魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百六十六話 呆れるほどに有効な戦術

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(ドスン)「ぐあっ!」
≪すごい勢いで飛んできたな。腹に剣も刺さっている。幹部にやられたか?≫
「はぁ……はぁ……」
≪汗も血も物凄い勢いで流れているな。治療しなければ10分も生きられないだろう≫
「はぁ……はぁ……。くぅ……」
≪ほう?まだ立つか。だが、瀕死の貴様が行って戦力になるのか?≫
「例え力が及ばなくても、立ち向かわない理由にはならない……!」
≪良い目をしているな。だが、気合だけではどうにもならないぞ?≫
「……それでも行く」
≪決意が固いな≫
「力を貸す気が無いなら黙っていてくれ。これは俺の戦いだ」
≪一人称も変わったな。それが貴様の本性か?≫
「悪いか?」
≪いや、我の好みだ≫
「お前の好みなんかどうでも良い。時間が無いんだから、さっさと行かせてもらう」
≪まあ待て。1つだけ聞かせろ≫
「……なんだ?」
≪我がノエルを選んだ時、貴様はどう思った?≫
「それを言って何になる?」
≪良いから聞かせてみよ≫
「……子供に負けたのだぞ?悔しいに決まっているだろ」
≪あんなに平気そうな顔をしていたのにか?≫
「リーダーが嫉妬している様子を見せる訳にはいかない」
≪なるほど、それが貴様の枷か≫
「枷?」
≪ああ。我を扱うに不要なものだ≫
「分かるように言え」
≪聖剣を扱うには聖なる力の総量と、聖剣自体との相性が重要なのは知っているな?≫
「ああ」
≪我の場合、闘争心の強さが相性の良さに繋がる≫
「つまり、ノエルちゃんは闘争心が強いってことか?」
≪ノエルの闘争心は皆無だ。あれは聖なる力の総量だけで、全ての聖剣を扱えるだろう≫
「本当に何者なんだ……」
≪ここからが本題だが、貴様の闘争心はかなり強いみたいだな?その闘争心を解放するのであれば、我を使わせてやってもよいぞ?≫
「解放ってどうすればいい?」
≪簡単だ。相手を倒したい、そういう気持ちを押えなければ良い≫
「相手を倒したい……」
≪そうだ。闘争心を解放し我を引き抜け≫
「引き……抜く……」
≪もっとだ!倒したい相手の顔を思い浮かべて、気持ちを高ぶらせろ!≫
「……おおおおお!」
≪そうだ!そして叫べ!我が名は!≫
「レオニグル!」


☆   ☆   ☆   ☆


「こいつは俺が抑えておく!ノエルはキュアの元に急げ!」
「分かった!」


 ホウリお兄ちゃんに言われた通り、目の前の壁に集中する。


≪シャーシャッシャ!貴様程度が私を押えるだと?笑わせるな!≫
「甘く見ると痛い目をみるぞ!」


 後ろの戦いの音を聞きながら、魔装を発動する。このくらいの壁なら一撃で破壊できるはず。
 拳にMPを多く込めて、壁に思いっきり叩き込む。


「え!?」


 目の前の光景に思わず声が漏れる。さっきまで一撃で砕けていた壁が、今はヒビが入っただけで砕けてない。しかも、ヒビは徐々に直っていっている。


≪シャー!その壁は私の特別製だ!さっきみたいに簡単に壊せると思うなよ!≫
「急いでいるのに!」
「何度も殴れば壊れる!急がないとキュアが死ぬぞ!」
「わ、分かった!」


 10回くらい殴って、何とか壁を破壊する。けど、壁はあと4枚もある。このままだと、間に合わない!


「ホウリお兄ちゃん!」
「諦めるな!ここで諦めたら後悔するぞ!」
「……分かった!」


 ホウリお兄ちゃんも頑張ってるんだ。ノエルもキュアお兄ちゃんを助けるために頑張らないと!
 必死に壁の破壊を頑張る。MPもいつも以上に込めて、息が上がるのも気にせずに壁を殴り続ける。


「これで最後!」


 最後の壁を殴って破壊する。これでキュアお兄ちゃんのところに───


≪シャー!シールド!≫


 ノエルの前にさっきと同じ壁が10枚現れた。


「……え?」
≪シャー!シールドが一度だけしか使えないなんて言った覚えはないなぁ?≫
「…………」


 目の前が真っ暗になっていく。こんなのどう頑張っても間に合う訳が……


≪どうした?早く行かないと仲間が死ぬぞ?まあ、行けたところでどうしようもないだろうがな?≫
「……いや、諦めない!絶対にキュアお兄ちゃんを助けるんだ!」
≪立派な心意気だ!だが無意味だ!≫


 疲れて重い腕を再び振り上げる。すると、洞窟の向こうから誰かがやってくるのが見えた。壁が半透明で良く見えないけどキュアお兄ちゃんっぽい。
 けど、キュアお兄ちゃんのお腹には剣が刺さっていた筈。あの傷で満足に動けるとは思えない。でも、奥にはキュアお兄ちゃん以外には誰もいない筈だし?もう訳が分からなくなってきた。
 訳が分からずボーっとしていると、その人が持っていた剣を振るう。瞬間、壁が紙みたいに簡単に切断されて、姿が鮮明に確認できた。


