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第二百六十四話 面を上げろ
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特訓の後、ノエル達はホウリお兄ちゃんが呼んだタクシーで移動していた。
キュアお兄ちゃんは特訓で疲れたのか、窓にもたれ掛かって眠っている。窓から景色を眺めていると、助手席のホウリから話しかけられた。
「ノエルも寝て良いぞ」
「眠くないから大丈夫。それよりも、魔物はなんで聖剣を狙ってるか聞いても良い?」
「脅威的な武器は敵に渡したくないだろ?破壊するか封印するつもりなんだよ」
「魔物の幹部に見つからない様に、こっそりと取ることは出来ないの?」
「騎士と聖剣が近づくと、特徴的な波動を出すんだ。魔族はそれを察知するから、場所がバレるのは避けられない」
「だから、ノエルとホウリお兄ちゃんで足止めする必要があるんだね」
勝てない相手に足止めをする。大変だと思うけど頑張らないと。
「あと、相手をする幹部『ジャスネーク』について説明しておくか」
今回戦う幹部は蛇に腕が付いたような魔物みたい。盾と剣を使う戦い方で、固い鱗と縦横無尽の動きが特徴的みたい。
「あと1つ頭に入れて欲しいことがある」
「何かあるの?」
「ちょっとした特殊能力があってな」
「特殊能力?」
ホウリお兄ちゃんから幹部の特殊能力の説明を受ける。
「───以上がジャスネークの能力だ」
「それ本当?」
「ああ。ノエルを呼んだ理由の大半がここにある」
確かにこれはノエルしか出来ないことだ。というか、相性が良すぎて可哀そう。
「遠慮はいらない。手加減して勝てる相手じゃない」
「はーい」
変に手加減して、取り返しのつかないことになったら大変だ。心が痛いけどベストを尽くそう。
そんな感じでホウリお兄ちゃんとお話しながらタクシーに揺られる。
出発してから1時間後、窓から海が見えて来た。
「わー!海だー!」
「そろそろ着くな。キュアを起こしてくれ」
「はーい」
キュアお兄ちゃんの頬をペチペチと叩いて声を掛ける。
「おーい!そろそろ着くよー!」
すると、キュアお兄ちゃんの目がパッチリと開いた。体を起こすと県が腰にある事を確認して、ノエルの方に向く。
「起こしてくれて感謝する」
「寝起き良いね?」
「寝起きに戦闘できるように訓練をしているからね」
その言葉通り、寝起きのポヤポヤした雰囲気は感じられない。フランお姉ちゃんなら、寝起き1時間くらいはポヤポヤしてるのに。
「フランは寝ぼけてても負けないからな。一緒にしない方が良いぞ?」
ノエルの考えが読まれたのか、ホウリお兄ちゃんから補足が飛んでくる。警戒する必要がないって事なんだ。流石はフランお姉ちゃん。
「フランって誰だ?」
「向こうの世界の魔王だ。あいつが協力してくれれば、聖剣無しで幹部を倒せる位には強い」
「そんな奴がいるのか。世界は広いな」
「世界が広いっていうか、世界の数が多いって感じだけどな」
雑談している内にタクシーが目的に到着した。
『ゴリヨウ アリガトウゴザイマシタ』
「おう、またよろしくな」
あれ?運転手さんの喋り方が可笑しいような?ま、いっか。
疑問に思いながらも自動的に開いたドアから、ノエル達は外に出る。
扉が閉まり走り去っていくタクシーを見ながら、キュアお兄ちゃんが呟く。
「……なあホウリ。もしかして、運転手ってロボットか?」
「今気づいたのか?」
「え?そうなの?」
運転手さんの姿を思い出してみると、確かに人間っぽくなかったような?
