魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百十九話 これが俺のファンサービスだ!

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オダリムが魔物の襲撃を受けている中、わしは王都に戻っていた。
 襲撃があって2週間、襲撃の情報を元に人王と会談し対策を練っていた。とはいえ、策はホウリが立てているから、わしらは物流や治安維持の事を主に話し合った。


「必要とはいえ、いちいち王都に来るのは面倒じゃのう」


 魔法陣がある冒険者ギルドに歩を進めながら愚痴を呟く。せっかく王都に来たんじゃし、ノエルに会っていきたいが、今は昼。ノエルは学校で勉強中じゃ。


「流石に授業中に乗り込む訳にもいかんしのう」


 スキルでノエル以外に認識できないようにすることは出来る。じゃが、前にノエルに依存しすぎじゃとホウリに叱られたこともある。無理に会うのは止めておくとしよう。


「大人しくオダリムに帰るか」


 戦えんとなると、偶に来る魔国からの伝令を聞くくらいしかやる事が無い。
 他の皆は用事があるみたいじゃし、どうしたものか?


「適当に街をぶらぶらと歩くか」


 幸いにもオダリムは観光地で退屈はしない。刺激は足りんが仕方ない。
 そんな事を考えていると、腹の虫が盛大に鳴り響いた。


「腹が減ったのう。飯は王都で食うか」


 腹を鳴らしながら歩き続けるのは酷じゃ。何か適当なものを腹に入れよう。


「とはいえ、高カロリーな物を食うとホウリが怖いからのう。低カロリーな鶏のささ身とかで済ますとしよう───ん?」


 店を探していると、見知った顔を見つけて思わず足を止める。


「あれはヌカレか?」


 目の前にはサングラスで変装したヌカレがおった。あやつは顔だけは良いから、変装しないとすぐに人だかりができてしまう。まあ、サングラスしても気付かれるときはあるが。
 思えば、オダリムが襲撃を受けてから2週間、劇団の皆とは会っていなかったのう。知らぬ中でも無いし、声くらいは掛けておくか。
 そう思い、ヌカレの背後に忍び寄り肩を叩こうとして少し考える。
 ただ声を掛けても面白くないのう。ここは男が女にやられたい行動ランキング1位(わしの中で)でサービスしてやるか。
 わしはインビシブルでわしらを目立たなくして、ヌカレの肩を軽く叩く。


「ん?」


 振り返ったヌカレがわしを認識する前に、ヌカレのこめかみを鷲掴みにして力を込める。


「ぬおおおおお!?」


 絶叫するヌカレにわしは渾身の言葉をぶつける。


「だ~れだ?」
「アイアンクロウを決めながら聞く言葉じゃないだろうがぁぁぁぁぁぁ!」


 痛みで絶叫するヌカレが、わしの手から逃れようと藻掻く。じゃが、わしの手は微動だにしない。


「ほれほれ、さっさと正解せんと頭が割れるぞ?」
「初手で頭を割ろうとする、ゴリラみたいな知り合いなんて心当たりある訳ねぇだろ!」
「割るか」
「ごあああああ!?わ、悪かったフラン!謝るから許してくれ!」


 その言葉を聞いたわしはヌカレを解放する。


「久しぶりじゃのう。元気じゃったか?」
「たった今、死にかけたところだ」


 セイントヒールでヌカレのダメージを回復してやる。


「というか、お前は今まで何処にいたんだよ!?」
「オダリムじゃよ。監督に伝言していた筈じゃが、聞いておらんのか?」
「聞いてねぇよ!」


 ふむ?あのクランチ監督が伝え忘れるとは思えん。さては、話を聞いておらんかったな?
 まあ、そこを指摘すると拗ねるじゃろうから、適当に謝っておくとするか。


「それは悪かったのう」
「ふんっ」


 こやつは謝っても拗ねるのか。面倒な奴じゃな。


「お主はここで何しておるんじゃ?」


 面倒になったわしは強引に話題を変える。


「公演の合間に昼飯を食おうと思ってな」
「それは奇遇じゃな。わしも昼飯を食おうと思っておったんじゃ」
「ならこの辺に美味いラーメン屋があるんだが、一緒に食うか?」
「ラーメンか……」
「嫌いか?」
「嫌いではないが……」


 ラーメンはカロリーが高い。1杯でランニング何十㎞分のカロリーになるのか、考えただけで身震いしてくる。
 じゃが、ラーメンか。久しく食べておらんのう。……ちょっとくらいは良いのではないか?


