葉に背中を向けているヌカレがビクリと体を震わせる。ヌカレが聞き耳を立てていたのか。全然気付かなかった。
「まったく、聞きたければ直接聞きに来い」
「それは私が困る……ん?待ってくれ」
「どうした?」
「ヌカレは聞き耳を立てていたのだよな?」
「ああ」
「私の恋バナも?」
「聞かれてたじゃろうな」
「ああああああああああああああ!」
私は魔装を使ってヌカレに速攻で掴みかかる。
「な、なんだ急に!?」
「忘れろ!今聞いたことは全部忘れるんだ!」
「む、無理に決まってるだろ!」
「フラン!記憶を操作するスキルとか無いのか!?」
「そんなスキルは無い。記憶を消したいなら死ぬ直前まで殴れ」
「フラン!相手役を殺そうとするな!」
「殺そうとするなんてとんでもない。死ぬ間際まで追い詰めろって言っただけじゃ」
「大差ないが!?」
私は大剣を取り出して天高く掲げる。
「ってなんで剣を掲げている!?」
「安心しろ、平になっている方で殴るだけだ」
「知ってるか?鉄の塊で殴られると人は死ぬんだぜ?」
「鉄?違うな、これは超合金。鉄なんかよりも重く固い」
「余計に悪いんだが!?」
その後、私は周りの人間に止められたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ミエルさん、今日はありがとうございました」
稽古が終わり、クランチ監督が私に頭を下げてくる。
「いやいや、私はただセリフを言っただけだ。そこまで大層な事はしていない」
「いえいえ、かなり助かりました。どうです?別の劇で主役をしてみませんか?」
「すまないが、騎士団では芸能活動は禁止されていてな。稽古に付き合うくらいは出来るのだが、劇に立つことは出来ないんだ」
「それは残念です」
「そういえば、フランは何処に?」
辺りを見渡してみるが、フランの姿が見えない。先に帰ったのだろうか?
「フランさんなら、ヌカレさんと特訓中ですよ」
「特訓?」
「今回の劇は稽古の期間が短いんです。それを埋めるために稽古の後に特訓をしているんです」
「そうなのか」
稽古時間と帰宅時間が合わないと思っていたが、特訓していたのか。帰りは一人になりそうだ。
「では、また何かあれば呼んでください」
「はい。ありがとうございました」
深くお辞儀するクランチ監督に手を振って劇場を出る。
外はすっかり夜だ。家に帰宅する人で溢れている。
私が料理する訳にもいかないし、夕飯はどうするかな。どこかで食べていくか。
「そういえば、一人で夕食を食べるのは久しぶりだな」
カロンから逃げている時は一人で食事することがほとんどだった。今はすっかり、にぎやかな食卓に慣れてしまったな。一人では外食する気力すら起きないな。
「適当にインスタントラーメンでも啜るか。料理は禁止されているが、流石にお湯くらいなら沸かしても良いだろう」
キッチンには入れないから、庭で火球を使ってお湯を沸かそう。インスタントラーメンなら買い置きが1つあったから、それを食べて……
「ねえねえそこの彼女」
食べたらいつも通り戦闘訓練して、家事の練習。今日は掃除の練習をするか。
「おーい、無視しないでよー」
今日は稽古の手伝いで疲れたからな。今夜は早めに寝て、明日は早く起きて多めに戦闘訓練をしよう。
「ちょっと!?聞こえてる!?」
「……ん?」
考え事をして歩いていると、急に腕を掴まれた。
何事かと思っていると、ピアスを付けたギラギラした服装のチャラい男が、気持ちの悪い顔で笑っていた。
「何か用か?」
「お姉さん一人?暇なら俺と遊ばない?」
「貴様のような軽薄そうな男に興味はない」
「そんな事いわないでよ。ほら、俺って結構イケメンだろ?一緒に遊べば楽しいぜ?」
「お前がイケメン?」
私は男の顔をマジマジと見つめる。この男がイケメン?