「ロボットが運転していいのか?」
「法には触れてないから問題ない」
「その言い方だと、法の抜け道を突いているって聞こえるぞ?」
「意図が通じているようで良かったぜ」
ホウリお兄ちゃんが気にしていない様子で海の方へ歩いていく。キュアお兄ちゃんは少しだけ眉を顰めると、何も言わずにホウリお兄ちゃんの後に続く。諦めたかな?
海は砂浜じゃなくて、大小の岩の間をン網が通っていくような所だった。滑らないように気を付けながら岩と岩を跳んで移動する。
ホウリお兄ちゃんは海までたどり着くと、携帯化カプセルを取り出した。
「水が跳ねるからちょっと下がってろ」
ノエル達が下がった事を確認して、ホウリお兄ちゃんがカプセルを開ける。
瞬間、空中に大きなモーターボートが出現して海に着水した。
「おお!モーターボート!」
「異世界にもモーターボートはあるの?」
「あるよ!その時はホウリお兄ちゃんが運転したんだ!」
あの時はクラーケンの素材を回収したんだっけ。あれから1年も経ってないけど、なんだか懐かしいや。
「早く乗れー、置いてくぞー」
「すまない、今行く」
ホウリお兄ちゃんに促されるまま、岩からモーターボートに飛び移る。
「2人とも乗ったな。じゃ、しゅっぱーつ」
「おー!」
「おー」
皆で拳を突きあげると、モーターボートが発進する。潮風が体を撫でていき、水しぶきがちょっと体に掛かる。
今日は暑いし、丁度涼しくなって良いね。
いつもとは違う風を楽しんでいると、運転しているホウリお兄ちゃんが話してきた。
「ここから大回りで目的地に向かう。5分くらいで着くから最終準備をしててくれ」
「はーい」
えーっと、多分拳銃はいらない。ナイフも効かないだろうから、仕舞っておいて、服はバトルスーツにしよっと。白剣は忘れずに装備しないとね。
そんな感じで準備を進めていると、進行方向に大きな洞窟が開いている崖が見えて来た。
「あそこが目的地なの?」
「ああ。上陸の準備をしてくれ」
「はーい」
モーターボートが洞窟に入っていく。奥に進むにつれて段々と日の光が届かなくなっていく。
そして、モーターボートが止まった時には真っ暗になっていた。
「事前に渡して眼鏡を付けるのを忘れるなよ」
「分かってるよ」
ノエルとキュアお兄ちゃんはホウリお兄ちゃんから貰った眼鏡を付ける。眼鏡を付けると、ツルの部分が頭にフィットするような感覚になり、視界が明るくなっていく。
そして、数秒で外と同じくらいの視界になった。
これもホウリお兄ちゃんのクラスメイトの発明品らしい。暗視ゴーグル?っていうのを高性能にしたものだって聞いた。
良く分からないけど、着けるだけで暗い所でも良く見えるようになるみたい。しかも、衝撃に強いから戦う時にも便利なんだって。
「よし、行くぞ。何がいるか分からないから油断するなよ」
「はーい」
「了解」
ホウリお兄ちゃんの後に続いて、洞窟の中を進む。海の中に入口があるだけあって、地面は海水で濡れている。滑らない様に注意しないとね。
奥に行くごとに洞窟の幅は広くなっていった。最初は1人通るのがやっとだったけど、今は5人くらいは並んで通れそう。
そんな事を考えつつ、黙々と奥に進んでいく。すると、奥の方がほんのりと輝いているのが見えた。
「ねぇ、あれって……」
「間違いない。聖剣だ」
「やった!」
「独りで突っ走るなよ?」
「……はーい」
走り出したい気持ちを押えて、大人しくホウリお兄ちゃんの後に続く。