「キュアお兄ちゃん?」


 それは聖剣を持ったキュアお兄ちゃんだった。お腹も怪我しているし間違いない。
 けど、なんだか雰囲気が違うような?殺気立っているとも違うし、上手く言葉にできない。
 キュアお兄ちゃんは血が出ているのも気にしないで、ジャスネークさんに向かう。


「ノエル、援護を頼む」
「う、うん」


 口調も変わってる。悪い感じはしないから、今は置いておこう。
 セイントヒールで傷を治して、ジャスネークさんに向き直る。すると、切り傷を体中に作っているホウリお兄ちゃんがジャスネークさんと対峙していた。
 ホウリお兄ちゃんはこちらに視線を向けずに話し始める。


「キュアか。その様子だと聖剣を説得できたみたいだな」
「ああ。今からそいつを始末する。協力してくれ」
「分かった。ノエル、白剣を構えろ。全力でいくぞ」
「うん!」


 ノエルは白剣を2本取り出す。これで聖なる力の出力も2倍だ。


「行くぞ!レオニグル!」


 キュアお兄ちゃんが吠えるよう叫び、ジャスネークさんに突撃する。ノエル達もそれに続いて突撃する。


≪それが聖剣か!だが、私には勝てん!≫


 ジャスネークさんが杖を回してキュアお兄ちゃんに向ける。瞬間、壁から鎖が伸びてきてキュアお兄ちゃんの腕に絡みついた。


≪聖剣は邪なるものを祓う力を持つ。シールドを切り裂いたのもその力の影響だ。だが、使用者に干渉する魔法なら通用……≫
「ふん!」


 ジャスネークさんが言い切る前にキュアお兄ちゃんが鎖を引きちぎる。


≪な!?≫

 引きちぎった勢いのまま、キュアお兄ちゃんが切りかかる。すると、ジャスネークさんの胸元が切り裂かれた。
 浅い、けど確実にダメージになっている。このまま行けば……


≪舐めるなよ!ダークネスソード!≫


 ノエル達の周りを黒色の剣が埋め尽くす。いくら聖剣でも、この量は防ぎきれない。だったら……


「ノエル!」
「うん!」


 ノエルとホウリお兄ちゃんでキュアお兄ちゃんに当たりそうな剣を全て叩き落とす。


「せいやぁぁぁぁ!」


 隙が生まれて、ジャスネークさんの首元に聖剣が迫る。


≪うおおおおお!?≫


 ジャスネークさんは後ろに下がって紙一重で聖剣を回避する。


≪お前らの連携おかしいぞ!?騎士団を100人相手にしたときの方が楽だ!≫
「褒めても聖なる力しかでねぇぞ?」
≪褒めてない!≫


 ジャスネークさんが下がりながら杖を構える。


≪ならば奥の手だ!≫


 ジャスネークさんが杖を構えながらブツブツと呟き始める。


「大技か」


 キュアお兄ちゃんはそう呟くと、聖剣を上に掲げた。すると、聖剣に光が溜まっていく。


「一気に決めるぞ!時間を稼いでくれ!」
「了解」
「分かった!」


 ノエル達がジャスネークさんに突っ込んで白剣を振るう。


≪バカが!もう遅い!≫


 ジャスネークさんがニヤリと笑って杖を突き出してくる。


≪デスポイイズン!≫


 瞬間、緑色の煙が杖から噴射され洞窟に満ちる。


≪デスポイズンは触れただけで数秒と立たずに死ぬ毒の霧だ!いくら聖剣を持っていようと関係なく死ぬ!≫


 そう、これがホウリお兄ちゃんから聞いていたジャスネークさんの能力。吸わなくても死んじゃう毒を、洞窟っていう密室で使う。普通だったらどんな人でもやられちゃう。
 けど、ノエルたちは普通じゃない。


≪くたばれ!≫
「お前がな」


 ホウリお兄ちゃんが気にせずにジャスネークさんに切りかかる。


≪な!?なんで死なない!?≫
「敵に手を教えてやるほどお人よしじゃないんでな」


 ホウリお兄ちゃんの白剣を杖で受けるジャスネークさん。
 毒が効かない理由は簡単、ノエルのセイントヒールだ。ミエルお姉ちゃんの料理くらいの毒だと治療しきれないけど、効くまでに数秒もあるんだったら治療できる。
 タクシーでホウリお兄ちゃんからこの話を聞いた時、ちょっと可哀そうだと思ったって訳。


「まだまだ行くよ!」


 白剣をハサミみたいに交差させ、杖を挟み込む。


「いっけぇぇぇ!」
「はぁぁぁぁぁ!」
≪な!?≫


 ホウリお兄ちゃんとの連携で杖の切断に成功する。
 キュアお兄ちゃんの方に視線を向けると、剣の光が最高潮になっているのが見えた。


≪くそっ!ここは一旦ひかせてもらう!≫
「させないよ!」


 ノエルは回り込んで、蛇の胴体に白剣を突き刺す。これで引く事は出来ない!


「今だキュア!」
「はあぁぁぁぁぁぁ!レオニグル!」


 キュアお兄ちゃんが聖剣を振るう。すると、ライオンを形どった光がジャスネークさんに襲い掛かる。


≪うおおおおおお!≫


 ジャスネークさんは何も出来ずに光に飲み込まれ、跡形も無く消滅した。
 こうして、ノエル達は聖剣の確保と幹部の撃破に成功したのだった。
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