魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百二十話 ん、銀行を襲う

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 そんな訳でわしらはファンであるリンと共にラーメン屋に並ぶ。


「お主は演劇はよく見るのか?」
「いえ、そこまででは無いんですが、今回は騎士団の仲間に連れられていきました」
「俺の演技はどうだった?」
「良かったと思いますよ?」
「それだけか?」
「え?そうですけど」
「……そうか」

 
 リンの言葉でヌカレが目を伏せる。ぽっと出のわしよりも相手されんのが気に入らんのじゃろう。


「ここへはお主だけで来たのか?」
「仲間と一緒に来ましたよ」
「その仲間は何処だ?」
「こいつです」
「痛てててて!」


 リンは前に並んでいた男の耳を引っ張る。
 耳を引っ張られた男は、リンに非難の目を向けながら振り返る。


「いきなり何すんだ!」
「ケット!この人フランさんよ!」
「フラン?誰だ?」


 ケットと呼ばれた男は首を捻る。こいつの顔も見覚えがある。リンと同じく騎士団に所属していた筈じゃ。


「ほら!あんたもヒートホープで見たでしょ!」
「ヒートホープ……ああ、あの劇か。最後まで寝てて覚えてねぇや」
「あんたねぇ……」


 リンがケットの言葉に呆れたような表情になる。


「別に良いぞ。わしらが寝かせる程につまらん劇をしてしまった訳じゃしな」
「そんな事ありませんよ!このバカが悪いんです!」
「痛てぇ!」


 リンが再びケットの耳を引っ張る。仲が良いのは良い事じゃな。


「謝らんでも良い。もっと精進するための糧にしてみせる」
「演技だけじゃなくて、志も凄いだなんて……感動です!」
「今日のお前テンション可笑しくないか?」


 涙ぐむリンにケットが不思議そうな顔をする。もしかして、前のわしもこんな感じじゃったのか?そう考えると、少し懐かしくさえ感じる気がするのう。


「そういえば、私からも1つ聞きたいことがあるんですが」
「なんじゃ?」
「ミエル……団長とお知り合いなんですよね?どういったご関係なんですか?」
「パーティーメンバーじゃよ。一緒に住んでもおる」
「一緒に!?」


 かなり衝撃だったのか、リンの目が限界まで開かれる。


「なななな、なんて羨ましい!」
「しかも、定期的に手合わせもしておるぞ」
「手合わせ!?ミエル相手に戦うなんて大丈夫なんですか!?」
「問題無い。手加減はしておる」


 いくらミエルでも、まだまだ強くなる余地はある。だからこそ、定期的な手合わせは必須じゃ。


「フラン」


 そんな事を思っておると、ヌカレがわしの耳元で囁いてきた。


「なんじゃ?」
「多分、お前が思っている事とは違うと思うぞ?」
「どういう意味じゃ?」
「お前の強さをリンって奴は知らないってことだ」
「そうじゃっけ?」


 つまり、さっきのリンの発言は、わしがいじめられていないかを危惧していた訳か。
 わしの強さを知っている人間は、わしが魔物の群れに突撃していっても心配せんくらいじゃ。人に労われるのは久しぶりじゃな。
 わしの強さって誰が知ってて、誰が知らんのか分からんのう。騎士団の皆には伝えておいても良さそうかのう?


「本当の事を言ってた方がよいかのう?」
「憧れの俳優が強すぎるっていうのは夢を壊さないか?」
「そんなものかのう?」


 長く俳優をやっているヌカレがそう言うのであればそうかもしれん。ここは黙っておくとするか。


「何を話しているんですか?」
「ちょっとした打ち合わせじゃ。気にするでない」
「そうでしたか。私たちはお邪魔でしたか?」
「そんな事はないぞ」


 ファンを蔑ろにするのは俳優として失格じゃ。気を使わせるわけにはいかん。


「あの、フランさんは王都に住んでいるんですよね?」
「そうじゃな」
「だったら、偶にでいいので遊びに行ってもいいですか?」
「別に良いが、常に家にいるとは限らんぞ?」
「いなかったら何度でも行きます!」
「そこまでか?」