少し歩くと広場みたいになっている場所に出た。その広場の中央に台座に突き刺さっている1本の剣があった。剣の柄は青く、鍔にはライオンさんの紋章が彫り込まれている。
そして、上に穴は開いていないのに、上から光が降り注いでいる。まるで、剣の存在を知らしめるために、この世界が気を利かせている、そんな光景だった。
「さっさと抜くぞ。そろそろ魔族達も感付くころだ」
「……あ、そうだな」
見とれているキュアお兄ちゃんが、ホウリお兄ちゃんの言葉で正気に戻る。そして、意を決して聖剣に近づくと……膝を付いて頭を下げた。
「あれ?抜くんじゃないの?」
「聖剣には自我がある。抜くのは聖剣に認められてからだ」
「そうなんだ」
頭を下げたキュアお兄ちゃんが黙っていると、聞いたことも無い声が洞窟の中に響いた。
『我を求めるのは誰だ?』
吠えるような威圧感のあるような声。ノエルは察する。これは聖剣の声なんだ。
緊張した表情でキュアお兄ちゃんは口を開く。
「私は騎士団のキュア・サンダース。世界の均衡を保つために、そなたの力を貸して欲しい」
『お前が我を望むか』
「は、はい!どうか力を!」
『………………』
何時間にも感じられるほどの沈黙の後、聖剣は答えを出す。
『ダメだ』
「な!?」
キュアお兄ちゃんが顔を上げて目を見開く。
「なぜですか!?私の何がダメなんですか!?」
『お前がダメという訳ではない。我を扱うに足る器ではある』
「なら!」
『だが、お前よりも相応しい器がいるのだ』
「相応しい器?」
『後ろのお前だ』
キュアお兄ちゃんが勢いよく振り向く。後ろ?ホウリお兄ちゃんかな?
隣のホウリお兄ちゃんを見ると、ノエルの視線に気づいてゆっくりと首を振った。
「俺には素質が無い。聖剣を扱える器じゃないさ」
「じゃあ誰?」
ホウリお兄ちゃんがノエルを指さしてくる。
「……ノエル?」
『そうだ』
聖剣が答え合わせをしてくれる。
ノエル達の間に微妙な雰囲気が流れる。聖剣はそんな雰囲気に気付いていないのか、聖剣はノリノリで話を続ける。
『我の名前はレオニグル。名前を叫びながら我を引き抜くのだ!』
「…………」
『どうした?あ、分かった。我の神々しさに怖気づいているのだな?見たところ、幼いようだし無理もない』
「いやぁ、そういう訳じゃなくて……」
『もしかして、こいつの部下だから遠慮しているのか?なら気にしなくていい。我を抜けば、お前はこいつよりも権力を得るだろうかなら』
「あの、お前じゃなくて、ノエルって呼んで?」
「問題はそこじゃないだろ」
『おお、ノエルか。我の持ち主の名にふさわしい。さあ、我を抜くのだ!』
ノエルは困ってホウリお兄ちゃんの方を向く。ホウリお兄ちゃんはゆっくりと首を横に振った。
「あ、ええっと、ごめんなさい?」
『なぜだ!?我が欲しくてここまで来たのだろう!?我があれば、モテまくりツキまくり、人生は順風満帆でウハウハだぞ!?』
「怪しい壺みたいな売り文句だね?」
『今はやりのキャラのシールもあげよう。学校で人気者になれるぞ!』
「児童誌の付録みたいな売り文句だな」
「人気なキャラって何?」
『ジャンヌダルクだ。この前の戦争で活躍したのだろう?』
「500年以上前をこの前って言うのか」
なんだ、タンパンマンじゃないのか。残念。
『今ならよく落ちる洗剤もつけるぞ!プロ野球の観戦チケットも付ける!』
「新聞の勧誘かよ。子供を勧誘する気があるのか?」
『分かった、他の聖剣の在りかの情報も渡そう。破格な条件だろう?』
「仲間まで売ったぞ。どれだけノエルが気に入ったんだ」
