魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百二十三話 つ、つよすぎる……

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 ホウリさんがオダリムに行ってから半月、検察室は阿鼻叫喚に包まれていた。
 というのも、ホウリさんがオダリムに旅立ってから、王都の犯罪が20%も増加したのだ。ホウリさんが犯罪の抑止力になっていた結果、ホウリさんが王都を離れることで犯罪が増えたのだった。 


「ラビュ、この件もいけるか?」
「確認しますね。……問題無いです。この案件が終わったら対応しますので、置いておいてください。あと、私はラビです」


 スイトさんから別の案件を確認し、今確認している自分の案件に戻る。
 今の案件は銀行強盗事件。その場に居合わせた騎士団の方が取り抑えてくれたおかげで、犯人は逮捕済み。こちらの仕事は裁判で争うことだが、証拠も証人も揃っているし、騎士団の人に怪我も負わせている。
 難しくない裁判になりそうだが、念のために慎重を期すようにしよう。


「それにしても、完全にホウリさんの読み通りだなぁ」


 憲兵の調査資料を確認しながら、私は独り言を漏らす。
 今から1カ月前、ホウリさんからは王都をしばらく離れる可能性があると告げられた。
 だから、この犯罪率の増加も1カ月前から分かっていたし、憲兵の巡回も増やした。だからこそ、王都の治安が壊滅的に悪化することも無かった。
 それにしても、いなくなるだけで犯罪率が増加するなんて、ホウリさんの影響力が高すぎる気がする。1人で領主様に喧嘩を売って勝つくらいだし、当たり前か。


「ホウリさんが居なくなったら、この忙しさがしばらく続くんだよね」


 ホウリさんは常々、自分がずっといる訳では無いと言っている。つまり、この忙しさは必ずやってくるのだ。
 というか、私だけは他の人よりも別の理由で忙しい。その理由と言うのが……


「ラビュ!」
「ラビです」


 検察室の扉が勢いよく開き、ビタルさんが入って来た。
 かなり大きな音を立てたにも関わらず、憲兵の皆は自分の仕事に集中している。そのことから分かる通り、私が呼ばれるのは初めてではなかったりする。


「またですか?」
「ああ!今度は憲兵所が襲撃されたらしい!」
「よりによって憲兵所が襲われてるんですか」


 犯罪が多くなって憲兵が出払っているところを狙ったのだろう。


「襲撃人数は?」
「3人だ」


 憲兵が少なくなっているとはいえ、3人で襲撃しているなんて凄い度胸だ。


「分かりました。すぐに準備して出発します」
「頼んだぜ。俺は他に応援を連れていく」
「お願いします」


 私は引き出しに書類を仕舞って検察室を出る。
 犯罪率が上がってから、憲兵だけでは犯罪者の対処が追いつかなくなってきた。だから、憲兵だけでは対処が出来ない事件を、私が対応することもある。
 私ならそこらの犯罪者に負ける事はない。不本意なことに実績もそこそこあるので、大抜擢されるようになった訳だ。


「えーっと、あの服は何処にあるかな……あった」


 私は隣にある更衣室に入って戦闘用の服に着替える。ホウリさんから特注してもらった、上着に長ズボンだ。激しく動いても破れず、圧迫感が無くて動きやすい。
 何より普通の服のようになっているから、街を歩いていても違和感がないのが嬉しい。


「これで良し」


 着替えが済んで更衣室から出る。憲兵所は検察所から近い所にある。急げばすぐにたどり着ける。
 人が少ないとはいえ、憲兵所には戦力が多い。簡単には攻め切られることはないだろう。
 検察所を飛び出し、憲兵所へと駆け出す。憲兵の皆、無事であって欲しいな。
 次の角曲がって真っすぐ行けば憲兵所に着くはずだ。そんな事を考えながら、最後の角を曲がる。
 すると、私の目にとんでもない光景が映った。


「憲兵所が燃えてる!?」


 正しくは窓から黒煙が上がっているだけだが、火の手が広がるのも時間の問題だろう。外に人が居ないから、犯人たちは憲兵所の中に入っているのだろう。
 幸いにもこの周辺に人々はいない。襲撃があったから、住民は避難しているのかな。


「だったら全力が出せる」


 私はクラウチングスタートの構えを取る。憲兵所まで目測で200m、これなら1秒で到達できる。


「……はあっ!」


 右足に力を込めて思いっきり地面を蹴る。瞬間、凄い風圧と共に景色が後ろに流れていく。
 眼前に憲兵所の入口が迫ってくる。その勢いのまま、憲兵所の扉を蹴破る。


「ああん?誰だ!」


 すると、中には大きな斧を持って睨みを効かせている男がいた。
 その周りには傷ついた憲兵の方々が転がっている。


「応援か?だが、誰が来ても同じ──」
「大丈夫ですか!?」


 私は憲兵の一人に駆け寄る。胸の傷は深いけど、息はある。ポーションを傷口にかけて応急処置をする。


「この数の人たちを癒せるだけのポーションは持っていない。だったら、致命傷を受けてる人だけ回復して、あとはヒーラーの人を待った方が───」
「無視してんじゃねぇ!」


 犯人が斧を繰り出してくる。私は斧を受け止めて、柄の部分を叩き折る。そして、犯人のお腹に拳をめり込ませて気絶させる。
 ホウリさんとの訓練とか、他の事件の解決とかで戦闘に慣れてしまった。強くなりたい訳では無かったが、この力で他の人を守れるのだから良しとしよう。