 なんじゃか、リンのわしに対する感情はただのファンって感じではない気がするのう。例えるなら、人々のみっちゃんに対する信仰に似ておる気がする。


「そんな訳ないか」


 1度見た劇の主役に対する感情ではなかろう。わしの考えすぎじゃな。


「分かった。来るときはミエルを通してわしに伝えるがよい」
「ありがとうございます!」



 満面の笑みで頭を下げるリン。ここまで喜ばれると悪い気はせんのう。
 そんな話をしておる内に列は進み、わしらの番が近づいてきた。


「そろそろだな」
「ここの店は何がおススメなんじゃ?」
「つけ麺だな。魚介ベースで中々なイケるって評判────」
「きゃあああああ!?」


 瞬間、通りの向こうから甲高い悲鳴が響き渡った。


「ケット!」
「言われるまでもない!」


 2人の表情が一変し、すぐさま声のした方へと駆けていく。流石は騎士団の精鋭じゃ、判断が早い。


「なんだ!?何があった!?」
「何かあったみたいじゃな。お主は憲兵を呼んでくるんじゃ。こっちはわしが何とかする」
「分かった。すぐに行く」


 狼狽えているヌカレに指示を出して、わしも声のした方へと走る。
 距離は約200m、そこまで離れているわけではない。急げば間に合う筈じゃ。
 周りに影響を与えない程度の速度で走り、現場に急行する。
 現場にたどり着くと、そこは大通りに面している銀行じゃった。


「オラオラ!さっさと道を開けねぇと怪我するぞ!」


 男が金が入っているであろう袋を担ぎながら、銀行から出てくる。男は覆面を被って剣を振り回している。
 見たところ中々の戦闘力のようじゃな。下手すればA級の冒険者に匹敵するかもしれんのう。


「人質はおらんか。なら、奴を殴れば終わりじゃな」


 他の者は逃げまどっており、巻き込む心配もない。さっさと殴ってラーメンを食べるとしよう。
 そう思っていると、強盗の前に立ちはだかる者がいた。


「そこまでだ!」
「武器を置いて投降しなさい!」


 ラッカとリンが強盗の前に立ちはだかり啖呵を切る。しかし、強盗は2人を前にして余裕の笑みを浮かべる。


「俺とやろうってか?」
「騎士団としてお前を見逃すわけにはいかない!」
「なら死ね!」


 強盗がラッカに切りかかってくる。ラッカは自信の剣で斬撃を受け止める。


「くっ……重い……」
「どうした!その程度か!」


 受け止めている剣が震えておる。それだけ強盗の剣が重いという事なんじゃろう。


「私を忘れないでよ!」


 リンがチェーンロックで強盗を封じようとする。じゃが、


「甘いな!」


 強盗は腰に付けていた短刀でチェーンロックを破壊した。


「あんな武器でチェーンロックを破壊した!?」
「くそっ!こいつ強いぞ!」


 短刀を使った隙にケットは跳ね飛ばし距離を取る。


「あんなのに勝てるの!?」
「勝てなくても戦うしかないんだよ!最悪、憲兵がくるまで持ちこたえるんだ!」


 ケットが剣を構えながら冷や汗を流す。1度剣を交えただけで力量を悟るか。中々良い判断力じゃ。


「俺が奴を抑える!リンは援護してくれ!」
「分かったわ!」


 ケットが決死の表情で強盗に向かって飛び掛かる。


「何度来ても無駄だ!」


 強盗はケットの剣を軽々と受け止める。そして、片手で持っていた短刀をケットの腹に向けて突き出す。


「しまった!」


 ケットは後ろに跳ぼうとするが、回避は間に合わず、短刀は無慈悲にも腹に向かう。


「死ねぇ!」


 腹に短刀が突き刺さる、そう思った瞬間


「な!?」


 強盗の攻撃が不自然に遅くなった。そのおかげでケットは回避が間に合う。


「なんだ?急に体が……」


 強盗が剣を持つ手を見つめる。
 言うまでも無いとは思うが、奴の攻撃が遅くなったのはわしの仕業じゃ。スキルで奴の速さだけを低くした。あれで互角ってところじゃろう。
 本当はわしが殴ろうと思ったんじゃが、あやつらの前で力を使う訳にはいかん。
 それに、戦う覚悟を決めた者の思いを踏みにじる訳にはいかん。ここはコッソリとサポートするにとどめて置くとしよう。
 フルステルスで姿を消しつつ、わしは2人の戦いを見守るのじゃった。
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