埒が明かないと思ったのか、ホウリお兄ちゃんが笑顔を張り付けて、レオニグル君に近づく。
「それがですね、これには事情がありまして……」
『事情?』
「ノエルはこの世界の人間じゃないんですよ」
『何?どういう意味だ?』
「神の使いなんですよ。明後日には別の世界に帰らないといけません。だから、レオニグルさんの持ち主になる訳にはいかないんですよ」
『神の使い?なるほど、だからそれほどの器を持っているのか。益々気に入ったぞ』
「話聞いてました?明後日には帰るんですよ?」
『ならば、我も連れていけ』
「その世界に魔物はいないんですよ。レオニグルさんの力を持て余すことになるんですよ?」
『ならば、この世界に留まれば良い』
「それが出来ないから説明しているんですよ?」
ホウリお兄ちゃんがキュアお兄ちゃんの両肩に手をのせる。
「このキュアも器としては十分なんですよね?今はノエルよりも相応しくないかもしれませんが、将来性は十分だと思いますよ?なんなら、今のノエルよりも相応しい器に育つかもしれません」
『将来性なら、ノエルも十分ではないか?』
「明後日に帰る者に将来性は無いです。どうです?キュアを選んでみませんか?」
『うむ、しかしな……』
ホウリお兄ちゃんが説得するけど、レオニグル君は渋っている。
ノエルもキュアお兄ちゃんの肩に手を置いて頭を下げる
「ノエルからもお願いします!キュアお兄ちゃんだって凄いんだよ!」
『だが、ノエル程ではない』
「そんなこと無いもん!」
「……仕方ないな。こうなれば最終手段だ」
「最終手段?」
「キュア、ノエル、正座して地面に手をついてくれ」
ノエル達は言われた通り、正座して地面に手を置く。この段階でノエルは何をするのか感付く。キュアお兄ちゃんも何をするのか分かっているのか、表情に困惑は無い。
「いくぞ、せーの」
掛け声と同時にノエル達は一斉に……
「「「お願いします!」」」
額を地面に擦りつけた。
『え、えっと……?』
「キュアお兄ちゃんを選んでください!」
「お願いします!俺、精一杯頑張ります!」
「お願いします!」
こうして、台座に刺さってる剣に、3人で土下座するという奇妙な光景が完成したのだった。
キュアお兄ちゃんは特訓で疲れたのか、窓にもたれ掛かって眠っている。窓から景色を眺めていると、助手席のホウリから話しかけられた。
「ノエルも寝て良いぞ」
「眠くないから大丈夫。それよりも、魔物はなんで聖剣を狙ってるか聞いても良い?」
「脅威的な武器は敵に渡したくないだろ?破壊するか封印するつもりなんだよ」
「魔物の幹部に見つからない様に、こっそりと取ることは出来ないの?」
「騎士と聖剣が近づくと、特徴的な波動を出すんだ。魔族はそれを察知するから、場所がバレるのは避けられない」
「だから、ノエルとホウリお兄ちゃんで足止めする必要があるんだね」
勝てない相手に足止めをする。大変だと思うけど頑張らないと。
「あと、相手をする幹部『ジャスネーク』について説明しておくか」
今回戦う幹部は蛇に腕が付いたような魔物みたい。盾と剣を使う戦い方で、固い鱗と縦横無尽の動きが特徴的みたい。
「あと1つ頭に入れて欲しいことがある」
「何かあるの?」
「ちょっとした特殊能力があってな」
「特殊能力?」
ホウリお兄ちゃんから幹部の特殊能力の説明を受ける。
「───以上がジャスネークの能力だ」
「それ本当?」
「ああ。ノエルを呼んだ理由の大半がここにある」
確かにこれはノエルしか出来ないことだ。というか、相性が良すぎて可哀そう。
