魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 HAPPY HALLOWEEN!

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※今回の話は本編とは別の時間軸です。


 ハロウィン前日、私はフランさんの部屋に呼び出されていた。


「では!これよりぷりんにゃん講座を開始する!」
「……はぁ」
「どうしたラビ?あまり気乗りしておらんな?」


 とても機嫌がいいフランさんとは裏腹に、私の機嫌はとても悪い。フランさんもそれを察しているみたいだ。


「そりゃそうですよ。明日のことを考えると気が滅入ります」
「検事内で決まった事なんじゃろ?だったら観念せい」


 フランさんの言う通り、ここにいるのは検事内で決まった結果だ。
 明日はハロウィン。小学校の子供たちに防犯の講習をする日だ。普通に講習するだけではインパクトが足りないという事で、仮装をすることになった。そこで白羽の矢が立ったのが私だった。


「お主のぷりんにゃんは本物と言っても差し支えない。子供を相手にするには適任じゃろう。というか、わしも行きたい」
「そこなんですよ。私は自分がぷりにゃんに似ていると思っていません。あと、絶対に来ないでください」
「良い加減に観念せい。お主はぷりにゃんじゃ」
「もはや似ているとかではなく、その物なんですね?」


 今までぷりにゃんに似ていると言われ続けているけど、全く自覚が無い。


「というか、ぷりにゃん講座って何をするんですか?」
「ぷりにゃんとは何かを教える講座じゃ。お主はぷりにゃんを知らんのじゃろ?」
「名前くらいしか知りませんね」
「ぷりにゃんを知らずにぷりんにゃんにはなれぬ。お主には本物になって貰わぬとな」
「恰好さえ良ければ良いんじゃないんですか?」
「そんな覚悟でどうする!もっと!熱くなれよ!」


 フランさんが鼻息を荒くして顔を近づけて来る。正直、うっとおしい。


「そんな熱量では子供たちを満足させられんぞ!」
「分かりましたよ。それで?何を教えてくれるんですか?」
「ふふん、まずはぷりにゃんとは何かじゃ」


 一転してフランさんは上機嫌で話し出す。


「ぷりにゃんとは1作品の作品ではなく、独立した作品群の総称じゃ」
「1つの作品が続いている訳ではないんですか?」
「1つの作品だけで1000年も持つわけなかろうが」
「言われてみればそうですね」


 ぷりにゃんって1000年前からあるんだ。もう古典の域に達しているんじゃないかな。


「フランさんはぷりにゃんを全部知っているんですか?」
「500年前から生きておるからな。全て履修しておる」


 そういえば、フランさんはとても長生きなんだっけ。もう、フランさんもフィクションの存在に近いんじゃないかな?


「その全てをお主に叩き込む。気合入れていくんじゃ」
「全てを……ん?全て?」
「全て」
「1000年分のぷりにゃんを?」
「1000年分のぷりんにゃんを」
「一晩で?」
「一晩で」
「無理では?」
「もっと!熱くなれよ!」
「ごり押し止めてくれませんか!?」


 こうして、有無を言わせず、フランさんの講義は翌日の朝まで続いたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ふわあああ……」


 次の日、ぷりにゃんの格好をした私は検察室で大きな欠伸をしていた。


「どうしたラビュ?」
「徹夜か?」
「今朝までフランさんからぷりにゃん講座を受けてたんです。あと、私はラビです」


 結局、ぷりにゃん講座が終わったのは出勤の直前だった。出勤してから30分くらいは眠れたけど、全然眠れた感じがしない。


「そんなんで大丈夫か?」


 ビタルさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫じゃないかもしれません」
「お前はぷりにゃんなんだからしっかりしてくれ。そんなにヘロヘロな姿を見たら、子供たちが悲しむぞ?」
「分かってますよ」


 頭を軽く振って眠気を飛ばそうと試みる。


「眠気覚ましにコーヒー飲むか?」
「いただきます」


 スイトさんからホッとコーヒーが入ったカップを受け取る。
 暖かなコーヒーを啜ると、カフェインが全身に染みていくのを感じる。


「ふぅ」
「大丈夫そうか?」
「なんとか大丈夫です」


 ここまで来たら完全にぷりにゃんを演じきろう。それが私の使命だ。


「安全講座はいつでしたっけ?」
「あと10分後だ」
「そろそろですね」
「内容は頭に入っているか?」
「はい」


 不審者に出会った時の注意と、街中でやってはいけない行動について。公演の流れもばっちり頭に入っている。


「それじゃ、よろしくなぷりにゃん」
「はいはい、任せてくださいよ」


 服に皺が付かないように気を付けながら立ち上がる。
 よし、今からわたしはぷりにゃんだ。


「いっくよー!プリティーチェーンジ!」


 奇跡の杖(おもちゃ)を掲げて叫ぶ。すると、ビタルさんやスイトさんが怪訝そうに眉を顰める。


「急にどうした?」
「疲れすぎて可笑しくなったか?」
「私の名前は『ぷりにゃんコスモス』!悪い妖怪は私が懲らしめる!」
「ああ、ぷりにゃんになったのか」
「コスモスってなんだ?」
「ぷりにゃんの名前じゃないか?ぷりにゃんっていっぱいいるみたいだしな」


