魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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フランの昔話 「この戦争を終わらせに来た」

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「ねぇねぇフランお姉ちゃん」
「なんじゃ?」


 とある日の夜、スターダストの皆でリビングでゆっくりしておるとノエルが唐突に質問してきた。ちなみに、ホウリは忙しいのか家にいない。


「フランお姉ちゃんって500年前から魔王なんだよね?」
「そうじゃな」
「戦争を終わらせたのもフランお姉ちゃんなんだよね?」
「そうじゃな」
「どうやって終わらせたの?」
「あ、それ僕も気になります」


 弓の雑誌を見ていたロワが顔を上げた。


「私も気になるな。詳しいことを書いている本も少ないんだ」


 ミエルも食いついてきた。皆、500年前の出来事が気になるらしい。


「教科書にも書かれておらんのか?」
「歴史の教科書にも書かれてないよ。フランお姉ちゃんの名前も目立たないところに載ってる」


 たまたま持っていた歴史の教科書をノエルが見せてくれる。
 教科書には500年前に人族と魔族の戦争が終わった事のみが書かれている。わしの名前はページ下の注釈に小さく載っておるだけじゃ。


「かなり雑な書き方なんじゃな」
「資料が残っていないのかもな」
「あー、そういえば、わしがあまり書かないで欲しいと頼んでおったっけか」


 500年も前のことじゃから忘れておったわい。


「大々的に知られるのは不都合じゃったからのう」
「お忍びで旅に行くためか?」
「その通りじゃ!」
「力強い言葉ですねぇ」


 ロワが苦笑いしながら呟く。


「それで、戦争を終わらせた話じゃったか?」
「そうだ。500年も続いた戦争をどうやって終わらせたんだ?」
「かなり大変じゃったぞ」


 わしは500年前の記憶を掘り起こしながら話を始める。


「あの頃、わしは魔王になりたてじゃった。魔王1年生じゃな」
「となると、今は魔王500年生ですかね?」
「ノエルも500年生を目指す!」
「500年生きるつもりか?」
「話を元に戻すぞ」
「フランが始めたのだろうが」


 わしは逸れかけていた話を無理やり戻す。


「魔王になったわしが最初に始めたのは人族との和解じゃった。丁度、その頃の魔族と人族の戦争は落ち付いていたからのう」
「戦争に落ち着くってことがあるんですか?」
「戦争はずっと戦っていた訳ではない。魔国と人国の境界での睨みあいがほとんどじゃった」


 魔王と勇者の戦いに引っ張られることで戦争は激化する。つまり、勇者や魔王の魂が戦争が激化する原因ということじゃ。
 わしは勇者への憎悪の心が無い。じゃから、魔王と勇者の戦いも起こらず、戦争も激化することは無かった。
 じゃが、戦争が激化しない訳であって、関係性が改善する訳では無い。他の要因で激化する可能性もある。
 いつ戦争が激化しても可笑しくない。したがって、魔国と人国の関係性の改善は急務じゃった。


「状況は分かった。それで、肝心の手段は?」
「簡単じゃよ。まずは戦場に行くじゃろ?」
「うん」
「人国に向かって歩いていくじゃろ?」
「はい」
「そのまま人王の元まで強行突破するじゃろ」
「ふむふむ……ん?」
「で、話し合いをするじゃろ?これで和平まで持ち込んだ」
「いやいやいやいや!」


 ミエルが立ちあがって身を乗り出してくる。ロワも無言じゃが顔を引きつらせておる。ノエルだけが楽しそうに話を聞いておるな。


「説明を端折りすぎだ!どこをどうすればそうなるんだ!」
「そうか?ならば、もう少しだけ詳しく説明するか」
「そうしてくれ」
「戦闘が起こっていないとはいえ、戦場に足を踏み入れたら攻撃される。じゃが、わしならどれだけ攻撃されようと無傷じゃ」
「フランお姉ちゃん強いもんね」


 あの時の攻撃は凄かったのう。四方から矢や魔法が飛んできておったし、剣や槍といった近距離武器も何回も受けた。思い返してみても、あれだけの攻撃を受けたのはあの時だけじゃ。


「どれだけ妨害されても、わしは止まらなかった。あと、ついでに見つけた武器を全て破壊した」
「ついで感覚で、もの凄いことをやってませんか?」
「人国の戦力を削いで攻め込むように見えるな」
「魔族どもには手を出すなと伝えておいたぞ?指示を破った奴には全治100年の傷を負わせた」
「フランさんが言うと冗談に聞こえませんね」


 冗談ではないんじゃが、ここで訂正すると話が逸れるじゃろうから置いておこう。


「それで、強行突破で人王の元に向かった訳じゃ」
「人族にとっては悪夢だな」
「止められない人がじわじわと迫ってきている訳ですもんね」
「それが狙いじゃよ」
「どういう事?」
「普通に和解を提案しても聞き入れてもらえん」
「500年間の戦争ですもんね。普通の手段では無理でしょう」
「じゃから、強制的に聞き入れてもらう状況を作った」
「んー?」