「遠慮はいらない。手加減して勝てる相手じゃない」
「はーい」
変に手加減して、取り返しのつかないことになったら大変だ。心が痛いけどベストを尽くそう。
そんな感じでホウリお兄ちゃんとお話しながらタクシーに揺られる。
出発してから1時間後、窓から海が見えて来た。
「わー!海だー!」
「そろそろ着くな。キュアを起こしてくれ」
「はーい」
キュアお兄ちゃんの頬をペチペチと叩いて声を掛ける。
「おーい!そろそろ着くよー!」
すると、キュアお兄ちゃんの目がパッチリと開いた。体を起こすと県が腰にある事を確認して、ノエルの方に向く。
「起こしてくれて感謝する」
「寝起き良いね?」
「寝起きに戦闘できるように訓練をしているからね」
その言葉通り、寝起きのポヤポヤした雰囲気は感じられない。フランお姉ちゃんなら、寝起き1時間くらいはポヤポヤしてるのに。
「フランは寝ぼけてても負けないからな。一緒にしない方が良いぞ?」
ノエルの考えが読まれたのか、ホウリお兄ちゃんから補足が飛んでくる。警戒する必要がないって事なんだ。流石はフランお姉ちゃん。
「フランって誰だ?」
「向こうの世界の魔王だ。あいつが協力してくれれば、聖剣無しで幹部を倒せる位には強い」
「そんな奴がいるのか。世界は広いな」
「世界が広いっていうか、世界の数が多いって感じだけどな」
雑談している内にタクシーが目的に到着した。
『ゴリヨウ アリガトウゴザイマシタ』
「おう、またよろしくな」
あれ?運転手さんの喋り方が可笑しいような?ま、いっか。
疑問に思いながらも自動的に開いたドアから、ノエル達は外に出る。
扉が閉まり走り去っていくタクシーを見ながら、キュアお兄ちゃんが呟く。
「……なあホウリ。もしかして、運転手ってロボットか?」
「今気づいたのか?」
「え?そうなの?」
運転手さんの姿を思い出してみると、確かに人間っぽくなかったような?
「ロボットが運転していいのか?」
「法には触れてないから問題ない」
「その言い方だと、法の抜け道を突いているって聞こえるぞ?」
「意図が通じているようで良かったぜ」
ホウリお兄ちゃんが気にしていない様子で海の方へ歩いていく。キュアお兄ちゃんは少しだけ眉を顰めると、何も言わずにホウリお兄ちゃんの後に続く。諦めたかな?
海は砂浜じゃなくて、大小の岩の間をン網が通っていくような所だった。滑らないように気を付けながら岩と岩を跳んで移動する。
ホウリお兄ちゃんは海までたどり着くと、携帯化カプセルを取り出した。
「水が跳ねるからちょっと下がってろ」
ノエル達が下がった事を確認して、ホウリお兄ちゃんがカプセルを開ける。
瞬間、空中に大きなモーターボートが出現して海に着水した。
「おお!モーターボート!」
「異世界にもモーターボートはあるの?」
「あるよ!その時はホウリお兄ちゃんが運転したんだ!」
あの時はクラーケンの素材を回収したんだっけ。あれから1年も経ってないけど、なんだか懐かしいや。
「早く乗れー、置いてくぞー」
「すまない、今行く」
ホウリお兄ちゃんに促されるまま、岩からモーターボートに飛び移る。
「2人とも乗ったな。じゃ、しゅっぱーつ」
「おー!」
「おー」
皆で拳を突きあげると、モーターボートが発進する。潮風が体を撫でていき、水しぶきがちょっと体に掛かる。
今日は暑いし、丁度涼しくなって良いね。
いつもとは違う風を楽しんでいると、運転しているホウリお兄ちゃんが話してきた。
