魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百六十五話 蛇に睨まれたノエル

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(ピーピー)「……来たか」


 ホウリお兄ちゃんの腕にあるハンドベルトが音を立てる。それを聞いたホウリお兄ちゃんが立ちあがって白剣を抜く。


「もしかして、幹部が来たの?」
「ああ、行くぞ」


 さっきの音って幹部が来たって音かな?便利な道具だ。


「くっ……聖剣無しで幹部と戦わないといけないのか」
「頑張ろうね」


 ノエルとキュアお兄ちゃんも白剣を抜いて戦闘態勢を取る。


「おい待て、キュアはここに残れ」
「は?なんでだ?」


 ホウリお兄ちゃんの言葉にキュアお兄ちゃんが不満気になる。


「聖剣が無いと勝てないんだぞ?お前が説得しないでどうする?」
「それは……そうか」
「納得したなら聖剣様を説得して、さっさと加勢しにこい。それまでは俺達が抑えておく」
「ああ。頼んだ」


 キュアお兄ちゃんが再びレオニグル君に向き直る。


「あの、幹部も来ているので力を貸していただけないでしょうか?」
『ノエルになら力を貸そう』


 相変わらず話しになってない。まだまだ時間が掛かりそうだ。


「さっさと行くぞ。時間はそこまで無い」
「はーい」


 ちょっと気が引けるけど、ノエル達は入口まで戻ることにした。
 ホウリお兄ちゃんとお話もせず、黙々と進む。


「……そろそろ構えろ」
「うん」


 白剣をいつでも振れるように心の準備をして進む。すると、前から何かが這うような音が聞こえて来た。


「いいか?今回の目的は時間稼ぎだ。倒そうと思うなよ?」


 ホウリお兄ちゃんの言葉にノエルは神妙に頷く。
 緊張から思わず白剣を握りしめると、とうとう幹部が現れた。


≪シャー!≫


 それは洞窟の向こうに続くほどに、長い胴体の大蛇だった。
 大蛇は2本の腕が生えていて、杖を持っていて赤い上着を着ている。そして、何よりも放たれているプレッシャーが凄まじい。
 ホウリお兄ちゃんとかフランお姉ちゃんと特訓していなかったら、怖くて戦うことも出来なかったと思う。
 幹部がノエル達を一瞥すると、細い舌を出し入れしながら杖を突きだす。


≪貴様らが騎士団か?≫
「そんなところだ」
「代理だけどね!」
「余計なことは言うな」
≪ならば敬意を表して、私も名乗るとしよう≫


 幹部が杖を回して上に掲げる。


≪私は幹部にして最強の魔術師、ジャスネーク。貴様らを地獄に送る者だ。冥途の土産に覚えておくといい≫
「死ぬつもりは無いよ!」
「右に同じだ。お前を倒して生きて帰るさ」
≪意気込みは十分と見た。行くぞ!≫


 ジャスネークさんが眼を光らせ突進してくる。それを見たホウリお兄ちゃんは手を突き出した。
 何事かと止まったジャスネークさんにホウリお兄ちゃんが話す。


「なあ、1つ聞いて良いか?」
≪なんだ?≫
「なんで部下を連れていないんだ?」


 ホウリお兄ちゃんの言葉にジャスネークさんが固まる。ホウリお兄ちゃんは気にせずに言葉を続ける。


「幹部は部下を連れている筈だ。聖剣の争奪戦をするんだったら猶更な。だが、見たところ部下はいない。なんでだ?」
≪そ、それは……お前らなんて私ひとり十分だからだ!≫
「30年前に、幹部ひとりが聖剣持ちにやられたのを忘れたか?それ以降はどんな相手でも多人数で戦いを挑んできてただろ?」
≪あの……その……≫


 ジャスネークさんがバツが悪そうに顔を背ける。何か事情があるのかな?