 ノエルが首を傾げつつ、わしを見上げて来る。きょとんとした表情が非常に可愛らしいのう。


「人国の全力をもってしても倒せず破壊力もある奴が王の前に立つ。人族にとっては諦めるくらいの状況じゃ」
「そうですね」
「じゃが、和平を申し出る。人族を滅ぼすつもりなら攻撃した方が確実じゃのに。この時、人族はどう思う?」
「何か企んでいると思うだろうな」
「そうですか?僕は本当に和解する気かもって思いますけど?」
「どちらもあり得る。じゃが、どちらにせよわしの話を聞いて判断するしかないじゃろ?」
「確かにそうですね」
「それで、結局どうなったの?」
「最初の内は受け入れられんかったのう」


 なにせ500年も続いた戦争じゃ。1度話しただけで解決するとは思っておらんかった。


「それから何回も人王に会いに行って話し合いをした」
「どんな事を話したの?」
「まずは互いに国境から軍を撤退することを決めた。睨みあいをやめた訳じゃな」
「どう話をすれば軍の撤退なんて同意をさせたんだ?」
「別に特別なことは話しておらん。魔国側が一方的に撤退して、わしだけ残っただけじゃ」
「一番の戦力が残ってるんですけど?」
「話し合いっていう仕事が残っておるからのう。それに一定の効果はあったみたいじゃしな」


 人国に要求したことを、まずは魔国側で実践する。そうすれば、人国の騙されているという疑念を減らせる。勿論、それだけで上手くいった訳ではないがのう。


「まあ、結局、完全な和平はまだ実現していないがのう」
「え?和平ってまだ実現していないんですか?」
「魔族の人って結構見るよね?マカダ君も魔族だし」
「完全なる和平とは、国同士の境界線の撤廃じゃとわしは思っておる。今はワープの規制もあり、行き来するにも、それぞれの国の承認が必要じゃ」
「フランの言う和平には及んでいないわけか」


 じゃからこそ、ホウリには期待しておる。あやつなら、国の垣根を越えて強力し、わしを倒せるかもしれん。それはわしが望む和平につながる筈じゃ。
 まあ、この本心はこやつらには言えんがな。


「和平はまだにせよ、戦争は終わったのだろう?それならひとまず良いのではないか?」
「まあのう。とはいえ、戦争が終わったのも3年かかったがのう」
「500年の戦争を終わらせたにしては短いのではないですか?」
「それからが長かったがのう」


 戦争が終わってから人の流れから輸出入の管理まで、仕事の量が増えまくった。それに、国民も突然の終戦に動揺したのか、人族への差別も多かった。


「ほんっっっとうに大変じゃった!」
「心が籠ってますね」
「大変だったんだね。よしよし、よく頑張りました」


 ノエルが手を伸ばしてわしの頭を撫でてくれる。すると、今までの苦労で発生した疲れが溶けていくように感じた。


「……今まで頑張って良かったのう」
「さっきよりも感情が籠っている気がするんだが気のせいか?」
「気のせいではない」


 ノエルのよしよしは何事にも代えがたい。最強のメンタルケアじゃな。


「それからは人王との会談を重ね、徐々に和平の道を歩んでおる。これが詳しい顛末じゃ」
「最初は力づくかと思ったが、意外と考えられていたのだな」
「そこまで無理やりじゃないと、話すら出来ないとは思いませんでしたね。フランさんにしか出来ない方法だと思います」
「フランお姉ちゃんって凄いんだね~」
「そうじゃぞ~、わしって凄いんじゃぞ~」


 こうして面と向かって褒められるのも悪くないのう。これまではあまり表に出んから、褒められたりせんかったからな。


「そういえば、ホウリさんはこの事は知ってるんですか?」
「勿論、知っておるぞ」


 まだオダリムにいた頃に話したっけのう。あの頃のホウリはこの世界の事を少しでも知ろうと必死じゃったな。


「ホウリさんは何か言ってました?」
「わしの強さに軽く頭を抱えた後、『お前も苦労したんだな』って言われたのう」
「国が束になっても勝てない相手と戦うのだからな。頭を抱えるのも無理は無いか」
「むしろ、普通なら倒そうという気すら起きませんよ」


 というか、ホウリの奴はわしの苦労を知っておって、魔国にいた時に仕事を手伝わんかったのじゃよな。
 あの冷血漢め、少しは同情してくれても良いものを。


「他に聞きたい事はあるか?」
「いや、お腹いっぱいだ」
「ですね」
「面白かった~」


 皆、満足そうな表情をしておる。話した甲斐があったというものじゃ。


「それは何よりじゃ。後は300年前の戦争が再開しかけたり、200年前に魔国と人国で巨大な敵と戦ったくらいしか起きてないからのう。話す価値もそこまで無いわい」
「待て待て、気になる話を突然ぶち込むんじゃない」
「戦争が再開?巨大な敵?聞いたこと無いですよ?」
「気になる!」


 わしの言葉に、3人が再びわしに注目する。


「ふむ?そんなに気になるか?」
「気になりますよ!そんな大変なことが起きてたんですか!?」
「そうじゃが、解決したしのう?」
「解決するまでが気になるのだ」
「ねぇねぇ、ノエルも聞きたい」
「ならば仕方ないのう」


 こうして、わしの昔話は続くのじゃった。
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