「……ぷっ、あはははははは!面白い冗談だ!」
ロワの足元にも及ばない、この男がイケメン?最高の冗談だ。
1分間たっぷりと笑い涙を拭く。
「ひー、笑いすぎてお腹が痛い。貴様はコメディアンの才能があるな。すぐそこに劇場があるから、前座として応募するといい」
「…………」
私が男に視線を向けると、両手を震わせて顔を真っ赤にしていた。よく見ると、周りに人だかりも出来ている。私の笑い声に引き寄せられたんだろう。
「あー、なんだ。バカにするつもりは無かったんだ。すまん」
「この……バカにしてるだろ!」
「バカにしている訳ではないと言っただろう!?」
男はアイテムボックスから刀を取り出した。
「俺は顔も良いが、剣の腕も一流なんだよ。死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
男が刀の刃を舐めてニヤニヤと笑う。
これは私が完全に悪い。私が切りつけられるだけで済めばいいが、周りにギャラリーが多すぎる。どうしたものか。
とりあえず、落ち着かせてみるか。私は手を広げて男に向き直る。
「分かった。存分に切りつけてくれ」
「あ?」
私のリアクションが思っていた物と違ったからか、男が眉を顰める。
「随分余裕だな?」
「笑ってしまったのは悪いと思ったからな。気の済むまで切ればいい」
「その言葉、後悔するなよ!」
男は刀を振りかぶって私に切りかかる。服まで切れると不味いから、魔装で保護しておくか。
「俺に恥をかかせたことを後悔させてやる!死ね!」
刀が私の首筋に命中する。が、私には1ダメージも通らない。
「な!?」
「どうした?もう終わりか?」
「ま、まだだ!」
男の刀が青く光る。攻撃力増加スキルか。見た感じ100くらいは上がるだろうな。
「今度こそ死ね!」
男が私の胸元に刀を突きたてて来る。勿論、ダメージは通らない。
「な!?俺の全力だぞ!?」
「気が済むまで切って良いぞ。もう終わりなら言ってくれ」
「くうう!どこまでバカにする気だ!」
男が滅茶苦茶に刀を振り回す。案の定、全部ダメージは通らない。
「ぜぇぜぇ……」
「見て見て、あの人必死で刀振ってるよー」
「ほんと。女性に少しも効いてないなんて格好悪いわね」
「ああ?」
肩で息をしていた男が野次馬をしていた女性達に視線を向ける。
「おい、俺をバカにしたな?」
「あ、その……」
「バカにしたなぁぁぁぁ!」
男の標的が女性達に変わり、目を血走らせて駆け出す。
「死ねやぁぁぁぁ!」
「キャアアアア!」
男の刀が女性たちに振り下ろされる。誰もが女性たちの鮮血が噴き出すと思った瞬間、
「シン・ダブルプロフェクション」
白銀の盾が男の刀を受け止めた。そして、威力の2倍が男の刀に返る。
「うおっ!?」
想定以上の威力を受けた刀は吹き飛んで私の所まで転がって来た。
「ふん!」
私は転がって来た刀の刃を踏み砕く。
「な……」
武器が破壊され呆然としている男を私は睨みつける。
「私だけを攻撃するのは構わない。だが、周りの人間を巻き込むんだったら……」
私は大剣を取り出して男に向ける。
「容赦はしないぞ?」
「ごごごごごめんなさーい!」
男は足をもつれさせながら、必死に逃げていった。
大剣を仕舞うと、その様子を見ていたギャラリーから歓声が上がる。
「かっこいい!」
「あの人、何の人かしら?」
「さっき劇場から出てくるのを見たわよ」
「じゃあ役者かよ!何に出てるんだ!?」
このままだと良くない噂が立ちそうだな。どうにかしないと。
私は折れた刀を回収し、歓声に手を振る。そうだ、こういう時こそ、あいつの力を借りよう。
「皆さん、ご清聴いただきありがとうございました!私はキムラ・ホウリのパーティーメンバーでございます」
「ホウリ?」
「あのホウリか?」
ギャラリーの興味が一気にホウリへと変わる。流石ホウリの知名度だ。一気に私の事なんて忘れられた。このまま畳みかけよう。
「今のはホウリが企画した芝居です。面白かったらホウリに感想をお伝えください」
「そうだったのか」
「楽しかったぜー!嬢ちゃん!」
皆が満足そうな表情で解散していく。なんとか誤魔化せたみたいだ。
「疲れた……」
もうインスタントラーメンを作る気力すら残っていない。今日はもう寝てしまおうか。
そう考えていると、また腕を捕まえられた。
またか、そう思ってうんざりして振り返る。
「ナンパならお断り……」
「かっこよかったぞ、ミエル」
「フラン?特訓していたんじゃないのか?」
腕を掴んでいたのは、特訓していた筈のフランだった。
「いつから見てた?」
「最初からじゃ」
「そうか。少し恥ずかしいな」
照れて頭を掻いていると、フランが優しく笑った。
「どうしたんだ?」
「わしは嬉しいんじゃよ」
「なぜだ?」
「お主が力を使いこなしているからじゃよ」
「ああ。確かにそうか」
シン・ダブルプロフェクションは死ぬ間際でなくても使えるようになった。特訓したフランも嬉しいんだろう。
「シン・ダブルプロフェクションを使えるようになるまで、苦労したからな」
「それもあるが、わしが言いたいのは別のことじゃ」
「別?」
ここまで褒められる心当たりがない。何かしたか?
「お主、最初はシン・ダブルプロフェクションを使わなかったじゃろ?」
「そうだな」
「新しい力を付けた者は意味もなく力を使いたくなるものじゃ。それが大きい力であればなおさらじゃ。じゃが、お主は必要以上に使わなかった。わしはそれが嬉しいんじゃ」
そう言ってフランは私の優しく握る。
「その……さっきよりも恥ずかしいな?」
「そうか?もっと褒めてもよいんじゃぞ?」
「勘弁してくれ。そういえば、特訓はどうなったんだ?」
「ヌカレが急用でのう。今日の特訓は無くなったんじゃ」
「なら、ご飯を食べていくか?」
「いいのう。そこでミエル褒め大会でもするか」
「勘弁してくれ」
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
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不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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