≪じ、実は部下に出撃の命令をしたのだが、誰も従わなかったのだ……≫
「は?なんで?」
≪私に分かるか!≫
「はぁ……俺が特定してやるから、普段の部下との接し方を教えろ」


 ホウリお兄ちゃんが白剣を鞘に納めて言う。その姿に戦う意思は全く感じられない。


≪別に普通であるぞ?仕事終わりには飲みにつれて言っているし、休日には慰安旅行を企画したりしている≫


 魔物にも休日とか飲み会とかあるんだ。
 ホウリお兄ちゃんが頭を抱えてため息を吐く。


「それが原因だな」
≪何故だ!?部下のことを一番に考えているのだぞ!?≫
「それって部下の意見を聞かないで一人で決めただろ?」
≪そうだが?≫
「多分だが、部下はそこまで乗り気じゃないと思うぞ?」
≪そうなのか!?≫


 ジャスネークさんが眼を見開く。心なしか舌を出す頻度が多くなったような?


「よくあるんだよ。上司が独りよがりな計画を立てて、部下が辟易するってこと」
≪そ、そんな……≫
「普段の不満が今になって爆発した。それが今回の結果だろう」
≪どうすれば良いんだ!?≫
「まずは部下の意見を聞くことだな」
≪普段から意見は聞くようにしているのだが?≫
「上司に真っ向から意見を言える奴なんかいるか」
≪ならばどうすれば?≫
「目安箱とかで匿名性を高めてだな───」


 ホウリお兄ちゃんが親切に分かりやすく相談に乗っていく。
 あれ?戦うって話じゃなかったっけ?なんで相談に乗っているんだっけ?ま、いっか。
 数分に渡って、ホウリお兄ちゃんはジャスネークさんの相談に乗っていく。


「───そんな感じだな」
≪なるほど、参考になるな≫
「次に部下の機嫌を取る方法だが───」
「ホウリィィィィ!」


 ホウリお兄ちゃんが更にアドバイスをしようとすると、洞窟の奥からキュアお兄ちゃんの叫び声が響いてきた。
 思わず奥へと視線を向けると、必死に走ってくるキュアお兄ちゃんの姿があった。


「とりゃああ!」


 キュアお兄ちゃんは白剣を抜いてジャスネークさんに切りかかる。


≪なんの!シールド!≫


 ジャスネークさんが杖を振るうと、結界みたいな半透明の壁が現れた。
 キュアお兄ちゃんの白剣は壁に防がれた。防がれた後は大きく後ろに跳んで白剣を構えなおす。


「助けに来たぞ!」
「待て、聖剣はどうした?」


 ホウリお兄ちゃんがキュアお兄ちゃんの姿を見て眉を顰める。確かにキュアお兄ちゃんは聖剣を持っているように見えない。
 キュアお兄ちゃんは苦虫を嚙み潰したよな表情で口を開いた。


「あの聖剣にいくら話しても分かってもらえなくてな。これ以上は無駄だと判断して、加勢に来た訳だ」
「バカか。聖剣が無いと勝てないって言っただろうが。折角の時間稼ぎが台無しだ」