「ここから大回りで目的地に向かう。5分くらいで着くから最終準備をしててくれ」
「はーい」
えーっと、多分拳銃はいらない。ナイフも効かないだろうから、仕舞っておいて、服はバトルスーツにしよっと。白剣は忘れずに装備しないとね。
そんな感じで準備を進めていると、進行方向に大きな洞窟が開いている崖が見えて来た。
「あそこが目的地なの?」
「ああ。上陸の準備をしてくれ」
「はーい」
モーターボートが洞窟に入っていく。奥に進むにつれて段々と日の光が届かなくなっていく。
そして、モーターボートが止まった時には真っ暗になっていた。
「事前に渡して眼鏡を付けるのを忘れるなよ」
「分かってるよ」
ノエルとキュアお兄ちゃんはホウリお兄ちゃんから貰った眼鏡を付ける。眼鏡を付けると、ツルの部分が頭にフィットするような感覚になり、視界が明るくなっていく。
そして、数秒で外と同じくらいの視界になった。
これもホウリお兄ちゃんのクラスメイトの発明品らしい。暗視ゴーグル?っていうのを高性能にしたものだって聞いた。
良く分からないけど、着けるだけで暗い所でも良く見えるようになるみたい。しかも、衝撃に強いから戦う時にも便利なんだって。
「よし、行くぞ。何がいるか分からないから油断するなよ」
「はーい」
「了解」
ホウリお兄ちゃんの後に続いて、洞窟の中を進む。海の中に入口があるだけあって、地面は海水で濡れている。滑らない様に注意しないとね。
奥に行くごとに洞窟の幅は広くなっていった。最初は1人通るのがやっとだったけど、今は5人くらいは並んで通れそう。
そんな事を考えつつ、黙々と奥に進んでいく。すると、奥の方がほんのりと輝いているのが見えた。
「ねぇ、あれって……」
「間違いない。聖剣だ」
「やった!」
「独りで突っ走るなよ?」
「……はーい」
走り出したい気持ちを押えて、大人しくホウリお兄ちゃんの後に続く。
少し歩くと広場みたいになっている場所に出た。その広場の中央に台座に突き刺さっている1本の剣があった。剣の柄は青く、鍔にはライオンさんの紋章が彫り込まれている。
そして、上に穴は開いていないのに、上から光が降り注いでいる。まるで、剣の存在を知らしめるために、この世界が気を利かせている、そんな光景だった。
「さっさと抜くぞ。そろそろ魔族達も感付くころだ」
「……あ、そうだな」
見とれているキュアお兄ちゃんが、ホウリお兄ちゃんの言葉で正気に戻る。そして、意を決して聖剣に近づくと……膝を付いて頭を下げた。
「あれ?抜くんじゃないの?」
「聖剣には自我がある。抜くのは聖剣に認められてからだ」
「そうなんだ」
頭を下げたキュアお兄ちゃんが黙っていると、聞いたことも無い声が洞窟の中に響いた。
『我を求めるのは誰だ?』
吠えるような威圧感のあるような声。ノエルは察する。これは聖剣の声なんだ。
緊張した表情でキュアお兄ちゃんは口を開く。
「私は騎士団のキュア・サンダース。世界の均衡を保つために、そなたの力を貸して欲しい」
『お前が我を望むか』
「は、はい!どうか力を!」
『………………』
何時間にも感じられるほどの沈黙の後、聖剣は答えを出す。
『ダメだ』
「な!?」
キュアお兄ちゃんが顔を上げて目を見開く。
「なぜですか!?私の何がダメなんですか!?」
『お前がダメという訳ではない。我を扱うに足る器ではある』
「なら!」
『だが、お前よりも相応しい器がいるのだ』
「相応しい器?」
『後ろのお前だ』
キュアお兄ちゃんが勢いよく振り向く。後ろ?ホウリお兄ちゃんかな?