 なんだか良く分からないけど、納得してくれたみたいだ。
 私の名前はコスモス。身体能力が高く、魔法では無く武術で戦う魔法少女だ。ただし、ガサツという訳ではなく、能力に見合わず繊細で心優しい性格だ。
 最強フォームはアルティメットフォームで、身体能力が5倍に跳ね上がる。文字通りの最強になる事ができる。
 決め台詞は『派手に行くわよ!』。主に必殺技を放つ時に言うセリフだ。
 以上、一夜漬けの知識でした。


「皆と一緒に、安全講座がんばろー!」
「なんだか不気味だな」
「これが終わったらラビュに長期の休みでも出すか」
「ラビュじゃなくて、ぷりにゃんかコスモスちゃんって呼んでね」
「訂正も違ってら」


 そんなこんなで、安全講座の時間間近だ。そろそろ行かないと。


「それじゃ、行ってくるね☆」
「しっかりやれよ」
「頑張ってな」


 お二人に見送られながら検察室を出る。子供たちはここから見れる広場にいるはずだ。
 そう思い廊下を移動しつつ、2階の窓から広場を見てみる。
 門から子供たちと先生が続々と検察所に入ってきていた。子供たちも先生も仮装していて微笑ましい。
 子供たちはお行儀よく列になって並んでいるし、波乱なく終わりそうだ。


「……ん?」


 そんな子供たちの中で見たことがある顔を見つけた。
 その子は全身を包帯に巻きつけ、その上からボロボロの服を着ている。そして、ジャックオランタンの顔の可愛らしい帽子と、猫耳を頭に付けている。かなり珍妙な格好だが、何故か上手くまとまっている印象を受ける。


「……ノエルちゃんだよね?」


 そう、そんな仮装をしているのはノエルちゃんだ。あんなぶっ飛んだ格好をしてる子は他にはいないし、嫌でも目についてしまう。
 え?今日の安全講座ってノエルちゃんの学校だったの?聞いてないんだけど?
 いや、でも今日はぷりにゃんだし。気付かれない可能性もあるでしょ。心配ない、大丈夫、大丈夫。
 必死に自分に言い聞かせて1階へ降りる。


「はーい、今日は皆で安全についてお勉強しましょうねー」
「「「「はーい!」」」」


 外からクイーンさんがマイクで話している声が聞こえる。
 私の出番はクイーンさんに呼ばれた後だ。それまでは裏で待機しておこう。


「それじゃ、皆で呼んでみよう。せーのっ」
「「「「ぷりにゃ~ん!」」」」


 呼ばれたのを確認し、憲兵所から子供たちの前に飛び出す。


「とうっ!」


 高いステータスに任せた大ジャンプで派手に子供たちの前に飛び出す。


「お待たせ!ぷりにゃんコスモス、ただいま参上!」
「わああ!」
「ぷりにゃんだー!」
「本物だあ!」


 子供たちからの歓声を一身に受けながら笑顔で手を振る。掴みは上々。このまま行けば成功間違いなしだろう。


「今日は皆で毎日を安全に過ごすためにお勉強しよー!」
「「「「はーい!」」」」


 子供たちが素直に手を上げてくれる。さて、肝心のノエルちゃんはどうしているかな?


「まずは、街の中でやっちゃいけないことなんだけど───」


 安全講座を進めながら、ノエルちゃんの方へ視線を向けて聞き耳を立てる。


「……なんでラビお姉ちゃんがぷりにゃんの格好をしているんだろ?」


 バレてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!一瞬でバレてるぅぅぅぅぅぅぅ!


「……他の人たちに迷惑をかける事はしてはいけないよ?例えば、道でボール遊びするとか、走り回るとかね」


 動揺しかけた心を何とか整え、安全講座を進行する。
 バレた?絶対にバレたよね?どうしよう、次にノエルちゃんと会うのが気まずいよ……。
 というか、ノエルちゃんがお友達とかに言いふらしたら、すぐさま広がるよね?そうなったら、検察にいられないくらいに恥ずかしいことになる。
 どうしよう?お菓子とか上げて口止めしないとかな?