 あ、そっか。今は戦う事が目的じゃなくて時間稼ぎが目的なんだっけ。あの相談も時間稼ぎのひとつだったんだ。


「ホウリなら何とかするだろう?」
「丸投げするんじゃねぇよ」


 ホウリお兄ちゃんがため息をついて、白剣を抜く。


「やるだけやるぞ!キュア!ノエル!」
「うん!」
「ああ!」


 ホウリお兄ちゃんがジャスネークさんに突進する。それを見たジャスネークさんは再び杖を振るう。


≪何度やっても無駄だ!シールド!≫


 再び半透明の壁が現れてホウリお兄ちゃんの行く手を阻む。それを見たホウリお兄ちゃんはニヤリと笑った。


「ノエル!」
「魔装!」


 ノエルは魔装を使って壁に向かってパンチする。すると、ガラスが割れるような音と共に壁が砕けた。


≪な!?≫


 戸惑うジャスネークさんに向かって、ホウリお兄ちゃんは輝く白剣を振るう。
 白剣がジャスネークさんに命中して、10㎝くらい傷をつける。


≪くぅ……≫


 怯んだ隙にノエルも突きで追撃をする。


「やあ!」


 切っ先がジャスネークさんの胸に突き刺さって貫通する。


「まだまだ!」


 後ろでキュアお兄ちゃんが聖なる力を白剣に込める音が聞こえる。



「うらぁ!」


 光がジャスネークさんとノエル達を飲み込む。けど、苦しそうにしているのはジャスネークさんだけだった。


≪ぐああああ!≫


 聖なる力は人にはダメージが無いから、同士討ちを気にせずに使える。仲間を傷つけないなんて、かなり便利だ。
 というか、これって勝てそうじゃない?
 ノエルも聖なる力で追撃しようとした瞬間、ジャスネークさんが杖で薙ぎ払ってきた。
 ノエルとホウリお兄ちゃんは白剣で防御して後ろに下がる。


「普通の魔物なら5回は死んでる攻撃だぞ?なんで生きてる?」
「幹部なんてそんなものだ。というか、これからが本番だ。気を抜くなよ」
≪シャー!≫


 ジャスネークさんはノエル達を睨みつけて杖を突きつけてきた。ホウリお兄ちゃんの言う通りここからが本番みたい。


≪3人だからと侮っていた。ここからは容赦はしない≫
「来るぞ!」


 ジャスネークさんが杖を回すと、周りに真っ黒な剣が何本も現れた。


≪ダークネスソード!≫


 何本もの剣がノエル達に向かって飛んできた。


「くっ……!」


 ノエルは白剣でなんとか真っ黒な剣を捌く。けど、数が多すぎて中々前に進めない。
 横のホウリお兄ちゃんも同じように白剣で捌いている。後ろにいるキュアお兄ちゃんは分からないけど、無事だって信じるしかない。
 けど困った。これだと前に進むことが出来ない。魔装を使って無理やり前に行く?けど、他にも能力が使えるなら、一人で突撃するのは危ない気がする。
 ホウリお兄ちゃんに視線を向けると、攻撃を捌くだけで前に進もうとしていない。
 ホウリお兄ちゃんの指示が無い以上、ここは待機して様子を……


「ぐあっ!?」
「キュアお兄ちゃん!?」


 後ろからキュアお兄ちゃんのうめき声が聞こえて思わず振り向く。すると、腹部に剣が刺さっているキュアお兄ちゃんがいた。
 治療しようと反転して、キュアお兄ちゃんの元へと急ぐ。瞬間、ノエルの肩に物凄い衝撃が走った。
 肩を見ると剣が命中していた。魔装のおかげで刺さることは無いんだけど、それなりに痛い。


≪今だ!クラッシュ!≫


 ノエルが体勢を崩した隙にジャスネークさんが杖から衝撃波を発生させる。


「きゃあ!?」
「うおおおおお!?」


 ノエルは魔装で、ホウリお兄ちゃんは地面に白剣を突き刺すことで衝撃波に耐える。けど、お腹に剣が刺さっているキュアお兄ちゃんは耐えられずに、洞窟の奥まで飛ばされてしまった。


「キュアお兄ちゃん!」
≪追わせないぞ!シールド!≫


 奥に向かって走ろうとすると、半透明の壁が10枚くらい現れた。これじゃ、キュアお兄ちゃんの元にいけない!


≪シャーシャッシャ!これで人数が減った。あとは物量で押すだけだ!≫
「くぅ……」


 早く治療しないとキュアお兄ちゃんが死んじゃう。けど、向かおうにも剣を避けながら壁を壊すには時間が掛かりすぎる。
 不味い、完全にピンチだ。
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