「煙が出ていたのは2階からだったね」


 命が危ない人に応急処置を施して、2階への階段を駆け上がる。
 2階の廊下は黒煙で満たされていた。


「まずは火元からどうにかしないと」


 ここは煙が薄い。ここで空気を沢山吸っておこう。


「すうううう」


 限界まで空気を吸う。これで全力で動いても10分は持つはずだ。
 だが、私は平気でも他の人達はかなり危険だ。素早く何とかしないと。
 煙に目をやられないためにゴーグルを掛けて、煙の元まで駆ける。煙が出ているのは一番奥の部屋みたいだ。
 扉のドアノブに手を掛けるけど鍵が掛かっているのか開くことはなかった。
 少し心が痛むけど、ここは手荒に行こう。
 ドアノブを力任せに引っこ抜き扉を蹴破る。すると、部屋の中では倒れ伏す憲兵の方々と、燃え盛る部屋があった。
 燃えているのは主にテーブルの上の書類などの紙類。他の物には燃え移っていないみたいだ。


「あら?まだ始末していない人がいたのかしら?」


 燃え盛る部屋の中で女性が振り向く。燃え盛る炎を何とも思っていない様子で微笑む。


「でも、貴女は憲兵には見えないわね?迷い込んできた子供かしら?」


 火元はここだけみたいだし、ここさえ何とかすれば後は何とかなりそう。とはいえ、消化できる手段を持っている訳じゃない。一瞬でこの火元を何とかする方法を考えないと。


「あら?無視かしら?」


 女性が不機嫌そうに眉を顰めるけど、それどころではない。どうすれば全て消火できるだろうか。


「そこまで露骨に無視されると傷つくわよ?」


 女性の言葉に答える事も無く、火の処理の事を必死に考える。消火する方法……あ、そっか別に消火にこだわらなくてもいいのか。


「いい加減にしなさい!」


 女性が手から炎は放ってくる。私は特に避ける事も無く女性に向かって走る。


「何かする気ね!でも甘いわ!私の力は相手のスキルを奪うのよ!強力なスキルを持っていれば、それだけ貴女の首を絞めることに────」
「せい!」


 女性の首元に手刀を食らわせ、声もあげさせずに気絶させる。私のはスキルじゃなくて体質。スキルを奪うスキルでは私を無力化できない。
 私は女性を床に寝かせて、燃え盛るテーブルに向き直る。
 私に消火する術はない。だったら、燃えているものを外に投げ捨てれば良い!
 そう決心した私は窓を開け、窓の外に捨てても問題無いか確認して、手当たり次第に燃えている物を投げ捨てていく。防御力が高いから、火傷の心配もないのは救いだ。
 燃え移りそうなものを優先して投げ捨てて、なんとか火の燃え広がりを抑えようとする。
 その甲斐あって、火はこの部屋意外には燃え広がっていなかった。


「ぶはー!何とかなったみたい」


 止めていた息を大きく吐いて新鮮な空気を吸い込む。結構時間が経っていたみたいだから手遅れかと思ったけど、間に合って良かった。
 後で聞いた話だと、憲兵所は燃えにくい素材で出来ているらしい。だから、時間が経って火の手がそこまで広がっていなかったみたい。


「けど、ホッとしている暇はない。怪我をしている人を助けないと」


 手始めにこの部屋で伸びている人達を介抱しないとね。
 そう思って床にいる人達に歩み寄る。外傷が酷そうな人は……あまりいないかな?


「別の部屋にも倒れている人がいるかもしれない。急いで確認しないと」


 だけど、何か忘れている気がする。何だろうか?
 憲兵の方々の状態を確認しつつ、大切である何かを思い出そうとする。確かビタルさん言ってたことは……


『襲撃人数は?』
『3人だ』


 3人?倒したのは1階の斧の人と、2階の炎の人。ということは……


「後1人いる?」


 そう呟いた瞬間、私の頭に強い衝撃が走った。急いで振り向くけど、敵の姿は見えない。
 遠隔攻撃?でも密室だからその線は薄い。という事は、敵は透明になっている?
 構えながら周りを見てみるけど、敵の姿はない。これは、私の考えは正解かな。
 私のステータスだとダメージは受けないけど、こちらからも攻撃が当たらない。どうしたものか。


「あ、そうだ」


 私の頭の中に天啓がひらめく。これなら相手に攻撃を当てることが出来るだろう。
 作戦を決めた私は眼をつぶって神経を集中させる。視界は当てにならない。だったら、視界を塞いで他の集中した方がいい。
 さて、敵はどう出てくるか。
 集中すること数秒、ついに私の喉に強い衝撃が走った。私は衝撃に怯むことなく喉元を掴む。
 すると、固い感触と共に細長い何かを掴んだ。そして、細長い何かを思いっきり引き寄せる。


「ふん!」


 そして、敵が通るであろうところに思いっきり腕を振りぬく。俗にいうラリアットだ。


「ぐべっ!」


 蛙が潰れるような声が耳元でして、机に何かが当たる音がする。
 見てみると、そこにはトンファーを持った白目を剥いている男の人がいた。


「トンファーなんて実物は初めてみたや」


 そんなことを考えつつ、男の人の様子を確認する。白目を剥ているけど、生きてはいるみたい。手加減のスキルでトドメがさせないことがプラスに働いている。私には都合が良い。


「これでゆっくり他の人の救助ができる」


 こうして、ビタルさんが呼んだ救援がくるまで、私は他の人の介抱をした。結果的に命に別条がある人はいなかったのだった。
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