魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百十話 ナニヲショウコニズンドコドーン

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 ノエルは何人もの子供たちの前に立っていた。


「ノエルお姉ちゃん、次は何を見せてくれるの?」
「うーん?そうだね?」


 もう走ったり踊ったりはやったし、何をしようかな?


「あと思いつくのは戦いごっこくらいかな?」
「戦いごっこ?」
「うん。見ててね」


 目の前に仮想の敵を作り出す。フランお姉ちゃん……だと戦いにならないから、シュウジおじちゃんのロボットくらいでいいかな。
 ノエルにしか見えない敵、それを相手に戦ってみる。
 仮想のロボットがノエルに向かって手を伸ばしている。ノエルはそれを躱して、一気に接近する。


「せいや!」


 魔装を使って思いっきりロボットの胴体を殴り抜ける。けど、ロボットのお腹は固くて完全には壊れない。
 そして、ロボットは拳を振りぬいたノエルに向かって神経毒を噴射してくる。
 ノエルは咄嗟に呼吸を止めて後ろに思いっきり跳ぶ。そして、飛んでいる時にナイフをアイテムボックスから取り出して、ロボットに投げる。ナイフはロボットの顔に浅く刺さる。
 ロボットはバチバチと放電して、動きが鈍くなる。ノエルはそれを見逃さずロボットに向かって走り出す。


「ウェエエエエエイ!」


 思いっきり走って、刺さったナイフ目掛けて膝蹴りを炸裂させる。
 ロボットはナイフが深々と刺さり、ゆっくりと倒れ伏した。───想像だけど。


「こんな感じかな」
「おおお!」
「すっげー!」
「ノエルお姉ちゃんカッコイイ!」


 皆からの羨望の眼差しがノエルに向けられる。
 気持ち良い~、褒められることはあるけど、尊敬の目で見られたことなんてないもんね。
 ノエルが地面に突き刺さっているナイフを抜いていると、とある子が呟いた。


「僕も今みたいにカッコ良く戦ってみたいなぁ」 
「じゃあ、戦ってみる?」
「良いの?」
「ごっこで良いならね」
「やる!」
「その意気だよ。まずはこのナイフを握って……」
「握らなくて良いから」


 誰かが後ろからナイフを奪い取ってくる。振り返ってみると、そこにはナイフを握ったパンプ君がいた。
 そう、ここはパンプ君が済んでいる孤児院。今日から1週間、この孤児院に住むことになったのだ。
 住むからには孤児院の皆と仲良くなりたいと思った。だから、手始めに皆と遊ぶことにしたのだ。
 そんなノエルにパンプ君が冷めた視線を向けてくる。


「何してるの?」
「皆に戦いの極意を伝授しようと思って」
「子供相手に何してるの?」
「ノエルだって子供だよ?」
「ノエルは特殊すぎると思うな」


 そう言いながら、パンプ君はナイフを返してくれる。


「とにかく、うちの子供たちに危ない真似させちゃダメだよ?」
「怪我ならノエルが治せるよ?」
「体の傷は治っても、怖いって思いは治せないでしょ?刃物が怖くなって、包丁とか使えなくなったら大変だよ」
「……そっか」


 そこまで言われて、ノエルは自分がやろうとしていた事を理解した。
 皆に怖い思いはして欲しくない。残念だけど、戦いごっこは諦めよう。


「おーい!そろそろご飯よー!。手を洗って食堂に集合しなさーい」
「「「「はーい!」」」」


 遠くから管理人さんの呼ぶ声が聞こえる。
 皆はご飯が楽しみなのか、我先にと孤児院へ走っていく。


「皆、良い子だね」
「そう?わがままばっかり言うし、言う事を聞かないしで大変だよ」


 そう言いながらも、パンプ君はどこか嬉しそうだ。子供たちを大切に思っているんだろう。


「ノエルも何か手伝う?」
「じゃあ、配膳を手伝ってもらおうかな?」
「任せてよ」


 パンプ君とお喋りしながら孤児院まで向かう。賑やかで楽しい一週間になりそうだ。


☆   ☆   ☆   ☆


 草木も眠る丑三つ時。孤児院の皆はベッドでスヤスヤと寝息を立てている。
 そんな中で誰かが孤児院のお庭にやって来た。静かなお庭で、その人がスコップを引きずる音だけが響く。
 その人はブランコがぶら下がっている木までやってくると、その下をスコップで掘り始めた。
 しばらく掘ると、スコップに固い何かが当たった。その人は穴に手を突っ込むと、埋まっていた物を取り出す。それは古びたクッキー缶だった。


「やっと……やっと見つけた……」


 その人は震える手でクッキー缶を開けた。そこには…………何も入っていなかった。


「な!?」
「当てが外れてガッカリしたか?」


 その人は後ろからライトで照らされる。ビックリしたその人は振り返った。


「誰だ!?」
「憲兵だ。孤児院の責任者である『ファイン・ラメル』、あんたを逮捕する」


 憲兵さんがファインさんをライトで照らしながらにじり寄る。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私は孤児院の管理をしてただけで、窃盗なんてしてないわよ!」