「分かった。わしも一緒に行こう」
「そう来なくちゃな」


 玩具を買ってもらった子供のように満面の笑みになるヌカレ。そんなにラーメンが食いたかったのかのう。


「その店は何処じゃ?」
「そこの角を曲がったところだ」
「近いのう」


 公演の合間の休憩時間じゃし、遠くの店には行けんか。


「今は何公演やっておるんじゃ?」
「2公演だ」
「少ないのう」
「1公演が休止中だからな」
「あれは事故みたいなものじゃ。仕方なかろう」


 そんな事を話しながら角を曲がると、長蛇の列が目に入った。
 列の大本を辿ると、『麵屋 かかり』という看板の文字が目に入った。


「もしかして、これか?」
「ああ。美味いって評判なんだぜ?」
「じゃが、並びすぎじゃろ。1時間は並ぶのではないか?」
「時間はあるから大丈夫だ」
「悠長じゃな」


 時間が無いと思っていたが、さては暇じゃな?
 わしらは仕方なく列の一番後ろに並ぶ。


「こういう店には良く来るのか?」
「人の多い所はあんまり来ないな。来るとしても変装を念入りにする」
「お主は無駄に顔は知られておるからのう」
「無駄は余計だ」


 確かに騒ぎになったら食事どころではないから無理もないか。
 今はわしのスキルで目立たなくなっているから心配は……


「……あ」
「なんだ?何かあったか?」
「……インビシブルが切れておる」
「は?どういう事だ?」
「今のわしらは他の者からも認識できておる」
「……それって不味くないか?」
「……じゃな」


 慌ててインビシブルをかけなおそうとすると、前に並んでいた女が振り返った。
 客と目が合ったわしは愛想笑いをしながら会釈する。


「ど、どうも」


 わしらを認識した女は何も言わずに固まる。
 インビシブルは認識されてから発動しても効果は薄い。どうしたものか。
 仕方ない、いざとなったらヌカレを置いて速攻で逃げよう。


「今、俺を見捨てようとしなかったか?」
「バカを言うな。わしほど仲間愛に溢れた者はおらんぞ?」
「本当か?」


 疑心の目でわしを見て来るヌカレ。なんで、わしの周りには鋭い奴が多いんじゃ。
 そんなやり取りをしていると、わしは違和感に気が付く。気付かれた割には騒ぎになっていない?
 そう思い、女の方へ視線を向けると、わしらを見たまま固まっておった。


「どうしたんじゃ?」
「あ、あの……もしかして……ヒートホープに出ていた……」


 女は詰まりながらも言葉を紡ぐ。やはりヌカレのファンか。なら、当初の予定通りヌカレを犠牲にして撤退を──


「フラン・アロスさんですよね?」
「へ?」


 女の意外な言葉にわしは思わず固まる。


「わ、わしか?」
「はい!ヒートホープ見ました!あの真っすぐな演技、最高でした!」


 さっきとは打って変わって、女は饒舌になる。というか、この女どこかで見たことがあるような?


「もしかして、お主はミエルの部下か?」
「え?団長を知っているんですか?」
「ああ」


 確か騎士団でミエルと同じ部署にいた筈じゃ。名前は確か……


「リン、じゃったか?」
「わ、私の名前を……感激です!」


 女……リンが目を潤ませる。わしに名前を呼ばれるのが、そんなに嬉しいのか?いまいちピンとこないのう?


「どうした?ファンサービスしないのか?」
「ファンサービス?」


 困っておると、後ろからヌカレが口を挟んできた。


「握手なりサインなりあるだろ?」
「ああ、なるほどのう」


 わし自身がねだる事はあっても、わし自身がやることは無かったのう。


「色紙は持っていないでのな。握手で良いか?」
「ええ勿論!」


 リンが差し出す手を握る。すると、リンが恍惚の表情になった。


「もうこの手洗えないよぉ……」
「というか、なんでお主がおるんじゃ?騎士団は全員オダリムにおる筈じゃろ?」
「実はミエルとロワ君以外の騎士団は王都に戻るように指示があったんです」
「なぜじゃ?」
「私には分かりません」


 わしも何も聞いておらん。十中八九、ホウリの仕業じゃろうな。


「ここで会ったのも何かの縁じゃ。一緒にラーメンを食うか?」
「良いんですか?」
「勿論じゃ。これもファンサービスの一環じゃよ。ヌカレも良いじゃろ?」
「俺も問題無い」
「そう言う訳じゃ」
「ありがとうございます!」


 こうして、わしは初めてのファンと食事を共にしたのじゃった。
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