「……あ、そっか。ぷりにゃんだって知られちゃいけないんだ。だったら、ノエルも知らないフリをしないと」


 安全講座の最中、そんなノエルちゃんの言葉が耳に飛び込んでくる。
 流石ノエルちゃん!皆に言いふらさないだなんて、なんていい子なんだろう!
 心が晴れ晴れとした私は、元気よく子供たちに質問する。


「他に街でやってはいけないことが分かるひと!」
「「「はいはーい!」」」


 子供たちが勢いよく手を上げる。その中から適当な子をステッキで指名する。


「そこの君」
「街の中で人をパンチすること!」
「正解!街の中だけじゃなく、学校とかお家でも暴力を振るっちゃダメだからね?」


 え?お前は犯人をボコボコにしているだろうって?あれは捜査の一環で暴力じゃないからセーフ。


「他に分かる人いるかな?」
「「「はーい!」」」
「次は……そこの君」
「屋根の上を走ること!」
「そうだね。屋根から落ちると怪我をしちゃうし、他の人の迷惑になっちゃう」


 子供でもスキル次第では屋根に上ることも可能だ。だからこそ、危険性を理解していない子供の落下事件は少なからず発生している。
 なにが危険なことなのか、それ教えていくことが事件を減らす近道だ。
 え?お前も王都襲撃の時に屋根を走っていただろうって?あれは非常事態だからセーフ。


「皆、やっちゃいけない事が分かってて偉いね!それじゃ、次は街に潜んでいる危険について」


 私はアイテムボックスから拳銃みたいな道具を取り出す。


「街で過ごしていると、危険なことに合うこともあります。そういう時のために備えておく必要があるんだけど……何をすればいいか分かるひと!」
「はい!」


 ノエルちゃんが勢いよく手を上げる。他に手を上げている子もいないし、ここで指名しないのも不自然だ。少し気が進まないけど、ノエルちゃんを杖で指す。


「はい、そこの君」
「毎日鍛えて強くなる!」
「そうだね。何かあったときの為に鍛えるのはとっても大切だよ。でも、どれだけ鍛えても全ての事件に対応できるわけじゃないの」


 ノエルちゃんなら大抵の危険には対応できそうだけど。
 そんな事を思いながら、持っていた拳銃みたいな道具を皆に見せる。


「これは『シグナルピストル』。空に向かって放つことで……」


 空に銃口を向けて引き金を引く。すると、ぴゅうううという花火が上がるような音の後に、轟音が上がって空にピンク色の煙が撒き散らされる。


「音と煙で位置を知らせることが出来るよ。これを見た憲兵の人がすぐに駆けつけてくれるんだ」
「ぷりにゃんは来てくれないの?」
「私は妖怪と戦うのに忙しいからね。でも大丈夫、憲兵の人たちもとっても頼りになるんだから」


 時々変な人もいるけど、概ね頼りになると思う……多分。


「このシグナルピストルはもしもの時の為に、お出かけの時は携帯してね」
「「「「はーい!」」」」


 そんな感じ安全講座は順調に進んだ。



☆   ☆   ☆   ☆



 その後、安全講座はスムーズに進み、伝えるべき事は全て伝え終わった。
 けど、子供たちが良い子でスムーズに進みすぎて、時間が余ってしまった。
 さて困った。時間が押した時のことは考えいたけど、余った時のことなんてさっぱり考えてなかった。とはいえ、早く終わるのも味気ないしどうしようか。


「それじゃ、最後にぷりにゃんに質問があるひと!」


 私が悩んでいると、クイーンさんが助け舟を出してくれた。
 物語の中のキャラクターに質問できることなんて早々ない。これはクイーンさんのファインプレーだ。


「はーい!」
「はい!はい!」


 安全講座の時よりも子供たちの手が多く上がる。
 私はその中から一際高く手を上げている子を杖で指す。


「じゃあ、そこの君」
「やったー!」


 選ばれた子は興奮気味に立ち上がる。その子は赤髪のツインテールでツリ目で勝気な印象を受ける……あれ?何処かで見たことがあるような?もしかして……


「わしからの質問はズバリ!なぜ命をかけて戦っておるかじゃ!」


 フランさんいるぅぅぅぅぅぅ!?小学生に混ざってフランさんがいるぅぅぅぅぅぅ!?
 なんで!?保護者としてとかなら分かるけど、なんで小学生として来ているの!?そこまでして安全講座を受けたかったの!?


「どうしたんじゃ?早く答えんかい」


 フランさんに促されると、子供たちの視線が一斉に私に注がれる。
 混乱している私だったけど、何とか考えをまとめて口を開く。


「私は、皆の幸せの為に戦っているよ」
「それで自分が傷つくことになってもか?」


 フランさんが質問を重ねて来る。
 検察として事件にかかわる事になって、良くも悪くも覚悟が出来た。だからこそ、演技では無く心の底から答える。
 私はぷりにゃんとして、ラビとして答える。


「うん。私は皆を守るよ。例え自分が傷つくことになっても」
「……そうか」


 フランさんはそれだけ言うと、再び座り込んだ。
 その後もいくつか質問に答えて安全講座は幕を閉じた。
 余談だが、その日の夜に「皆を守る」とかいう恥ずかしい回答をしたことを思いだし、ベッドの上で悶えたのだった。
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