隣のホウリお兄ちゃんを見ると、ノエルの視線に気づいてゆっくりと首を振った。
「俺には素質が無い。聖剣を扱える器じゃないさ」
「じゃあ誰?」
ホウリお兄ちゃんがノエルを指さしてくる。
「……ノエル?」
『そうだ』
聖剣が答え合わせをしてくれる。
ノエル達の間に微妙な雰囲気が流れる。聖剣はそんな雰囲気に気付いていないのか、聖剣はノリノリで話を続ける。
『我の名前はレオニグル。名前を叫びながら我を引き抜くのだ!』
「…………」
『どうした?あ、分かった。我の神々しさに怖気づいているのだな?見たところ、幼いようだし無理もない』
「いやぁ、そういう訳じゃなくて……」
『もしかして、こいつの部下だから遠慮しているのか?なら気にしなくていい。我を抜けば、お前はこいつよりも権力を得るだろうかなら』
「あの、お前じゃなくて、ノエルって呼んで?」
「問題はそこじゃないだろ」
『おお、ノエルか。我の持ち主の名にふさわしい。さあ、我を抜くのだ!』
ノエルは困ってホウリお兄ちゃんの方を向く。ホウリお兄ちゃんはゆっくりと首を横に振った。
「あ、ええっと、ごめんなさい?」
『なぜだ!?我が欲しくてここまで来たのだろう!?我があれば、モテまくりツキまくり、人生は順風満帆でウハウハだぞ!?』
「怪しい壺みたいな売り文句だね?」
『今はやりのキャラのシールもあげよう。学校で人気者になれるぞ!』
「児童誌の付録みたいな売り文句だな」
「人気なキャラって何?」
『ジャンヌダルクだ。この前の戦争で活躍したのだろう?』
「500年以上前をこの前って言うのか」
なんだ、タンパンマンじゃないのか。残念。
『今ならよく落ちる洗剤もつけるぞ!プロ野球の観戦チケットも付ける!』
「新聞の勧誘かよ。子供を勧誘する気があるのか?」
『分かった、他の聖剣の在りかの情報も渡そう。破格な条件だろう?』
「仲間まで売ったぞ。どれだけノエルが気に入ったんだ」
埒が明かないと思ったのか、ホウリお兄ちゃんが笑顔を張り付けて、レオニグル君に近づく。
「それがですね、これには事情がありまして……」
『事情?』
「ノエルはこの世界の人間じゃないんですよ」
『何?どういう意味だ?』
「神の使いなんですよ。明後日には別の世界に帰らないといけません。だから、レオニグルさんの持ち主になる訳にはいかないんですよ」
『神の使い?なるほど、だからそれほどの器を持っているのか。益々気に入ったぞ』
「話聞いてました?明後日には帰るんですよ?」
『ならば、我も連れていけ』
「その世界に魔物はいないんですよ。レオニグルさんの力を持て余すことになるんですよ?」
『ならば、この世界に留まれば良い』
「それが出来ないから説明しているんですよ?」
ホウリお兄ちゃんがキュアお兄ちゃんの両肩に手をのせる。
「このキュアも器としては十分なんですよね?今はノエルよりも相応しくないかもしれませんが、将来性は十分だと思いますよ?なんなら、今のノエルよりも相応しい器に育つかもしれません」
『将来性なら、ノエルも十分ではないか?』
「明後日に帰る者に将来性は無いです。どうです?キュアを選んでみませんか?」
『うむ、しかしな……』
ホウリお兄ちゃんが説得するけど、レオニグル君は渋っている。
ノエルもキュアお兄ちゃんの肩に手を置いて頭を下げる
「ノエルからもお願いします!キュアお兄ちゃんだって凄いんだよ!」
『だが、ノエル程ではない』
「そんなこと無いもん!」
「……仕方ないな。こうなれば最終手段だ」
「最終手段?」
「キュア、ノエル、正座して地面に手をついてくれ」
ノエル達は言われた通り、正座して地面に手を置く。この段階でノエルは何をするのか感付く。キュアお兄ちゃんも何をするのか分かっているのか、表情に困惑は無い。
「いくぞ、せーの」
掛け声と同時にノエル達は一斉に……
「「「お願いします!」」」
額を地面に擦りつけた。
『え、えっと……?』
「キュアお兄ちゃんを選んでください!」
「お願いします!俺、精一杯頑張ります!」
「お願いします!」
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小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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