 ライトの光を手で遮りながらファインさんは反論する。


「ふーん、管理の為に穴を掘るのか?」
「昼に誰かが何かを埋めたのを見つけてね。何を埋めたのか確かめにきたのよ」
「なるほどな。確かに筋は通っている」
「じゃあ……」
「だが、捕まえにきたのは、その缶のことじゃない」
「は?」
「数年前、この付近の屋敷が燃えた。知っているか?」
「え、ええ」


 ファインさんが首を縦に振る。明らかに何かを知っているのは明白だ。
 憲兵さんもそれが分かっているのか、追及を続けた。


「あんたが犯人なんだろ?」
「な!?何を証拠にそんなこと!?」
「証人がいたんだよ」
「証人?」


 ファインさんが眉をひそめると、憲兵さんの後ろからパンプ君が出て来た。ついでにノエルもパンプ君と一緒に出てくる。
 ちなみに、ノエルは鉄仮面とフードで正体を隠している。


「あんた……」


 パンプ君を見たファインさんが大きく目を見開く。


「実はあの時、ファインさんが僕の家に火を付けるところを見たんだ」
「何で今になって……」
「ショックで事件の時の記憶は無かったんだ。けど、最近思い出して」


 パンプ君が目を伏せながら話す。その様子を見たファインさんは拳を握りしめてパンプ君を睨みつける。


「……やっぱり、あの時に殺しておくべきだったわね」
「それは自白と受け取って良いんだな?」


 そう言って、憲兵さんは手錠を取り出す。


「この孤児院に来たのも、遺産が目当てか?」
「ああ、そうさね。お目当ての物は全部手に入れたと思っていたけど、このガキに盗みきれなかった遺産が渡ってると知ってね」


 その言葉を聞いてパンプ君が苦しそうな表情で顔を反らせた。
 それに気付いていないのか、ファインさんは更に話を続ける。


「今日の夕方にそのガキが木の下に何かを埋めるのを見てね。やっと見つけたと思ったら、罠だったって訳かい」
「子供たちにあんたを捕まえるところを見せたくなかったんでね。分かったら大人しく捕まってくれ」


 憲兵さんが手錠を構えながらファインさんへと歩みを進める。瞬間、


「それはお断りだね!」


 ファインさんが眼を血走らせてこっちに駆け出してくる。憲兵さんは咄嗟に捕まえようと手を伸ばすが、ファインさんに跳ね除けられてしまった。


「どけガキ!」
「え?」


 目を伏せていて反応できていないパンプ君にファインさんが迫る。


「……させない」


 ノエルはパンプ君の前に出て、ファインさんと対峙する。


「どけぇぇぇぇ!」


 ファインさんがノエルにタックルして跳ね飛ばそうとしてくる。ノエルはファインさんの腕を取って、一本背負いの要領で地面に叩きつけた。


「げはっ!」


 ファインさんの口から空気が漏れる音が聞こえる。その隙を見逃さずに、ファインさんの腕を後ろに回して縄で縛る。


「すまない、助かった」


 憲兵さんがファインさんを無理やり立たせる。


「ほら立て」
「くっ……」


 ファインさんが憲兵さんに強引に連行していく。
 その様子をパンプ君は無言で見送った。


「大丈夫?」


 パンプ君はノエルの質問に答えずに空を見上げる。


「……ファイン院長はさ、僕が孤児院に来たときからの知り合いなんだ」
「うん」
「普段は優しいけど、僕たちが悪い事をしたときは叱ってくれる。そんな理想の大人だったんだ」
「……うん」
「けどさ、本当は悪い人だったんだ」


 言葉と共にパンプ君の目から涙があふれて来る。


「目を瞑れば、今でもあの優しい笑顔を思い出すんだ。けど、心休まるあの笑顔も、今はとっても辛いんだ」


 パンプ君の涙の量がどんどんと多くなっていく。その様子を見ていたノエルは、何も言えなかった。
 ノエルもお父さんとお母さんを亡くしている。けど、今のパンプ君はノエルとは違う気持ちなんだと思う。だからこそ、ノエルは声を掛けることができなかった。


「僕は……一体どうすればいいの……」


 パンプ君は遂に言葉を発せなくなった。


「うぐっ……ひぎゅっ……」


 嗚咽だけが聞こえる中、ノエルは思わずパンプ君を抱きしめた。


「ひぐっ……うぐっ……」


 ノエルの腕の中でパンプ君が泣きじゃくる。
 ノエルじゃ何もできない。けど、せめて傍にはいたい。パンプ君は一人じゃない、そう伝えたかったから。
 そう思い、ノエルは強くパンプ君を抱きしめた。
 こうして、パンプ君の事件は解決した。けど、パンプ君の心には深い傷が残っている。
 ノエルに何が出来るかは分からないけど、パンプ君の力になりたい。ノエルは強くそう思った。
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